剝がれない胎盤を見抜け―剝離徴候を「裏返し」で読む癒着胎盤
第105回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
経腟分娩で児娩出後に癒着胎盤が疑われる徴候はどれか。2つ選べ。
- a.臍帯が下降する。
- b.出血量が増加する。
- c.産婦が便意を訴える。
- d.子宮底に与えた振動が臍帯に響く。
- e.恥骨結合上部の圧迫で臍帯が上昇する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎盤は児娩出後の子宮収縮によって脱落膜の海綿層で剝がれますが、癒着胎盤では絨毛が筋層に直接付着・侵入しているため剝がれず、「胎盤剝離徴候が現れないこと」がその徴候となります。子宮底の振動が臍帯に伝わる(Strassmann徴候陰性)、恥骨結合上の圧迫で臍帯が腟内へ引き込まれる(Küstner徴候陰性)は、胎盤が子宮壁に付着したままであることを示します。一方、臍帯の下降(Ahlfeld徴候)、便意(Mikulicz-Radecki徴候)、子宮底の右上方移動(Schröder徴候)、一過性の外出血増加は剝離を示す所見です。児娩出後30分を過ぎても胎盤が娩出されなければ癒着胎盤などを考え、帝王切開既往と前置胎盤合併が最大の危険因子であること、無理な剝離は大出血を招くことを押さえておくと、分娩第3期の安全な管理につながります。
解答・解説
正解はd, eです
本問は、胎盤剝離徴候(胎盤が子宮壁から剝がれたことを示す所見)の知識を裏返して使う問題である。
胎盤が剝がれる仕組み
児が娩出されると子宮は急に収縮して小さくなる。すると胎盤付着部の面積も縮むが、胎盤そのものは縮まないため、ずれが生じて脱落膜(妊娠中の子宮内膜)の海綿層で剝がれる。剝がれた面の血管が切れて胎盤の裏側に血がたまり(胎盤後血腫)、剝離はさらに進む。剝がれた胎盤は子宮下部から腟へ降り、娩出される(胎盤娩出期、分娩第3期)。胎盤は通常、児娩出後5〜15分前後で剝がれて出てくる。
癒着胎盤
癒着胎盤は、脱落膜の欠損などのために絨毛が子宮筋層に直接付着したり、筋層内へ入り込んだりして、胎盤が正常に剝がれない状態である。したがって、癒着胎盤を疑う徴候とは「胎盤剝離徴候が現れないこと」である。
選択肢の考え方
選択肢のうち、臍帯の下降(a)、出血量の増加(b)、便意(c)はいずれも剝離が起こったことを示す所見である。一方、子宮底に与えた振動が臍帯に響く(d)、恥骨結合上部を押すと臍帯が上昇する(e)は、胎盤がまだ子宮壁に付着しており、子宮と臍帯が一体として動いていることを示す。これらが続き、児娩出後30分を過ぎても胎盤が娩出されない場合には、癒着胎盤を疑う。
選択肢考察
- ×a. 臍帯が下降する。
Ahlfeld(アールフェルド)徴候で、胎盤剝離徴候の一つである。児娩出直後に、腟の入口の高さで臍帯に鉗子や結紮糸で目印を付けておく。胎盤が剝がれて子宮下部から腟へ降りると、それにつれて目印が数cm以上(成書により約10cmとされる)下がってくる。胎盤が剝がれたことを示す所見であり、癒着胎盤を疑う徴候ではない。
- ×b. 出血量が増加する。
胎盤が剝がれると、付着部の脱落膜の血管が切れて胎盤後血腫ができる。この血液が腟から外へ流れ出るため、剝離に伴って一過性に外出血が増える。つまり、出血の増加はふつう剝離が進んでいるサインであり、癒着胎盤を疑う徴候としては適切でない。ただし、癒着胎盤で一部だけ剝がれた場合や、無理に胎盤を剝がそうとした場合には、子宮が十分に収縮できずに大出血を起こすことがある。そのため、癒着胎盤で出血が起こらないというわけではない点に注意する。
- ×c. 産婦が便意を訴える。
Mikulicz-Radecki(ミクリッツ・ラデッキー)徴候で、胎盤剝離徴候の一つである。剝がれた胎盤が腟内へ降りてくると、直腸が後方から押されて便意(いきみたい感じ)が生じる。胎盤がすでに剝がれて下降していることを示し、癒着胎盤を疑う徴候ではない。
- ○d. 子宮底に与えた振動が臍帯に響く。
Strassmann(シュトラスマン)徴候の陰性にあたる所見である。片手で臍帯を軽く持ち、もう一方の手で子宮底を軽く叩いたり揺らしたりする。胎盤が子宮壁についたままだと、子宮底の振動が胎盤を介して臍帯まで伝わり、臍帯を持つ手に響く。胎盤が剝がれていれば、子宮と胎盤のつながりが切れているので振動は伝わらない(Strassmann徴候陽性)。振動が臍帯に響くのは胎盤が剝がれていないことを示し、時間がたってもこの状態が続けば癒着胎盤を疑う。
- ○e. 恥骨結合上部の圧迫で臍帯が上昇する。
Küstner(キュストナー)徴候の陰性にあたる所見である。恥骨結合のすぐ上から子宮下部を手で押し上げたとき、胎盤が子宮壁についたままだと、押し上げられた子宮と一緒に胎盤と臍帯も引っ張られ、臍帯が腟の中へ引き込まれる(上昇する)。胎盤が剝がれて子宮下部から腟へ降りていれば、子宮を押し上げても臍帯は引き込まれない(Küstner徴候陽性)。臍帯が上昇するのは胎盤が剝がれていないことを示し、癒着胎盤を疑う所見となる。
主な胎盤剝離徴候
・Schröder(シュレーダー)徴候:剝がれた胎盤が子宮下部へ降りると、子宮体部は細く硬くなって右上方へ持ち上がり(子宮底が臍の高さより上、やや右に偏る)、恥骨結合上に軟らかい膨らみを触れる。 ・Ahlfeld徴候:臍帯につけた目印が下がる。 ・Küstner徴候:恥骨結合上を押しても臍帯が腟へ引き込まれない。 ・Strassmann徴候:子宮底を叩いた振動が臍帯に伝わらない。 ・Mikulicz-Radecki徴候:胎盤が腟内に降りて直腸を押すため、便意を訴える。 ・そのほか、一過性の外出血の増加(胎盤後血腫の流出)もみられる。
胎盤の剝離様式
・Schultze(シュルツェ)様式:胎盤の中央から剝がれ、胎児面を先にして出てくる。出血は胎盤の後ろにたまり、胎盤が出てから流れ出る。最も多い。 ・Duncan(ダンカン)様式:胎盤の辺縁から剝がれ、母体面を先にして出てくる。胎盤が出る前から出血が外に出やすい。
癒着胎盤(placenta accreta spectrum)
・脱落膜(とくに基底脱落膜)の欠損や形成不全のため、絨毛が子宮筋層に直接付着したり入り込んだりする。 ・入り込みの深さで3つに分ける:楔入胎盤(placenta accreta:筋層表面に付着)、嵌入胎盤(placenta increta:筋層内へ侵入)、穿通胎盤(placenta percreta:漿膜を越え、膀胱など周りの臓器に及ぶ)。 ・危険因子:帝王切開の既往(とくに前置胎盤が合併する場合はリスクが大きく上がる)、子宮内膜掻爬などの子宮手術の既往、多産、高年妊娠、体外受精など。 ・診断:児娩出後30分以上たっても胎盤が出ず、剝離徴候も現れない。前置胎盤などの高リスク例では、分娩前に超音波やMRIで疑うことが大切である。 ・対応:用手剝離を試みても剝がれない場合、無理に剝がすと大出血を起こす。輸血の準備をしたうえで子宮摘出が必要になることが多い。子宮の温存を目指し、胎盤を子宮内に残して経過をみる方法がとられることもある。
POINT
・癒着胎盤を疑う徴候=胎盤剝離徴候が現れないこと。 ・剝離徴候:臍帯の下降(Ahlfeld)、恥骨上を押しても臍帯が引き込まれない(Küstner)、子宮底の振動が臍帯に伝わらない(Strassmann)、便意(Mikulicz-Radecki)、子宮底の右上方への移動(Schröder)、一過性の外出血の増加。 ・胎盤は通常、児娩出後5〜15分前後で出てくる。30分を過ぎても出なければ、癒着胎盤などの胎盤遺残を考える。 ・癒着胎盤の最大の危険因子は、帝王切開の既往と前置胎盤の合併である。
