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癌でも角膜は贈れる?―無血管組織が決める角膜ドナーの条件

第105回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第37問

全層角膜移植の臓器提供者になり得るのはどれか。2つ選べ。

  1. a.腎癌
  2. b.C型肝炎
  3. c.死因不明
  4. d.急性心不全
  5. e.Creutzfeldt-Jakob病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は角膜移植の提供者、つまりドナーになれる人の条件を問う問題だ。着眼点は「角膜という組織の特性」と「移植で何がうつると困るか」の2つ。まず、全層角膜移植がどんな手術か確認しておこう。
医学生医学生
濁った角膜を全層丸く切り取って、亡くなった方から提供された角膜に置き換える手術ですよね。
ドクタードクター
その通り。角膜は臓器移植法では「眼球」として扱われ、心臓が止まった後でも提供できる。そしてもう一つ大事なのが、角膜にはもともと血管がないということだ。これがドナーの範囲にどう影響すると思う?
医学生医学生
血管がないなら、全身の病気の影響を受けにくい……ということでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。だから角膜は年齢や多くの全身疾患の影響を受けにくく、他の臓器よりドナーの範囲が広い。ただし移植片を通して病気がうつるのは避けなければならないから、国の眼球提供者適応基準で除外項目が決められている。考え方は大きく3つ。移植でうつる感染症、角膜や眼内に腫瘍細胞がありうる悪性腫瘍、そしてその2つを否定できない状態だ。
医学生医学生
そうすると、腎癌の方は悪性腫瘍だから除外だと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。悪性腫瘍で除外されるのは、網膜芽細胞腫やぶどう膜悪性黒色腫のような眼内悪性腫瘍と、白血病や悪性リンパ腫のような血液系の悪性腫瘍だ。血液系は腫瘍細胞が血流に乗って全身を回るから移植片に含まれるおそれがある。でも腎癌のような固形癌が無血管の角膜に転移することはほとんどないから、除外基準に入っていない。
医学生医学生
じゃあ胃癌や肺癌で亡くなった方も提供できるんですね。意外でした。
ドクタードクター
そう。癌で亡くなった方の「何か役に立ちたい」という意思を活かせる場面でもある。次に急性心不全はどうかな。
医学生医学生
心停止後でも提供できるので、心臓死の方はむしろ典型的なドナーでしょうか。
ドクタードクター
正解。心筋梗塞や不整脈による心臓死で診断がはっきりしていて、感染症や血液系悪性腫瘍が関わっていなければ提供者になり得る。ただし、書類上「急性心不全」とあっても実際には死因がはっきりしない場合は、死因不明として扱われる点には注意してほしい。
医学生医学生
死因不明がだめなのは、隠れた感染症や腫瘍を否定できないからですね。
ドクタードクター
その通りで、原因不明の死は除外基準の最初に挙げられているくらい重要なんだ。ウイルス感染症やプリオン病、血液系・眼内の悪性腫瘍が隠れていても、死因がわからなければ見抜けないからね。
医学生医学生
C型肝炎は、微生物学の講義で血液を介してうつると習いました。角膜でもうつるんですか。
ドクタードクター
HCVは血液や組織を介してうつるから、移植片を通して受け手に感染するおそれがある。そのためHCV抗体陽性は、HBs抗原陽性、HIV抗体陽性、HTLV-1抗体陽性とともに除外され、提供の際にはこれらの血清検査が行われるよ。
医学生医学生
Creutzfeldt-Jakob病は、病理実習で海綿状変化の標本を見た覚えがあります。確か医原性の感染もありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。異常プリオン蛋白による病気で、角膜移植や硬膜移植、汚染された脳外科器具を介した医原性の報告がある。プリオンは通常の消毒や滅菌では失活しにくく、治療法もない。だからCJDやその疑いは除外され、亜急性硬化性全脳炎や進行性多巣性白質脳症、原因不明の脳炎・中枢神経疾患なども同じ理由で除外されるんだ。
医学生医学生
まとめると、うつる感染症と、血液系・眼内の悪性腫瘍、それを否定できない死因不明が除外で、固形癌や死因の確定した心臓死は提供できる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、角膜は血管もリンパ管もないため免疫の攻撃を受けにくい、いわゆる免疫学的特権をもつ。だから他の臓器移植と違ってHLAを合わせることは原則求められず、拒絶反応も比較的少ない。ただ、角膜に血管が入り込んでいる例や再移植例では拒絶反応が起こりやすいよ。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、水疱性角膜症の患者さんに内皮だけを移植する手術を見学しました。
ドクタードクター
角膜内皮移植だね。角膜内皮細胞は角膜の透明さを保つ細胞で再生しないから、移植片の質を保つうえでその密度が重要になる。今は病変の層に応じて、全層角膜移植、内皮を残す深層層状角膜移植、内皮だけを置き換える内皮移植と使い分ける時代だ。提供はアイバンクを通じて行われるから、臨床で家族から相談を受けたときに、除外基準の考え方を説明できるようにしておこう。

まとめ

角膜は無血管の組織で心停止後にも提供できるため、他の臓器に比べてドナーの範囲が広いのが特徴です。ただし眼球提供者適応基準により、原因不明の死、全身の活動性感染症、HBV・HCV・HIV・HTLV-1の陽性、Creutzfeldt-Jakob病などのプリオン病や原因不明の中枢神経疾患、眼内悪性腫瘍、白血病・悪性リンパ腫は除外されます。一方、腎癌などの固形癌は角膜へ転移することがほとんどなく、死因の確定した急性心不全などの心臓死とともに提供者になり得ます。角膜は免疫学的特権をもちHLA適合が原則不要という点も含め、「何がうつると困るか」という視点で除外基準を理解しておくと、移植医療全般の考え方やドナー家族への説明にも役立ちます。

解答・解説

正解はa, dです

角膜移植(全層角膜移植:混濁したり傷んだりした角膜を、全層にわたって丸く切り取り、提供者の角膜と置き換える手術)は、死亡した提供者の眼球(角膜)を用いる。角膜は、臓器移植法で「眼球」として扱われる臓器であり、心臓が停止した後でも提供できる。 角膜にはもともと血管がないため、提供者の年齢や多くの全身疾患の影響を受けにくく、ほかの臓器よりもドナーの範囲が広い。ただし、移植片を介して病気がうつること、特に治療できない感染症や、眼球そのものに及ぶ悪性腫瘍を防ぐため、厚生労働省の「眼球提供者(ドナー)適応基準」で、提供できない疾患・状態(除外基準)が定められている。 除外の考え方は、大きく次の3つに整理できる。 1. 移植で感染症がうつるおそれがあるもの(全身性の活動性感染症、HBV・HCV・HIV・HTLV-1の陽性、プリオン病や遅発性ウイルス感染症、原因不明の中枢神経疾患など) 2. 腫瘍細胞が角膜・眼球内に存在しうる悪性腫瘍(眼内悪性腫瘍、白血病・悪性リンパ腫などの血液系悪性腫瘍) 3. 上の2つを否定できない状態(原因不明の死) この枠組みで選択肢を見ると、固形癌(腎癌)と死因が確定している急性心不全は除外基準にあたらず、提供者になり得る。

選択肢考察

  1. ○a.  腎癌

    悪性腫瘍のうち除外されるのは、眼内悪性腫瘍(網膜芽細胞腫、ぶどう膜悪性黒色腫など)と、血液系の悪性腫瘍(白血病、Hodgkinリンパ腫・非Hodgkinリンパ腫などの悪性リンパ腫)である。後者は腫瘍細胞が血液に乗って全身を回るため、移植片に含まれるおそれがある。腎癌のような固形癌は、無血管の組織である角膜へ転移することはほとんどないため、除外基準に含まれていない。したがって、腎癌の患者は角膜提供者になり得る。ほかの固形癌(胃癌、肺癌など)で亡くなった人も同様である。

  2. ×b.  C型肝炎

    C型肝炎ウイルス(HCV)は血液や組織を介してうつるため、移植片を通して受け手(レシピエント)に感染するおそれがある。そのため、HCV抗体陽性の人は、B型肝炎(HBs抗原陽性)、HIV抗体陽性、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)抗体陽性の人とともに、提供者から除外される。提供の際には、これらの血清検査が行われる。

  3. ×c.  死因不明

    死因がわからないと、移植でうつる感染症(ウイルス感染症やプリオン病など)や、血液系・眼内の悪性腫瘍が隠れている可能性を否定できない。そのため、原因不明の死は除外基準の最初に挙げられている。

  4. ○d.  急性心不全

    急性心不全(心筋梗塞や不整脈などによる心臓死)は、診断がはっきりしていて、感染症や血液系悪性腫瘍が関わっていなければ、除外基準にあたらない。角膜は心停止後に提供できる組織であり、心臓死した人は角膜提供者の典型である。ただし、「急性心不全」という名目でも、実際には死因がはっきりしない場合は死因不明(c)として扱われる点に注意する。

  5. ×e.  Creutzfeldt-Jakob病

    Creutzfeldt-Jakob病(CJD)は、異常プリオン蛋白によって脳が侵されるプリオン病である。角膜移植や硬膜移植、汚染された脳外科器具を介してうつった医原性CJDの報告がある。異常プリオンは通常の消毒や滅菌では失活しにくく、治療法もない。このため、CJDとその疑いがある場合は、角膜提供者から除外される。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、進行性多巣性白質脳症(PML)、原因不明の脳炎・中枢神経疾患なども同じ理由で除外される。

眼球提供者(ドナー)適応基準の主な除外項目

次の疾患・状態があれば、眼球(角膜)は提供できない。 ・原因不明の死 ・全身に広がった活動性の感染症(細菌、真菌、ウイルス) ・HBs抗原、HCV抗体、HIV抗体、HTLV-1抗体などの陽性 ・Creutzfeldt-Jakob病とその疑い、亜急性硬化性全脳炎、進行性多巣性白質脳症などの遅発性ウイルス感染症、活動性のウイルス脳炎、原因不明の脳炎、進行性脳症、Reye症候群、原因不明の中枢神経疾患 ・眼内悪性腫瘍、白血病、悪性リンパ腫(Hodgkinリンパ腫、非Hodgkinリンパ腫) ・重症急性呼吸器症候群(SARS)

角膜移植の特徴

・角膜は血管もリンパ管もないため、免疫の攻撃を受けにくい(免疫学的特権)。そのため、ほかの臓器移植と違い、HLA(ヒト白血球抗原:白血球の型)を合わせることは原則として求められず、拒絶反応も比較的少ない。ただし、拒絶反応は起こりうる。角膜に血管が入り込んでいる例や、再移植の例では拒絶反応が起こりやすい。 ・心停止後にも提供でき、年齢の上限も厳しくない。ただし、移植片の質を保つうえで、角膜内皮細胞(角膜の透明さを保つ細胞で、再生しない)の密度が重要である。 ・提供の手続きは、アイバンク(眼球銀行)を通じて行われる。

角膜移植の種類

・全層角膜移植:角膜のすべての層を置き換える。 ・深層層状角膜移植:実質の病変に対し、内皮を残して表層側を置き換える(円錐角膜など)。 ・角膜内皮移植(DSAEK、DMEKなど):水疱性角膜症に対し、内皮とデスメ膜だけを置き換える。

主な適応疾患

水疱性角膜症、円錐角膜、角膜白斑(角膜炎の後の瘢痕)、角膜変性症、角膜穿孔など。

POINT

・角膜は無血管で、心停止後にも提供できる。ドナーの範囲は広いが、感染症と一部の悪性腫瘍は除外される。 ・除外:原因不明の死、全身の活動性感染症、HBV・HCV・HIV・HTLV-1の陽性、CJDなどのプリオン病や原因不明の中枢神経疾患、眼内悪性腫瘍、白血病・悪性リンパ腫。 ・固形癌(腎癌、胃癌など)や死因の確定した心疾患死は、提供者になり得る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。