声がかすれるだけか、息ができなくなるか―喉頭疾患を「気道の最狭部」で見分ける
第105回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
呼吸困難をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.声帯結節
- b.喉頭肉芽腫
- c.咽喉頭異常感症
- d.急性声門下喉頭炎
- e.両側反回神経麻痺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
咽頭・喉頭疾患が呼吸困難をきたすかどうかは、気道の最狭部(成人では声門、小児では声門下腔)を大きく狭めるかで判断します。急性声門下喉頭炎(クループ)は乳幼児の声門下粘膜の浮腫で、犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴・steeple signを特徴とし、アドレナリン吸入とステロイドで治療します。両側反回神経麻痺では声帯が正中位〜傍正中位に固定されて吸気時に開かず、声は比較的保たれる一方で呼吸困難をきたし、片側麻痺の嗄声・誤嚥とは対照的です。声帯結節や喉頭肉芽腫は嗄声の原因にとどまり、咽喉頭異常感症は器質的異常がないため呼吸困難はきたしませんが、悪性腫瘍の除外は欠かせません。急性喉頭蓋炎なども含め、「声の病気」と「気道の病気」を区別して捉えることは、救急での上気道閉塞の早期認識に直結します。
解答・解説
正解はd, eです
上気道のうち最も内腔が狭いのは喉頭の声門部であり、小児ではその直下の声門下腔(輪状軟骨の高さ)が最狭部となる。したがって、呼吸困難をきたす咽頭・喉頭の病態を考えるときは「声門〜声門下の気道の断面積を大きく減らすかどうか」を基準に判断するとよい。 気道を狭める仕組みは大きく二つに分けられる。一つは炎症や浮腫による粘膜の腫れ(急性声門下喉頭炎、急性喉頭蓋炎など)、もう一つは声帯が開かなくなる運動障害(両側反回神経麻痺など)である。これに対し、声帯の一部に小さな病変ができるもの(声帯結節、喉頭肉芽腫)は、主に声帯の振動を乱して嗄声(声のかすれ)を起こすにとどまり、気道を塞ぐほど大きくなることはほとんどない。また、自覚症状だけで器質的病変がない咽喉頭異常感症では、気道狭窄そのものが存在しない。 以上から、気道狭窄を起こし得る急性声門下喉頭炎と両側反回神経麻痺の2つを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 声帯結節
声帯結節は、声の酷使によって両側声帯の前1/3付近(膜様部の中央)に左右対称に生じる小さな隆起である。歌手・教師・保育士や、よく大声を出す小児(学童期の男児)に多い。発声時に声門が完全に閉じなくなるため嗄声を生じるが、病変は小さく、呼吸時の気道を狭めるほどにはならない。治療は声の安静や音声治療が基本で、改善しなければ喉頭微細手術を行う。呼吸困難の原因とはならない。
- ×b. 喉頭肉芽腫
喉頭肉芽腫は、声帯後方の披裂軟骨声帯突起部に好発する肉芽組織の隆起である。気管挿管チューブによる粘膜の損傷(挿管性肉芽腫)、胃酸の逆流(咽喉頭酸逆流症)、強い咳払いや声の乱用などによる機械的刺激が原因となる。症状は無症状か、咽喉頭の違和感・嗄声程度であることが多い。巨大化して気道を塞ぐことはきわめてまれであり、呼吸困難をきたす疾患としては選ばない。治療はプロトンポンプ阻害薬などによる逆流対策や声の安静が中心で、自然消退することも多い。
- ×c. 咽喉頭異常感症
咽喉頭異常感症は、「のどに何かがつかえている」「のどに異物感がある」などと訴えるものの、診察・検査で症状を説明できる器質的病変が見つからない状態をいう(咽喉頭神経症とも呼ばれ、ヒステリー球と呼ばれることもある)。背景に心理的要因、胃食道逆流、甲状腺疾患などが関わることがある。ただし、診断にあたっては咽頭癌・喉頭癌・食道癌などの悪性腫瘍を除外することが重要である。気道の狭窄はないため、呼吸困難は生じない。
- ○d. 急性声門下喉頭炎
急性声門下喉頭炎は、いわゆるクループ(ウイルス性クループ、喉頭気管気管支炎)の中心となる病態で、主にパラインフルエンザウイルスなどのウイルス感染により声門下の粘膜が発赤・浮腫をきたす。生後6か月〜3歳ごろの乳幼児に多い。小児では声門下腔が気道の最狭部であり、しかも輪状軟骨で周囲を囲まれて外側に広がれないため、わずかな粘膜浮腫でも内腔が大きく狭くなる(気道抵抗は半径の4乗に反比例する)。その結果、犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)、嗄声、吸気性喘鳴が出現し、重症例では陥没呼吸を伴う呼吸困難をきたす。頸部X線正面像では声門下の先細り像(steeple sign、尖塔状陰影)がみられる。治療はアドレナリン吸入と副腎皮質ステロイド投与が中心である。呼吸困難をきたすため正しい。
- ○e. 両側反回神経麻痺
反回神経は迷走神経の枝で、声帯を開く唯一の筋である後輪状披裂筋を含む内喉頭筋の大部分を支配する。両側が麻痺すると、声帯は正中位ないし傍正中位(正中寄り)に固定され、吸気時に声門を開くことができなくなる。そのため声門が狭いまま残り、吸気性喘鳴と呼吸困難をきたす。声帯が正中近くにあるため、声は比較的保たれることが多い点が特徴である(片側麻痺では逆に声門閉鎖不全による気息性嗄声や誤嚥が主症状となり、呼吸困難は通常きたさない)。原因としては甲状腺手術、甲状腺癌・食道癌などの悪性腫瘍、外傷、気管挿管などのほか、原因不明のものもある。高度の呼吸困難では気管切開による気道確保が必要となる。呼吸困難をきたす代表的疾患であり正しい。
上気道狭窄をきたす主な疾患
・炎症・浮腫によるもの: 急性喉頭蓋炎(主にインフルエンザ菌b型などの細菌感染。高熱、強い咽頭痛、嚥下困難、流涎、含み声。座位・前傾姿勢をとる。頸部X線側面像でthumb sign)、急性声門下喉頭炎(クループ)、血管性浮腫(遺伝性血管性浮腫、薬剤性など)、アナフィラキシーによる喉頭浮腫、深頸部膿瘍 ・運動障害によるもの: 両側反回神経麻痺、両側声帯麻痺をきたす中枢性疾患(多系統萎縮症では睡眠中の声帯外転障害による喘鳴がみられる) ・腫瘤によるもの: 進行した喉頭癌(特に声門下癌や声門癌の進展例)、下咽頭癌、乳頭腫(小児の若年型は多発・再発しやすい) ・その他: 喉頭軟弱症(乳児の吸気性喘鳴の最多原因)、声門下狭窄(先天性・長期挿管後)、気道異物
嗄声のみで呼吸困難をきたしにくい疾患
声帯結節、声帯ポリープ、ポリープ様声帯(Reinke浮腫。ただし高度になると呼吸困難をきたすことがある)、喉頭肉芽腫、片側反回神経麻痺
反回神経の解剖
左反回神経は大動脈弓、右反回神経は右鎖骨下動脈を前から後ろへ回って反転し、気管食道溝を上行して喉頭に入る。左の方が走行が長いため、縦隔病変(大動脈瘤、肺癌、縦隔リンパ節転移など)で障害されやすい。
POINT
・気道の最狭部は成人では声門、小児では声門下腔であり、ここを狭める病態が呼吸困難をきたす。 ・急性声門下喉頭炎(クループ): 乳幼児、犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴、steeple sign、治療はアドレナリン吸入とステロイド。 ・両側反回神経麻痺: 声帯が正中位〜傍正中位に固定し呼吸困難(声は比較的保たれる)。片側麻痺は嗄声・誤嚥が主。 ・声帯結節・喉頭肉芽腫は嗄声の原因であり、呼吸困難はきたさない。 ・咽喉頭異常感症は器質的異常がなく呼吸困難はない(悪性腫瘍の除外が重要)。
