「歩ける」だけで決まる色―災害現場のSTART法とトリアージタッグ
第105回医師国家試験 C問題 第25問
国試問題にチャレンジ
大規模災害現場で多数の負傷者が発生している。歩行可能な中年男性が上腕の痛みを訴えている。意識は清明。 この人のトリアージタッグで適切な色はどれか。
- a.黒
- b.赤
- c.黄
- d.白
- e.緑
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
大規模災害で多数の傷病者が発生した現場では、最大多数の人を救うために優先順位をつけるトリアージを行い、一次トリアージには短時間で判定できるSTART法が用いられます。START法の最初の分岐は「歩行可能か」であり、自力で歩ける人はそれだけで緑(区分III、保留群)と判定されるため、上腕痛のみで歩行可能・意識清明な本例は緑となります。歩けない人は呼吸・循環・意識を評価し、呼吸数の異常、橈骨動脈触知不能やCRT延長、指示に従えない場合は赤(区分I)、いずれもなければ黄(区分II)、気道確保しても呼吸がなければ黒(区分0)とし、日本のタッグに白はありません。トリアージは一度きりではなく、二次トリアージ(PAT法)や経過観察で悪化があれば区分を上げるため、緑の人も繰り返し評価することが大切です。判定の手順と各色の意味を正確に押さえておくことは、災害訓練や実際の災害派遣で迷わず動くための基礎になります。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・大規模災害で多数の負傷者が同時に発生している(医療資源が需要に追いつかない状況) ・負傷者は中年男性で、自力で歩ける ・訴えは上腕の痛みのみ、意識は清明
考え方
多数傷病者が発生した現場では、限られた人員・資材・搬送手段で一人でも多くの命を救うために、治療や搬送の優先順位をつける「トリアージ」を行う。災害現場で最初に行う一次トリアージには、短時間(1人あたり30秒~1分程度)で判定できるSTART法(Simple Triage And Rapid Treatment)が広く用いられる。 START法ではまず「歩けるかどうか」で振り分ける。自力で歩行できる傷病者は、それだけで緑(軽症、保留群)と判定され、呼吸・循環・意識の評価は歩けない傷病者に対して行う。本例は歩行可能であり、意識も清明で、訴えは上腕の痛みにとどまっているので、一次トリアージでは緑と判定するのが適切である。 なお、トリアージは一度で終わりではなく、状態の変化に応じて繰り返し行う。緑と判定された人でも、その後の二次トリアージ(生理学的・解剖学的評価を詳しく行うPAT法など)や経過観察で悪化がみられれば、黄や赤へ区分を上げる。
選択肢考察
- ×a. 黒
黒(区分0)は、すでに死亡している、または現状の医療資源では救命の見込みがないと判断された傷病者に付ける色であり、治療や搬送の優先順位は最も低い。START法では、気道を確保しても自発呼吸がみられない場合に黒と判定する。歩行可能で意識清明な本例には当てはまらない。
- ×b. 赤
赤(区分I)は最優先治療群(緊急治療群)で、直ちに処置をしなければ生命に危険が及ぶ傷病者に付ける。START法では、歩行できない傷病者のうち、呼吸数の異常(おおむね30回/分以上または10回/分未満)、橈骨動脈を触れない・毛細血管再充満時間(CRT)の延長といった循環不全、簡単な指示に従えない意識障害のいずれかがあれば赤とする。本例は歩行でき意識も清明であり、該当しない。
- ×c. 黄
黄(区分II)は待機的治療群(準緊急治療群)で、生命に差し迫った危険はないが、多少の時間(数時間程度)を置いてから治療や搬送が必要な傷病者に付ける。START法では、歩行できないが、呼吸・循環・意識に赤の基準に当たる異常がない場合(赤でも緑でもない場合)に黄となる。本例は歩行可能なので、一次トリアージの段階では黄ではない。
- ×d. 白
日本で用いられるトリアージタッグの色は黒・赤・黄・緑の4色であり、白という区分は存在しない。
- ○e. 緑
緑(区分III)は保留群(軽処置群)で、治療が不要か、軽い処置のみで済み、専門医療機関での治療を急がなくてよい傷病者に付ける。START法では自力歩行できることだけで緑と判定される。本例は歩行可能で意識清明、訴えは上腕の痛みのみであり、緑が適切である。ただし骨折などが隠れている可能性もあるため、再トリアージで状態の変化を確認していく。
トリアージタッグの区分
・黒:区分0(死亡、または救命困難) ・赤:区分I(最優先治療群、緊急治療群) ・黄:区分II(待機的治療群、準緊急治療群) ・緑:区分III(保留群、軽処置群) タッグには色付きの切り取り部分があり、下から緑→黄→赤→黒の順に並ぶ。判定した色の部分を残し、それより下の色の部分を切り取って使う。原則として傷病者の右手首に付け、負傷していて付けられない場合は左手首、右足首、左足首、首の順に付ける。
START法の手順
1. 歩行可能か → 可能なら緑 2. 呼吸はあるか → なければ気道確保。それでも呼吸がなければ黒、呼吸が再開すれば赤 3. 呼吸数 → おおむね30回/分以上または10回/分未満なら赤 4. 循環 → 橈骨動脈を触れない、またはCRTが2秒を超えれば赤 5. 意識 → 簡単な指示に従えなければ赤 6. 上記のいずれにも当たらなければ黄
トリアージの原則
・目的は「最大多数の傷病者に最善の医療を提供する」ことであり、平常時の「個々の患者に最善を尽くす」医療とは考え方が異なる。 ・一次トリアージ(START法)は災害現場で迅速に行い、二次トリアージ(PAT法:生理学的・解剖学的評価)は救護所などでより詳しく行う。 ・状態は刻々と変化するため、トリアージは繰り返し行う。
POINT
・大規模災害の一次トリアージはSTART法 ・自力で歩ける → 緑(区分III) ・気道確保しても呼吸なし → 黒(区分0) ・呼吸数異常、循環不全(橈骨動脈触知不能、CRT>2秒)、指示に従えない → 赤(区分I) ・歩けないが赤の基準に当たらない → 黄(区分II) ・タッグの色は黒・赤・黄・緑の4色で、白はない
