擦ると浮かび上がる膨疹―Darier徴候が教える「色素斑の正体」
第105回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
色素斑を擦過した際,擦過部に線状の膨疹を生じ周囲に発赤がみられた。このときの写真を別に示す。 陽性を示したのはどれか。

- a.Auspitz現象
- b.Darier徴候
- c.Köbner現象
- d.Leser-Trélat徴候
- e.Nikolsky現象
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
色素斑をこすったときに、その部位に一致して膨疹と周囲の発赤が生じるのはDarier徴候であり、肥満細胞症、特に小児に多い色素性蕁麻疹を示唆します。機序は、皮疹部に集積した肥満細胞が機械的刺激で脱顆粒し、ヒスタミンなどが放出されて血管透過性が亢進することです。健常皮膚での膨疹は皮膚描記症、鱗屑剝離で点状出血はAuspitz現象(乾癬)、健常皮膚に同じ皮疹が出るのはKöbner現象、表皮剝離・水疱はNikolsky現象(天疱瘡など)、脂漏性角化症の急増はLeser-Trélat徴候(内臓悪性腫瘍)と区別します。肥満細胞症では摩擦・温熱・一部の薬剤が症状を誘発しうるため、生活指導も重要です。「どこを刺激し、何が起きたか」で整理する習慣は、皮膚科の誘発所見を確実に見分ける土台になります。
解答・解説
正解はbです
問題の整理
色素斑(褐色調の斑)という「皮疹部そのもの」を擦ったところ、擦った線に沿って膨疹(真皮の一過性浮腫による盛り上がり)が生じ、その周囲が赤くなった、という所見である。皮膚を機械的に刺激して誘発される現象・徴候の名称を問う問題である。
考え方
擦過で膨疹が生じるのは、真皮の肥満細胞(マスト細胞)が刺激で脱顆粒し、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されて血管透過性が亢進するためである。色素斑の部位に一致してこの反応が強く出るということは、その色素斑に肥満細胞が集積していることを意味する。褐色の斑に肥満細胞が増殖する代表的疾患は肥満細胞症、特に小児に多い色素性蕁麻疹(皮膚肥満細胞症の一型)であり、このとき陽性となる所見がDarier徴候である。 皮膚の刺激で誘発される所見は国試で繰り返し問われるので、「何をすると」「何が起こり」「どの疾患でみられるか」を対にして整理しておくとよい。本問では、①刺激したのは皮疹部である、②生じたのは膨疹と発赤であって、出血・水疱・同じ皮疹の新生ではない、という2点から他の選択肢を除外できる。
選択肢考察
- ×a. Auspitz現象
尋常性乾癬の銀白色の鱗屑をはがしていくと、点状の出血がみられる現象である。乾癬では真皮乳頭が延長して表皮直下まで毛細血管が近づき、その上の表皮が薄くなっているため、鱗屑をはぐと容易に出血する。本問のような膨疹と発赤ではないので誤りである。
- ○b. Darier徴候
肥満細胞症(色素性蕁麻疹など)の皮疹部を擦過すると、集積した肥満細胞からヒスタミンなどが放出され、その部位に膨疹が生じて周囲に紅斑を伴う現象である。色素斑を擦ったところ線状の膨疹と周囲の発赤が生じたという本問の記載に合致するため正しい。なお、健常皮膚を擦って膨疹が生じるのは皮膚描記症(機械性蕁麻疹)であり、皮疹部に限って反応が生じるDarier徴候とは区別される。また、名前の似た「Darier病」は角化異常症であり、本徴候とは無関係である。
- ×c. Köbner現象
病変のない健常皮膚に擦過・外傷などの刺激を加えると、その部位にもともとの疾患と同じ皮疹が新たに生じる現象で、同形反応ともいう。尋常性乾癬、扁平苔癬、青年性扁平疣贅(ウイルス性で刺激部に沿って線状に並ぶ)、尋常性白斑などでみられる。本問は皮疹部への刺激で膨疹が生じた所見であり誤りである。
- ×d. Leser-Trélat徴候
短期間のうちに脂漏性角化症(老人性疣贅)が急速に多発し、しばしば瘙痒を伴う現象である。胃癌などの内臓悪性腫瘍に合併することがあり、デルマドローム(内臓疾患を反映する皮膚症状)の一つとされる。刺激で誘発される所見ではなく誤りである。
- ×e. Nikolsky現象
一見健常な皮膚を指でこすると、表皮がずれてはがれたり水疱が生じたりする現象である。表皮細胞間や表皮下の接着が弱まっている病態を反映し、尋常性天疱瘡などの天疱瘡群、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、中毒性表皮壊死症(TEN)型薬疹、表皮水疱症などでみられる。本問は水疱ではなく膨疹が生じているので誤りである。
肥満細胞症(マストサイトーシス)
肥満細胞がクローン性に増殖し、皮膚や骨髄などの臓器に集積する疾患である。多くの症例でKIT遺伝子(肥満細胞の増殖を担う受容体型チロシンキナーゼ)の変異がみられる。病変が皮膚に限局する皮膚肥満細胞症と、骨髄など皮膚以外の臓器にも及ぶ全身性肥満細胞症に分けられる。 ・色素性蕁麻疹:皮膚肥満細胞症の代表的な病型で、小児(特に乳幼児期)に多い。褐色〜紅褐色の斑や丘疹が体幹を中心に多発する。小児例の多くは思春期ごろまでに自然消退する。 ・肥満細胞腫:単発の結節として生じる病型で、乳児に多い。 症状はヒスタミンなどの遊離によるもので、瘙痒、膨疹、紅潮のほか、全身性の例では頭痛・腹痛・下痢・血圧低下などを起こしうる。摩擦、熱い入浴、一部の薬剤(アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬、オピオイドなど)は脱顆粒の誘因となるため避ける。治療は抗ヒスタミン薬による対症療法が中心である。病理では、トルイジンブルー染色で異染性(メタクロマジー)を示す肥満細胞の増加をみる。
皮膚への刺激で誘発される所見のまとめ
・Darier徴候:皮疹部を擦る → 膨疹・発赤(肥満細胞症) ・皮膚描記症:健常皮膚を擦る → 線状の膨疹(機械性蕁麻疹) ・Auspitz現象:鱗屑をはがす → 点状出血(乾癬) ・Köbner現象:健常皮膚を刺激 → 同じ皮疹が出現(乾癬、扁平苔癬、青年性扁平疣贅など) ・Nikolsky現象:健常にみえる皮膚をこする → 表皮剝離・水疱(天疱瘡、SSSS、TEN型薬疹など) ・針反応:針を刺す → 無菌性膿疱・紅斑(Behçet病)
POINT
・色素斑を擦ると膨疹と周囲の発赤が生じる → Darier徴候 → 肥満細胞症(色素性蕁麻疹)。 ・機序は、刺激による肥満細胞の脱顆粒とヒスタミン遊離である。 ・Auspitz現象(乾癬・点状出血)、Köbner現象(健常皮膚に同じ皮疹)、Nikolsky現象(水疱・表皮剝離)、Leser-Trélat徴候(脂漏性角化症の多発と内臓悪性腫瘍)と区別する。
