StudyMed医師国家試験

粉じんが招く「6つの合併症」―じん肺法が定める業務上疾病を整理する

第106回医師国家試験 I問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第33問

法令でじん肺の合併症として認められている業務上疾病はどれか。2つ選べ。

  1. a.肺気腫
  2. b.過敏性肺炎
  3. c.気管支喘息
  4. d.原発性肺癌
  5. e.結核性胸膜炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、じん肺の合併症として法令で定められている疾患を選ぶ問題だ。臨床の知識に加えて、労働衛生の制度も問われている。ポイントは「じん肺そのものの病変」と「じん肺に続発する合併症」を分けて考えることだよ。まず、じん肺とはどんな病気か説明できるかな。
医学生医学生
鉱物性の粉じんを長年吸い込んで、肺が線維化する病気ですよね。公衆衛生の講義で、珪肺や石綿肺が代表例だと習いました。
ドクタードクター
その通り。採石やトンネル工事、鋳物作業で遊離ケイ酸を吸う珪肺、アスベストによる石綿肺、ほかに溶接工肺や炭坑夫肺などがある。じん肺の患者さんは肺の構造が壊れ、気道の防御機能も落ちるので、特定の病気を合併しやすい。そこでじん肺法とその施行規則は、医学的に関連の深い6つの疾患を「合併症」として定めているんだ。
医学生医学生
6つもあるんですね。感覚的には、肺が壊れるなら肺気腫も入りそうな気がします。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。じん肺では粉じんの沈着部位の周りに気腫性の変化がよくみられるけれど、これはじん肺そのものの病変の一部として扱われる。呼吸機能の低下はじん肺管理区分の判定の中で評価され、著しい肺機能障害があれば管理4になる。だから法令上の合併症には入っていないんだ。
医学生医学生
なるほど、病変の一部であって「合併症」ではないと。では6つは何ですか。
ドクタードクター
肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、そして原発性肺癌だ。「結核の2つ」「続発性の3つ」「原発性肺癌」の3グループで覚えると整理しやすい。
医学生医学生
それなら今回の選択肢では、原発性肺癌と結核性胸膜炎が当てはまりますね。でも、なぜ結核がそんなに重視されるんでしょう。
ドクタードクター
特に珪肺では結核の合併が多いことが古くから知られている。シリカ粒子を取り込んだマクロファージが障害され、結核菌に対する細胞性免疫が落ちることが一因と考えられているんだ。だから肺結核だけでなく、結核性胸膜炎も合併症に含まれている。
医学生医学生
原発性肺癌のほうは、石綿肺だけが対象なのかと思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。じん肺患者では肺癌リスクが高いことが疫学的に示され、2003年の施行規則改正で原発性肺癌が追加された。対象は石綿肺に限らず、じん肺全般に合併したものだ。結晶質シリカも石綿も、国際がん研究機関でヒトに対する発がん性が確実なグループ1に分類されているよ。
医学生医学生
過敏性肺炎や気管支喘息も、職業で起こることがあるので迷いました。
ドクタードクター
迷う気持ちはわかる。でも過敏性肺炎はカビや鳥の羽毛、好熱性放線菌などの有機物抗原によるⅢ型・Ⅳ型アレルギーで、鉱物性粉じんによる線維化とは機序がまったく違う。職業性喘息も特定の化学物質や動植物由来の抗原で起こるもので、どちらもじん肺とは別枠の業務上疾病として扱われうる。じん肺の合併症として定められている気道疾患は、続発性気管支炎と続発性気管支拡張症のほうなんだ。
医学生医学生
合併症があると、制度上はどう扱われるんですか。
ドクタードクター
じん肺管理区分は胸部X線所見と肺機能で管理1から4に分けられる。管理2または3の人にこれらの合併症が生じると療養が必要とされ、業務上疾病として労災保険の補償対象になる。管理4はそれだけで療養の対象だ。
医学生医学生
X線の型は、粒状影の密度で第1型から第3型、大陰影があると第4型でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。画像の特徴も押さえておこう。珪肺は上肺野優位の粒状影と、肺門リンパ節の卵殻状石灰化が有名だ。石綿肺は下肺野優位の不整形陰影で、石綿曝露では胸膜プラークや悪性中皮腫も問題になる。石綿による肺癌や中皮腫は、じん肺の合併症とは別に、石綿関連疾患として労災認定や石綿健康被害救済制度の対象にもなるんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、トンネル工事歴のある患者さんの職歴を細かく聞くよう指導されたのを思い出しました。
ドクタードクター
それは本当に大事なことだよ。職歴を聞かなければ、じん肺も、その合併症も、補償の可能性も見逃してしまう。じん肺の患者さんが咳や痰の増加、胸水、急な呼吸困難を訴えたら、結核、続発性の感染や気胸、肺癌を意識して精査しよう。

まとめ

じん肺は、鉱物性の粉じんを長期間吸入して肺に線維化が生じる疾患の総称で、珪肺や石綿肺などが代表的です。じん肺法とその施行規則は、合併症として肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺癌の6疾患を定めており、原発性肺癌は2003年に追加され、じん肺全般が対象です。肺気腫はじん肺そのものの病変として扱われ、過敏性肺炎や気管支喘息は機序が異なるため合併症には含まれません。管理区分2・3の人にこれらの合併症が生じると療養の対象となり、労災補償が行われます(管理4はそれだけで療養の対象)。職歴の聴取から合併症の早期発見、補償制度の利用までを結びつけて理解することが、粉じん作業者を守る臨床につながります。

解答・解説

正解はd, eです

じん肺(塵肺)とは、粉じん(鉱物性の細かい粉末)を長期間吸入することで、肺に線維化(肺が硬くなる変化)を主体とする病変が生じる疾患の総称である。代表的なものに珪肺(シリカ〈遊離ケイ酸〉による)、石綿肺(アスベストによる)、溶接工肺、炭坑夫肺などがある。 じん肺患者は、肺の構造破壊や気道の防御機能低下によって、特定の疾患を合併しやすい。そこで「じん肺法」とその施行規則は、じん肺と医学的な関連が深い次の6疾患を「合併症」として定めている。 1. 肺結核 2. 結核性胸膜炎 3. 続発性気管支炎 4. 続発性気管支拡張症 5. 続発性気胸 6. 原発性肺癌(2003年〈平成15年〉に追加) じん肺管理区分(胸部X線所見と肺機能で決まる健康管理上の区分、管理1〜4)が管理2または管理3の者にこれらの合併症が生じた場合、療養が必要とされ、業務上疾病として労働者災害補償保険(労災保険)の補償対象となる(管理4はそれだけで療養の対象である)。 本問は、この6疾患を覚えているかどうかを問う知識問題である。選択肢のうち、原発性肺癌(d)と結核性胸膜炎(e)がこれに該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  肺気腫

    じん肺では、粉じんの沈着部位の周囲に気腫性変化(肺胞壁の破壊による気腔の拡大)がしばしばみられ、呼吸機能障害の原因となる。しかし、これはじん肺そのものの病変の一部として扱われ、法令上の「合併症」には含まれていない。肺機能障害の程度は、合併症ではなくじん肺管理区分の判定(著しい肺機能障害があれば管理4)の中で評価される。

  2. ×b.  過敏性肺炎

    過敏性肺炎は、カビ(トリコスポロンなど)、鳥の羽毛や排泄物、農作業での好熱性放線菌など、有機物の抗原を繰り返し吸入することで起こるⅢ型・Ⅳ型アレルギー性の肺疾患である。鉱物性粉じんの沈着による線維化を本態とするじん肺とは発症機序が異なり、じん肺の合併症には含まれない。なお、農夫肺など職業に起因する過敏性肺炎は、じん肺とは別枠の業務上疾病として扱われうる。

  3. ×c.  気管支喘息

    気管支喘息は、気道の慢性炎症と可逆性の気流制限を特徴とする疾患である。特定の化学物質や動物・植物由来の抗原などによる職業性喘息は存在するが、それはじん肺とは別の業務上疾病として扱われる。じん肺法に定める合併症には含まれない。じん肺の合併症として定められている気道疾患は、続発性気管支炎と続発性気管支拡張症である。

  4. ○d.  原発性肺癌

    じん肺患者では肺癌の発生リスクが高いことが疫学的に示されており、2003年(平成15年)のじん肺法施行規則の改正で、原発性肺癌が合併症に追加された。原因物質のうち、結晶質シリカや石綿(アスベスト)は国際がん研究機関(IARC)によってヒトに対する発がん性が確実な物質(グループ1)に分類されている。法令上の合併症としての原発性肺癌は、石綿肺に限らず、じん肺全般に合併したものが対象である。

  5. ○e.  結核性胸膜炎

    じん肺、とくに珪肺では結核の合併が多いことが古くから知られている。シリカ粒子を取り込んだマクロファージが障害され、結核菌に対する細胞性免疫が低下することが一因と考えられている。このため、肺結核とともに結核性胸膜炎も、じん肺法で定める合併症に含まれている。

じん肺法による健康管理

・対象: 粉じん作業に従事する(していた)労働者。 ・じん肺健康診断: 粉じん作業歴の調査、胸部X線写真、胸部臨床検査、肺機能検査、結核精密検査などからなる。 ・胸部X線写真の像: 粒状影・不整形陰影の密度により第1型〜第3型、大陰影(径1cmを超える陰影)があるものを第4型に分類する。 ・じん肺管理区分: 管理1(じん肺所見なし)、管理2〜3(じん肺所見あり、X線像の型と肺機能の程度で区分)、管理4(大陰影がある、または著しい肺機能障害がある)。管理4は療養を要する。

法令で定めるじん肺の合併症(6疾患)

肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺癌。 管理2または管理3の者にこれらが合併した場合、療養の対象となり、労災補償が行われる。

主なじん肺と特徴

・珪肺: 採石、トンネル工事、鋳物、陶磁器製造などで遊離ケイ酸を吸入して起こる。上肺野優位の粒状影、肺門リンパ節の卵殻状石灰化(eggshell calcification)が特徴。結核合併が多い。 ・石綿肺: 下肺野優位の不整形陰影(線維化)を示す。石綿曝露では、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、悪性中皮腫、肺癌も生じる。石綿による肺癌・中皮腫は、じん肺の合併症とは別に、石綿関連疾患として労災認定や石綿健康被害救済制度の対象となる。

覚え方の工夫

合併症は「結核(肺・胸膜)」「続発性の3つ(気管支炎・気管支拡張症・気胸)」「原発性肺癌」の3グループで整理するとよい。

POINT

・じん肺法で定める合併症は、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺癌の6つである。 ・原発性肺癌は2003年に追加された。 ・肺気腫、過敏性肺炎、気管支喘息は含まれない。 ・じん肺管理区分2・3で合併症があれば療養の対象(業務上疾病)となり、管理4はそれだけで療養の対象である。 ・珪肺は結核の合併が多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。