StudyMed医師国家試験

「最後の砦」が3つとも崩れたとき―多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉の定義を読み解く

第105回医師国家試験 B問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第38問

 多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉と判断するために,感受性試験で抵抗性を証明すべき抗菌薬はどれか。3つ選べ。

  1. a.ニューキノロン系
  2. b.カルバペネム系
  3. c.アミノ配糖体系
  4. d.ペニシリン系
  5. e.セフェム系

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、多剤耐性緑膿菌、MDRPと判定するための条件を問う問題だ。MDRPという言葉は「いろいろな抗菌薬が効かない緑膿菌」というあいまいな意味ではなく、感染症法に基づく届出のための明確な定義をもっている。その定義にどの系統の抗菌薬が含まれるか、そしてなぜその系統なのかを考えていこう。
医学生医学生
多剤耐性というくらいなので、βラクタム系が軒並み効かないことが条件なのかと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも定義を理解するには、まず緑膿菌がどんな菌かを押さえておく必要がある。微生物学の講義で習った特徴を覚えているかな。
医学生医学生
ブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、水回りに多い菌です。健常者にはあまり病気を起こさないけれど、院内感染の原因になると習いました。
ドクタードクター
その通り。シンクなど湿潤環境に広く存在し、免疫不全の患者さんや熱傷、人工呼吸器やカテーテルを使っている患者さんで肺炎や尿路感染、敗血症を起こす。そして重要なのが、外膜の透過性が低く薬剤排出ポンプももつため、もともと多くの抗菌薬に自然耐性を示すことだ。
医学生医学生
つまり、最初から効く薬が限られている菌なんですね。
ドクタードクター
そう。緑膿菌に使える主な系統は、抗緑膿菌作用をもつβラクタム薬、アミノ配糖体、フルオロキノロンくらいしかない。MDRPの定義は、このうちカルバペネム系、アミノ配糖体系、フルオロキノロン系、つまりニューキノロン系の3系統すべてに耐性を示すもの、とされている。判定薬はそれぞれイミペネム、アミカシン、シプロフロキサシンだ。
医学生医学生
作用機序の違う3系統がそろって効かなくなると、本当に打つ手がなくなるということですね。
ドクタードクター
まさにそれが定義の考え方なんだ。カルバペネムは抗緑膿菌活性がとくに強いβラクタム薬で、耐性の機序には外膜ポーリンのOprDの減少や、メタロ-βラクタマーゼなどのカルバペネム分解酵素の産生がある。アミノ配糖体はリボソーム30Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害し、βラクタム薬との併用で相乗効果が期待できる。フルオロキノロンは経口でも使える数少ない抗緑膿菌薬だ。この3つが同時に使えなくなる意味は大きい。
医学生医学生
ではペニシリン系はどうですか。ピペラシリンは緑膿菌に効くと薬理学で習いました。
ドクタードクター
いいところを突いたね。確かにピペラシリンは抗緑膿菌活性をもつけれど、MDRPの判定薬ではない。それにベンジルペニシリンやアンピシリンなど多くのペニシリン系薬は、緑膿菌にはもともと効かない。自然耐性の薬剤に耐性を示しても、特別な意味はないんだ。
医学生医学生
セフェム系も同じ考え方でしょうか。セフタジジムやセフェピムは緑膿菌治療に使うはずですが。
ドクタードクター
その通りで、第3世代のセフタジジムや第4世代のセフェピムは緑膿菌治療に使われる。ただし、これらへの耐性の有無はMDRPの定義には用いられない。第1・第2世代のセフェムはそもそも緑膿菌に無効だ。だから正解はニューキノロン系、カルバペネム系、アミノ配糖体系の3つになる。
医学生医学生
臨床で使う薬かどうかと、定義に含まれるかどうかは別なんですね。届出の基準として決まっているものだと理解しておきます。
ドクタードクター
そう、ここは暗記が必要な部分だ。実はこの問題は、届出基準の細かな規定まで問うもので受験生には難しすぎるとして、採点対象から除外されている。それでも、3系統の組み合わせとその理由は感染症診療の基本として押さえておく価値があるよ。
医学生医学生
感染症法上の扱いはどうなっていますか。CBTの勉強で、耐性菌の届出区分がややこしかった記憶があります。
ドクタードクター
薬剤耐性緑膿菌感染症は5類感染症の定点把握疾患で、基幹定点医療機関が月単位で報告する。MRSAやペニシリン耐性肺炎球菌も同じ基幹定点だ。一方で、バンコマイシン耐性腸球菌、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌、薬剤耐性アシネトバクターの感染症は5類の全数把握になっている。
医学生医学生
臨床実習で回ったICUでは、耐性菌が出た患者さんの病室の前にガウンと手袋が置いてありました。
ドクタードクター
それが接触予防策だね。MDRPは有効な薬剤が乏しく、コリスチンなどのポリミキシン系が使われることもある。だからこそ、広げないことが何より大事になる。手指衛生と接触予防策、シンクなど湿潤環境の管理、そして耐性菌を生み出さないための抗菌薬の適正使用。この3本柱を意識してほしい。
医学生医学生
定義の3系統を覚えるだけでなく、それが失われたときに何が起こるのかまで理解しておくことが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。薬剤感受性試験の結果を見るときにも、どの系統が残っているかを意識すると、治療の選択や感染対策の判断がぐっと具体的になるよ。

まとめ

多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉は、感染症法の届出基準でカルバペネム系(イミペネム)、アミノ配糖体系(アミカシン)、フルオロキノロン〈ニューキノロン〉系(シプロフロキサシン)の3系統すべてに耐性を示す緑膿菌と定義されています。緑膿菌は外膜透過性の低さや排出ポンプにより自然耐性が多く、作用機序の異なるこの3系統が治療の「最後の砦」であるため、これらの同時耐性が臨床上最も問題となる状態として定義に採用されています。ペニシリン系やセフェム系は抗緑膿菌活性をもつ薬剤があっても判定基準には含まれず、多くはもともと緑膿菌に無効です。薬剤耐性緑膿菌感染症は5類感染症の基幹定点把握疾患であり、治療薬が乏しいため接触予防策、湿潤環境の管理、抗菌薬の適正使用による伝播防止が重要です。定義の背景にある理屈を理解しておくと、感受性試験の読み方や院内感染対策の判断に役立ちます。

解答・解説

正解はa, b, cです

※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。

問われていること

多剤耐性緑膿菌〈multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP〉という呼び名は、「いくつかの抗菌薬が効かない緑膿菌」というあいまいな意味ではなく、感染症法に基づく届出のための明確な定義をもつ。本問はその定義に含まれる抗菌薬の系統を問うている。

MDRPの定義

感染症法の届出基準では、MDRPは次の3系統すべてに耐性を示す緑膿菌とされる。 ・カルバペネム系(判定薬:イミペネム。MIC〈最小発育阻止濃度〉16μg/mL以上、またはディスク法で阻止円径13mm以下) ・アミノ配糖体系(判定薬:アミカシン。MIC 32μg/mL以上、またはディスク法で阻止円径14mm以下) ・フルオロキノロン系〈ニューキノロン系〉(判定薬:シプロフロキサシン。MIC 4μg/mL以上、またはディスク法で阻止円径15mm以下) したがって、感受性試験でこの3系統への耐性を確認することがMDRPと判断する条件となる。

なぜこの3系統なのか

緑膿菌は多くの抗菌薬に自然耐性をもつため、治療に使える薬剤がもともと限られている。抗緑膿菌作用をもつ主な系統は、抗緑膿菌性β-ラクタム薬(ピペラシリン、セフタジジム、セフェピム、カルバペネムなど)、アミノ配糖体、フルオロキノロンである。このうち作用機序の異なる「最後の砦」的な3系統がそろって無効となると、治療選択肢がほとんど失われる。そこで臨床的に最も問題となる状態として、この3系統同時耐性を定義に採用している。

採点除外について

本問は採点対象から除外された。問題として内容に誤りはないものの、届出基準の細かな規定まで問うもので、受験生に求める水準としては難しすぎると判断されたためである。

選択肢考察

  1. ○a.  ニューキノロン系

    MDRPの定義を構成する3系統の一つである。判定にはシプロフロキサシンを用い、MIC 4μg/mL以上(ディスク法では阻止円径15mm以下)で耐性と判断する。フルオロキノロンは経口投与も可能な数少ない抗緑膿菌薬であり、これが無効になる臨床的意義は大きい。

  2. ○b.  カルバペネム系

    MDRPの定義を構成する3系統の一つである。判定にはイミペネムを用い、MIC 16μg/mL以上(ディスク法では阻止円径13mm以下)で耐性とする。カルバペネムは抗緑膿菌活性が最も強いβ-ラクタム系薬の一つで、耐性の機序としては外膜ポーリン(OprD)の減少や、メタロ-β-ラクタマーゼなどのカルバペネム分解酵素の産生が知られる。

  3. ○c.  アミノ配糖体系

    MDRPの定義を構成する3系統の一つである。判定にはアミカシンを用い、MIC 32μg/mL以上(ディスク法では阻止円径14mm以下)で耐性とする。アミノ配糖体(アミノグリコシド)は細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害し、β-ラクタム薬との併用で相乗効果が期待される薬剤である。

  4. ×d.  ペニシリン系

    MDRPの判定基準には含まれない。ベンジルペニシリンやアンピシリンなど多くのペニシリン系薬は緑膿菌にもともと効かず(自然耐性)、耐性を示しても特別な意味をもたない。抗緑膿菌活性をもつピペラシリンのような例外はあるが、これも定義の判定薬ではない。

  5. ×e.  セフェム系

    MDRPの判定基準には含まれない。セフェム系のうちセフタジジム(第3世代)やセフェピム(第4世代)は緑膿菌治療に使われるが、これらへの耐性の有無はMDRPの定義には用いられない。第1・第2世代セフェムは緑膿菌にもともと無効である。

緑膿菌の特徴

緑膿菌はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、水回りなど湿潤環境に広く存在する。健常者への病原性は弱いが、免疫不全患者、熱傷患者、人工呼吸器・カテーテル装着患者などで日和見感染や院内感染(肺炎、尿路感染、敗血症など)を起こす。外膜透過性が低く、薬剤排出ポンプをもつため、もともと多くの抗菌薬に自然耐性を示す。

感染症法上の位置づけ

薬剤耐性緑膿菌感染症は5類感染症の定点把握疾患であり、基幹定点医療機関(患者300人以上を収容する病院などから指定)が月単位で報告する。

主な薬剤耐性菌と届出区分(参考)

・全数把握(5類):バンコマイシン耐性腸球菌〈VRE〉感染症、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌〈VRSA〉感染症、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌〈CRE〉感染症、薬剤耐性アシネトバクター感染症 ・定点把握(5類、基幹定点):メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌〈PRSP〉感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症

MDRP感染症の治療と対策

有効な薬剤が乏しく、コリスチン(ポリミキシン系)などが用いられることがある。院内伝播を防ぐため、接触予防策、環境(シンク・湿潤環境)の管理、抗菌薬の適正使用が重要である。

POINT

・MDRPはカルバペネム系・アミノ配糖体系・フルオロキノロン(ニューキノロン)系の3系統すべてに耐性の緑膿菌である。 ・判定薬はイミペネム、アミカシン、シプロフロキサシンである。 ・薬剤耐性緑膿菌感染症は5類感染症(基幹定点把握)である。 ・ペニシリン系・セフェム系への耐性はMDRPの定義に含まれない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。