1歳女児の乳房がふくらんだ―最初の一手は「手のレントゲン」
第105回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
1歳8か月の女児。両側乳房の腫大を母親が心配して来院した。在胎40週,正常分娩で出生した。頸定4か月,お坐り8か月,歩行1歳3か月。身長78.2 cm,体重11.3 kg。外表奇形を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦で,肝・脾を触知しない。乳房の成熟度はTanner分類のⅡ期に相当する。陰毛と性器出血とを認めない。 まず行う検査はどれか。
- a.頭部MRI
- b.LHRH試験
- c.腹部超音波検査
- d.マンモグラフィ
- e.手エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳幼児の女児に乳房腫大だけがみられ、陰毛や性器出血、成長の加速を伴わない場合は、良性で多くは自然退縮する早発乳房(早期乳房発育症)をまず考えます。思春期早発症との鑑別の第一歩は、性ホルモンによる骨成熟の促進を確認するための手エックス線撮影による骨年齢評価で、簡便かつ低被曝であることから最初に行う検査として適しています。骨年齢の促進があれば、LH・FSH・エストラジオール測定、LHRH試験(中枢性ではLH優位反応)、頭部MRI、腹部超音波検査へと精査を進めます。早発乳房でも一部は思春期早発症へ移行するため、成長曲線と乳房所見の定期的な経過観察が欠かせません。低侵襲な検査から順に絞り込む考え方は、小児内分泌疾患の診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・1歳8か月の女児で、両側の乳房腫大がある。 ・周産期歴に異常はなく、運動発達(頸定4か月、お坐り8か月、歩行1歳3か月)は正常範囲である。 ・身長78.2 cm、体重11.3 kgで、年齢相応の範囲にあり、身長の伸びが急に加速している様子はない。 ・外表奇形なし。胸腹部所見に異常なく、肝脾腫もない。 ・乳房はTanner分類Ⅱ期(乳頭と乳輪下の乳腺が小さく隆起し、乳輪径が広がる段階)で、陰毛や性器出血はない。
診断へのプロセス
乳幼児の女児に乳房腫大だけがみられ、他の二次性徴(陰毛、性器出血)や成長の加速を伴わない場合、最も多いのは早発乳房(premature thelarche、早期乳房発育症)である。これは2歳ごろまでの女児に多く、視床下部-下垂体-性腺系が一過性にわずかに活動してFSH(卵胞刺激ホルモン)優位の分泌が起こることなどが原因と考えられている。多くは自然に退縮または不変のまま経過し、治療を必要としない良性の状態である。 一方、見逃してはならないのが思春期早発症である。思春期早発症では性ホルモンの作用で骨成熟が進み、一時的に背が伸びても骨端線が早く閉じるため、最終身長が低くなる。また脳腫瘍(視床下部過誤腫など)や卵巣腫瘍、McCune-Albright症候群などの基礎疾患が隠れていることもある。
設問の考え方
両者を見分ける最初の手がかりは、性ホルモンが全身に長期間作用している証拠、すなわち骨年齢の促進と成長速度の加速があるかどうかである。骨年齢は手(手根骨と指骨の骨化・骨端の成熟度)のエックス線写真1枚で評価でき、低侵襲・低被曝・簡便である。骨年齢が暦年齢相当であれば早発乳房の可能性が高く、経過観察とする。骨年齢の促進があれば思春期早発症を疑い、血中LH・FSH・エストラジオールの測定、LHRH(GnRH)試験、頭部MRI、腹部・骨盤超音波検査などへ進む。したがって、まず行う検査は手エックス線撮影である。
選択肢考察
- ×a. 頭部MRI
頭部MRIは、中枢性(ゴナドトロピン依存性)思春期早発症と判断された後に、視床下部過誤腫や胚細胞腫などの頭蓋内病変を検索するために行う。1歳児では鎮静も必要となり負担が大きい。骨年齢促進などの所見がない段階で最初に行う検査ではない。
- ×b. LHRH試験
LHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン、GnRHともいう)を静注してLH・FSHの反応をみる負荷試験である。中枢性思春期早発症ではLH優位の思春期型反応を示すのに対し、早発乳房ではFSH優位の前思春期型反応を示すことが多く、鑑別に有用である。ただし採血を繰り返す負担の大きい検査であり、骨年齢の促進などから思春期早発症が疑われた場合に行う二段階目の検査である。
- ×c. 腹部超音波検査
卵巣腫瘍・卵巣嚢腫(エストロゲン産生)や副腎腫瘍などの末梢性(ゴナドトロピン非依存性)思春期早発症の原因検索、あるいは子宮・卵巣の大きさから性ホルモン作用の程度を評価するために行う。本例は成長加速も性器出血もなく、まず骨年齢で思春期早発症の可能性を評価してから必要に応じて行う。
- ×d. マンモグラフィ
マンモグラフィは主に成人女性の乳癌検診・診断に用いる乳房専用のエックス線撮影である。乳児の乳房腫大は乳腺組織の生理的・ホルモン性の発育であり、思春期早発症との鑑別にも役立たない。放射線被曝の点からも行う意義はない。
- ○e. 手エックス線撮影
手(通常は左手)のエックス線写真で骨年齢を評価する。性ホルモンは骨成熟を促進するため、思春期早発症では骨年齢が暦年齢より進む。一方、早発乳房では骨年齢はほぼ暦年齢相当である。簡便で被曝も少なく、両者をふるい分ける最初の検査として適切である。骨年齢の促進を認めた場合に、ホルモン測定やLHRH試験、画像検査へ進む。
早発乳房(早期乳房発育症)
・主に2歳ごろまでの女児にみられる、他の二次性徴を伴わない乳房のみの発育である。片側のこともある。 ・成長速度や骨年齢は正常で、ホルモン検査ではFSHがやや高めでLHは前思春期レベル、LHRH試験ではFSH優位の反応を示す。 ・多くは数か月~数年で退縮するか不変のまま経過し、治療は不要である。ただし、一部は中枢性思春期早発症へ移行するため、初期には厳密に区別できないこともあり、3~6か月ごとに身長・乳房・骨年齢の変化を経過観察する。 ・新生児期の乳房腫大(母体由来のエストロゲンによる)とは区別する。
思春期早発症(女児)の目安(日本の診断の手引きの概略)
・7歳6か月未満で乳房発育が始まる ・8歳未満で陰毛・腋毛の発生や小陰唇の色素沈着などがみられる ・10歳6か月未満で初経がみられる
思春期早発症の分類
・中枢性(ゴナドトロピン依存性):女児では特発性が大部分。視床下部過誤腫、脳腫瘍、水頭症などによる器質性もある。治療はGnRHアナログ(リュープロレリンなど)。 ・末梢性(ゴナドトロピン非依存性):卵巣腫瘍・嚢腫、副腎腫瘍、McCune-Albright症候群(カフェオレ斑・線維性骨異形成を伴う)、原発性甲状腺機能低下症(Van Wyk-Grumbach症候群)、外因性エストロゲン摂取など。
Tanner分類(乳房)
Ⅰ期:前思春期。乳頭のみ突出 Ⅱ期:乳頭と乳輪下の乳腺が小さく隆起し、乳輪が広がる Ⅲ期:乳房と乳輪がさらに大きくなるが、両者の輪郭は連続している Ⅳ期:乳輪と乳頭が乳房の上に二段目の隆起をつくる Ⅴ期:成人型。乳輪は乳房の輪郭に戻る
思春期早発症を放置した場合の問題
骨端線の早期閉鎖による最終的な低身長、早い初経など身体と年齢の不一致による心理社会的な問題、背景にある腫瘍性病変の見逃しなど。
POINT
・乳幼児女児の乳房のみの腫大(陰毛・性器出血・成長加速なし)→ まず早発乳房を考える。 ・思春期早発症との鑑別の第一歩は手エックス線撮影による骨年齢評価(と成長曲線の確認)である。 ・骨年齢促進があれば、LH・FSH・エストラジオール測定、LHRH試験(中枢性ではLH優位反応)、頭部MRI、腹部超音波へ進む。 ・早発乳房は良性で多くは自然退縮するが、経過観察が必要である。
