少ないけれど濃い一滴―初乳が新生児に届ける「守り」と「巣立ち」
第105回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
成乳と比較した初乳の特徴はどれか。3つ選べ。
- a.熱量が高い。
- b.乳糖を多く含む。
- c.胎便の排泄を促す。
- d.蛋白質を多く含む。
- e.免疫物質を多く含む。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
母乳は初乳(分娩後およそ5日目まで)、移行乳、成乳(2週間ごろ以降)と組成が変化します。初乳は量が少ないものの、分泌型IgAやラクトフェリンなどを中心に蛋白質が成乳の約2倍と多く、リゾチームや白血球などの免疫物質、塩類、ビタミンA・Eも豊富で、緩下作用により胎便の排泄を促して新生児黄疸の軽減にも寄与します。一方、成乳は乳糖と脂肪が増えるため熱量が高く、成長のためのエネルギー供給に適した乳です。胎盤を通過する抗体はIgG、母乳で渡される主な抗体は分泌型IgAという区別や、ビタミンK欠乏への対策、母乳を介する感染症への注意も合わせて押さえておきましょう。「初乳は防御と適応、成乳は栄養とエネルギー」という視点は、授乳指導や新生児黄疸の理解の基盤になります。
解答・解説
正解はc, d, eです
母乳は、分娩後の時期によって組成が変わる。初乳(分娩後およそ5日目まで)→ 移行乳(おおむね6日目〜2週間)→ 成乳(分娩後2週間以降、成熟乳ともいう)と移り変わる。 初乳は、量は少ないが、黄色で粘りけがある。黄色はβカロテンによるものである。初乳は、生まれたばかりの新生児を感染から守り、腸が外の世界に慣れるのを助けることに特化した乳であり、次のような特徴をもつ。 ・免疫物質が多い:分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、白血球など ・蛋白質が多い:その多くが免疫グロブリンや乳清蛋白 ・塩類(ナトリウムなど)とビタミンA・Eが多い ・胎便の排泄を促す(緩下作用) これに対し、成熟するにつれて乳糖と脂肪が増え、蛋白質と塩類は減っていく。成乳は、成長に必要なエネルギーを効率よく届ける乳へと変わっていくのである。 この「初乳は防御と適応、成乳は栄養とエネルギー」という流れを押さえておけば、熱量・乳糖が多いのは成乳の特徴であり、胎便の排泄促進・蛋白質・免疫物質の多さが初乳の特徴であると判断できる。
選択肢考察
- ×a. 熱量が高い。
母乳の熱量(カロリー)の大半は脂肪と乳糖に由来する。初乳は蛋白質が多いものの、脂肪と乳糖がどちらも成乳より少ないため、熱量は成乳よりやや低い。目安は、初乳が約55〜60kcal/dL、成乳が約65〜70kcal/dLである。熱量が高いのは成乳の特徴である。
- ×b. 乳糖を多く含む。
乳糖(ラクトース)は母乳の主な糖質で、エネルギー源になるほか、カルシウムの吸収や腸内のビフィズス菌の増殖を助ける。乳糖は乳が成熟するにつれて増えるため、初乳より成乳に多い。目安は、初乳が約5g/dL台前半、成乳が約7g/dLである。乳糖を多く含むのは成乳の特徴である。
- ○c. 胎便の排泄を促す。
初乳には腸の動きを高める緩下作用(便通をよくする作用)があり、胎便(胎児期に腸にたまった暗緑色の粘った便)の排泄を早める。胎便には多量のビリルビンが含まれている。排泄が遅れると、腸でビリルビンが再吸収されて肝臓へ戻る腸肝循環が増え、新生児黄疸が強まる。早くから初乳を十分に飲ませて胎便を出させることは、黄疸を軽くすることにもつながる。
- ○d. 蛋白質を多く含む。
初乳の蛋白質濃度は成乳のおよそ2倍である(初乳が約2g/dL前後、成乳が約1g/dL)。増えている分の多くは、分泌型IgAなどの免疫グロブリンと、ラクトフェリン、α-ラクトアルブミンなどの乳清蛋白である。つまり、初乳の蛋白質は栄養源としてだけでなく、感染防御の役割を大きく担っている。乳が成熟するにつれて蛋白質の濃度は下がっていく。
- ○e. 免疫物質を多く含む。
初乳は、分泌型IgAを特に多く含む。分泌型IgAは消化酵素で分解されにくく、新生児の腸の粘膜の表面で病原体が付着・侵入するのを防ぐ。新生児は自分でIgAを十分につくれないため、この働きは重要である。このほか、鉄と結合して細菌の増殖を抑えるラクトフェリン、細菌の細胞壁を分解するリゾチーム、マクロファージやリンパ球などの生きた白血球、腸管の成熟を促す成長因子も豊富である。なお、胎盤を通して母から児に移る抗体はIgGであり、母乳を通して移る主な抗体(分泌型IgA)とは種類が異なる。
初乳・移行乳・成乳
・初乳:分娩後およそ5日目まで。黄色で粘りけがあり、量は少ない。 ・移行乳:分娩後6日目頃から2週間頃まで。成分が初乳から成乳へ移り変わる途中の乳。 ・成乳:分娩後2週間頃以降。白色で、量が多い。
成分の違い(初乳と比べた成乳の変化)
・増えるもの:乳糖、脂肪、熱量、分泌量 ・減るもの:蛋白質(免疫グロブリン、ラクトフェリンなど)、塩類(ナトリウム、クロールなど)、ビタミンA・Eなどの脂溶性ビタミン、白血球
母乳の主な免疫・防御因子
・分泌型IgA:腸の粘膜の表面で病原体が付着するのを防ぐ。 ・ラクトフェリン:鉄と結合し、細菌が鉄を利用できないようにして増殖を抑える。 ・リゾチーム:細菌の細胞壁を分解する。 ・白血球(マクロファージ、リンパ球、好中球) ・オリゴ糖、ビフィズス因子:腸でビフィズス菌が増えるのを助け、腸内環境を整える。 ・補体、サイトカイン、成長因子(上皮成長因子など)
母乳栄養の注意点
・母乳はビタミンKが少ないため、新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症を予防する目的でビタミンK2シロップを飲ませる。 ・母乳性黄疸(成乳の成分がビリルビンの処理を妨げるとされる遷延性黄疸)と、早期の授乳不足による黄疸は区別して考える。 ・母乳を通してうつる感染症(HTLV-1、HIVなど)や、母乳中に移行する薬剤には注意が必要である。
POINT
・初乳は、蛋白質(とくに分泌型IgA、ラクトフェリン)・免疫物質・塩類・ビタミンA・Eが多く、胎便の排泄を促す(緩下作用)。 ・成乳は、乳糖・脂肪が多く、熱量が高い。 ・乳が成熟するにつれて、乳糖・脂肪・熱量は増え、蛋白質・塩類は減る。 ・胎盤を通るのはIgG、母乳で渡されるのは主に分泌型IgA。
