StudyMed医師国家試験

最初の血液はどこで生まれる?―卵黄嚢から骨髄へ、造血の場の引っ越し

第105回医師国家試験 B問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第23問

胎芽期の主な造血部位はどれか。

  1. a.肝臓
  2. b.骨髄
  3. c.絨毛膜
  4. d.脾臓
  5. e.卵黄嚢

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発生の時期によって造血の場所がどう移り変わるかを問う問題だ。ポイントは「胎芽期」という言葉が、発生のどの段階を指しているかを正確に押さえること。まず、胎芽期と胎児期の違いは説明できるかな。
医学生医学生
発生学の講義で習ったはずなんですが……妊娠初期のほうが胎芽、でしたっけ。
ドクタードクター
そう。受精から器官形成がほぼ終わる受精後8週まで、妊娠週数でいうと妊娠10週未満を胎芽期と呼び、それ以降出生までが胎児期だ。つまり、ごく初期の段階の造血を聞いているわけだね。
医学生医学生
血液は骨髄でつくられるイメージが強いので、つい骨髄と答えたくなります。
ドクタードクター
成人ではそれで正しいんだけど、造血の場は発生とともに「卵黄嚢→肝臓(と脾臓)→骨髄」と引っ越していく。受精後3週ごろ、卵黄嚢の壁の中胚葉に血島という細胞の集まりができて、その中心部の細胞が原始赤血球に、周辺部の細胞が血管内皮に分化する。これがヒトで最初の造血で、胎芽期の主な造血部位は卵黄嚢というのが正解だ。
医学生医学生
血島から血液と血管が同時にできるんですね。組織学実習で見た胎児の切片を思い出しました。
ドクタードクター
ほかの選択肢も確認しよう。肝臓はどうだろう。
医学生医学生
胎児は肝臓で造血するって聞いたことがあります。そっちのほうが有名じゃないですか。
ドクタードクター
いい引っかかり方だね。肝臓も受精後5〜6週ごろから造血を始めるけれど、主役になるのは胎生中期、おおよそ妊娠3〜6か月ごろだ。胎芽期の段階ではまだ卵黄嚢が主体なんだ。脾臓はその時期に肝臓を補助する程度で、造血の主役になることはない。
医学生医学生
骨髄は、骨ができてからでないと無理ですよね。
ドクタードクター
その通り。骨髄造血は妊娠4〜5か月ごろに始まり、妊娠後期に主な造血部位となって、出生後は生涯続く。胎芽期には骨髄腔自体がまだできていない。絨毛膜は胎盤の胎児側を構成する膜で、母体との物質交換やhCGなどのホルモン産生を担う構造だから、主要な造血部位としては扱われない。
医学生医学生
時期の順番で整理すると、卵黄嚢が最初、次に肝臓が中盤、最後に骨髄、という流れですね。
ドクタードクター
完璧。ヘモグロビンの変化とセットにすると覚えやすいよ。卵黄嚢の原始赤血球は大型で核を持ち、Gower 1、Gower 2、Portlandといった胎芽型ヘモグロビンを含む。肝臓造血期には無核赤血球と胎児型のHbF(α2γ2)が主体になり、出生後は成人型のHbA(α2β2)に置き換わっていく。
医学生医学生
HbFは酸素親和性が高くて、胎盤で母体から酸素を受け取りやすいんでしたよね。生理学で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ちなみに、生涯の造血を担う造血幹細胞そのものは、胎芽内の大動脈周囲のAGM領域で発生し、肝臓、骨髄へと移動して定着すると考えられている。臨床的に大事なのは髄外造血だ。骨髄線維症などで骨髄の造血能が落ちると、胎生期に造血を担っていた肝臓や脾臓で再び造血が起こる。
医学生医学生
血液内科の実習で、骨髄線維症の患者さんがすごく大きな脾臓を持っていたのはそのためだったんですね。末梢血に涙滴赤血球も出ていました。
ドクタードクター
そう、発生学の知識が病態理解に直結する好例だね。もう一つ、出生後の骨髄も年齢で変わる。乳幼児期はほぼ全身の骨髄で造血するけれど、成長とともに四肢の長管骨は脂肪髄に置き換わり、成人では椎骨、胸骨、骨盤など体幹の骨が中心になる。だから成人の骨髄穿刺は腸骨や胸骨で行うんだ。
医学生医学生
胎生期から成人まで、造血の場がずっと移り続けているんですね。

まとめ

ヒトの造血の場は発生とともに「卵黄嚢→肝臓(+脾臓)→骨髄」と移り変わり、受精後8週までの胎芽期には卵黄嚢壁の血島で有核の原始赤血球がつくられます。肝臓は胎生中期(おおよそ妊娠3〜6か月)の主な造血臓器で、脾臓は補助的に関与し、骨髄は妊娠4〜5か月ごろに造血を始めて妊娠後期以降の主体となります。これに対応してヘモグロビンも胎芽型からHbF、HbAへと置き換わり、絨毛膜は主要な造血部位ではありません。骨髄線維症などで骨髄造血が障害されると、胎生期の造血臓器である肝臓・脾臓で髄外造血が起こり肝脾腫をきたすため、造血部位の変遷は発生学にとどまらず血液疾患の病態理解の土台になります。

解答・解説

正解はeです

ヒトの造血の場は、発生の進行とともに「卵黄嚢 → 肝臓(および脾臓) → 骨髄」と移り変わる。本問はこのうち最も早い時期、すなわち胎芽期にどこで造血が行われているかを問うている。

胎芽期とは

受精から器官形成がほぼ終わるまで(受精後8週、最終月経から数える妊娠週数では妊娠10週未満)を胎芽期といい、その児を胎芽と呼ぶ。それ以降出生までを胎児期という。

造血部位の移り変わり

1. 卵黄嚢期(中胚葉期):受精後3週ごろ、卵黄嚢壁の中胚葉に血島が出現し、有核の原始赤血球がつくられる。これが最初の造血であり、胎芽期の主な造血部位である。 2. 肝臓期:受精後5〜6週ごろから肝臓で造血が始まり、卵黄嚢造血は妊娠2〜3か月ごろまでに消退する。胎生中期(おおよそ妊娠3〜6か月)は肝臓が最大の造血臓器となる。脾臓も補助的に造血に関与する。 3. 骨髄期:妊娠4〜5か月ごろから骨髄造血が始まり、妊娠後期(おおよそ7か月以降)には骨髄が主な造血部位となる。出生後は原則として骨髄のみで造血が行われる。 したがって、胎芽期の主な造血部位は卵黄嚢である。

選択肢考察

  1. ×a.  肝臓

    肝臓は胎生期の中盤(おおよそ妊娠3〜6か月)に最も盛んに造血を行う臓器である。受精後5〜6週ごろから造血を始めるが、胎芽期の主体は卵黄嚢であり、肝臓が主役になるのは胎児期に入ってからである。

  2. ×b.  骨髄

    骨髄での造血は妊娠4〜5か月ごろに始まり、妊娠後期に主な造血部位となって出生後も生涯続く。胎芽期にはまだ骨髄腔が形成されておらず、造血の場とはなっていない。

  3. ×c.  絨毛膜

    絨毛膜は胎盤の胎児側を構成する胎膜で、母体との物質交換やホルモン産生(hCGなど)を担う。胎芽期の主要な造血部位としては扱われない。

  4. ×d.  脾臓

    脾臓は胎生の中盤(おおよそ妊娠3〜5か月前後)に肝臓とともに補助的な造血を行うが、造血の主役になることはなく、胎芽期の主な造血部位でもない。

  5. ○e.  卵黄嚢

    受精後3週ごろ、卵黄嚢壁の中胚葉に血島(blood island)が形成され、その中心部の細胞が原始赤血球に、周辺部の細胞が血管内皮に分化する。これがヒトで最初の造血であり、胎芽期の造血は主に卵黄嚢で行われる。卵黄嚢造血は肝臓造血の開始とともに衰え、妊娠2〜3か月ごろまでに終わる。

造血部位の変遷のまとめ

・卵黄嚢:受精後3週ごろ〜妊娠2〜3か月ごろ(胎芽期の主体) ・肝臓:受精後5〜6週ごろに開始、妊娠3〜6か月ごろに最盛期、出生前後に終了 ・脾臓:胎生中期に補助的に造血 ・骨髄:妊娠4〜5か月ごろに開始、妊娠後期以降は主な造血部位

卵黄嚢造血の特徴

卵黄嚢でつくられる原始赤血球は大型で核を持ち、胎芽型ヘモグロビン(Gower 1、Gower 2、Portland)を含む。肝臓造血期になると無核の赤血球と胎児型ヘモグロビン(HbF:α2γ2)が主体となり、出生後は成人型ヘモグロビン(HbA:α2β2)に置き換わっていく。 なお、生涯にわたって造血を担う造血幹細胞そのものは、胎芽内の大動脈周囲の領域(AGM領域:大動脈−生殖隆起−中腎領域)で発生し、肝臓、さらに骨髄へと移動・定着すると考えられている。

出生後の造血

乳幼児期はほぼ全身の骨の骨髄(赤色髄)で造血が行われるが、成長とともに四肢の長管骨の骨髄は脂肪髄に置き換わり、成人では椎骨、胸骨、肋骨、骨盤(腸骨)、頭蓋骨など体幹の扁平骨・短骨が主な造血部位となる。

髄外造血

骨髄線維症などで骨髄の造血能が低下すると、胎生期に造血を担っていた肝臓や脾臓で再び造血が行われる(髄外造血)。骨髄線維症で著明な脾腫や肝腫大がみられるのはこのためである。

POINT

・造血部位は「卵黄嚢 → 肝臓(+脾臓) → 骨髄」の順に移り変わる。 ・胎芽期(受精後8週まで)の主な造血部位は卵黄嚢の血島である。 ・胎生中期は肝臓、妊娠後期と出生後は骨髄が造血の主体。 ・骨髄線維症などでは胎生期の造血臓器である肝臓・脾臓で髄外造血が起こり、肝脾腫をきたす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。