StudyMed医師国家試験

血圧が正常でも油断は禁物―脈拍と脈圧から読む「隠れた1リットル」

第105回医師国家試験 G問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第42問

41歳の男性。交通事故による右大腿骨閉鎖骨折のため搬入された。意識は清明であるが不安そうな表情である。身長170 cm,体重70 kg。呼吸数24/分。脈拍116/分,整。血圧116/92 mmHg。  現時点で推定される出血量はどれか。

  1. a.500 mL以下
  2. b.500~750 mL
  3. c.750~1,500 mL
  4. d.1,500~2,000 mL
  5. e.2,000 mL以上

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、外傷患者のバイタルサインから出血量を見積もる問題だ。注目してほしいのは、収縮期血圧ではなく、脈拍・脈圧・呼吸数・意識の4つ。まず、このバイタルをどう解釈したかな。
医学生医学生
収縮期血圧は116 mmHgで正常なので、まだショックではないと思いました。
ドクタードクター
そこが最大の落とし穴だね。拡張期血圧との差、つまり脈圧を計算してみよう。
医学生医学生
116から92を引いて24 mmHgです。普通は40前後なので、かなり狭いですね。
ドクタードクター
その通り。出血で循環血液量が減ると、交感神経が緊張して心拍数が上がり、末梢血管が収縮する。血管抵抗が上がるから拡張期血圧は上がり、1回拍出量が減るから収縮期血圧は上がらない。結果として脈圧が狭くなるんだ。頻脈と脈圧の狭小化は、代償機構が働いている出血性ショックの初期像だよ。
医学生医学生
救急科の実習で、指導医の先生に「血圧が下がってからでは遅い」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。収縮期血圧の低下は、循環血液量のおおむね30%以上が失われて初めて目立つことが多い。だからATLSやJATECの出血性ショック重症度分類で考えるのが基本だ。頻脈が100〜120/分、収縮期血圧は正常、脈圧低下、呼吸数20〜30/分、軽度の不安。この組み合わせはどのクラスかな。
医学生医学生
Class IIですね。循環血液量の15〜30%の喪失だったと思います。
ドクタードクター
正解。では循環血液量はどう見積もる?
医学生医学生
体重の約13分の1なので、70 kgなら約5.4 L、ざっくり5 Lですね。その15〜30%だと750〜1,500 mLです。
ドクタードクター
完璧だ。もう一つ、ベッドサイドですぐ使える方法がショック指数。心拍数を収縮期血圧で割ったものだ。
医学生医学生
116÷116で1.0です。1.0なら約1 Lの出血でしたね。
ドクタードクター
そう。2つの方法のどちらでも約1 L前後となり、750〜1,500 mLに収まる。ほかの選択肢も確認しておこう。500 mL以下や500〜750 mLは循環血液量の15%未満、Class Iに当たる。この段階では心拍数は100未満で、脈圧も正常なことが多い。
医学生医学生
今回は頻脈も脈圧の狭小化もあるので、Class Iよりは多いということですね。逆に、大腿骨骨折なら2 Lくらい出ていてもおかしくない気がしますが。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。確かに大腿骨骨折では1,000〜2,000 mL程度出血しうる。でも1,500〜2,000 mLのClass IIIになると、心拍数は120〜140/分、収縮期血圧は低下し、意識も不安から混乱へと変化してくる。2,000 mL以上のClass IVでは著明な低血圧、混乱から昏睡、ほぼ無尿という致死的な状態だ。今回は血圧が保たれ意識も清明だから、「現時点では」Class IIと判断する。
医学生医学生
骨折部位からの予想と、バイタルからの推定を両方見るのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。そして「現時点で」という言葉にも意味がある。閉鎖骨折でも大腿の軟部組織には大量の血液がたまりうるし、出血が続けば数十分でClass IIIに進むこともある。臨床では、輸液への反応を見ながら繰り返し評価することが欠かせない。
医学生医学生
交通外傷なので、大腿以外からの出血も考えないといけませんね。
ドクタードクター
その意識が大事だ。胸腔、腹腔、後腹膜など外から見えない出血はFASTやX線で検索する。骨盤骨折は1,000〜4,000 mLと大量出血になりうるから特に注意が必要だ。もう一つ、高齢者やβ遮断薬を飲んでいる人は頻脈が出にくく、若年者は代償が強くて血圧が最後まで保たれやすい。皮膚の蒼白や冷汗、毛細血管再充満時間の延長といったサインも合わせて見逃さないようにしよう。

まとめ

出血性ショックの初期には、交感神経による代償で収縮期血圧が保たれるため、頻脈・脈圧の狭小化・頻呼吸・軽い不安といった所見から早期に認識することが重要です。心拍数100〜120/分、収縮期血圧正常、脈圧低下、呼吸数20〜30/分、軽度不安はATLS/JATECのClass II(循環血液量の15〜30%喪失)に相当し、体重70 kg(循環血液量約5 L)では750〜1,500 mLと推定されます。ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)も1.0で約1 Lの出血を示し、同じ結論になります。大腿骨骨折は1,000〜2,000 mL、骨盤骨折はさらに大量の出血をきたしうるため、時間経過での再評価と、体腔内など見えない部位の出血検索を怠らないことが大切です。血圧だけに頼らずバイタルサインを総合して出血量を見積もる力は、外傷初期診療の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

交通外傷で右大腿骨の閉鎖骨折(皮膚の破綻がない骨折)をきたした41歳男性である。バイタルサインは次のとおりである。 ・意識:清明だが不安そう(軽度の不穏) ・呼吸数24/分:やや頻呼吸(成人の基準はおよそ12〜20/分) ・脈拍116/分:頻脈 ・血圧116/92 mmHg:収縮期血圧は保たれているが、脈圧(収縮期血圧−拡張期血圧)は24 mmHgと狭い(通常は40 mmHg前後)

病態の読み取り

出血によって循環血液量が減ると、生体はまず交感神経を緊張させて心拍数を上げ、末梢血管を収縮させる。末梢血管抵抗が上がるため拡張期血圧が上昇し、一方で1回拍出量が減るため収縮期血圧は上がらず、結果として脈圧が狭くなる。つまり「収縮期血圧は正常なのに頻脈と脈圧の狭小化がある」状態は、代償機構が働いている出血性ショックの初期像である。血圧が正常だからといってショックではないと判断してはならない。

出血量の推定

方法1:ATLS/JATEC(外傷初期診療ガイドライン)の出血性ショック重症度分類を用いる。 頻脈(100〜120/分)、収縮期血圧は正常、脈圧低下、呼吸数20〜30/分、軽度の不安という組み合わせはClass IIに当たり、出血量は循環血液量の15〜30%と見積もられる。 循環血液量は体重の約7〜8%(約1/13)であり、体重70 kgでは 70 kg × 1/13 ≒ 5.4 L、概算で約5,000 mLとなる。その15〜30%は約750〜1,500 mLである。 方法2:ショック指数(shock index:SI)を用いる。 SI=心拍数÷収縮期血圧=116÷116=1.0 SIが1.0のときの出血量はおよそ1 L(循環血液量の約20〜30%)と推定される。 どちらの方法でも推定出血量は約1,000 mL前後となり、750〜1,500 mLの範囲に入る。

補足

大腿骨骨折単独でも1,000〜2,000 mL程度の出血が起こりうるとされ、本症例の推定出血量とも矛盾しない。ただし交通外傷では、胸腔・腹腔・後腹膜など外から見えない部位の出血が合併していないかを必ず検索する。

選択肢考察

  1. ×a.  500 mL以下

    循環血液量の約10%以下(Class I の軽い側)の出血に相当する。この程度では心拍数・血圧・呼吸数・脈圧はほとんど変化せず、せいぜい軽い不安がみられる程度である。本症例は脈拍116/分の頻脈、脈圧24 mmHgへの狭小化、頻呼吸があり、これより多い出血を考える。

  2. ×b.  500~750 mL

    体重70 kg(循環血液量約5,000 mL)では循環血液量の15%未満、すなわちClass Iに当たる量である。Class Iでは心拍数は100/分未満にとどまり、脈圧も正常である。本症例の頻脈(116/分)と脈圧の狭小化はClass Iの範囲を超えている。

  3. ○c.  750~1,500 mL

    心拍数100〜120/分、収縮期血圧は正常、脈圧の低下、呼吸数20〜30/分、軽度の不安という所見はClass II出血性ショック(循環血液量の15〜30%の喪失)の特徴にそのまま当てはまる。循環血液量約5,000 mLの15〜30%は750〜1,500 mLである。ショック指数も116/116=1.0で約1 Lの出血を示し、推定値はこの範囲に収まる。

  4. ×d.  1,500~2,000 mL

    循環血液量の30〜40%の喪失(Class III)に相当する。Class IIIでは心拍数は120〜140/分に達し、収縮期血圧が低下し、呼吸数30〜40/分、不安から混乱といった意識の変化、尿量減少(5〜15 mL/時)がみられる。本症例は収縮期血圧が保たれ意識も清明であり、ここまでの出血とは考えにくい。ショック指数でいえば1.5前後に当たる。

  5. ×e.  2,000 mL以上

    循環血液量の40%を超える喪失(Class IV)に相当し、心拍数140/分以上、著明な血圧低下、呼吸数35/分以上、意識の混乱〜昏睡、ほぼ無尿となる致死的状態である。ショック指数は2.0前後となる。本症例の所見とは合わない。

出血性ショックの重症度分類(ATLS/JATEC、成人、循環血液量の喪失率による)

Class I:15%未満(70 kgで約750 mL未満)。心拍数はほぼ正常、血圧正常、脈圧正常、呼吸数正常、意識はわずかな不安程度、尿量30 mL/時以上。 Class II:15〜30%(約750〜1,500 mL)。心拍数100〜120/分、収縮期血圧は正常、脈圧低下、呼吸数20〜30/分、軽度の不安、尿量20〜30 mL/時。 Class III:30〜40%(約1,500〜2,000 mL)。心拍数120〜140/分、収縮期血圧低下、脈圧低下、呼吸数30〜40/分、不安〜混乱、尿量5〜15 mL/時。 Class IV:40%超(約2,000 mL超)。心拍数140/分以上、著明な血圧低下、脈圧低下、呼吸数35/分以上、混乱〜昏睡、尿量はほぼなし。 なお、ATLSの最新版(第10版)では、心拍数・血圧などの区切りを目安として示しつつ、塩基欠乏(base deficit)なども加味して評価するよう改められているが、各Classの基本的な考え方は同じである。

ショック指数(shock index:SI)

SI=心拍数÷収縮期血圧。正常は0.5〜0.7程度である。 おおよその目安として、SI 1.0で約1 L(循環血液量の約20〜30%)、SI 1.5で約1.5 L(約30〜40%)、SI 2.0で約2 L以上(40%以上)の出血と推定される。ベッドサイドですぐ計算できる点が利点である。

循環血液量の目安

成人では体重の約7〜8%(約1/13)で、70 kgなら約5 Lである。小児では体重の約8〜9%、新生児ではさらに多い。

骨折部位と推定出血量(成人の目安)

骨盤骨折:1,000〜4,000 mL程度(大量出血となりうる) 大腿骨骨折:1,000〜2,000 mL程度 下腿骨(脛骨)骨折:500〜1,000 mL程度 上腕骨骨折:300〜500 mL程度 肋骨骨折:1本あたり約100 mL程度 閉鎖骨折であっても、軟部組織内に多量の血液が貯留しうる点に注意する。

代償機構と血圧

出血初期には交感神経系の活性化によって心拍数増加と末梢血管収縮が起こり、血圧は維持される。収縮期血圧の低下は循環血液量のおおむね30%以上が失われて初めて明らかになることが多い。したがって、頻脈・脈圧の狭小化・皮膚の蒼白や冷汗・毛細血管再充満時間(capillary refill time)の延長・不穏など、血圧以外の所見から早期にショックを認識することが重要である。高齢者やβ遮断薬服用者では頻脈が出にくく、若年者では代償が強く血圧が最後まで保たれやすい点にも注意する。

POINT

・出血性ショックでは収縮期血圧が保たれていても、頻脈と脈圧の狭小化があれば代償期のショックと判断する。 ・Class II(15〜30%喪失):心拍数100〜120/分、血圧正常、脈圧低下、呼吸数20〜30/分、軽度不安。 ・循環血液量=体重×約1/13(7〜8%)。70 kgなら約5 L。 ・ショック指数=心拍数÷収縮期血圧。1.0で約1 L、1.5で約1.5 L、2.0で約2 L以上の出血。 ・大腿骨骨折の出血は1,000〜2,000 mL程度、骨盤骨折はさらに多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。