StudyMed医師国家試験

吸い込んだものが病気を決める―原因物質から読み解く肺・胸膜疾患

第105回医師国家試験 D問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第105回 D問題 第8問

病因と疾患の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.石綿 ―― 胸膜中皮腫
  2. b.たばこ煙 ―― COPD
  3. c.パラコート ―― 間質性肺炎
  4. d.遊離ケイ酸 ―― じん肺症
  5. e.ホルムアルデヒド ―― 気管支拡張症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺や胸膜の病気を起こす原因物質と疾患の対応を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、ひとつひとつの組合せを「なぜその部位に、その病気が起こるのか」という病態から確かめていこう。
医学生医学生
肺って外の空気とずっと接している臓器なので、吸い込んだものの影響をもろに受けるんですよね。
ドクタードクター
その通り。しかも物質の形や性質によって、傷つく部位がかなり違う。細長い線維なのか、結晶の粒子なのか、水に溶けやすいガスなのか、血液から運ばれる毒物なのか。そこを意識すると整理しやすいよ。まずは石綿と胸膜中皮腫から。
医学生医学生
石綿は公衆衛生の講義でも出てきました。建材に使われていて、潜伏期間がすごく長いんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。石綿は線維状の鉱物で、吸い込んだ細く長い線維が肺の末梢から胸膜へ移行して長く残り、慢性炎症を起こす。胸膜中皮腫の大部分は石綿曝露が原因と考えられていて、発症まで30〜40年程度かかることもある。ほかにも胸膜プラーク、石綿肺、肺癌の原因になるから、この組合せは正しい。
医学生医学生
たばこ煙とCOPDは迷う余地がなさそうです。呼吸器内科の実習で、患者さんがほぼ全員喫煙歴ありでした。
ドクタードクター
そうだね。COPDはたばこ煙を主とする有害物質の長期吸入で起こる慢性炎症性疾患で、気管支拡張薬吸入後でも1秒率が70%未満にとどまる気流閉塞が特徴だ。末梢気道病変と肺胞壁の破壊が組み合わさっている。禁煙が最も重要な治療であり予防なんだ。
医学生医学生
パラコートは除草剤ですよね。吸い込むというより飲んでしまう中毒のイメージですが、肺にくるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。パラコートは経口摂取でも、ポリアミンの取り込み機構を介して肺胞上皮に能動的に集まってしまう。そこで酸化還元を繰り返して活性酸素を大量に作り、肺胞上皮を傷害する。急性期の肺水腫・間質性肺炎から、進行性の肺線維症に至って呼吸不全で亡くなることが多い。だからこの組合せも正しい。
医学生医学生
活性酸素が原因なら、低酸素でも酸素をどんどん投与するのはまずいということですか。
ドクタードクター
まさにそこが臨床上の注意点。高濃度酸素は活性酸素の生成を促して肺傷害を悪化させるので、高度の低酸素血症になるまでは酸素投与を控えるのが原則とされている。有効な解毒薬はなく、致死率は非常に高い。次は遊離ケイ酸とじん肺症だ。
医学生医学生
珪肺ですね。病理学の講義で、マクロファージがシリカを食べて線維化結節ができると習いました。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。取り込まれたシリカ粒子がマクロファージを傷害し、放出されたサイトカインで線維芽細胞が活性化されて珪肺結節ができる。トンネル工事や採石などの従事者に多く、上肺野優位の粒状影、肺門リンパ節の卵殻状石灰化が特徴だ。じん肺の代表なので、これも正しい組合せだね。
医学生医学生
となると、残るホルムアルデヒドと気管支拡張症が誤りですね。でも刺激性のガスなら、気管支を傷めて拡張させそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのも無理はない。ただ、ホルムアルデヒドは水に溶けやすいガスなので、主に眼や鼻、のどといった上気道の粘膜で吸収されて刺激症状を起こすんだ。建材の接着剤から放散され、シックハウス症候群の代表的な原因物質として知られる。喘息の誘発・増悪因子にはなるけれど、気管支拡張症の原因物質とはされていない。
医学生医学生
水溶性が高いガスほど上のほうで捕まる、という考え方ですね。では気管支拡張症は何が原因になるんでしたっけ。
ドクタードクター
気管支壁が壊れて不可逆的に拡張する病気で、背景には小児期の重症肺炎や百日咳・麻疹後の感染、非結核性抗酸菌症、原発性線毛機能不全症、嚢胞性線維症、ABPAなどがある。つまり「感染や防御機構の破綻を繰り返して壁が壊れる」というのが基本の流れだ。
医学生医学生
Kartagener症候群は内臓逆位、副鼻腔炎、気管支拡張症の三徴でしたね。CBTの問題で見た気がします。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での視点をまとめておこう。原因物質による肺疾患は、職業歴・生活歴を聞かないと見逃してしまう。石綿は数十年前の曝露が問題になるし、シックハウス症候群は「その建物を離れると症状が軽くなる」という問診がヒントになる。原因物質と疾患をセットで覚えることは、そのまま問診の質を上げることにつながるんだ。
医学生医学生
病歴聴取で職業歴を丁寧に聞く意味が、やっと腑に落ちた気がします。

まとめ

肺・胸膜疾患の原因物質は、その形状や性質によって傷害部位と病態が特徴的に決まります。線維状の石綿は胸膜へ移行して胸膜中皮腫や胸膜プラーク、肺癌を起こし、たばこ煙はCOPDの最大の原因、パラコートは肺胞上皮に集積して活性酸素により進行性の肺線維症を起こし、遊離ケイ酸は珪肺結節を形成してじん肺の代表となります。一方、水溶性の刺激性ガスであるホルムアルデヒドは主に眼や上気道の粘膜を刺激し、シックハウス症候群の原因物質として知られますが、気管支拡張症の原因ではありません。気管支拡張症は小児期の重症感染、非結核性抗酸菌症、原発性線毛機能不全症、ABPAなどを背景に生じます。原因物質と疾患の対応を病態ごとに整理しておくことは、職業歴・生活歴を踏まえた問診や診断の力に直結します。

解答・解説

正解はeです

本問は、吸入や摂取によって肺・胸膜の疾患を起こす代表的な原因物質と、それによる疾患の対応を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。 肺は外界の空気と常に接する臓器であり、吸い込んだ粉じん・煙・化学物質の影響を直接受ける。原因物質ごとに、傷害を受ける部位と病態が特徴的である。 ・線維状の鉱物(石綿):胸膜に到達し、胸膜プラーク、胸膜中皮腫、肺癌、石綿肺などを起こす。 ・たばこ煙などの有害粒子・ガス:気道と肺胞に慢性炎症を起こし、慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の最大の原因となる。 ・毒物(パラコート):肺に選択的に取り込まれ、活性酸素による肺胞上皮傷害から肺線維症に至る。 ・結晶性の粉じん(遊離ケイ酸):マクロファージに取り込まれて線維化結節を形成し、じん肺(珪肺)を起こす。 一方、ホルムアルデヒドは水に溶けやすい刺激性のガスで、主に眼・鼻・のど(上気道)の粘膜を刺激する。住宅建材の接着剤などから放散され、シックハウス症候群の代表的な原因物質として知られる。気管支壁が破壊されて不可逆的に拡張する気管支拡張症の原因として位置づけられる物質ではない。よってeの組合せが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  石綿 ―― 胸膜中皮腫

    組合せは正しい。石綿(アスベスト)は天然の線維状ケイ酸塩鉱物で、かつて建材・断熱材・ブレーキなどに広く使用された。吸入された細く長い線維は肺の末梢から胸膜へ移行して長期間残存し、慢性炎症を引き起こす。胸膜中皮腫の大部分は石綿曝露が原因と考えられており、曝露から発症まで30〜40年程度と非常に長い潜伏期間がある。そのほか、胸膜プラーク(壁側胸膜の限局性肥厚・石灰化で、曝露の指標となる)、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、石綿肺(下葉優位の肺線維症)、肺癌(喫煙と相乗的にリスクが増加する)の原因にもなる。

  2. ×b.  たばこ煙 ―― COPD

    組合せは正しい。COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入することで生じる肺の慢性炎症性疾患で、完全には元に戻らない気流閉塞(気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率〈FEV1/FVC〉70%未満)を特徴とする。末梢気道病変と肺胞壁の破壊(気腫性病変)がさまざまな割合で組み合わさる。患者の多くに喫煙歴があり、禁煙が最も重要かつ有効な治療・予防手段である。

  3. ×c.  パラコート ―― 間質性肺炎

    組合せは正しい。パラコートは除草剤で、誤飲や自殺目的の服用による中毒が問題となる。体内に吸収されると、ポリアミンの取り込み機構を介して肺胞上皮細胞に能動的に集積し、酸化還元反応を繰り返してスーパーオキシドなどの活性酸素を大量に発生させる。これにより肺胞上皮が傷害され、急性期の肺水腫・間質性肺炎から、数日〜数週で進行性の肺線維症に至り、呼吸不全で死亡することが多い。高濃度酸素は活性酸素の生成を促進して肺傷害を悪化させるため、酸素投与は低酸素血症が高度になるまで控えるのが原則である。有効な解毒薬はなく、致死率は極めて高い。

  4. ×d.  遊離ケイ酸 ―― じん肺症

    組合せは正しい。遊離ケイ酸(結晶質シリカ、二酸化ケイ素)の粉じんを長期に吸入すると、肺胞マクロファージに取り込まれたシリカ粒子がマクロファージを傷害し、放出されたサイトカインにより線維芽細胞が活性化されて、珪肺結節と呼ばれる線維性結節が形成される。これが珪肺であり、じん肺症の代表である。トンネル工事、採石、鋳物、窯業などの従事者に多い。胸部X線では上肺野優位の粒状影がみられ、進行すると結節が癒合して大陰影を形成する。肺門リンパ節の卵殻状石灰化が特徴的で、肺結核や肺癌の合併が多い。

  5. ○e.  ホルムアルデヒド ―― 気管支拡張症

    この組合せが誤りである。ホルムアルデヒドは刺激臭のある無色の気体で、その水溶液がホルマリンである。合板やパーティクルボードなどの建材に用いられる接着剤から室内に放散され、シックハウス症候群の主要な原因物質となる。水溶性が高いため主に上気道や眼の粘膜に作用し、眼の刺激感・流涙、鼻炎、咽頭痛、咳、接触による皮膚炎などを起こす。気管支喘息の誘発・増悪因子にもなり、発癌性(鼻咽頭癌)も指摘されている。しかし、気管支拡張症の原因物質とはされていない。気管支拡張症は、小児期の重症下気道感染(百日咳、麻疹後肺炎など)、非結核性抗酸菌症、原発性線毛機能不全症(Kartagener症候群など)、嚢胞性線維症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症〈ABPA〉などを背景に生じる。

シックハウス症候群

新築・改築した住宅などで、建材や家具から放散されるホルムアルデヒドやトルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物〈VOC〉によって、眼・鼻・のどの刺激症状、頭痛、倦怠感、めまいなどの多彩な症状が生じる状態をいう。その建物を離れると症状が軽快するのが特徴である。わが国では室内濃度の指針値が定められており、ホルムアルデヒドは0.08 ppm(100 μg/m³)である。建築基準法でもホルムアルデヒド放散建材の使用制限と、機械換気設備の設置義務が定められている。

吸入性・中毒性の主な肺・胸膜疾患

・石綿:胸膜プラーク、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、胸膜中皮腫、石綿肺、肺癌 ・遊離ケイ酸:珪肺(上肺野優位の粒状影、肺門リンパ節の卵殻状石灰化、結核・肺癌の合併) ・炭粉:炭坑夫肺 ・ベリリウム:慢性ベリリウム肺(サルコイドーシスに類似した肉芽腫性疾患) ・超硬合金(コバルトなど):巨細胞性間質性肺炎 ・パラコート:急性肺傷害から進行性の肺線維症 ・薬剤(ブレオマイシン、アミオダロンなど):薬剤性間質性肺炎 ・有機粉じん(真菌・鳥の蛋白など):過敏性肺炎 ・たばこ煙:COPD、肺癌

気管支拡張症の主な背景

・感染後:小児期の重症肺炎、百日咳、麻疹、結核、非結核性抗酸菌症 ・先天性・遺伝性:原発性線毛機能不全症(Kartagener症候群:内臓逆位、副鼻腔炎、気管支拡張症)、嚢胞性線維症 ・免疫異常:低ガンマグロブリン血症など ・アレルギー:ABPA(中枢性気管支拡張が特徴) ・その他:関節リウマチ、びまん性汎細気管支炎の進行例など

POINT

・石綿→胸膜中皮腫、胸膜プラーク、肺癌、石綿肺(潜伏期間が長い) ・たばこ煙→COPD(禁煙が最重要) ・パラコート→進行性の肺線維症(高濃度酸素投与は増悪因子) ・遊離ケイ酸→珪肺(じん肺の代表、肺門リンパ節の卵殻状石灰化) ・ホルムアルデヒド→シックハウス症候群(眼・上気道粘膜の刺激症状)であり、気管支拡張症の原因ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。