1絨毛膜双胎の片方だけ羊水が多い―張りすぎた子宮をゆるめる羊水除去
第104回医師国家試験 I問題 第76問
国試問題にチャレンジ
28歳の初産婦。妊娠10週に1絨毛膜2羊膜双胎と診断された。妊娠28週に1児の羊水過多を指摘された。子宮収縮が5分おきにみられる。 対応として適切なのはどれか。
- a.羊水造影
- b.羊水除去
- c.子宮血流計測
- d.プロスタグランディンF2α投与
- e.75 g経口ブドウ糖負荷試験〈OGTT〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
1絨毛膜双胎では共有胎盤の血管吻合を介して双胎間輸血症候群(TTTS)が起こり、受血児は多尿で羊水過多、供血児は乏尿で羊水過少となるため、1児だけの羊水過多をみたらまずTTTSを考えます。羊水過多で子宮が過伸展すると子宮収縮が誘発されて切迫早産となり、原因を取り除く羊水除去が有効で、妊婦の腹部緊満や呼吸困難も改善します。根本治療の胎児鏡下レーザー凝固術はおおむね妊娠26週未満が適応のため、妊娠28週では羊水除去による対症療法と子宮収縮抑制薬の併用が中心になります。プロスタグランジンF2αは子宮収縮を強めるため逆効果であり、OGTTや子宮血流計測、羊水造影は今の病態の解決につながりません。膜性診断と定期的な羊水量の評価が双胎管理の要であることを押さえておくと、周産期の臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・28歳の初産婦。妊娠10週に1絨毛膜2羊膜(monochorionic diamniotic:MD)双胎と診断されている。 ・妊娠28週に、2児のうち1児のみに羊水過多を指摘された。 ・子宮収縮が5分ごとに起こっている(妊娠37週未満の規則的な子宮収縮であり、切迫早産の状態)。
診断へのプロセス
1絨毛膜双胎では2児が一つの胎盤を共有し、胎盤表面に両児の循環をつなぐ血管吻合が存在する。この吻合を通じた血流の受け渡しが一方向に偏ると、双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)が生じる。血液を受け取る側(受血児)は循環血液量が増えて多尿となり羊水過多に、血液を送り出す側(供血児)は循環血液量が減って乏尿となり羊水過少になる。MD双胎の1児だけに羊水過多がみられる本例では、まずTTTSを考える(診断には供血児側の羊水過少の確認も必要である)。 急速に増加した羊水により子宮が過度に伸展し、子宮収縮が誘発されて切迫早産となっている。羊水過多は前期破水や早産の原因となるほか、妊婦の腹部緊満感や呼吸困難の原因にもなる。
設問の考え方
切迫早産の管理は、安静と子宮収縮抑制薬(リトドリン塩酸塩、硫酸マグネシウム)の投与が基本であるが、それだけでは子宮の過伸展という原因が残る。羊水過多による子宮収縮では、原因を取り除く羊水除去(経腹的に羊水を穿刺吸引して減らす処置)が有効であり、TTTSに対する対症療法としても行われる。TTTSの根本治療である胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation:FLP)は、わが国ではおおむね妊娠26週未満が適応とされ、妊娠28週の本例では適応を外れる。したがって選択肢の中では羊水除去が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 羊水造影
羊水造影は、羊水中に造影剤を注入して胎児の嚥下や消化管の通過を評価するなど、かつて胎児の形態異常の診断に用いられた検査である。現在は超音波検査やMRIでほぼ置き換えられている。侵襲を伴う検査であり、切迫早産を起こしている本例の管理に寄与しない。
- ○b. 羊水除去
羊水過多による子宮の過伸展が子宮収縮(切迫早産)の原因と考えられるため、経腹的に羊水を穿刺・吸引して羊水量を減らすと、子宮内圧が下がり子宮収縮の軽減が期待できる。妊婦の腹部緊満感や呼吸困難の改善にもつながる。TTTSではFLPの適応週数を過ぎた場合の対症療法としても用いられ、妊娠28週の本例で行う処置として適切である。必要に応じて子宮収縮抑制薬の投与を併用する。
- ×c. 子宮血流計測
子宮動脈のドプラ血流計測は、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全のリスク評価に用いられる検査である。TTTSの評価では胎児側の臍帯動脈・静脈管・中大脳動脈などの血流を評価することはあるが、子宮血流を測っても本例の子宮収縮や羊水過多に対する治療にはならない。
- ×d. プロスタグランディンF2α投与
プロスタグランジンF2αは強い子宮収縮作用をもち、分娩誘発・陣痛促進や分娩後の弛緩出血の治療に用いられる。妊娠28週の切迫早産に投与すると子宮収縮を増強させて早産を促してしまい、逆効果である。なお、気管支収縮作用があるため気管支喘息患者には禁忌である。
- ×e. 75 g経口ブドウ糖負荷試験〈OGTT〉
75gOGTTは妊娠糖尿病の診断に用いる検査である。母体の糖尿病は羊水過多の原因となりうるが、その場合は通常両児ともに羊水が増加する。MD双胎の1児のみの羊水過多はTTTSなど胎児側の原因を示唆しており、しかも切迫早産を起こしている今、優先すべき対応ではない。
双胎の膜性と合併症
・膜性診断は妊娠初期(妊娠14週ごろまで)の超音波検査で行うのが最も正確で、隔膜の付着部の形状(2絨毛膜ではλサイン、1絨毛膜ではTサイン)が手がかりになる。 ・1絨毛膜双胎は胎盤内に血管吻合をもつため、TTTS、一児発育不全、一児死亡時の他児への影響(脳障害など)、双胎貧血多血症(TAPS)などのリスクが高い。1絨毛膜1羊膜双胎ではさらに臍帯相互巻絡の危険がある。
双胎間輸血症候群(TTTS)
・MD双胎の約10%に発症するとされる。 ・診断:MD双胎において、一児(受血児)の羊水過多(最大羊水深度8cm以上)と、他児(供血児)の羊水過少(最大羊水深度2cm以下)が同時にみられること。 ・受血児:循環血液量過多、多尿、羊水過多、心負荷増大から心不全・胎児水腫に至りうる。 ・供血児:循環血液量減少、乏尿、羊水過少、胎児発育不全。膀胱が描出されなくなる。 ・重症度はQuintero分類で評価する(I:羊水の不均衡のみ、II:供血児の膀胱が描出されない、III:臍帯動脈・静脈管などの血流異常、IV:胎児水腫、V:一児または両児の死亡)。 ・治療:妊娠16〜26週未満では胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)が第一選択で、原因となる吻合血管を遮断する根本治療である。適応週数外や施行困難例では羊水除去を繰り返して妊娠期間の延長を図る。胎児が成熟していれば娩出も選択肢となる。
羊水過多の原因
・胎児の嚥下障害や消化管通過障害(食道閉鎖、十二指腸閉鎖、無脳症、筋疾患など) ・胎児の尿量増加(TTTSの受血児など) ・母体の糖尿病 ・胎盤の異常(胎盤血管腫など) ・特発性(原因不明)も多い
切迫早産の管理
安静、子宮収縮抑制薬(リトドリン塩酸塩、硫酸マグネシウム)の投与、感染が疑われれば抗菌薬の投与を行う。妊娠34週未満で早産が予想される場合は、胎児の肺成熟を促すため母体にステロイド(ベタメタゾン)を投与する。
POINT
・1絨毛膜2羊膜双胎で1児のみの羊水過多をみたら双胎間輸血症候群(TTTS)を考える。 ・TTTSの診断:受血児の羊水過多(最大羊水深度8cm以上)+供血児の羊水過少(2cm以下)。 ・根本治療は胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP、妊娠16〜26週未満)。適応外の時期では羊水除去で対処する。 ・羊水過多による子宮の過伸展が切迫早産の原因であれば、羊水除去で子宮内圧を下げる。 ・プロスタグランジンF2αは子宮収縮薬であり、切迫早産では禁忌的である。
