眼底は頭蓋内を映す窓―両眼の乳頭腫脹を見たら頭を撮れ
第108回医師国家試験 A問題 第23問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。両眼の軽度霧視を訴えて来院した。霧視は2か月前から自覚し,頭痛を伴うという。矯正視力は右1.0,左0.9。両眼の眼底写真(A)(B)を別に示す。 診断に有用なのはどれか。

- a.眼圧測定
- b.頭部MRI
- c.眼球運動検査
- d.眼球超音波検査
- e.蛍光眼底造影検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
両眼の視神経乳頭が発赤・腫脹し、視力がほぼ保たれ、頭痛を伴う場合は、頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭を考えます。うっ血乳頭は眼の病気ではなく頭蓋内の異常を映す徴候であり、脳腫瘍、水頭症、脳静脈洞血栓症、特発性頭蓋内圧亢進症などの原因を探すために頭部MRIが最も有用です。眼圧測定、眼球運動検査、眼球超音波検査、蛍光眼底造影検査は乳頭や眼の状態を補助的に評価できても、原因疾患は明らかにできません。片眼性で急激な視力低下を伴う視神経炎や、網膜病変を伴う高血圧性網膜症との鑑別も重要で、腰椎穿刺は画像で占拠性病変を除外してから行います。眼底所見を全身・頭蓋内疾患の手がかりとして読む視点は、診療科の垣根を越えた臨床推論の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・38歳男性、両眼の軽い霧視(かすみ)が2か月前から続いている。 ・頭痛を伴う。 ・矯正視力は右1.0、左0.9と、ほぼ保たれている。 ・両眼の眼底写真では、両側の視神経乳頭が発赤・腫脹し、乳頭の縁(辺縁)がぼやけている。網膜の出血や白斑など、乳頭以外の目立った異常はない。
診断へのプロセス
両眼性の視神経乳頭腫脹を見たら、まずうっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫)を考える。うっ血乳頭は、頭蓋内圧の上昇が視神経鞘のくも膜下腔を通じて視神経に伝わり、軸索輸送が滞って乳頭が腫れる病態である。初期には視力がほとんど低下しないのが大きな特徴で、患者は一過性の霧視や軽いかすみを訴える程度にとどまることが多い。本例の「両眼性」「視力良好」「頭痛を伴う」という組み合わせはこれに合致する。 鑑別として以下を考える。 ・視神経炎(特に乳頭炎):乳頭腫脹を示すが、通常は片眼性で、急激かつ高度な視力低下、眼球運動時痛、中心暗点、相対的瞳孔求心路障害(RAPD)を伴う。本例は両眼性で視力が良好であり、合わない。 ・高血圧性網膜症(悪性高血圧による乳頭浮腫):両眼の乳頭腫脹と頭痛を伴いうるが、網膜動脈の狭細化、火炎状出血、軟性白斑、硬性白斑などの網膜所見が並存する。本例の眼底には乳頭以外の異常がないため考えにくい(ただし診察時に血圧測定は行うべきである)。 ・偽うっ血乳頭(乳頭ドルーゼン、強い遠視眼など):乳頭が腫れて見えるが真の浮腫ではない。 以上から、頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭が最も疑われる。
設問の考え方
うっ血乳頭は「眼の病気」ではなく「頭蓋内の異常を映す窓」である。したがって診断に必要なのは、頭蓋内圧を上げている原因(脳腫瘍、脳膿瘍、慢性硬膜下血腫、水頭症、脳静脈洞血栓症、特発性頭蓋内圧亢進症など)を探す検査であり、頭部の画像検査、とりわけ頭部MRIが最も有用である。眼局所の検査は乳頭の状態を補助的に評価できても、原因疾患を明らかにすることはできない。 問いは「まず簡便に行う検査」ではなく「診断に有用な検査」である点にも注意する。
選択肢考察
- ×a. 眼圧測定
眼圧測定は緑内障や高眼圧症の評価に用いる検査である。本例の眼底では乳頭陥凹の拡大(緑内障性変化)ではなく乳頭の腫脹がみられ、問題となっているのは眼圧ではなく頭蓋内圧である。眼圧と頭蓋内圧は別物であり、眼圧を測っても頭蓋内圧亢進やその原因はわからない。簡便な検査ではあるが、本例の診断には寄与しない。
- ○b. 頭部MRI
両眼性のうっ血乳頭は頭蓋内圧亢進の徴候であり、その原因を突き止めることが診断の中心となる。頭部MRIは脳腫瘍、脳膿瘍、水頭症、慢性硬膜下血腫などの占拠性病変を高い分解能で描出でき、MR静脈撮影(MRV)を併用すれば脳静脈洞血栓症も評価できる。また、特発性頭蓋内圧亢進症で見られる空虚トルコ鞍、視神経鞘の拡張、眼球後極部の平坦化といった間接所見も捉えられる。原因診断に直結するため、最も有用である。
- ×c. 眼球運動検査
頭蓋内圧亢進では、走行が長く圧迫を受けやすい外転神経が障害され外転障害(複視)を生じることがある。ただしこれは病変の部位とは無関係に起こる「偽局在徴候」であり、原因の特定にはつながらない。多発性硬化症などで眼球運動障害がみられることもあるが、いずれにせよ確定診断には画像検査が必要である。実施してよい検査ではあるが、本例の診断における有用性は頭部MRIに及ばない。
- ×d. 眼球超音波検査
眼球超音波検査(Bモード)は、中間透光体の混濁(白内障、硝子体出血など)で眼底が見えないときに網膜剝離や眼内腫瘍を調べるのに有用である。本例は眼底が直接観察できているので、その目的では不要である。乳頭内に埋もれたドルーゼン(偽うっ血乳頭の原因)の検出や視神経鞘径の拡大の評価に使われることはあるが、頭蓋内圧亢進の原因疾患を明らかにすることはできず、診断への寄与は小さい。
- ×e. 蛍光眼底造影検査
フルオレセイン蛍光眼底造影は、静脈から色素を注入して網膜・脈絡膜の血管の状態(漏出、閉塞、新生血管など)を調べる検査である。うっ血乳頭では乳頭からの色素漏出がみられ、乳頭ドルーゼンとの区別に役立つこともあるが、得られる情報は眼底所見として見えている乳頭の腫れを確認し直す程度にとどまる。頭蓋内の原因は評価できないため、本例の診断には有用とはいえない。
うっ血乳頭の概要
・定義:頭蓋内圧亢進によって生じる両眼性の視神経乳頭浮腫。片眼性や視力低下を伴う乳頭腫脹(視神経炎、虚血性視神経症など)とは区別して用いる用語である。 ・機序:頭蓋内圧の上昇が視神経鞘内のくも膜下腔に伝わり、篩状板付近で視神経の軸索輸送が障害され、軸索が腫れる。二次的に静脈還流が障害され、乳頭周囲の出血や静脈拡張が生じる。 ・眼底所見:乳頭の発赤・腫脹、乳頭縁の不鮮明化、乳頭周囲の網膜血管が乳頭縁で隠れる所見、網膜静脈の拡張・怒張、乳頭周囲の線状出血、軟性白斑。静脈拍動の消失も参考になる。 ・視機能:初期は視力が保たれ、マリオット盲点の拡大がみられる程度。数秒程度の一過性視覚障害(一過性霧視)を訴えることがある。長期化すると視神経萎縮に移行し、周辺視野から狭窄して最終的に視力を失いうる。 ・随伴症状:頭痛(朝方に強い)、悪心・嘔吐、外転神経麻痺による複視。
頭蓋内圧亢進の主な原因
・脳腫瘍、脳膿瘍、慢性硬膜下血腫などの占拠性病変 ・水頭症 ・脳静脈洞血栓症 ・髄膜炎、くも膜下出血 ・特発性頭蓋内圧亢進症(肥満の若年女性に多い。画像で占拠性病変がなく、髄液圧が上昇し髄液成分は正常)
検査の進め方
まず頭部画像検査(MRI、必要に応じてMRV)で占拠性病変や静脈洞血栓を除外する。占拠性病変がないことを確認してから、腰椎穿刺で髄液圧・髄液成分を調べる。占拠性病変がある状態での腰椎穿刺は脳ヘルニアを誘発しうるため、画像検査を先に行う順序が重要である。
両眼性乳頭腫脹の鑑別の要点
・うっ血乳頭:両眼性、視力良好、頭痛・嘔吐 ・視神経炎:多くは片眼性、急激な視力低下、眼球運動時痛、中心暗点、RAPD陽性 ・前部虚血性視神経症:中高年、突然の片眼視力低下、水平半盲様の視野欠損 ・高血圧性網膜症:網膜動脈狭細化、出血、白斑などの網膜病変を伴う ・偽うっ血乳頭:乳頭ドルーゼン、遠視眼など。真の浮腫ではない
POINT
・両眼の視神経乳頭腫脹+視力良好+頭痛 → うっ血乳頭(頭蓋内圧亢進)を考える。 ・うっ血乳頭は初期に視力が保たれ、マリオット盲点拡大を示す。視神経炎との最大の違いは視力。 ・診断の中心は頭蓋内圧亢進の原因検索であり、頭部MRI(必要に応じてMRV)が最も有用。 ・腰椎穿刺は画像で占拠性病変を除外してから行う。 ・外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進の偽局在徴候であり、原因部位を示さない。
