赤くならない腎臓病―「どこが壊れるか」で見抜く肉眼的血尿の出どころ
第105回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
肉眼的血尿を認めないのはどれか。
- a.腎梗塞
- b.多発性嚢胞腎
- c.紫斑病性腎炎
- d.慢性間質性腎炎
- e.ANCA関連腎炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血尿は、糸球体基底膜の破綻による糸球体性(紫斑病性腎炎、ANCA関連腎炎、IgA腎症など)と、腎実質や尿路からの出血による非糸球体性(腎梗塞、多発性嚢胞腎、尿路上皮癌、尿路結石など)に分けて考えると整理しやすくなります。慢性間質性腎炎は尿細管・間質が主に障害される疾患で、糸球体や大きな血管の破綻を伴わないため、尿所見は低分子蛋白主体の軽い蛋白尿や無菌性白血球尿にとどまり、肉眼的血尿は通常みられません。ただし鎮痛薬腎症による腎乳頭壊死では例外的に肉眼的血尿をきたしうる点に注意が必要です。臨床では、中高年の無症候性肉眼的血尿でまず尿路上皮癌を除外すること、ヘモグロビン尿やミオグロビン尿などの「血尿もどき」を区別することが重要です。「どこが壊れて出血するのか」という視点は、血尿をみたときの鑑別の土台になります。
解答・解説
正解はdです
肉眼的血尿とは、尿1Lに約1mL以上の血液が混じるなどして、目で見て赤色〜褐色(コーラ色)とわかる血尿をいう。顕微鏡で初めて赤血球が確認できるもの(尿沈渣で赤血球5個/HPF以上)は顕微鏡的血尿と呼ぶ。 血尿の出血源は大きく二つに分けて考えるとよい。 ・糸球体性血尿:糸球体基底膜の破綻による。急性糸球体腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎炎、急速進行性糸球体腎炎(ANCA関連腎炎など)が代表で、変形赤血球や赤血球円柱を伴い、褐色〜コーラ色の肉眼的血尿となることがある。 ・非糸球体性血尿:腎実質や尿路からの出血による。尿路上皮癌(膀胱癌・腎盂尿管癌)、腎細胞癌、尿路結石、出血性膀胱炎、多発性嚢胞腎、腎梗塞、腎動静脈奇形、前立腺肥大症などで、鮮紅色で凝血塊を伴うこともある。 これに対し、慢性間質性腎炎は尿細管と間質が主に障害される疾患で、糸球体の破綻も大きな血管の損傷も伴わないのが基本である。尿所見は乏しく、軽度の蛋白尿(尿細管性蛋白尿)や白血球尿、尿濃縮力低下などが中心で、肉眼的血尿をきたすことは通常ない。したがって「肉眼的血尿を認めない」ものとして慢性間質性腎炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 腎梗塞
腎動脈やその分枝が塞栓(心房細動による心原性塞栓が多い)や血栓で閉塞し、腎実質が虚血壊死に陥る疾患である。突然の側腹部痛・腰背部痛で発症し、壊死組織からの出血により血尿を伴う。顕微鏡的血尿の頻度が高いが、肉眼的血尿を呈することもあり、血尿をきたす疾患に含まれる。血清LDの著明な上昇も特徴で、造影CTで楔状の造影欠損を認める。
- ×b. 多発性嚢胞腎
常染色体顕性(優性)遺伝の多発性嚢胞腎(ADPKD)では、両側の腎臓に多数の嚢胞ができて腎が腫大する。嚢胞内の出血が尿路へ破綻して肉眼的血尿を起こすことがあり、患者の約4割が経過中に経験するとされる。激しい運動や外傷、尿路感染などが誘因となりやすい。嚢胞出血・嚢胞感染・腎結石は本症の代表的な合併症である。
- ×c. 紫斑病性腎炎
IgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)に伴う腎炎で、糸球体メサンギウム領域にIgAが沈着し、組織像はIgA腎症と類似する。上気道感染などを契機に、紫斑・腹痛・関節痛とともに糸球体性の血尿を呈し、肉眼的血尿をみることも多い。重症例では半月体を形成しネフローゼ症候群や腎機能低下をきたす。
- ○d. 慢性間質性腎炎
尿細管・間質の慢性炎症と線維化を主病変とする疾患で、原因として薬剤(鎮痛薬、リチウムなど)、重金属(鉛など)、Sjögren症候群などの自己免疫疾患、高尿酸血症、慢性の尿路閉塞・逆流などがある。尿所見は軽度の蛋白尿(β2ミクログロブリンなどの低分子蛋白が主体)や無菌性白血球尿が中心で、多尿・尿濃縮障害、尿細管性アシドーシスなどの尿細管機能障害が前景に立つ。糸球体障害を主体としないため、肉眼的血尿は通常みられず、本問の正解である。なお、鎮痛薬腎症で腎乳頭壊死を合併した場合には例外的に肉眼的血尿をきたすことがある。
- ×e. ANCA関連腎炎
抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与する血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症など)による腎炎で、糸球体係蹄の壊死と半月体形成を特徴とし、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の代表的な原因である。糸球体基底膜が破綻するため血尿はほぼ必発で、肉眼的血尿を呈することもある。数週〜数か月で腎機能が急速に悪化するため、早期診断と免疫抑制療法が重要となる。
肉眼的血尿をきたす主な疾患
・腫瘍:膀胱癌・腎盂尿管癌(尿路上皮癌)、腎細胞癌、前立腺癌 ・結石・感染:尿路結石、出血性膀胱炎(細菌、アデノウイルス、シクロホスファミドなど) ・血管性:腎梗塞、腎動静脈奇形、ナットクラッカー現象(左腎静脈の圧迫) ・嚢胞性:多発性嚢胞腎 ・糸球体疾患:急性糸球体腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎炎、ANCA関連腎炎、抗GBM抗体病 ・その他:前立腺肥大症、外傷、腎乳頭壊死(糖尿病、鎮痛薬腎症、鎌状赤血球症など) 【無症候性の肉眼的血尿は癌を疑う】特に中高年で痛みを伴わない肉眼的血尿は尿路上皮癌を強く疑い、尿細胞診、膀胱鏡、造影CTなどで精査する。 【糸球体性と非糸球体性の区別】尿沈渣で変形赤血球(dysmorphic RBC)や赤血球円柱がみられれば糸球体性を示唆する。肉眼的には、糸球体性は褐色〜コーラ色で凝血塊がないことが多く、非糸球体性は鮮紅色で凝血塊を伴うことがある。 【血尿と紛らわしい赤色尿】ヘモグロビン尿(溶血)、ミオグロビン尿(横紋筋融解)ではヘムを含むため尿潜血反応は陽性になるが、沈渣に赤血球はみられない。ビーツ摂取やリファンピシンなどの薬剤でも尿が赤くなる。 【間質性腎炎の尿所見】急性間質性腎炎(主に薬剤性)では発熱・皮疹・好酸球増多、尿中好酸球などがみられ、顕微鏡的血尿を伴うことはあるが、肉眼的血尿はまれである。慢性間質性腎炎では尿所見は乏しく、尿細管機能障害が中心となる。
POINT
・肉眼的血尿は糸球体性(腎炎)と非糸球体性(腫瘍、結石、嚢胞、血管性病変など)に分けて考える ・腎梗塞、多発性嚢胞腎、紫斑病性腎炎、ANCA関連腎炎はいずれも肉眼的血尿をきたしうる ・慢性間質性腎炎は尿細管・間質の疾患で、尿所見は乏しく肉眼的血尿は通常みられない ・無症候性肉眼的血尿では尿路上皮癌を必ず除外する
