他人の血がもたらすリスク―感染・GVHD・TRALIで整理する同種血輸血の合併症
第105回医師国家試験 B問題 第39問
国試問題にチャレンジ
同種血輸血の合併症としてみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.肝炎
- b.GVHD
- c.急性胆管炎
- d.Raynaud症候群
- e.急性呼吸促迫症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
同種血輸血の合併症は、他人の血液に含まれる抗原・抗体・生きたリンパ球・病原体という観点から、溶血性副作用、非溶血性副作用、感染症、輸血後GVHDに整理できます。肝炎はHBVやHCVの伝播による代表的な感染症で、NATの導入後もウインドウ期のため危険はゼロになりません。輸血後GVHDは供血者のTリンパ球が受血者の組織を攻撃するほぼ致死的な病態で、放射線照射製剤で予防します。急性呼吸促迫症候群の病像をとるTRALIは、輸血後6時間以内に起こる非心原性肺水腫で、心原性肺水腫であるTACOとの鑑別が重要です。急性胆管炎やRaynaud症候群は輸血とは無関係であり、合併症の機序から考える習慣は、安全な輸血の実践と副作用発生時の迅速な対応につながります。
解答・解説
正解はa, b, eです
同種血輸血とは
同種血輸血とは、他人(同じ種であるヒト)から採取した血液を輸血することで、わが国では日本赤十字社の血液センターから供給される血液製剤の輸血がこれにあたる。これに対し、患者自身の血液をあらかじめ貯めておいて戻すのが自己血輸血である。
同種血輸血の副作用の整理
他人の血液には、患者とは異なる赤血球・白血球・血小板の抗原や、供血者由来の抗体、生きたリンパ球、そして検査で除ききれない病原体が含まれうる。そのため副作用は大きく次のように分けて考えるとよい。 ・溶血性副作用:ABO不適合などによる即時型溶血、不規則抗体による遅発性溶血 ・非溶血性副作用:発熱反応、アレルギー反応・アナフィラキシー、輸血関連急性肺障害〈TRALI〉、輸血関連循環過負荷〈TACO〉など ・感染症:B型・C型肝炎ウイルス、HIV、HTLV-1、サイトメガロウイルス、細菌、梅毒など ・輸血後移植片対宿主病〈GVHD〉
設問への考え方
選択肢の中から、上の枠組みに当てはまるものを選べばよい。肝炎は感染症、GVHDは免疫反応、急性呼吸促迫症候群はTRALIとして輸血に起因しうる。一方、急性胆管炎やRaynaud症候群は輸血と直接の因果関係をもたない病態である。
選択肢考察
- ○a. 肝炎
輸血による代表的な感染症である。B型肝炎ウイルス〈HBV〉やC型肝炎ウイルス〈HCV〉が血液を介して伝播し、輸血後肝炎を起こす。かつては輸血後肝炎の頻度が高く、血友病患者が凝固因子製剤を介してHCVやHIVに感染したことは社会問題となった。現在は核酸増幅検査〈NAT〉の導入などで危険性は著しく低下したが、感染初期で検出できない期間(ウインドウ期)があるため、ゼロにはならない。
- ○b. GVHD
輸血後GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)は、血液製剤に含まれる供血者の生きたTリンパ球が受血者の体内で排除されずに増殖し、受血者の組織を攻撃する病態である。輸血後1〜2週間ほどで発熱、紅斑、肝障害、下痢に続いて汎血球減少をきたし、ほぼ致死的である。受血者の免疫不全時や、供血者のHLAが受血者と一方向に一致する場合(近親者からの輸血など)に起こりやすい。予防には血液製剤への放射線照射によるリンパ球の不活化が有効で、わが国では照射製剤の普及後、確定例はほとんど報告されていない。
- ×c. 急性胆管炎
急性胆管炎は、胆管結石や腫瘍などによる胆道閉塞に細菌感染が加わって起こる疾患であり、輸血によって生じるものではない。溶血で間接ビリルビンが上昇して黄疸をきたすことはあっても、それは胆管炎とは別の病態である。
- ×d. Raynaud症候群
Raynaud症候群は、寒冷や精神的緊張を契機に手指の動脈が発作的に攣縮し、皮膚色が蒼白→紫→紅潮と変化する現象である。全身性強皮症などの膠原病、振動工具の使用、閉塞性動脈疾患などに伴って起こり、輸血の合併症ではない。
- ○e. 急性呼吸促迫症候群
輸血に伴う急性呼吸促迫症候群〈ARDS〉は、輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury:TRALI)として知られる。輸血中から輸血後6時間以内に、呼吸困難、低酸素血症、発熱、血圧低下などが出現し、胸部エックス線で両側の肺浸潤影を認めるが、心拡大は伴わない非心原性肺水腫である。供血者血漿中の抗HLA抗体や抗顆粒球抗体が受血者の好中球と反応し、活性化した好中球が肺の毛細血管を傷害して透過性を亢進させることが主な機序と考えられている。輸血関連死の主要な原因の一つである。
輸血副作用の主なもの
・急性溶血反応:主にABO不適合輸血による。輸血開始直後から発熱、悪寒、腰背部痛、血圧低下、ヘモグロビン尿、DIC(播種性血管内凝固)、急性腎障害をきたす。直ちに輸血を中止する。 ・遅発性溶血反応:過去の輸血や妊娠で生じた不規則抗体が原因で、輸血後数日〜2週間ほどで溶血をきたす。 ・発熱性非溶血性反応:製剤中の白血球由来のサイトカインや、受血者の抗白血球抗体による。 ・アレルギー反応:蕁麻疹が最も多い。IgA欠損症の患者では抗IgA抗体によるアナフィラキシーが起こりうる。 ・TRALI:非心原性の両側肺水腫。治療は酸素投与・人工呼吸管理が中心で、多くは数日で改善する。 ・TACO(輸血関連循環過負荷):輸血量や速度が患者の心機能に対して過剰なために起こる心原性肺水腫。心不全患者や高齢者で起こりやすく、利尿薬が有効な点でTRALIと異なる。 ・輸血後GVHD:放射線照射(15〜50Gy)で予防する。発症後の有効な治療はほぼない。 ・感染症:HBV、HCV、HIV、HTLV-1、サイトメガロウイルス、E型肝炎ウイルス、梅毒、細菌汚染(特に室温保存の血小板製剤)など。
副作用を減らすための製剤の工夫
・保存前白血球除去:発熱反応、HLA抗体の産生(同種免疫)、白血球内に潜むサイトメガロウイルスの伝播を減らす目的で導入され、現在ほとんどの製剤で行われている。 ・放射線照射:輸血後GVHDの予防。 ・NATによるウイルス検査:ウインドウ期を短縮する。
自己血輸血
自己の血液を用いるため、同種免疫、GVHD、ウイルス感染などの危険を避けられる。待機手術で出血が予想される場合に用いられる。ただし採血・保管時の細菌汚染や取り違えの危険はある。
POINT
・同種血輸血の副作用は、溶血性、非溶血性(発熱・アレルギー・TRALI・TACO)、感染症、輸血後GVHDに整理する。 ・輸血後GVHDはほぼ致死的であり、放射線照射血で予防する。 ・TRALIは輸血後6時間以内に発症する非心原性肺水腫(ARDSの病像)で、抗白血球抗体が関与する。 ・TACOは心原性肺水腫で、TRALIとの鑑別が重要である。 ・急性胆管炎、Raynaud症候群は輸血とは無関係である。
