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照射野が答えを教えてくれる―中咽頭癌放射線治療の「すぐ起こる」副作用

第105回医師国家試験 B問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第49問

66歳の男性。咽頭違和感と嚥下痛とを主訴に来院した。扁桃に表面不整の腫瘍を認め,扁平上皮癌(T2N1M0)の診断で,上咽頭から鎖骨上部の範囲に放射線治療を行った。口腔内写真(A)(B)を別に示す。  治療直後からみられる合併症はどれか。3つ選べ。

第105回 B問題 第49問の問題画像
  1. a.白内障
  2. b.咽頭痛
  3. c.味覚障害
  4. d.嗅覚障害
  5. e.唾液分泌低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、扁桃の扁平上皮癌に対して頸部へ放射線治療を行ったあとの合併症を問う問題だ。考えるポイントは2つ。1つは「照射野にどの臓器が含まれているか」、もう1つは「その障害が早期に出るのか、晩期に出るのか」。この2本の軸で選択肢をふるいにかけていこう。
医学生医学生
放射線の副作用というと、とりあえず全部起こりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも大原則として、放射線障害は照射野に含まれた臓器にしか起こらない。抗癌剤のように全身に回るわけではないんだ。今回の照射範囲は上咽頭から鎖骨上部まで。ここには何が入っているかな。
医学生医学生
咽頭や口腔の粘膜、舌、それから耳下腺や顎下腺といった唾液腺でしょうか。
ドクタードクター
その通り。次に時間軸だ。放射線の有害事象は、照射中から終了後およそ3か月以内に出る早期障害と、数か月から数年たって出る晩期障害に分けられる。早期障害はどんな組織に起こりやすいと思う?
医学生医学生
放射線生物学の講義で、細胞分裂が盛んな組織ほど放射線感受性が高いと習いました。粘膜上皮や骨髄ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。早期障害は分裂の速い細胞が死ぬことで起こり、多くは可逆的だ。一方、晩期障害は血管障害や線維化が基盤で、不可逆的なことが多い。写真を見ると、治療前は片側の扁桃に凹凸のある腫瘤があり、照射後には口腔から咽頭の粘膜に発赤やびらん、白っぽい偽膜様の変化が多発している。これは放射線による急性粘膜炎の像だ。
医学生医学生
ということは、咽頭痛はまさにこの粘膜炎そのものですね。
ドクタードクター
そう。照射開始から1〜2週ごろに粘膜炎が始まり、咽頭痛や嚥下時痛が強くなる。重くなると食事がとれなくなるから、鎮痛薬や栄養管理が欠かせない。では味覚障害はどうだろう。
医学生医学生
舌も照射野に入っているので、味蕾がやられるということでしょうか。
ドクタードクター
正解。味蕾の細胞は入れ替わりが速いので早期に傷害され、味が分かりにくくなったり変わったりする。粘膜炎や唾液の減少も味覚を悪くする方向に働く。多くは照射終了後、数か月かけて回復していく。唾液分泌低下はどう考える?
医学生医学生
唾液腺の障害は口腔乾燥症として晩期障害の印象が強いんですが、早期にも起こるんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。唾液腺、とくに漿液を出す腺房細胞は放射線感受性が非常に高くて、照射開始後1〜2週という早い段階から唾液が減り、口が渇き始める。線量が多いと回復せずに晩期まで続くこともあるけれど、症状自体は治療中から出てくるんだ。
医学生医学生
なるほど、始まりは早くて、長引くこともある障害なんですね。では白内障は、水晶体の感受性が高いので入りそうな気もしますが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。水晶体はたしかに放射線に弱いけれど、放射線白内障は数か月から数年を経て出る典型的な晩期障害だ。しかも今回の照射野に眼は含まれていない。時間軸でも照射範囲でも外れる。
医学生医学生
嗅覚障害も、嗅上皮は鼻腔の天井にあるので、中咽頭癌の照射野からは外れるということですね。
ドクタードクター
その通り。嗅上皮が照射野に入るような照射はしないので、本例で問題となる合併症ではない。だから正解は咽頭痛、味覚障害、唾液分泌低下の3つになる。
医学生医学生
照射範囲の解剖と、早期か晩期かの時間軸を重ねれば解けるんですね。臨床実習で放射線科を回ったとき、頭頸部の患者さんが「何を食べても砂を噛んでいるみたい」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさに味覚障害と口腔乾燥が重なった訴えだね。発展として、頭頸部照射の晩期障害も押さえておこう。持続する口腔乾燥、放射線性齲歯、下顎骨に多い顎骨壊死、開口障害、甲状腺機能低下症、頸動脈狭窄などがある。
医学生医学生
顎骨壊死を防ぐために、治療前に歯科を受診するんですよね。
ドクタードクター
そう。照射前に抜歯が必要な歯を処置し、口腔ケアの指導をしておくことが、粘膜炎の悪化や顎骨壊死の予防に大切だ。それから口腔乾燥は生活の質を大きく損なうので、今は強度変調放射線治療、いわゆるIMRTで照射の形と線量分布を細かく調整し、耳下腺の線量を下げる工夫がされているよ。

まとめ

放射線障害は原則として照射野に含まれた臓器にのみ生じ、照射中〜終了後約3か月以内に出る可逆的な早期障害と、数か月〜数年後に出る不可逆的な晩期障害に分けられます。中咽頭癌に対する上咽頭〜鎖骨上部への照射では、粘膜炎による咽頭痛、味蕾の傷害による味覚障害、感受性の高い唾液腺腺房細胞の傷害による唾液分泌低下が、照射開始1〜2週ごろから出現します。白内障は晩期障害であるうえ眼は照射野外であり、嗅上皮も照射野に含まれないため、いずれも本例の早期合併症には当たりません。晩期には放射線性齲歯や顎骨壊死、甲状腺機能低下症なども起こりうるため、照射前の歯科受診・口腔ケアやIMRTによる唾液腺の保護が重要です。「照射範囲」と「時間軸」の2軸で考える習慣は、あらゆる部位の放射線治療の有害事象を理解する基本になります。

解答・解説

正解はb, c, eです

症例の整理

66歳男性が咽頭の違和感と嚥下時痛で受診し、口蓋扁桃に表面が不整な腫瘍がみられた。扁桃は中咽頭に属するため、本例は中咽頭(扁桃)の扁平上皮癌であり、病期はT2N1M0(原発巣が中等度の大きさで、同側頸部リンパ節転移あり、遠隔転移なし)である。治療として上咽頭から鎖骨上部までを含む広い範囲に放射線が照射された。

画像の読み取り

口腔内写真(A)は治療前のもので、片側の口蓋扁桃に凹凸のある腫瘤が認められる。写真(B)は照射後のもので、口腔から咽頭の粘膜に発赤やびらん、白色の偽膜様変化が多発しており、放射線による急性粘膜炎(口内炎・咽頭炎)の像である。

考え方

放射線の有害事象は、照射中から照射終了後おおむね3か月以内に出現する早期(急性)障害と、それ以降、数か月〜数年を経て出現する晩期障害に分けられる。早期障害は細胞分裂が盛んな組織(粘膜上皮、皮膚、骨髄、唾液腺の腺房細胞など)に起こりやすく、多くは可逆的である。一方、晩期障害は血管障害や線維化を基盤とし、不可逆的なことが多い。 また、放射線障害は原則として照射野に含まれた臓器にしか起こらない。本例の照射野(上咽頭〜鎖骨上部)には咽頭・口腔粘膜、舌、耳下腺・顎下腺などの唾液腺が含まれる。したがって「治療直後からみられる合併症」としては、照射野内の臓器に生じる早期障害を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  白内障

    水晶体は放射線感受性が高い組織であるが、放射線白内障は照射後数か月〜数年を経て発症する典型的な晩期障害であり、治療直後には起こらない。さらに本例の照射野は上咽頭から鎖骨上部までで、眼球(水晶体)は照射野に含まれないため、そもそも起こりにくい。

  2. ○b.  咽頭痛

    咽頭粘膜は照射野の中心にあり、上皮細胞の分裂が盛んなため放射線で傷害されやすい。照射開始後1〜2週ごろから粘膜の発赤、びらん、偽膜形成などの急性粘膜炎(咽頭炎・口内炎)が生じ、咽頭痛や嚥下時痛が出現する。写真(B)の多発するびらんはこの変化を示している。重症化すると経口摂取が困難となり、鎮痛薬や栄養管理が必要になる。

  3. ○c.  味覚障害

    舌をはじめとする口腔粘膜が照射野に含まれると、味覚を受容する味蕾の細胞が傷害され、照射開始後1〜2週ごろから味覚の低下や変化が生じる。粘膜炎や唾液の減少も味覚障害を助長する。照射終了後、数か月の経過で回復することが多い早期障害である。

  4. ×d.  嗅覚障害

    嗅覚は鼻腔の天井部にある嗅上皮(嗅神経の終末)で受容される。本例は中咽頭(扁桃)癌の治療であり、嗅上皮が照射野に含まれるような照射は行われない。照射野に入っていない臓器に放射線障害は起こらないので、本例で問題となる合併症ではない。

  5. ○e.  唾液分泌低下

    耳下腺や顎下腺などの唾液腺は照射野に含まれており、特に漿液を分泌する腺房細胞は放射線感受性が高い。照射開始後1〜2週という早い時期から唾液分泌が低下し、口腔乾燥(口渇)が出現する。唾液腺の受けた線量が多いと回復せずに晩期まで持続することがあるが、症状自体は治療中から現れる。口腔乾燥は齲歯や口腔カンジダ症の誘因にもなる。

頭頸部放射線治療の主な有害事象

早期(急性)障害:放射線皮膚炎(発赤、色素沈着、落屑)、口内炎・咽頭炎(粘膜炎)、咽頭痛・嚥下時痛、味覚障害、唾液分泌低下(口腔乾燥)、嗄声(喉頭が照射野に入る場合)、骨髄抑制(照射範囲が広い場合)など。 晩期障害:持続する口腔乾燥、放射線性齲歯、顎骨壊死(下顎骨に多い)、皮下組織の線維化・開口障害、甲状腺機能低下症、頸動脈狭窄、白内障・網膜症(眼が照射野に入る場合)、脊髄症(脊髄の線量が耐容線量を超えた場合)など。

早期障害と晩期障害の違い

早期障害は分裂の速い細胞の死によるもので、照射中〜終了後およそ3か月以内に出現し、多くは可逆的である。晩期障害は血管内皮障害や組織の線維化などによるもので、照射後数か月〜数年で出現し、不可逆的なことが多い。

唾液腺の保護

口腔乾燥は生活の質を大きく損なうため、現在の頭頸部癌放射線治療では強度変調放射線治療(IMRT:照射範囲の形と線量分布を細かく調整できる照射法)を用いて耳下腺の線量を下げる工夫がなされている。

口腔ケア

照射前に歯科受診を行い、抜歯が必要な歯の処置や口腔清掃指導をしておくことが、粘膜炎の悪化や顎骨壊死の予防に重要である。

POINT

・放射線障害は照射野内の臓器にしか起こらない。まず照射範囲に何が含まれるかを考える。 ・頭頸部照射の早期障害:粘膜炎(口内炎・咽頭炎による咽頭痛)、味覚障害、唾液分泌低下(口腔乾燥)、皮膚炎。いずれも照射開始1〜2週ごろから出現する。 ・白内障は代表的な晩期障害であり、治療直後には起こらない。 ・中咽頭癌の照射野に嗅上皮は含まれず、嗅覚障害は問題にならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。