肥大した陰核、触れない性腺―新生児の外性器異常は「せき止められた前駆体」17-OHPで診断する
第104回医師国家試験 I問題 第75問
国試問題にチャレンジ
生後0日の新生児。外性器の異常があり診察を依頼された。外性器は女性型であるが,陰核が肥大し,尿道と腟とが共通の瘻孔を形成している。鼠径部に腫瘤を触知しない。 確定診断に有用な血液検査項目はどれか。
- a.アルドステロン
- b.テストステロン
- c.プロゲステロン
- d.ヒト絨毛性ゴナドトロピン
- e.17α-ヒドロキシプロゲステロン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
女性型の外性器に陰核肥大や尿生殖洞の遺残がみられるのは胎生期の過剰なアンドロゲン曝露のサインであり、性腺を触れなければ46,XX児の男性化を考え、その最多原因は先天性副腎皮質過形成、なかでも約90%を占める21-水酸化酵素欠損症です。本症ではコルチゾール低下からACTHが過剰となり、酵素の手前に蓄積した17-OHPが副腎アンドロゲンへ流れ込むため、血中17-OHPの著明高値が確定診断の決め手となり、新生児マススクリーニングでも測定されています。アルドステロンは病型で異なり、テストステロンやプロゲステロンは特異性に乏しく、hCGは無関係です。塩類喪失型では生後1〜2週に低Na・高K血症から副腎クリーゼに至りうるため、早期診断とヒドロコルチゾン・鉱質コルチコイド補充が重要です。「障害部位の直前にたまる物質を測る」という考え方は、ほかの病型や先天代謝異常の理解にも応用できます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・生後0日の新生児で、出生時から外性器の異常がある。 ・外性器の基本形は女性型であるが、陰核が肥大している(男性化徴候)。 ・尿道と腟が別々に開口せず、共通の開口部(尿生殖洞の遺残)を形成している。 ・鼠径部に腫瘤(下降途中の精巣)を触れない。
診断へのプロセス
外性器の発生は胎生期のアンドロゲン(特にジヒドロテストステロン)の作用で決まる。アンドロゲンにさらされなければ女性型に、十分にさらされれば男性型に分化する。陰核肥大や尿生殖洞の遺残(腟下部と尿道はいずれも尿生殖洞に由来し、アンドロゲンの作用で両者の分離が妨げられると共通の開口部が残る)は、胎生期の過剰なアンドロゲン曝露を示す。 触知できる性腺がないことから、精巣をもつ46,XY児の男性化不全よりも、卵巣をもつ46,XX児が過剰なアンドロゲンによって男性化した状態(46,XX性分化疾患、かつての女性仮性半陰陽)がまず考えられる。その原因として最も多いのが先天性副腎皮質過形成(congenital adrenal hyperplasia:CAH)であり、CAHの約90%は21-水酸化酵素欠損症である。 21-水酸化酵素が欠損すると、17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)から11-デオキシコルチゾール、プロゲステロンから11-デオキシコルチコステロンへの変換が進まず、コルチゾール(および病型によってはアルドステロン)の産生が低下する。コルチゾール低下によるネガティブフィードバックの解除でACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰に分泌され、副腎は過形成となる。行き場を失った前駆体、特に17-OHPが著明に蓄積し、それが副腎アンドロゲン合成経路へ流れ込むため、女児では胎生期から外性器の男性化が起こる。
設問の考え方
確定診断には、酵素の障害部位の直前に蓄積する物質を測定するのが有用である。21-水酸化酵素欠損症では血中17-OHPが著明に上昇し、わが国の新生児マススクリーニングでも17-OHPが測定されている。したがって最も有用な血液検査項目は17α-ヒドロキシプロゲステロンである。
選択肢考察
- ×a. アルドステロン
21-水酸化酵素欠損症のうち塩類喪失型(全体の約2/3)ではアルドステロンの産生が低下し、低ナトリウム血症・高カリウム血症・脱水(副腎クリーゼ)をきたす。一方、単純男性化型ではアルドステロン分泌はほぼ保たれる。このように病型によって値が異なり、また新生児期の値は変動も大きいため、病型評価の補助にはなっても確定診断の指標にはならない。
- ×b. テストステロン
21-水酸化酵素欠損症では副腎由来のアンドロゲン(アンドロステンジオン、テストステロンなど)が増加し、それが男性化の原因となる。しかしアンドロゲン高値は他の男性化をきたす病態でもみられ、酵素欠損の部位を特定できないため、確定診断には用いない。
- ×c. プロゲステロン
プロゲステロンはステロイド合成経路の上流にある物質で、21-水酸化酵素欠損症でもある程度上昇しうるが、蓄積が顕著で特異的な指標となるのは17-OHPである。プロゲステロンは主に黄体や胎盤で産生される黄体ホルモンでもあり、本症の診断目的で測定する項目ではない。
- ×d. ヒト絨毛性ゴナドトロピン
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)は胎盤の絨毛組織(合胞体栄養膜細胞)で産生されるホルモンで、妊娠黄体を維持してプロゲステロン産生を保つ。LH(黄体形成ホルモン)様作用をもつため、男児のhCG産生腫瘍では思春期早発をきたすが、FSH(卵胞刺激ホルモン)作用が乏しく女児では起こりにくい。副腎のステロイド合成異常とは関係がなく、CAHの診断には用いない。
- ○e. 17α-ヒドロキシプロゲステロン
17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)は21-水酸化酵素の基質であり、本酵素が欠損すると変換されずに血中で著明に増加する。21-水酸化酵素欠損症はCAHの約90%を占め、46,XX児の外性器男性化の最多原因であるため、本例の確定診断に最も有用な血液検査項目である。わが国の新生児マススクリーニングでも17-OHPが測定されている。
副腎皮質ステロイド合成の流れ(要点)
コレステロール → プレグネノロン → プロゲステロン → 11-デオキシコルチコステロン(DOC)→ コルチコステロン → アルドステロン プレグネノロン → 17-ヒドロキシプレグネノロン → 17-OHP → 11-デオキシコルチゾール → コルチゾール 17-ヒドロキシプレグネノロン/17-OHP → DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)/アンドロステンジオン → テストステロン 21-水酸化酵素は「プロゲステロン→DOC」と「17-OHP→11-デオキシコルチゾール」を、11β-水酸化酵素は「DOC→コルチコステロン」と「11-デオキシコルチゾール→コルチゾール」を担う。
主なCAHの病型
・21-水酸化酵素欠損症(約90%):17-OHP著明高値。女児の外性器男性化。塩類喪失型ではアルドステロン低下により、生後1〜2週ごろから哺乳不良・嘔吐・体重増加不良・低ナトリウム血症・高カリウム血症を示し、放置すると副腎クリーゼで致死的となる。単純男性化型では塩類喪失は目立たない。 ・11β-水酸化酵素欠損症:女児の男性化に加え、鉱質コルチコイド作用をもつDOCが蓄積するため高血圧・低カリウム血症をきたす。 ・3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症:DHEAが蓄積する。DHEAはアンドロゲン作用が弱いため、女児では軽度の男性化にとどまり、男児では男性化不全となる。塩類喪失を伴いやすい。 ・17α-水酸化酵素欠損症:性ステロイドとコルチゾールが作られず、DOCとコルチコステロンの蓄積により高血圧・低カリウム血症をきたす。男児は女性型外性器、女性では思春期に二次性徴が欠如する。 ・リポイド副腎過形成(StAR蛋白異常):すべてのステロイド合成が障害され、重度の副腎不全と、男児の女性型外性器を示す。
外性器異常をもつ新生児への対応
・性別の判定は急がず、染色体検査(核型分析)、内性器の画像評価、ホルモン検査を行ったうえで、専門チームが家族とともに決定する。 ・17-OHPは生後早期には生理的にも高く、早産児やストレス下でも高値となりうるため、スクリーニングは生後4〜6日に採血する。確定には血中17-OHPの再検に加えて尿中ステロイドプロフィール分析や遺伝子検査が用いられる。
治療
ヒドロコルチゾンによるグルココルチコイド補充でACTHを抑え、アンドロゲン過剰を是正する。塩類喪失型ではフルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド)と食塩の補充を併用する。女児の外性器異常に対しては必要に応じて形成手術を検討する。
POINT
・46,XX児の外性器男性化(陰核肥大、尿生殖洞の遺残)の最多原因は先天性副腎皮質過形成、そのほとんどが21-水酸化酵素欠損症である。 ・21-水酸化酵素欠損症では17-OHPが著明に上昇し、新生児マススクリーニングの測定項目でもある。 ・コルチゾール低下 → ACTH上昇 → 副腎過形成・副腎アンドロゲン過剰、という機序を理解する。 ・塩類喪失型では生後1〜2週に低Na・高K血症、脱水、ショックをきたしうる。 ・11β-水酸化酵素欠損症と17α-水酸化酵素欠損症は高血圧を伴う点が鑑別の手がかりとなる。
