格差・貧困・失業―数字で読む日本の社会経済と健康の土台
第105回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
我が国の近年の社会経済環境について正しいのはどれか。
- a.ジニ係数は年々低下している。
- b.生活保護の被保護者数は年々増加している。
- c.所得再分配の方法では社会保障の影響が減少傾向にある。
- d.OECD諸国の中では完全失業率が高い国の一つである。
- e.OECD諸国の中では相対的貧困率が低い国の一つである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
近年の日本では、高齢化や世帯の小規模化を背景に当初所得のジニ係数が長期的に上昇してきましたが、年金を中心とする社会保障による再分配が格差を抑えており、その影響はむしろ拡大してきました。完全失業率はOECD諸国の中で低い一方、相対的貧困率はOECD平均を上回り、特にひとり親世帯で高いという特徴があります。生活保護の被保護者数は出題当時(2011年)増加を続けて過去最多となっていましたが、その後2015年頃をピークに減少に転じており、時事統計の問題では最新データの確認が欠かせません。所得や雇用は健康の社会的決定要因であり、指標の意味と日本の傾向を理解しておくことは、患者の生活背景に目を向け、適切な社会資源につなぐ臨床の力にも結びつきます。
解答・解説
正解はbです
本問は2011年(平成23年)実施の国試で、当時の日本の格差・貧困・雇用に関する統計の動向を問うている。押さえるべき論点は次の通りである。 ・格差:所得の不平等度を示すジニ係数は、高齢化や単身・非正規雇用の増加などを背景に、再分配前の当初所得でみると長期的に上昇傾向にあった。 ・貧困:生活保護の被保護者数は1990年代半ばを底に増加を続け、2008年のリーマンショック後に急増して、出題当時は過去最多の水準に達していた。また相対的貧困率はOECD諸国の中で高い部類に属していた。 ・雇用:完全失業率は当時4〜5%程度で、欧州諸国などと比べると低い水準であった。 ・所得再分配:税による再分配効果は小さく、年金を中心とした社会保障給付による再分配の比重が大きく、しかも高齢化に伴い拡大していた。 これらを踏まえると、出題当時の状況として正しいのは「生活保護の被保護者数は年々増加している」である。なお被保護者数はその後2015年(平成27年)頃をピークに減少に転じており、現在の統計とは異なる点に注意が必要である。本問は時事的な統計に依存するため、現在の国試対策としての有用性は低い設問とされている。
選択肢考察
- ×a. ジニ係数は年々低下している。
ジニ係数は所得分配の不平等度を表す指標で、0(全員が同じ所得=完全平等)から1(一人が全所得を独占=完全不平等)の値をとり、1に近いほど格差が大きい。厚生労働省の所得再分配調査では、当初所得のジニ係数は高齢化や世帯の小規模化などの影響で長期的に上昇してきた(格差拡大)。低下しているという記述は誤りである。なお税・社会保障による再分配後のジニ係数は大きく変動せず、ほぼ横ばいで推移している。
- ○b. 生活保護の被保護者数は年々増加している。
生活保護の被保護者数は1995年頃に約88万人で底を打った後、景気低迷や高齢化を背景に増加し、2008年の世界金融危機(リーマンショック)以降は稼働年齢層を含めて急増した。2011年には約206万人となり、戦後の混乱期(1951年度)の最多記録を上回った。出題当時の動向として正しい。ただしその後は2015年(平成27年)頃の約217万人をピークに被保護者数は緩やかな減少に転じている。一方、被保護世帯数は高齢単身世帯の増加により高止まりが続き、世帯類型では高齢者世帯が半数以上を占める。
- ×c. 所得再分配の方法では社会保障の影響が減少傾向にある。
所得再分配は、税(主に累進課税の所得税)と社会保障(保険料の負担と、年金・医療・介護などの給付)を通じて行われる。日本では税による格差是正効果は小さく、再分配効果の大部分は社会保障、特に高齢者への年金給付によってもたらされている。高齢化により年金受給者が増えたことで、社会保障による再分配の影響(ジニ係数の改善度)はむしろ拡大してきた。減少傾向という記述は誤りである。
- ×d. OECD諸国の中では完全失業率が高い国の一つである。
完全失業率は、労働力人口(就業者+完全失業者)に占める完全失業者(働く意思と能力があり求職活動をしているが仕事に就いていない者)の割合である。日本の完全失業率はリーマンショック後の2009〜2011年でも5%前後にとどまり、OECD平均(当時8%前後)や、スペイン・ギリシャなど二桁に達した国々と比べて低い部類であった。現在はさらに低く、2〜3%程度で推移している。高い国の一つとする記述は誤りである。
- ×e. OECD諸国の中では相対的貧困率が低い国の一つである。
相対的貧困率は、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割ったもの)が全人口の中央値の半分(貧困線)に満たない人の割合である。日本の相対的貧困率は2000年代後半で15〜16%程度であり、OECD平均(約11%)を上回って、加盟国の中で高い方に位置していた。特にひとり親世帯の貧困率が50%前後と非常に高いことが問題視されている。低い国の一つとする記述は誤りである。
【ジニ係数とローレンツ曲線】世帯を所得の低い順に並べ、人数の累積比率を横軸、所得の累積比率を縦軸にとって描いた曲線がローレンツ曲線である。完全平等なら45度の直線(均等分布線)となる。ジニ係数は、均等分布線とローレンツ曲線に囲まれた面積の、均等分布線より下の三角形の面積に対する比として求める。 【当初所得と再分配所得】当初所得は雇用者所得・事業所得などの市場で得た所得、再分配所得は当初所得から税・社会保険料を差し引き、年金・医療・介護などの社会保障給付を加えたものである。高齢化が進むと、年金以外の所得が少ない高齢世帯が増えるため当初所得のジニ係数は上昇するが、年金給付によって再分配後の格差は抑えられる。 【絶対的貧困と相対的貧困】絶対的貧困は生存に必要な最低限の水準を満たせない状態で、世界銀行は1日あたりの所得額(国際貧困線、現在は2.15ドル)で定義している。相対的貧困は、その社会の標準的な生活水準(所得の中央値)と比較して著しく低い所得にある状態を指し、先進国の貧困の指標として用いられる。 【生活保護制度】日本国憲法第25条(生存権)の理念に基づき、生活保護法で定められる。保護の種類は生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8種類で、扶助費の約半分を医療扶助が占める。原則として国が3/4、地方自治体が1/4を負担する。 【完全失業率】総務省の労働力調査で把握される。景気の動向を反映し、リーマンショック後の2009年には5%台に上昇したが、その後は低下した。
POINT
・出題当時(2011年)は生活保護の被保護者数が増加を続け過去最多となっていた(その後2015年頃をピークに減少) ・当初所得のジニ係数は長期的に上昇(格差拡大) ・日本の所得再分配は税より社会保障(特に年金)の寄与が大きく、その影響は拡大してきた ・日本の完全失業率はOECD諸国の中で低い ・日本の相対的貧困率はOECD平均より高く、特にひとり親世帯で高い ・時事統計に依存する問題は、最新のデータで動向を確認しておく
