StudyMed医師国家試験

その痛み止めが発作を呼ぶ―アスピリン喘息は「アレルギー」ではない

第106回医師国家試験 I問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第34問

アスピリン喘息の特徴はどれか。2つ選べ。

  1. a.女性に多い。
  2. b.季節性がある。
  3. c.IgEを介する。
  4. d.鼻茸を合併しやすい。
  5. e.インドメタシンは発作の原因とならない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はアスピリン喘息の特徴を選ぶ問題だ。カギは、発作がアレルギーではなく、薬の「薬理作用」によって起こるという点。ここを押さえると、患者像も合併症も、避けるべき薬も一気に整理できるよ。
医学生医学生
名前にアスピリンとついていますが、アスピリンを飲んだときだけ起こるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。実はアスピリンに限らず、シクロオキシゲナーゼ、つまりCOXを阻害するNSAIDs全般で発作が起こる。だから最近は「NSAIDs過敏喘息」、国際的には「アスピリン増悪呼吸器疾患(AERD)」と呼ばれることが多い。成人喘息の約5〜10%を占めるんだ。
医学生医学生
薬で起こるなら、薬剤アレルギーの一種で、IgEが関わっているのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴。NSAIDsがCOX、特にCOX-1を阻害すると、気管支収縮にブレーキをかけているプロスタグランジンE2の産生が減る。この患者さんたちはもともとシステイニルロイコトリエンが多く作られていて、ブレーキが外れることでさらに増え、強い気管支収縮が起こる。アラキドン酸が5-リポキシゲナーゼ経路へ多く流れることも関与すると考えられているよ。
医学生医学生
薬理学の講義で習ったアラキドン酸カスケードの図がここで出てくるんですね。IgEは関係ないということですか。
ドクタードクター
その通り。Ⅰ型アレルギーではないから、皮膚テストや特異的IgE抗体の測定では診断できない。そして構造の違うNSAIDsでも、COX-1阻害作用があれば交差して発作を起こすのが特徴だ。
医学生医学生
ということは、インドメタシンも当然、発作の原因になりますね。
ドクタードクター
そう。インドメタシンはCOX-1阻害作用の強い、代表的な誘発薬だ。内服薬だけでなく坐薬や湿布、塗り薬でも起こりうるし、特に坐薬や注射薬は吸収が速くて重い発作になりやすい。だから「インドメタシンは原因とならない」は誤りだ。
医学生医学生
患者さんの特徴はどうですか。小児喘息のようにアトピー体質の子どもに多いイメージは違いますよね。
ドクタードクター
正反対と考えていい。小児にはまれで、20〜40歳代の成人発症が多く、男女比はおよそ1対2で女性に多い。重症化・難治化しやすいのも特徴だ。
医学生医学生
季節で症状が変わったりはしないんですか。
ドクタードクター
季節性があるのは、花粉などの吸入アレルゲンによるアトピー型喘息や、気温・気圧の影響を受けるタイプだ。アスピリン喘息の発作はNSAIDsの使用がきっかけなので、季節とは関係なく起こる。
医学生医学生
そういえば耳鼻咽喉科の実習で、鼻茸の手術を受ける患者さんに喘息の既往がないか確認していました。
ドクタードクター
まさにそれがもう一つの正解につながる。アスピリン喘息では好酸球性副鼻腔炎と鼻茸を非常に高率に合併し、嗅覚障害を伴うことも多い。嗅覚低下が喘息の発症に先行することもあるんだ。喘息・鼻茸・NSAIDs過敏の3つがそろうものは「Samterの三徴」として知られている。
医学生医学生
つまり、成人発症で女性に多く、鼻茸を合併しやすい、が正しい特徴ということですね。
ドクタードクター
その通り。では臨床での注意点だ。NSAIDsを使うと、通常1時間以内、多くは数十分以内に強い鼻閉や鼻汁が出て、続いて喘息発作が起こる。顔面紅潮や腹痛・下痢、じんま疹を伴うこともある。鎮痛が必要なら、アセトアミノフェンを1回300mg以下などの少量にとどめるか、選択的COX-2阻害薬を慎重に使うのが比較的安全とされている。
医学生医学生
発作時のステロイドなら何でも安全かと思っていました。
ドクタードクター
そこも要注意。ヒドロコルチゾンやメチルプレドニゾロンなどのコハク酸エステル型を急速静注すると、発作を悪化させることがある。発作時はデキサメタゾンやベタメタゾンなどのリン酸エステル型を点滴でゆっくり投与するのが原則だ。長期管理は吸入ステロイドが中心で、病態に合ったロイコトリエン受容体拮抗薬も有効。重症例では抗IL-5抗体などの生物学的製剤、鼻茸には内視鏡下鼻副鼻腔手術やデュピルマブも使われる。
医学生医学生
喘息の患者さんに解熱鎮痛薬を出すときは、鼻茸や嗅覚障害の有無、過去にNSAIDsで具合が悪くなったことがないかを必ず聞くようにします。
ドクタードクター
それが一番の予防策だね。湿布一枚でも致死的な発作につながりうるという意識を持っておこう。

まとめ

アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、AERD)は、COX-1阻害作用をもつNSAIDs全般によって誘発される喘息で、PGE2の低下とシステイニルロイコトリエンの過剰産生という薬理学的機序で起こり、IgEを介するアレルギーではありません。20〜40歳代の成人発症で女性に多く、好酸球性副鼻腔炎・鼻茸・嗅覚障害を高率に合併し、季節性はみられません。インドメタシンを含むNSAIDsは内服・坐薬・外用薬のいずれでも発作を誘発しうるため、鎮痛には少量のアセトアミノフェンや選択的COX-2阻害薬を慎重に用い、発作時のステロイドはコハク酸エステル型の急速静注を避けます。喘息患者への処方前に鼻症状やNSAIDsでの既往を確認する習慣が、重篤な発作の予防に直結します。

解答・解説

正解はa, dです

アスピリン喘息は、アスピリンだけでなく、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)全般によって喘息発作が誘発される病態である。アスピリンに限らないことから、現在は「NSAIDs過敏喘息」、国際的には「アスピリン増悪呼吸器疾患(aspirin-exacerbated respiratory disease: AERD)」と呼ばれることが多い。成人喘息の約5〜10%を占める。 本症の要点は、発作がアレルギー(IgEを介する免疫反応)ではなく、薬理作用によって起こる「過敏症(不耐症)」であるという点である。 ・NSAIDsがCOX(とくにCOX-1)を阻害すると、気道を保護し気管支収縮を抑える方向に働くプロスタグランジンE2(PGE2)の産生が低下する。 ・本症の患者ではもともとシステイニルロイコトリエン(強力な気管支収縮物質で、かつてSRS-Aと呼ばれた)の産生が亢進しており、PGE2によるブレーキが外れることで、ロイコトリエンの産生がさらに増え、強い気管支収縮が起こる。 ・アラキドン酸がCOX経路で使われなくなり、5-リポキシゲナーゼ経路へ多く流れることも、ロイコトリエン増加に関与すると考えられている。 臨床的には、成人発症(多くは20〜40歳代)で女性に多く、好酸球性副鼻腔炎と鼻茸(鼻ポリープ)を高率に合併するのが典型像である。嗅覚障害を伴うことも多い。これらの特徴から、a(女性に多い)とd(鼻茸を合併しやすい)が正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  女性に多い。

    アスピリン喘息は、小児期にはまれで、成人になってから(20〜40歳代が多い)発症することが多い。男女比はおよそ1:2で女性に多い。成人発症・女性・重症化しやすいという特徴は、アトピー型の小児喘息とは対照的である。したがって正しい。

  2. ×b.  季節性がある。

    季節によって症状が変動するのは、花粉などの吸入アレルゲンによるアトピー型喘息や、気温・気圧の変化の影響を受ける喘息の特徴である。アスピリン喘息の発作は、NSAIDsの使用という薬剤曝露をきっかけに起こるため、季節とは関係なく生じる。背景にある慢性の喘息症状や鼻症状も、特定の季節に限定されるものではない。

  3. ×c.  IgEを介する。

    アスピリン喘息の発作は、NSAIDsがCOXを阻害するという薬理作用によるアラキドン酸代謝の異常(PGE2低下とシステイニルロイコトリエン過剰)によって起こる。特定の薬剤に対するIgE抗体が関与するⅠ型アレルギーではない。そのため、構造の異なるNSAIDsであっても、COX-1阻害作用があれば交差して発作を起こすのが特徴である。また、アレルギー反応ではないので、皮膚テストや特異的IgE抗体の測定では診断できない。

  4. ○d.  鼻茸を合併しやすい。

    アスピリン喘息の患者では、好酸球性副鼻腔炎(好酸球の浸潤が強く、再発しやすい慢性副鼻腔炎)と鼻茸(鼻ポリープ)の合併が非常に多い。鼻閉、鼻汁、嗅覚低下を訴えることが多く、嗅覚障害は喘息の発症に先行することもある。喘息・鼻茸・NSAIDs過敏の3つがそろうことは「サムター(Samter)の三徴」として知られる。したがって正しい。

  5. ×e.  インドメタシンは発作の原因とならない。

    インドメタシンはCOX-1阻害作用の強いNSAIDsであり、アスピリン喘息の発作を誘発する代表的な薬剤である。内服薬だけでなく、坐薬や湿布・塗り薬などの外用薬でも発作が起こりうる。とくに坐薬や注射薬は吸収が速く、重い発作を起こしやすいので注意が必要である。

アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、AERD)の特徴

・頻度: 成人喘息の約5〜10%。小児ではまれ。 ・発症: 20〜40歳代の成人発症が多く、男女比は約1:2で女性に多い。 ・合併症: 好酸球性副鼻腔炎、鼻茸、嗅覚障害。好酸球性中耳炎や好酸球性胃腸炎を伴うこともある。 ・経過: 重症・難治性の喘息になりやすく、NSAIDs使用後に致死的な大発作を起こすことがある。 ・発作の特徴: NSAIDs使用後、通常1時間以内(多くは数十分以内)に、強い鼻閉・鼻汁に続いて喘息発作が起こる。顔面紅潮や結膜充血、腹痛・下痢などの消化器症状、じんま疹を伴うことがある。

発作を起こしうる物質

・COX-1阻害作用の強いNSAIDs: アスピリン、インドメタシン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、イブプロフェンなど。内服薬、坐薬、注射薬、湿布・塗り薬のいずれも原因となりうる。 ・その他、一部の患者で問題となるもの: 着色料(タートラジンなど)、防腐剤(パラベンなど)、コハク酸エステル型の副腎皮質ステロイド注射薬(ヒドロコルチゾンコハク酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルなど)の急速静注。発作時のステロイド静注は、リン酸エステル型(デキサメタゾン、ベタメタゾン)を点滴で緩徐に投与するのが原則である。

比較的安全に使える鎮痛薬

・アセトアミノフェン(COX-1阻害作用が弱い。ただし高用量では発作を起こすことがあるため、1回300mg以下など少量にとどめる)。 ・選択的COX-2阻害薬(セレコキシブなど)は比較的安全とされるが、慎重に使用する。

治療

・通常の喘息と同様に、吸入ステロイド薬を中心とした長期管理を行う。 ・ロイコトリエン受容体拮抗薬は病態に合致しており有効である。 ・重症例では抗IL-5抗体などの生物学的製剤が用いられる。 ・鼻茸・副鼻腔炎に対しては内視鏡下鼻副鼻腔手術や抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)などが用いられる。 ・診断のために、専門施設で慎重にアスピリン負荷試験(誘発試験)を行うことがある。

POINT

・アスピリン喘息はNSAIDs全般で誘発される(インドメタシンも含む)。 ・機序はCOX-1阻害によるPGE2低下とシステイニルロイコトリエン過剰で、IgEを介するアレルギーではない。 ・成人発症、女性に多い。 ・好酸球性副鼻腔炎・鼻茸・嗅覚障害を高率に合併する。 ・季節性はない。 ・鎮痛にはアセトアミノフェン少量や選択的COX-2阻害薬が比較的安全。コハク酸エステル型ステロイドの急速静注は避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。