StudyMed医師国家試験

光の通り道か、信号の通り道か―視覚誘発電位が映し出す視神経の異常

第105回医師国家試験 B問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第24問

視覚誘発電位が異常を示すのはどれか。

  1. a.角膜潰瘍
  2. b.視神経炎
  3. c.春季カタル
  4. d.硝子体混濁
  5. e.動眼神経麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、視覚誘発電位、略してVEPという検査が何を見ているのかを問う問題だ。着眼点は「眼の病気」とひとくくりにせず、その病変が光を通す部分なのか、視覚の信号を伝える経路なのか、それとも眼を動かす運動系なのかを区別すること。まずVEPがどんな検査か説明できるかな。
医学生医学生
生理学実習で脳波をとったことはありますが、VEPは名前しか知りません。眼に電極をつけるんでしょうか。
ドクタードクター
実は電極は後頭部の頭皮につけるんだ。白黒の市松模様を反転させるなどの刺激を眼に与え、後頭葉の一次視覚野に生じる電位を記録する。1回の反応はとても小さいから、何度も繰り返して加算平均して波形をつくる。パターン反転刺激では、刺激後約100ミリ秒に出る陽性波、P100の潜時と振幅を評価するのが基本だ。
医学生医学生
後頭葉で記録するということは、網膜から視覚野までの経路全体を見ていることになりますね。
ドクタードクター
その通り。網膜(主に黄斑部の錐体)から視神経、視交叉、視索、外側膝状体、視放線を経て視覚野に至る視覚伝導路のどこかに障害があればVEPは異常になる。では、選択肢の中でこの経路そのものを障害するのはどれだろう。
医学生医学生
視神経炎ですね。視神経は伝導路のど真ん中です。
ドクタードクター
正解。視神経炎は視神経の炎症性・脱髄性疾患で、急激な視力低下、眼球運動時痛、中心暗点、患側のRAPDなどを呈する。脱髄で伝導速度が落ちるため、VEPではP100潜時の延長が特徴的だ。軸索障害が加われば振幅も低下する。
医学生医学生
脱髄なら神経伝導検査と同じで、潜時が延びるわけですね。
ドクタードクター
いい対応づけだね。しかも視力が回復した後も潜時延長が残ることが多いから、多発性硬化症で症状の出ていない視神経病変を見つけるのにも使われる。では、ほかの選択肢を見ていこう。角膜潰瘍と春季カタルはどうかな。
医学生医学生
どちらも眼の前のほうの病気ですよね。でも、見えにくくなるならVEPも乱れそうな気がします。
ドクタードクター
そこが迷いやすいところだ。角膜潰瘍は角膜組織の欠損、春季カタルは上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖や角膜輪部のトランタス斑を特徴とする重症のアレルギー性結膜疾患で、どちらも病変は眼球の最前部にとどまる。刺激が網膜まで届けば検査は成り立つから、通常VEPは正常だ。ただし角膜潰瘍が瘢痕化して高度の混濁を残し、光が十分届かなくなれば異常を示しうる。
医学生医学生
硝子体混濁も、光の通り道の問題なので同じ考え方でしょうか。
ドクタードクター
その通り。硝子体は中間透光体の一部で、混濁があっても視覚伝導路自体は無傷だから、通常VEPは正常だ。著しい混濁で刺激光がほとんど届かない場合は見かけ上の異常が出ることがあるけれどね。そういう眼で網膜や視神経の機能を評価したいときは、強い閃光を使うフラッシュVEPや網膜電図が役立つ。
医学生医学生
動眼神経麻痺は、眼科の実習で眼瞼下垂と外下方偏位の患者さんを見ました。複視があるなら視覚にも関係しそうですが……。
ドクタードクター
複視は眼の位置がずれることで起こる症状で、信号の伝わり方の異常ではないんだ。動眼神経は外眼筋や上眼瞼挙筋を動かす運動神経と、瞳孔括約筋への副交感神経を含む出力側の神経だから、視覚の入力経路は保たれていて、VEPは異常を示さない。
医学生医学生
光を通す部分、信号を伝える経路、眼を動かす運動系に分ければ、VEPが異常になるのは信号の経路の障害だけ、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。臨床の応用も押さえておこう。パターンVEPはある程度の視力と固視が必要だけど、フラッシュVEPは固視が不要だから、乳幼児や意識障害の患者でも施行できる。また、心因性視覚障害や詐病の鑑別にも役立つ。高度の視力障害を訴えていてもVEPが正常なら、視覚伝導路の器質的障害は否定的と考えられる。
医学生医学生
自覚的検査に頼れないときの客観的な検査なんですね。ERGとはどう使い分けるんですか。
ドクタードクター
ERGは網膜そのものの電気的反応を角膜上などの電極で記録する検査で、網膜色素変性症などの評価に使う。ERGが正常でVEPが異常なら、障害は網膜より後ろ、視神経以降にあると推定できる。病変の部位を検査で絞り込む発想は、神経内科でも眼科でも大切だよ。

まとめ

視覚誘発電位(VEP)は、パターン反転刺激や閃光刺激に対する後頭葉視覚野の反応を頭皮上電極で記録する検査で、網膜から視神経、視交叉、視放線を経て視覚野に至る視覚伝導路全体の機能を反映します。視神経炎では脱髄による伝導遅延でP100潜時が延長し、回復後も潜時延長が残りやすいため、多発性硬化症の潜在的な視神経病変の検出にも有用です。角膜潰瘍、春季カタル、硝子体混濁などの前眼部・中間透光体の病変は通常VEPに影響しませんが、高度の混濁では異常を示しうる点に注意が必要で、動眼神経麻痺は運動系の障害のためVEPは正常です。乳幼児や意識障害患者の評価、心因性視覚障害の鑑別、ERGとの組み合わせによる障害部位の推定など、病変が「光の通り道・信号の経路・運動系」のどこにあるかを考える姿勢が、眼科・神経領域の検査を理解する鍵になります。

解答・解説

正解はbです

視覚誘発電位(VEP:visual evoked potential)は、目に光やパターン(白黒の市松模様の反転など)の刺激を与えたときに、後頭葉の一次視覚野(有線野)で生じる電位を後頭部の頭皮上電極で記録する検査である。1回の反応は小さいため、刺激を多数回繰り返して加算平均して波形を得る。パターン反転刺激では、刺激後約100ミリ秒に現れる大きな陽性波(P100)の潜時と振幅を評価するのが基本である。 VEPは「網膜(主に黄斑部の錐体)→ 視神経 → 視交叉 → 視索 → 外側膝状体 → 視放線 → 後頭葉視覚野」という視覚の入力経路全体の機能を反映する。したがって、この経路のどこかに障害があればVEPは異常となる。とくに脱髄により伝導速度が低下する視神経炎では、P100潜時の延長が特徴的である。 一方、次のような病変では通常VEPは異常を示さない。 ・網膜より前方の光を通す部分(角膜・前房・水晶体・硝子体)の軽度の病変:網膜まで刺激が届けば検査は成り立つ。ただし著しい混濁で刺激が網膜に届かない場合は、見かけ上の異常(振幅低下など)を示しうる。 ・眼球運動にかかわる経路(動眼神経などの運動神経)の病変:視覚の入力経路とは無関係である。 以上より、視覚伝導路そのものを障害する視神経炎が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  角膜潰瘍

    角膜潰瘍は細菌・真菌・ウイルスなどの感染などにより角膜上皮から実質にかけて組織が欠損する疾患で、病変は眼球の最前部にとどまる。視覚伝導路には障害がないため、通常VEPは正常である。ただし、潰瘍が瘢痕化して高度の角膜混濁を残し、光刺激が網膜に十分届かなくなった場合には、VEPが異常を示すことがある。

  2. ○b.  視神経炎

    視神経炎は視神経の炎症性・脱髄性疾患で、急激な視力低下、眼球運動時痛、中心暗点、患側の相対的瞳孔求心路障害(RAPD:交互に光を当てると患眼に光を当てたときに瞳孔が散大してみえる現象)などを呈する。VEPが評価する視覚伝導路そのものが障害されるため、VEPは異常となる。とくに脱髄による伝導遅延を反映してP100潜時が延長し、軸索障害が加わると振幅も低下する。視力が回復した後もP100潜時の延長が残ることが多く、多発性硬化症で臨床症状のない視神経病変を検出するのにも用いられる。

  3. ×c.  春季カタル

    春季カタルは若年男性に多い重症のアレルギー性結膜疾患で、上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖や角膜輪部の隆起(トランタス斑)、重症例ではシールド潰瘍(角膜上皮欠損)を生じる。病変の主座は結膜と角膜であり、視覚伝導路は障害されないため、VEPは異常を示さない。

  4. ×d.  硝子体混濁

    硝子体混濁は硝子体出血やぶどう膜炎などで硝子体が濁った状態で、光が網膜に届く途中の中間透光体の異常である。視覚伝導路自体は障害されていないため、通常VEPは正常である。ただし、混濁が著しく刺激光が網膜にほとんど届かない場合には、VEPが異常を示すことがある。なお、高度の中間透光体混濁で網膜・視神経の機能を評価したいときには、強い閃光刺激を用いたフラッシュVEPや網膜電図(ERG)が利用される。

  5. ×e.  動眼神経麻痺

    動眼神経は内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋・上眼瞼挙筋を支配する運動神経であり、あわせて瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維を含む。障害されると眼瞼下垂、眼球の外下方偏位、複視、散瞳などが生じるが、いずれも出力(運動・自律神経)側の異常であり、視覚の入力経路は保たれている。そのためVEPは異常を示さない(散瞳により網膜に入る光量が変化しても、伝導路の機能自体は正常である)。

VEPの種類

・パターンVEP:白黒の市松模様を反転させる刺激。黄斑部の錐体機能から視覚野までを鋭敏に反映し、P100潜時の評価に適する。ある程度の視力と固視が必要。 ・フラッシュVEP:閃光刺激。固視が不要なため、乳幼児、意識障害のある患者、高度の中間透光体混濁のある眼でも施行できるが、定量性はパターンVEPに劣る。

VEPが役立つ場面

・視神経炎、多発性硬化症(臨床症状のない視神経病変の検出) ・圧迫性・虚血性・中毒性などの視神経症 ・視力や視野などの自覚的検査に協力が得られない乳幼児や意識障害の患者 ・心因性視覚障害や詐病の鑑別:自覚的に高度の視力障害を訴えても、VEPが正常であれば視覚伝導路の器質的障害は否定的である。

網膜電図(ERG)との違い

ERG(electroretinogram)は光刺激に対する網膜全体の電気的反応を角膜上などの電極で記録する検査であり、網膜色素変性症など網膜そのものの疾患の評価に用いる。VEPは網膜から視覚野までの経路全体を反映する。ERGが正常でVEPが異常であれば、障害部位は網膜より後方(視神経以降)にあると推定できる。

眼の構造と検査の対応

・光学系(角膜・前房・水晶体・硝子体):細隙灯顕微鏡検査、眼底検査、超音波検査 ・網膜:ERG、光干渉断層計(OCT) ・視神経〜視覚野:VEP、視野検査、MRI

POINT

・VEPは網膜(主に黄斑部の錐体)から後頭葉視覚野までの視覚伝導路の機能を反映する。 ・視神経炎ではP100潜時が延長する(脱髄による伝導遅延)。多発性硬化症の潜在的な視神経病変の検出にも有用。 ・角膜・硝子体などの中間透光体の病変は通常VEPに影響しないが、高度の混濁では異常を示しうる。 ・動眼神経麻痺は運動系の障害であり、VEPは正常。 ・自覚的検査が困難な乳幼児・意識障害患者や、心因性視覚障害・詐病の鑑別に有用である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。