「口から入って慢性化しない」のに怖い―E型肝炎を肝炎ウイルス比較で攻略する
第105回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
E型肝炎ウイルスについて正しいのはどれか。
- a.母子感染する。
- b.肝硬変の原因となる。
- c.劇症肝炎の原因となる。
- d.熱処理で不活化しない。
- e.B型肝炎ウイルスとの重複感染が多い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
E型肝炎ウイルスはエンベロープをもたないRNAウイルスで、日本では豚・イノシシ・シカの生肉や加熱不十分なレバーなどを介した経口感染が中心です。A型肝炎と同様に原則として慢性化せず肝硬変の原因とはなりませんが、一部は劇症肝炎(急性肝不全)をきたし、特に妊娠後期の妊婦では劇症化しやすく死亡率が高いことが知られています。加熱で不活化されるため、肉を中心部まで十分に加熱することが予防の基本です。母子感染が重要なのはB型、肝硬変の主な原因となるのはB型・C型、B型との重複感染はD型と、他の肝炎ウイルスとの対比で整理しておくと選択肢を見分けやすくなります。免疫抑制患者では例外的に慢性化しうることも含めて押さえておくと、急性肝炎の診療で食歴を聞く意味が理解できます。
解答・解説
正解はcです
E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)の特徴を問う問題である。肝炎ウイルスは「どのように感染するか(経口か血液・体液か)」と「慢性化するか」の二つの軸で整理すると理解しやすい。
経口感染型と血液感染型
A型肝炎ウイルス(HAV)とHEVは、汚染された水や食品を介して口から感染する(糞口感染・経口感染)。どちらも急性肝炎を起こし、免疫が正常な人では原則として慢性化しない。一方、B型(HBV)、C型(HCV)、D型(HDV)肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染し、慢性肝炎から肝硬変・肝細胞癌へ進展しうる。
HEVの位置づけ
HEVはエンベロープ(脂質の外膜)をもたない一本鎖RNAウイルスである。途上国では飲料水の汚染による流行がみられ、日本では豚・イノシシ・シカの肉や内臓(特にレバー)を生あるいは加熱不十分な状態で食べることによる、動物由来の散発的な感染が中心である。多くは不顕性感染か自然に治る急性肝炎で終わるが、一部は劇症化(急性肝不全)する。特に妊婦、なかでも妊娠後期の女性が感染すると重症化・劇症化しやすく、死亡率が高いことがよく知られている。 したがって「劇症肝炎の原因となる」が正しい記述であり、その他の選択肢は他の肝炎ウイルスの特徴と混同させるためのものである。
選択肢考察
- ×a. 母子感染する。
HEVの主な感染経路は経口感染(汚染水や、豚・イノシシ・シカの生肉・加熱不十分な肉の摂取)であり、母子感染は臨床上問題となる感染経路ではない。母子感染(主に出産時の産道感染)が重要なのはHBVであり、HBs抗原陽性の母親から生まれた児には出生直後にB型肝炎免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンを投与して感染を予防する。HCVも母子感染しうるが頻度は数%程度と低い。なお、HEVの流行地で妊婦が重症感染した場合に胎児への感染が報告されることはあるが、一般的な特徴として問われる感染経路ではない。
- ×b. 肝硬変の原因となる。
HEVは原則として急性肝炎で終わり、免疫が正常な人では慢性化しないため、肝硬変の原因とはならない。肝硬変の主な原因となるのは、慢性化するHBV・HCV(およびHBVに重複するHDV)であり、そのほかアルコール性肝障害や代謝異常関連脂肪性肝疾患(旧NAFLD/NASH)などがある。なお例外として、臓器移植後などで強い免疫抑制下にある患者では、HEV(主に遺伝子型3)が慢性感染となり肝線維化・肝硬変に進行した報告がある。ただし一般的な特徴としては「慢性化しない」と理解してよい。
- ○c. 劇症肝炎の原因となる。
HEV感染の大部分は不顕性か自然治癒する急性肝炎であるが、一部は急激に肝細胞が壊死して肝不全に陥る劇症肝炎(急性肝不全)をきたす。A型肝炎と比べて重症化・劇症化の割合が高いとされ、特に妊婦(妊娠後期)では劇症化しやすく、母体死亡率が高いことが知られている。また高齢者や、もともと慢性肝疾患をもつ人も重症化しやすい。日本でも豚レバーや野生動物の肉の摂取が原因と考えられる劇症化・死亡例が報告されている。
- ×d. 熱処理で不活化しない。
HEVは加熱により不活化される。だからこそ感染予防の基本は、豚肉・豚レバー・野生鳥獣肉(ジビエ)を生で食べず、中心部まで十分に加熱してから食べることである。エンベロープをもたないため、アルコール消毒などにはやや抵抗性があるが、「熱処理で不活化しない」という記述は誤りである。
- ×e. B型肝炎ウイルスとの重複感染が多い。
HBVとの重複感染が問題となるのはD型肝炎ウイルス(HDV)である。HDVは自らの外殻をつくれない不完全なRNAウイルスで、増殖にHBVのHBs抗原を借りる必要があるため、HBVと同時に感染する(同時感染:coinfection)か、HBVキャリアに後から感染する(重複感染:superinfection)かのいずれかでしか感染が成立しない。HEVは単独で増殖でき、HBVとの重複感染が多いという特徴はない。
肝炎ウイルスの比較
A型:RNAウイルス(エンベロープなし)。経口感染。貝類(カキなど)の生食や流行地への渡航で感染。慢性化しない。ワクチンあり。 B型:DNAウイルス(エンベロープあり)。血液・体液感染(母子感染、性行為感染、針刺し事故など)。乳幼児期の感染では持続感染(キャリア化)しやすい。慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因。ワクチンあり(定期接種)。 C型:RNAウイルス(エンベロープあり)。血液感染。成人感染でも高率に慢性化し、肝硬変・肝細胞癌の原因。直接作用型抗ウイルス薬(DAA)で高率にウイルス排除が可能。 D型:RNAウイルス(不完全ウイルス)。HBV存在下でのみ感染。HBVキャリアへの重複感染では重症化・慢性化しやすい。日本ではまれ。 E型:RNAウイルス(エンベロープなし)。経口感染(人獣共通感染症)。原則として慢性化しない。妊婦で劇症化しやすい。
E型肝炎の臨床
潜伏期は約6週(2〜9週程度)で、A型肝炎(約4週)より長い。症状は発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸など、他の急性肝炎と同様である。診断にはIgA型HEV抗体(日本で保険適用)やHEV-RNAの検出を用いる。多くは対症療法で自然に治癒する。 日本の感染源としては、豚レバーの生食・加熱不十分な摂取、イノシシやシカの肉の生食が重要である。まれに輸血による感染もあり、献血血液のHEV-RNA検査が行われている。E型肝炎は感染症法の四類感染症で、診断した医師は直ちに届け出る。
慢性E型肝炎
臓器移植後、HIV感染症、血液悪性腫瘍に対する化学療法中など、免疫不全状態の患者ではHEVが排除されず慢性化し、肝硬変に至ることがある。免疫抑制薬の減量やリバビリン投与が行われる。
POINT
・E型肝炎は経口感染(豚・イノシシ・シカの生肉やレバー、汚染水)で、A型肝炎と同様に原則慢性化しない。 ・劇症化することがあり、特に妊婦(妊娠後期)で劇症化しやすく死亡率が高い。 ・加熱で不活化されるため、予防は肉を十分に加熱すること。 ・母子感染が重要なのはB型、慢性化して肝硬変の原因となるのはB型・C型、HBVとの重複感染はD型。 ・例外として、免疫抑制患者ではE型肝炎が慢性化しうる。
