ギザギザの輪郭は危険信号―乳房超音波で読み解く良性と悪性
第105回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
乳房超音波写真を別に示す。 最も考えられる疾患はどれか。

- a.嚢胞
- b.乳癌
- c.脂肪腫
- d.線維腺腫
- e.悪性リンパ腫
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
乳房超音波では、形状、境界・辺縁、内部エコー、後方エコー、縦横比、石灰化を順に評価して腫瘤の良悪性を推定します。不整形、境界不明瞭・辺縁粗雑、内部不均一な低エコー、縦横比大、微細な点状高エコー、後方エコーの減弱、ハローや前方境界線の断裂は乳癌を示唆する所見です。嚢胞は内部無エコーと後方エコー増強、線維腺腫は若年女性の境界明瞭・平滑な横長楕円形腫瘤、脂肪腫は脂肪と同程度のエコーで軟らかい腫瘤と、それぞれの典型像と対比すると鑑別しやすくなります。乳房原発の悪性リンパ腫はまれで石灰化も少なく、また超音波で疑った病変は細胞診や針生検による病理診断で確定することが原則です。画像所見を項目ごとに言語化して良悪性を判断する手順は、乳腺に限らず甲状腺など他臓器の超音波読影にも通じる基本技術です。
解答・解説
正解はbです
画像所見の整理
乳腺内に径15mm前後の低エコー腫瘤がある。腫瘤は周囲の乳腺組織との境界が不明瞭で、辺縁は細かく凹凸しており(不整・粗雑)、なめらかな輪郭ではない。内部エコーは不均一で、点状の高エコー(微細石灰化を疑う所見)が散在している。腫瘤は横長ではなく、縦方向にも厚みがあり、縦横比(D/W比:腫瘤の深さ÷幅)が大きめである。
考え方
乳房超音波では、腫瘤の「形状」「境界・辺縁」「内部エコー」「後方エコー」「縦横比」「石灰化の有無」を順に評価し、良性と悪性を見分ける。 ・良性を示唆する所見:円形〜横長の楕円形、境界明瞭で辺縁平滑、内部エコー均一、縦横比が小さい(横長)。 ・悪性を示唆する所見:不整形、境界不明瞭・辺縁粗雑(ギザギザ・棘状)、内部エコー不均一、微細な点状高エコー(石灰化)、縦横比が大きい(おおむね0.7以上)、後方エコーの減弱・欠損、境界部高エコー像(ハロー)。 本問の腫瘤は、境界不明瞭・辺縁不整・内部不均一・点状高エコー・縦横比大という悪性を示唆する所見を複数そなえており、最も考えられるのは乳癌である。境界明瞭で平滑な輪郭を示す嚢胞・脂肪腫・線維腺腫とは合致しない。
選択肢考察
- ×a. 嚢胞
嚢胞は液体を容れた袋であり、超音波がよく通過するため内部は均一な無エコー(真っ黒)に描出される。形は円形〜楕円形で境界明瞭・辺縁平滑、後方には超音波の減衰が少ないために後方エコーの増強がみられるのが典型である。本問の腫瘤は内部にエコーがあり不均一で、境界も不明瞭であるため嚢胞ではない。
- ○b. 乳癌
乳癌(とくに浸潤性乳管癌)は周囲組織へ浸潤しながら発育するため、境界が不明瞭で辺縁が不整・粗雑となり、内部は不均一な低エコーを示す。癌の増殖は乳腺の層構造を越えて進むので縦横比が大きくなりやすく、微細石灰化が点状高エコーとして描出されることもある。間質の線維化(硬癌など)が強いと後方エコーが減弱・欠損する。本問の腫瘤はこれらの悪性所見を複数示しており、乳癌が最も考えられる。確定には穿刺吸引細胞診や針生検による病理診断が必要である。
- ×c. 脂肪腫
脂肪腫は成熟脂肪組織からなる良性腫瘍で、主に皮下脂肪層に生じる。超音波では横長の楕円形で、周囲の脂肪とほぼ同等かやや高いエコーを示し、境界は明瞭、被膜により輪郭はなめらかである。内部に周囲脂肪と平行な線状エコーをみることが多く、軟らかく圧迫で変形する。境界不明瞭で不整な低エコー腫瘤である本問の所見とは合わない。
- ×d. 線維腺腫
線維腺腫は10〜30歳代の若年女性に多い良性腫瘍で、乳腺上皮と間質がともに増殖したものである。超音波では円形〜横長の楕円形(縦横比が小さい)で、境界明瞭・辺縁平滑、内部エコーは均一な低エコーを示す。後方エコーは不変〜軽度増強のことが多い。長期経過例では粗大な石灰化(いわゆるポップコーン様)を伴うことがあるが、癌にみられる微細な点状石灰化とは性状が異なる。本問の腫瘤は境界不明瞭・辺縁不整・内部不均一であり、線維腺腫の典型像とは合致しない。
- ×e. 悪性リンパ腫
乳房原発の悪性リンパ腫はまれ(乳房悪性腫瘍の1%未満)である。超音波では著明な低エコーを示す腫瘤として描出され、境界は比較的明瞭なことも不明瞭なこともあり、良性・悪性いずれとも紛らわしい像を呈しうる。一方で、内部の石灰化はまれである。頻度と、点状高エコーを伴う不整な腫瘤という本問の所見からは、乳癌の方がはるかに考えやすい。
乳房超音波検査での腫瘤の評価項目
1. 形状:円形・楕円形・分葉形(良性寄り)/多角形・不整形(悪性寄り) 2. 境界・辺縁:明瞭平滑(良性寄り)/不明瞭、粗ぞう、棘状・鋸歯状(悪性寄り) 3. 内部エコー:均一(良性寄り)/不均一(悪性寄り)。嚢胞は無エコー。 4. 後方エコー:増強(嚢胞など)/不変/減弱・欠損(硬癌など線維成分の多い癌) 5. 縦横比(D/W比):小さい=横長(良性寄り)/大きい(悪性寄り)。浸潤癌は乳腺の層構造を越えて縦方向に発育するため縦横比が大きくなる。 6. 石灰化:微細な点状高エコーは悪性を疑う。 7. その他:境界部高エコー像(ハロー:癌の周囲への浸潤・間質反応を反映)、前方境界線の断裂(腫瘤が乳腺の前方境界線を越えて脂肪組織へ浸潤している所見)も悪性を示唆する。
主な乳腺腫瘤の超音波像の比較
・嚢胞:円形〜楕円形、境界明瞭平滑、内部無エコー、後方エコー増強 ・線維腺腫:楕円形(横長)、境界明瞭平滑、内部均一な低エコー、若年者に多い ・葉状腫瘍:分葉状の大きな腫瘤で急速に増大、内部に裂隙状の無エコー域 ・脂肪腫:横長楕円形、脂肪と同程度のエコー、境界明瞭、軟らかい ・乳癌:不整形、境界不明瞭・辺縁粗雑、内部不均一な低エコー、縦横比大、後方エコー減弱、微細石灰化、ハロー
乳癌診断の流れ
視触診・マンモグラフィ・超音波検査で病変を拾い上げ、疑わしい病変は穿刺吸引細胞診、針生検(CNB)、吸引式組織生検(VAB)で病理学的に確定する。広がり診断にはMRIが用いられる。
POINT
・乳房超音波の悪性所見:不整形、境界不明瞭・辺縁粗雑、内部不均一な低エコー、縦横比大、後方エコー減弱・欠損、微細な点状高エコー(石灰化)、ハロー、前方境界線の断裂 ・良性所見:円形〜横長楕円形、境界明瞭・辺縁平滑、内部均一、縦横比小 ・嚢胞は内部無エコー+後方エコー増強が特徴 ・線維腺腫は若年女性の境界明瞭・平滑な横長楕円形腫瘤
