StudyMed医師国家試験

剝がれない胎盤を見抜け―剝離徴候を「裏返し」で読む癒着胎盤

第105回医師国家試験 E問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第36問

経腟分娩で児娩出後に癒着胎盤が疑われる徴候はどれか。2つ選べ。

  1. a.臍帯が下降する。
  2. b.出血量が増加する。
  3. c.産婦が便意を訴える。
  4. d.子宮底に与えた振動が臍帯に響く。
  5. e.恥骨結合上部の圧迫で臍帯が上昇する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は分娩第3期、つまり児が生まれてから胎盤が出てくるまでの時期がテーマだ。問われているのは癒着胎盤を疑う徴候だけど、実はこれは「胎盤剝離徴候」の知識を裏返して使う問題なんだ。まず、胎盤がどうやって子宮から剝がれるか、説明できるかな。
医学生医学生
児が出ると子宮が収縮して、それで胎盤が剝がれる……くらいのイメージです。
ドクタードクター
方向性は合っているよ。児が娩出されると子宮は急に収縮して小さくなる。付着部の面積も縮むけれど、胎盤そのものは縮まないから、ずれが生じて脱落膜の海綿層で剝がれる。剝がれた面の血管が切れて胎盤の裏に血がたまる、これが胎盤後血腫で、それが剝離をさらに押し進める。通常は児娩出後5〜15分ほどで胎盤が出てくるんだ。
医学生医学生
では癒着胎盤は、その剝がれる面がうまくできない状態ということですか。
ドクタードクター
その通り。脱落膜の欠損などで、絨毛が子宮筋層に直接くっついたり入り込んだりしているから、剝がれる層がない。だから癒着胎盤を疑う徴候とは、ひと言でいえば「剝離徴候が現れないこと」なんだ。
医学生医学生
なるほど。産婦人科の講義で人名のついた剝離徴候がずらっと並んでいて、正直ごちゃごちゃになっていました。
ドクタードクター
丸暗記より、「胎盤が子宮にくっついているか、離れて下に降りているか」という一つの軸で整理すると楽になる。まず、子宮底を軽く叩いた振動が臍帯を持つ手に響く、という所見はどう解釈する?
医学生医学生
胎盤が子宮にくっついたままなら、子宮の振動が胎盤から臍帯へ伝わる……つまり剝がれていないサインですか。
ドクタードクター
正解。これはStrassmann徴候で、剝がれていれば子宮と胎盤のつながりが切れて振動は伝わらない。それが徴候陽性、つまり剝離ありだ。振動が臍帯に響くのは陰性で、剝がれていないことを示す。次に、恥骨結合のすぐ上から子宮を押し上げたら臍帯が腟の中へ引き込まれる、というのは?
医学生医学生
同じ考え方で、子宮と一緒に胎盤も臍帯も引っ張り上げられているから、まだ付着しているということですね。
ドクタードクター
そう、Küstner徴候だ。剝がれて子宮下部から腟へ降りていれば、子宮を押し上げても臍帯は引き込まれない。臍帯が上昇するなら付着したまま。この2つが今回の正解で、時間がたってもこの状態が続けば癒着胎盤を疑うことになる。
医学生医学生
臍帯が下がってくるのは逆に剝がれたサインですよね。OSCEの分娩介助シミュレーターで、臍帯に鉗子を付けて目印にするのを見ました。
ドクタードクター
よく覚えていたね。それがAhlfeld徴候だ。腟入口の高さで臍帯に目印をつけておくと、胎盤が剝がれて降りてくるにつれて目印が数cm以上下がる。剝離を示す所見だから、癒着胎盤の徴候ではない。
医学生医学生
便意を訴えるというのは、少し意外な感じがしました。
ドクタードクター
剝がれた胎盤が腟内へ降りてくると、後ろにある直腸が圧迫されていきみたい感じが生じる。Mikulicz-Radecki徴候といって、これも胎盤がすでに剝がれて下降していることを示すんだ。
医学生医学生
出血が増えるのは、癒着胎盤の危険な出血のことかと思って迷いました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。ふつうは剝離に伴って胎盤後血腫の血液が外へ流れ出るから、一過性の外出血の増加は剝離が進んでいるサインとされる。ただし、癒着胎盤でも一部だけ剝がれたり無理に剝がそうとしたりすると、子宮が十分に収縮できず大出血を起こしうる。「癒着胎盤なら出血しない」わけではない点は臨床では大事だよ。
医学生医学生
整理すると、くっついたままなら子宮と臍帯が一緒に動く、剝がれたら胎盤が降りて臍帯の下降・便意・出血が出る、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ほかに、剝がれた胎盤が子宮下部へ降りると子宮体部が細く硬くなって右上方へ持ち上がるSchröder徴候もセットで押さえておこう。そして児娩出後30分を過ぎても胎盤が出ず剝離徴候も現れなければ、癒着胎盤などを考える。
医学生医学生
癒着胎盤はどんな人に起こりやすいんでしょうか。
ドクタードクター
最大の危険因子は帝王切開の既往で、前置胎盤が合併するとリスクが大きく上がる。子宮内膜掻爬などの子宮手術歴、多産、高年妊娠、体外受精も挙げられる。深さによって、筋層表面に付着する楔入胎盤、筋層内に侵入する嵌入胎盤、漿膜を越えて膀胱などに及ぶ穿通胎盤に分けられるよ。
医学生医学生
見つかったら、どう対応するんですか。
ドクタードクター
用手剝離を試みても剝がれない場合、無理に剝がすと大出血を起こす。輸血を準備したうえで子宮摘出が必要になることが多く、子宮温存を目指して胎盤を残して経過をみる方法がとられることもある。だからこそ、前置胎盤や帝王切開既往の高リスク例では、分娩前に超音波やMRIで疑っておくことが何より大切なんだ。

まとめ

胎盤は児娩出後の子宮収縮によって脱落膜の海綿層で剝がれますが、癒着胎盤では絨毛が筋層に直接付着・侵入しているため剝がれず、「胎盤剝離徴候が現れないこと」がその徴候となります。子宮底の振動が臍帯に伝わる(Strassmann徴候陰性)、恥骨結合上の圧迫で臍帯が腟内へ引き込まれる(Küstner徴候陰性)は、胎盤が子宮壁に付着したままであることを示します。一方、臍帯の下降(Ahlfeld徴候)、便意(Mikulicz-Radecki徴候)、子宮底の右上方移動(Schröder徴候)、一過性の外出血増加は剝離を示す所見です。児娩出後30分を過ぎても胎盤が娩出されなければ癒着胎盤などを考え、帝王切開既往と前置胎盤合併が最大の危険因子であること、無理な剝離は大出血を招くことを押さえておくと、分娩第3期の安全な管理につながります。

解答・解説

正解はd, eです

本問は、胎盤剝離徴候(胎盤が子宮壁から剝がれたことを示す所見)の知識を裏返して使う問題である。

胎盤が剝がれる仕組み

児が娩出されると子宮は急に収縮して小さくなる。すると胎盤付着部の面積も縮むが、胎盤そのものは縮まないため、ずれが生じて脱落膜(妊娠中の子宮内膜)の海綿層で剝がれる。剝がれた面の血管が切れて胎盤の裏側に血がたまり(胎盤後血腫)、剝離はさらに進む。剝がれた胎盤は子宮下部から腟へ降り、娩出される(胎盤娩出期、分娩第3期)。胎盤は通常、児娩出後5〜15分前後で剝がれて出てくる。

癒着胎盤

癒着胎盤は、脱落膜の欠損などのために絨毛が子宮筋層に直接付着したり、筋層内へ入り込んだりして、胎盤が正常に剝がれない状態である。したがって、癒着胎盤を疑う徴候とは「胎盤剝離徴候が現れないこと」である。

選択肢の考え方

選択肢のうち、臍帯の下降(a)、出血量の増加(b)、便意(c)はいずれも剝離が起こったことを示す所見である。一方、子宮底に与えた振動が臍帯に響く(d)、恥骨結合上部を押すと臍帯が上昇する(e)は、胎盤がまだ子宮壁に付着しており、子宮と臍帯が一体として動いていることを示す。これらが続き、児娩出後30分を過ぎても胎盤が娩出されない場合には、癒着胎盤を疑う。

選択肢考察

  1. ×a.  臍帯が下降する。

    Ahlfeld(アールフェルド)徴候で、胎盤剝離徴候の一つである。児娩出直後に、腟の入口の高さで臍帯に鉗子や結紮糸で目印を付けておく。胎盤が剝がれて子宮下部から腟へ降りると、それにつれて目印が数cm以上(成書により約10cmとされる)下がってくる。胎盤が剝がれたことを示す所見であり、癒着胎盤を疑う徴候ではない。

  2. ×b.  出血量が増加する。

    胎盤が剝がれると、付着部の脱落膜の血管が切れて胎盤後血腫ができる。この血液が腟から外へ流れ出るため、剝離に伴って一過性に外出血が増える。つまり、出血の増加はふつう剝離が進んでいるサインであり、癒着胎盤を疑う徴候としては適切でない。ただし、癒着胎盤で一部だけ剝がれた場合や、無理に胎盤を剝がそうとした場合には、子宮が十分に収縮できずに大出血を起こすことがある。そのため、癒着胎盤で出血が起こらないというわけではない点に注意する。

  3. ×c.  産婦が便意を訴える。

    Mikulicz-Radecki(ミクリッツ・ラデッキー)徴候で、胎盤剝離徴候の一つである。剝がれた胎盤が腟内へ降りてくると、直腸が後方から押されて便意(いきみたい感じ)が生じる。胎盤がすでに剝がれて下降していることを示し、癒着胎盤を疑う徴候ではない。

  4. ○d.  子宮底に与えた振動が臍帯に響く。

    Strassmann(シュトラスマン)徴候の陰性にあたる所見である。片手で臍帯を軽く持ち、もう一方の手で子宮底を軽く叩いたり揺らしたりする。胎盤が子宮壁についたままだと、子宮底の振動が胎盤を介して臍帯まで伝わり、臍帯を持つ手に響く。胎盤が剝がれていれば、子宮と胎盤のつながりが切れているので振動は伝わらない(Strassmann徴候陽性)。振動が臍帯に響くのは胎盤が剝がれていないことを示し、時間がたってもこの状態が続けば癒着胎盤を疑う。

  5. ○e.  恥骨結合上部の圧迫で臍帯が上昇する。

    Küstner(キュストナー)徴候の陰性にあたる所見である。恥骨結合のすぐ上から子宮下部を手で押し上げたとき、胎盤が子宮壁についたままだと、押し上げられた子宮と一緒に胎盤と臍帯も引っ張られ、臍帯が腟の中へ引き込まれる(上昇する)。胎盤が剝がれて子宮下部から腟へ降りていれば、子宮を押し上げても臍帯は引き込まれない(Küstner徴候陽性)。臍帯が上昇するのは胎盤が剝がれていないことを示し、癒着胎盤を疑う所見となる。

主な胎盤剝離徴候

・Schröder(シュレーダー)徴候:剝がれた胎盤が子宮下部へ降りると、子宮体部は細く硬くなって右上方へ持ち上がり(子宮底が臍の高さより上、やや右に偏る)、恥骨結合上に軟らかい膨らみを触れる。 ・Ahlfeld徴候:臍帯につけた目印が下がる。 ・Küstner徴候:恥骨結合上を押しても臍帯が腟へ引き込まれない。 ・Strassmann徴候:子宮底を叩いた振動が臍帯に伝わらない。 ・Mikulicz-Radecki徴候:胎盤が腟内に降りて直腸を押すため、便意を訴える。 ・そのほか、一過性の外出血の増加(胎盤後血腫の流出)もみられる。

胎盤の剝離様式

・Schultze(シュルツェ)様式:胎盤の中央から剝がれ、胎児面を先にして出てくる。出血は胎盤の後ろにたまり、胎盤が出てから流れ出る。最も多い。 ・Duncan(ダンカン)様式:胎盤の辺縁から剝がれ、母体面を先にして出てくる。胎盤が出る前から出血が外に出やすい。

癒着胎盤(placenta accreta spectrum)

・脱落膜(とくに基底脱落膜)の欠損や形成不全のため、絨毛が子宮筋層に直接付着したり入り込んだりする。 ・入り込みの深さで3つに分ける:楔入胎盤(placenta accreta:筋層表面に付着)、嵌入胎盤(placenta increta:筋層内へ侵入)、穿通胎盤(placenta percreta:漿膜を越え、膀胱など周りの臓器に及ぶ)。 ・危険因子:帝王切開の既往(とくに前置胎盤が合併する場合はリスクが大きく上がる)、子宮内膜掻爬などの子宮手術の既往、多産、高年妊娠、体外受精など。 ・診断:児娩出後30分以上たっても胎盤が出ず、剝離徴候も現れない。前置胎盤などの高リスク例では、分娩前に超音波やMRIで疑うことが大切である。 ・対応:用手剝離を試みても剝がれない場合、無理に剝がすと大出血を起こす。輸血の準備をしたうえで子宮摘出が必要になることが多い。子宮の温存を目指し、胎盤を子宮内に残して経過をみる方法がとられることもある。

POINT

・癒着胎盤を疑う徴候=胎盤剝離徴候が現れないこと。 ・剝離徴候:臍帯の下降(Ahlfeld)、恥骨上を押しても臍帯が引き込まれない(Küstner)、子宮底の振動が臍帯に伝わらない(Strassmann)、便意(Mikulicz-Radecki)、子宮底の右上方への移動(Schröder)、一過性の外出血の増加。 ・胎盤は通常、児娩出後5〜15分前後で出てくる。30分を過ぎても出なければ、癒着胎盤などの胎盤遺残を考える。 ・癒着胎盤の最大の危険因子は、帝王切開の既往と前置胎盤の合併である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。