腱反射が残っていても「脳死」―全脳死の定義から読み解く法的脳死判定
第105回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
法的な脳死判定基準に含まれないのはどれか。
- a.深昏睡
- b.平坦脳波
- c.瞳孔固定
- d.腱反射の消失
- e.自発呼吸の消失
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本の法的脳死判定は、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した「全脳死」を確認するもので、深昏睡、瞳孔固定(両側4mm以上)、脳幹反射(7つ)の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テスト)の5項目からなります。腱反射は脊髄で完結する反射であり、脳死でも残りうるため判定基準に含まれず、脊髄反射やラザロ徴候などの脊髄自動反射があっても脳死と判定できます。判定は6時間以上(6歳未満は24時間以上)の間隔で2回行い、急性薬物中毒・低体温・代謝内分泌障害など脳死に似た状態は事前に除外します。「どの項目が脳のどの部位の機能を見ているか」を理解しておけば、項目の暗記だけでなく、家族への説明や植物状態との区別にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
臓器の移植に関する法律(臓器移植法)とその施行規則に定められた、法的脳死判定の項目を問う問題である。 日本では、脳死を「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態」(全脳死)と定義している。したがって判定項目は、大脳と脳幹の機能がともに失われたことを確かめるものになっている。法的脳死判定の必須項目は次の5つである。 (1) 深昏睡 (2) 瞳孔固定(瞳孔径は左右とも4mm以上) (3) 脳幹反射の消失 (4) 平坦脳波(脳波の電気的活動がないこと) (5) 自発呼吸の消失(無呼吸テストで確認する) これらを、定められた間隔をあけて2回確認する。 腱反射(深部腱反射)は、脊髄の反射弓だけで成り立つ反射である。脳が機能を失っても脊髄が生きていれば残ることがあり、脳死の判定には使わない。むしろ、脊髄反射や脊髄自動反射が残っていても脳死と判定してよい、とされている。したがって、判定基準に含まれないのは「腱反射の消失」である。
選択肢考察
- ×a. 深昏睡
判定基準に含まれる。深昏睡とは、JCS(Japan Coma Scale)で300、GCS(Glasgow Coma Scale)で合計3点の状態である。痛み刺激にまったく反応しない。顔面への痛み刺激(眼窩上縁の圧迫など)で反応がないことを確かめ、大脳と脳幹の機能がないことの根拠の一つとする。
- ×b. 平坦脳波
判定基準に含まれる。大脳皮質の電気的活動がなくなったことを示す所見で、「電気的大脳無活動」とも呼ばれる。高い感度で記録し、痛み刺激や音刺激を加えても脳波が平坦であることを、一定時間(30分以上)の記録で確かめる。臨床的な脳死診断では省略されることもあるが、法的脳死判定では必須の項目である。
- ×c. 瞳孔固定
判定基準に含まれる。瞳孔が左右とも直径4mm以上に散大し、固定していることを確かめる。瞳孔の大きさを調節する経路は中脳を通るため、瞳孔固定は脳幹機能の停止を示す所見である。これとは別に、対光反射の消失も脳幹反射の一つとして確かめる。
- ○d. 腱反射の消失
判定基準に含まれないので、これが正解である。膝蓋腱反射やアキレス腱反射などの深部腱反射は、脊髄レベルで完結する反射である。脳全体の機能が失われても、脊髄の機能が保たれていれば腱反射が残ることは十分にありうる。判定基準は、脊髄反射や脊髄自動反射(刺激に対する四肢の動きなど、いわゆるラザロ徴候を含む)があっても脳死と判定してよいとしている。腱反射の有無は脳死判定とは関係しない。
- ×e. 自発呼吸の消失
判定基準に含まれる。呼吸中枢は延髄にあるので、自発呼吸の消失は脳幹機能停止の最終的な確認となる。無呼吸テストで確かめる。十分に酸素化したうえで人工呼吸器を外し、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が60mmHg以上に上がっても自発呼吸が出ないことを確認する。このテストは患者に負担がかかるため、他の項目をすべて確かめたあと、最後に行う。
脳幹反射の消失として確認する7つの反射
対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射(人形の目現象)、前庭反射(温度刺激試験)、咽頭反射、咳反射。いずれも脳幹を経由する反射なので、これらがすべてないことで脳幹機能の停止を確かめる。
判定の前提条件
・器質的な脳障害によって深昏睡と無呼吸になっていること ・原疾患が確実に診断されていること ・あらゆる適切な治療を行っても回復の可能性がまったくないと判断されること
除外例(判定を行わない場合)
・脳死と似た状態になりうる症例:急性薬物中毒、低体温(深部温が32℃未満。6歳未満では35℃未満)、代謝・内分泌障害 ・生後12週未満(在胎週数40週未満で生まれた場合は出産予定日から12週未満) ・知的障害などがあり、本人の意思表示が有効でないと考えられる者 ・被虐待児、または虐待の疑いを否定できない児 また、判定の際は、収縮期血圧が保たれていること、中枢神経抑制薬・筋弛緩薬の影響を除外することが求められる。
判定の間隔
1回目の判定のあと、6時間以上あけて2回目の判定を行う(生後12週以上6歳未満の小児では24時間以上)。2回目の判定が終わった時刻を死亡時刻とする。判定は、脳死判定に十分な経験をもち、臓器移植にかかわらない医師2名以上で行う。
脳死と植物状態の違い
植物状態は、大脳の機能が広く失われていても脳幹の機能は保たれている状態である。自発呼吸があり、回復することもある。脳死とは根本的に異なる。
POINT
・法的脳死判定の5項目:深昏睡、瞳孔固定(両側4mm以上)、脳幹反射の消失(7つ)、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テスト、PaCO2 60mmHg以上)。 ・脊髄反射(腱反射など)は残っていてもよい。判定基準に含まれない。 ・判定は2回行い、間隔は6時間以上(6歳未満は24時間以上)。無呼吸テストは最後に行う。 ・除外例:急性薬物中毒、低体温、代謝・内分泌障害、生後12週未満、被虐待児など。
