「抑制されない」はどこまで本当か―Cushing病を共通所見と病型鑑別の2段で読み解く
第105回医師国家試験 A問題 第16問
国試問題にチャレンジ
Cushing病でみられる検査所見はどれか。2つ選べ。
- a.白血球増多がみられる。
- b.血中コルチゾールの日内変動が消失する。
- c.CRH試験で血中コルチゾールの低下を認める。
- d.131I-MIBGシンチグラムで両側副腎の集積像を認める。
- e.高用量デキサメタゾン投与によって血中コルチゾール分泌が抑制されない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Cushing病は下垂体ACTH産生腺腫によるCushing症候群で、検査所見は「コルチゾール過剰に共通する所見」と「病型を区別する所見」に分けて整理すると理解しやすくなります。白血球(好中球)増多、リンパ球・好酸球減少、コルチゾールの日内変動消失は、病型を問わずみられる共通所見です。Cushing病の腺腫は調節への反応性をある程度保つため、CRH試験でACTH・コルチゾールが過剰に上昇し、高用量(8mg)デキサメタゾンで抑制されます。一方、異所性ACTH産生腫瘍や副腎腫瘍は高用量でも抑制されません。MIBGシンチは副腎髄質(褐色細胞腫など)の検査で、副腎皮質の評価にはアドステロールシンチを用います。共通所見で過剰状態を確かめ、負荷試験と画像で原因部位を絞るという2段階の考え方は、内分泌疾患の診断全般に応用できます。
解答・解説
正解はa, bです
Cushing病とは、下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腺腫によって副腎が刺激され、コルチゾールが過剰に分泌される病態である。コルチゾール過剰状態全体を指す「Cushing症候群」のうち、下垂体性のものだけを特に「Cushing病」と呼ぶ。 本問の選択肢は、大きく2種類に分けて考えると整理しやすい。
1. コルチゾール過剰そのものによる所見(Cushing症候群の病型によらず共通)
コルチゾールが持続的に過剰であることを反映する所見で、Cushing病、副腎腺腫によるCushing症候群、異所性ACTH産生腫瘍のいずれでもみられる。血算の変化(白血球・好中球増多、リンパ球・好酸球減少)、高血糖、低カリウム血症(特に異所性で高度)、そしてコルチゾール分泌の日内変動の消失などがこれに当たる。
2. 病型(原因部位)を区別するための所見
Cushing病の腺腫は、ACTHを過剰に出してはいるものの、視床下部-下垂体系の調節に対する反応性をある程度保っている点が特徴である。そのため、 ・CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を投与すると、ACTHとコルチゾールがさらに上昇する(過剰反応)。 ・通常量のデキサメタゾンでは抑制されないが、高用量(8mg)では抑制される。 一方、異所性ACTH産生腫瘍や副腎腫瘍は、これらの負荷に反応しないのが原則である。 以上を踏まえ、各選択肢がCushing病に当てはまるかを判断する。
選択肢考察
- ○a. 白血球増多がみられる。
グルココルチコイドは、骨髄からの好中球動員を促し、また好中球が血管壁から離れて循環血中に出てくる(辺縁プールから循環プールへの移動)ことで、好中球数を増やす。一方、リンパ球と好酸球はアポトーシス誘導や組織への再分布によって減少する。その結果、総白血球数としては増加する。これはコルチゾール過剰の作用によるものなので、Cushing病を含むすべての病型のCushing症候群でみられる。
- ○b. 血中コルチゾールの日内変動が消失する。
健常者ではACTH・コルチゾールは早朝に最も高く、夜間(深夜)に最低となる日内変動を示す。Cushing症候群では腫瘍からの自律的な分泌によりこのリズムが失われ、本来低くなるはずの深夜にもコルチゾールが高値のまま保たれる。深夜の血中コルチゾールや唾液中コルチゾールの測定は、Cushing症候群のスクリーニング・診断に用いられる。病型を問わず認められる所見である。
- ×c. CRH試験で血中コルチゾールの低下を認める。
Cushing病の下垂体腺腫はCRH受容体をもち、CRHへの反応性を保っているため、CRH投与によってACTHが過剰に上昇し、それに続いて血中コルチゾールも上昇する。コルチゾールが低下することはない。なお、異所性ACTH産生腫瘍では多くの場合CRHに反応せず、副腎腫瘍によるCushing症候群ではACTHが抑制されているため反応しない。CRH試験はCushing病と他病型の鑑別に用いられる。
- ×d. 131I-MIBGシンチグラムで両側副腎の集積像を認める。
MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)はノルアドレナリンに類似した構造をもち、交感神経終末や副腎髄質のカテコールアミン貯蔵顆粒に取り込まれる。そのためMIBGシンチグラフィは副腎髄質系のシンチグラフィであり、褐色細胞腫・パラガングリオーマや神経芽腫の部位診断に用いられる。Cushing症候群の副腎病変の評価に用いるのは、コレステロール類似体を標識した副腎皮質シンチグラフィ(131I-アドステロールシンチグラフィ)である。Cushing病ではACTH刺激により両側副腎皮質が過形成となり、アドステロールで両側に集積がみられる。
- ×e. 高用量デキサメタゾン投与によって血中コルチゾール分泌が抑制されない。
Cushing病の腺腫はグルココルチコイドによるネガティブフィードバックの感受性が低下しているものの、完全には失われていない。そのため少量(日本の診断基準では0.5mg、一般には1mg)のデキサメタゾンでは抑制されないが、高用量(8mg)では抑制され、血中コルチゾールが前値の半分以下に低下するのが典型である。高用量でも抑制されないのは、フィードバック機構をもたない異所性ACTH産生腫瘍や副腎腫瘍によるCushing症候群である。
Cushing症候群の病型分類
ACTH依存性 ・Cushing病(下垂体ACTH産生腺腫):最も多い。女性に多い。 ・異所性ACTH産生腫瘍(肺小細胞癌、カルチノイドなど):進行が速く、低カリウム血症や色素沈着が強い。 ACTH非依存性 ・副腎腺腫(副腎性Cushing症候群)、副腎癌、両側副腎皮質過形成(原発性両側大結節性副腎皮質過形成など) ・外因性(医原性):グルココルチコイド投与によるもので、臨床上最も頻度が高い。
病型ごとの検査所見の比較
血中ACTH:Cushing病は正常〜軽度高値、異所性は著明高値、副腎性は低値(抑制)。 少量デキサメタゾン抑制試験:いずれも抑制されない(Cushing症候群の確認)。 高用量(8mg)デキサメタゾン抑制試験:Cushing病は抑制される、異所性・副腎性は抑制されない。 CRH試験:Cushing病はACTH過剰反応、異所性・副腎性は無〜低反応。 副腎シンチ(131I-アドステロール):Cushing病・異所性は両側集積、副腎腺腫は腫瘍側のみ集積し対側は抑制される。
部位診断
Cushing病では下垂体MRIで腺腫を探すが、微小腺腫で描出されないことも多い。その場合、下錐体静脈洞サンプリングで中枢と末梢のACTH濃度差を調べ、下垂体由来であることを確認する。
臨床症状
中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩、赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化・易出血性、近位筋の筋力低下、高血圧、耐糖能異常、骨粗鬆症、月経異常、精神症状などがみられる。
治療
Cushing病の第一選択は経蝶形骨洞手術による腺腫摘出である。
POINT
・Cushing病=下垂体ACTH産生腺腫によるCushing症候群。 ・白血球(好中球)増多、リンパ球・好酸球減少、コルチゾールの日内変動消失はすべてのCushing症候群に共通する。 ・Cushing病の特徴:CRH試験でACTH・コルチゾールが過剰反応し、高用量(8mg)デキサメタゾンで抑制される。 ・異所性ACTH産生腫瘍と副腎性Cushing症候群は高用量デキサメタゾンでも抑制されない。 ・MIBGシンチは副腎髄質(褐色細胞腫)用、Cushing症候群の副腎評価にはアドステロールシンチを用いる。
