喘鳴は心臓からも聞こえる―「どこにうっ滞するか」で分ける左心不全と右心不全
第105回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
左心不全でみられる身体所見はどれか。
- a.頸静脈怒張
- b.呼気性喘鳴
- c.下腿浮腫
- d.肝腫大
- e.腹水
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
心不全の所見は、どちらの心室のポンプ機能が低下し、どこに血液がうっ滞するかで整理できます。左心不全では肺静脈圧が上昇して肺うっ血・肺水腫をきたし、労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起座呼吸、水泡音、Ⅲ音に加えて、気道浮腫や気管支攣縮による呼気性喘鳴(心臓喘息)がみられます。一方、頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水は体静脈うっ血による右心不全の所見で、胸水は左右どちらでも生じえます。左心不全は長期化すると肺高血圧を介して両心不全に移行するため、実臨床では所見が混在することも多く、喘鳴を見たら喘息だけでなく心不全も考える視点が重要です。うっ滞の部位から所見を導く考え方を身につければ、暗記に頼らず身体診察の解釈ができるようになります。
解答・解説
正解はbです
心不全の症状・徴候は、どちらの心室のポンプ機能が落ちて、どこに血液がうっ滞するかを考えると整理しやすい。 【左心不全】左室が肺静脈から戻ってきた血液を十分に送り出せないため、左室拡張末期圧→左房圧→肺静脈圧→肺毛細血管圧の順に圧が上がり、肺にうっ血が起こる(肺うっ血)。さらに進むと、血管から間質・肺胞へ水分が漏れ出して肺水腫となる。症状としては労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起座呼吸が、身体所見としては両下肺の水泡音(coarse crackles)、喘鳴、Ⅲ音(奔馬調律)などがみられる。また心拍出量が低下するため、易疲労感・四肢冷感・尿量減少といった低灌流の所見も伴う。 【右心不全】右室が全身から戻る静脈血を肺へ送り出せないため、右房圧・中心静脈圧が上昇し、体循環の静脈系にうっ血が起こる(体静脈うっ血)。頸静脈怒張、肝腫大(うっ血肝)、下腿浮腫、腹水、胸水、体重増加、消化管うっ血による食欲不振などが現れる。 本問は「左心不全でみられる身体所見」を問うており、肺うっ血を反映する所見を選べばよい。選択肢のうち肺うっ血に由来するのは呼気性喘鳴のみで、他の4つはいずれも体静脈圧の上昇による右心不全の所見である。
選択肢考察
- ×a. 頸静脈怒張
頸静脈は右房と弁を介さずにつながっているため、頸静脈の怒張は右房圧(中心静脈圧)の上昇を直接反映する。健常者でも仰臥位では頸静脈がある程度見えることがあるが、45°程度の半座位や座位で怒張が確認されれば静脈圧の上昇を意味し、右心不全の徴候である。なお左心不全が長期化すると肺高血圧を介して右心不全を合併し(両心不全)、頸静脈怒張が出現することもあるが、左心不全そのものの所見ではない。
- ○b. 呼気性喘鳴
左心不全では肺静脈圧・肺毛細血管圧が上昇して肺うっ血・肺水腫をきたす。気管支壁の浮腫や気道周囲の間質浮腫によって末梢気道が狭くなり、さらに気管支の反射性攣縮も加わるため、気管支喘息に似た呼気性の喘鳴(wheezes)を聴取することがある。この状態は心臓喘息と呼ばれ、特に夜間の発作性呼吸困難時に目立つ。肺うっ血を反映する所見であり、左心不全でみられる身体所見として正しい。両側下肺野の水泡音(coarse crackles)とともに聴取されることが多い。
- ×c. 下腿浮腫
体静脈圧が上昇すると毛細血管の静水圧が高まり、間質へ水分が漏れ出す。重力の影響で下腿など身体の低い部位に出やすく、指で押すと圧痕が残る圧痕性浮腫(pitting edema)となる。体静脈うっ血による所見であり、右心不全の徴候である。
- ×d. 肝腫大
右房圧が上昇すると下大静脈・肝静脈を通じて肝臓に血液がうっ滞し、うっ血肝となって肝臓が腫大する。圧痛を伴うことがあり、肝臓を圧迫すると頸静脈怒張が増強する肝頸静脈逆流(hepatojugular reflux)も右心系の圧上昇を示す所見である。右心不全の徴候である。
- ×e. 腹水
体静脈圧・門脈系の圧が上昇すると、腹腔内に漏出性の液体が貯留し腹水となる。下腿浮腫や肝腫大と同じく体静脈うっ血による所見であり、右心不全の徴候である。
左心不全と右心不全の所見の整理
左心不全(肺うっ血+心拍出量低下) ・症状:労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起座呼吸、咳嗽、泡沫状(ピンク色)痰 ・身体所見:両下肺の水泡音、喘鳴(心臓喘息)、Ⅲ音・奔馬調律、頻脈、交互脈、四肢冷感 ・胸部X線:心拡大、肺血管陰影の増強(上肺野への血流再分布)、Kerley B線、butterfly shadow(肺門部中心の蝶形陰影) 右心不全(体静脈うっ血) ・頸静脈怒張、肝頸静脈逆流、肝腫大(うっ血肝)、下腿浮腫、腹水、体重増加、食欲不振・腹部膨満感 【胸水について】胸水は左右どちらの心不全でもみられうる。臓側胸膜の静脈は肺静脈へ、壁側胸膜の静脈は体静脈へ還流するためで、臨床的には両心不全で出やすい。 【起座呼吸の機序】臥位では下半身からの静脈還流が増えて肺うっ血が悪化する。座位になると静脈還流が減り、横隔膜も下がるため呼吸が楽になる。 【両心不全】左心不全が続くと肺静脈圧の上昇が肺動脈圧の上昇(肺高血圧)を招き、右室の負荷が増して右心不全を合併する。したがって実際の臨床では左右の所見が混在することが多い。
POINT
・左心不全の所見は肺うっ血によるもの:呼吸困難、起座呼吸、水泡音、喘鳴(心臓喘息)、Ⅲ音 ・右心不全の所見は体静脈うっ血によるもの:頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水 ・胸水は左右いずれの心不全でも生じうる ・「どこに血液がうっ滞するか」から所見を導けるようにする
