治したはずのがんの「その後」―抗癌薬が残す二次性白血病という影
第105回医師国家試験 B問題 第22問
国試問題にチャレンジ
抗癌化学療法が原因となる二次性悪性腫瘍はどれか。
- a.肺癌
- b.胃癌
- c.白血病
- d.肝細胞癌
- e.腎細胞癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
抗癌薬の多くはDNAを傷害して腫瘍細胞を殺すため、分裂の盛んな造血幹細胞にも変異が残り、化学療法後の二次がんとしては治療関連急性骨髄性白血病・骨髄異形成症候群が代表的です。アルキル化薬型は治療後5〜10年でMDSを経由し5番・7番染色体異常を伴いやすく、エトポシドなどのトポイソメラーゼII阻害薬型は1〜5年と早期に11q23転座を伴って発症し、いずれも予後不良です。一方、放射線治療による二次がんは照射野内の乳癌・甲状腺癌・肉腫・皮膚癌などの固形癌で、潜伏期は10年以上と長いのが特徴です。シクロホスファミドによる膀胱癌、タモキシフェンによる子宮体癌など薬剤特有の二次がんも併せて理解しておくことが、がんサバイバーの長期フォローと早期発見に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
がん治療の成績が向上し長期生存者(がんサバイバー)が増えるにつれて、最初のがん(一次がん)に対する治療そのものが原因となって新たに発生する悪性腫瘍、すなわち二次性悪性腫瘍(二次がん)が重要な晩期合併症として注目されるようになった。 二次がんの原因となる治療は大きく「抗癌化学療法」と「放射線治療」に分けて考えると整理しやすい。 ・抗癌化学療法:抗癌薬の多くはDNAを傷害して腫瘍細胞を殺すため、細胞分裂が盛んな造血幹細胞のDNAにも変異を残す。その結果、治療関連骨髄性腫瘍(治療関連急性骨髄性白血病〈AML〉・治療関連骨髄異形成症候群〈MDS〉)を中心とする造血器腫瘍が生じる。発症は比較的早く、治療後おおむね数年〜10年以内に多い。 ・放射線治療:照射野に含まれた組織から、乳癌、甲状腺癌、肉腫、皮膚癌などの固形癌が生じる。発症までの潜伏期間は長く、治療後10〜15年以上たってからのことが多い。 本問は「抗癌化学療法が原因となる」二次性悪性腫瘍を問うているので、化学療法による二次がんの代表である白血病を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 肺癌
肺癌は喫煙が最大の危険因子であり、抗癌化学療法による二次がんの代表として挙げられる腫瘍ではない。放射線治療後の二次がんとして典型的なのは乳癌・甲状腺癌・肉腫・皮膚癌であり、肺癌は本問の正解にはならない。
- ×b. 胃癌
胃癌の主な危険因子はHelicobacter pylori感染、高塩分食、喫煙などであり、抗癌化学療法によって誘発される二次がんとしては一般的でない。
- ○c. 白血病
抗癌薬は造血幹細胞のDNAにも損傷を与えるため、化学療法後に白血病(特に急性骨髄性白血病)や骨髄異形成症候群が発症することがよく知られている。原因薬としてはシクロホスファミド、メルファラン、ブスルファンなどのアルキル化薬やニトロソウレア系薬(カルムスチン〈BCNU〉、ロムスチン〈CCNU〉)、エトポシドなどのトポイソメラーゼII阻害薬が代表的である。治療後3〜10年以内の発症が多く、一般に治療抵抗性で予後不良である。したがって化学療法による二次性悪性腫瘍として最も妥当である。
- ×d. 肝細胞癌
肝細胞癌の大部分はB型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変、アルコール性・代謝機能障害関連の脂肪性肝疾患などを背景に発生する。抗癌化学療法による二次がんとしては典型的でない。
- ×e. 腎細胞癌
腎細胞癌の危険因子は喫煙、肥満、高血圧、長期透析(後天性嚢胞性腎疾患)、von Hippel-Lindau病などであり、化学療法による二次がんとしては一般的でない。なお、泌尿器系で化学療法と関連する二次がんとしてはシクロホスファミドによる膀胱癌が知られているが、腎細胞癌ではない。
二次性悪性腫瘍(二次がん)の原因
一次がんと共通する遺伝的素因(例:Li-Fraumeni症候群、遺伝性網膜芽細胞腫)や生活習慣・環境要因(喫煙など)に加え、一次がんに対する治療(化学療法・放射線治療・造血幹細胞移植など)が二次がんのリスクを高める。
化学療法による治療関連白血病の2つの型
1. アルキル化薬型(シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、クロラムブシル、ニトロソウレア系、ダカルバジン系など) ・治療後おおむね5〜10年で発症 ・骨髄異形成症候群(MDS)の段階を経てAMLへ移行することが多い ・5番・7番染色体の欠失や部分欠失を伴いやすい ・予後は極めて不良 2. トポイソメラーゼII阻害薬型(エトポシド、テニポシド、アントラサイクリン系など) ・治療後1〜5年と比較的早期に発症 ・MDSの前段階を経ずに急性白血病として発症することが多い ・11q23(KMT2A〈MLL〉遺伝子)の転座を伴いやすい このほか、化学療法後には急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍もみられることがある。WHO分類では、これらは「細胞傷害性治療後の骨髄性腫瘍(治療関連骨髄性腫瘍)」として独立した病型に位置づけられている。
放射線治療による二次がん
・照射野内に発生するのが特徴で、乳癌、甲状腺癌、骨・軟部肉腫、皮膚癌などが代表的である。 ・潜伏期間は長く、治療後10〜15年以上たってからの発症が多い。 ・Hodgkinリンパ腫で胸部(縦隔)に照射を受けた若年女性では、特に乳癌のリスクが高い。Hodgkinリンパ腫の長期生存者では、治療後数十年の経過で相当の割合に二次がんが発症することが知られている。
その他の薬剤関連の二次がん
・シクロホスファミド:代謝物アクロレインによる出血性膀胱炎に加え、膀胱癌のリスクがある。 ・タモキシフェン:子宮内膜のエストロゲン受容体に作動薬的に働き、子宮体癌のリスクを高める。
POINT
・抗癌化学療法による二次がんの代表は白血病(特に急性骨髄性白血病)と骨髄異形成症候群である。 ・原因薬はアルキル化薬とトポイソメラーゼII阻害薬(エトポシドなど)が代表。 ・アルキル化薬型:潜伏期5〜10年、MDSを経由、5番・7番染色体異常。トポイソメラーゼII阻害薬型:潜伏期1〜5年、11q23転座。 ・放射線治療による二次がんは照射野内の固形癌(乳癌、甲状腺癌、肉腫、皮膚癌)で、潜伏期は10年以上と長い。 ・治療関連白血病は一般に予後不良である。
