StudyMed医師国家試験

耳まで赤い片側の顔―悪寒戦慄を伴う紅斑は「丹毒」、答えは抗菌薬

第104回医師国家試験 I問題 第72問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第72問

62歳の女性。顔面の発疹と発熱とを主訴に来院した。2日前に突然,右耳介,右頬部および右側頸部に発赤が出現し,悪寒と戦慄とがみられた。体温38.2℃。顔面の写真を別に示す。  治療薬として適切なのはどれか。

第104回 I問題 第72問の問題画像
  1. a.抗菌薬
  2. b.抗真菌薬
  3. c.抗ウイルス薬
  4. d.抗ヒスタミン薬
  5. e.副腎皮質ステロイド

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急に出現した顔面の紅斑と発熱から疾患を見抜き、治療薬を選ぶ問題だ。注目したいのは「突然の発症」「片側に広がる紅斑」「悪寒戦慄を伴う高熱」、そして紅斑が耳介にまで及んでいる点。まずは写真の皮疹をどう読むかから始めよう。
医学生医学生
片側の顔が赤くて熱もあるので、最初は帯状疱疹かなと思いました。
ドクタードクター
片側性という点で鑑別に挙がるのは自然だね。ただ写真をよく見ると、頬から耳介、頸部にかけて鮮やかな紅色の、少し盛り上がって腫れたような紅斑が広がっていて、周囲との境界が比較的はっきりしている。帯状疱疹に特徴的な、紅斑の上に小水疱が集まる所見は見られないんだ。
医学生医学生
皮膚科の講義で、帯状疱疹は神経の支配領域に沿って水疱が並ぶ、と習いました。それがないなら違いそうですね。
ドクタードクター
そう。それに帯状疱疹はピリピリした神経痛のような痛みが先行することが多く、悪寒戦慄を伴う高熱で急に始まるのは典型的ではない。急性発症の境界明瞭な浮腫性紅斑に悪寒戦慄と高熱、これは丹毒の典型像だよ。
医学生医学生
丹毒は溶連菌の皮膚感染症でしたよね。蜂窩織炎とはどう違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。丹毒は主にA群β溶血性連鎖球菌による真皮浅層の感染症で、浅い層の炎症だから紅斑の境界がはっきりしやすい。蜂窩織炎は真皮深層から皮下脂肪組織に及ぶ感染で、境界が不明瞭になる。耳介は皮下組織が乏しいので、耳介まで紅斑が及んでいることは浅い層の感染、つまり丹毒を示唆する所見とされているんだ。
医学生医学生
耳がポイントだったんですね。顔と下腿に多いとも聞いた気がします。
ドクタードクター
その通り、好発部位は顔面と下腿だ。原因が細菌感染とわかれば、治療は起炎菌に効く抗菌薬の全身投与になる。溶連菌にはペニシリン系が第一選択で、重症や内服が難しい場合は入院して点滴静注にする。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。抗真菌薬は白癬やカンジダ向けなので、細菌には効きませんよね。
ドクタードクター
そう、急性期の治療としては無効だ。ただ下腿の丹毒や蜂窩織炎では、足白癬で皮膚のバリアが壊れて菌の侵入門戸になることがあるから、再発予防として足白癬を治療することはある。抗ウイルス薬は帯状疱疹や単純ヘルペスの薬なので、今回は対象外だね。
医学生医学生
抗ヒスタミン薬はかゆみ止めなので、原因治療にならないですね。ステロイドは炎症を抑えるので、赤みには効きそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。ステロイドは免疫を抑えるから、細菌感染をかえって悪化・拡大させるおそれがある。ステロイドが役立つのは接触皮膚炎やSweet病のような非感染性の炎症だ。接触皮膚炎はかゆみが強く原則として発熱がないし、Sweet病は発熱を伴う有痛性の隆起性紅斑が多発する。見た目が似ていても感染症かどうかを見極めないと、治療が正反対になるんだ。
医学生医学生
臨床実習の皮膚科外来でも、まず感染か非感染かを考えるように言われました。今回は悪寒戦慄と急な発症が感染を示していたんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に臨床での注意点をまとめよう。血液検査では白血球増多やCRP上昇がみられ、溶連菌感染を反映してASOが上がることもある。抗菌薬は再発予防も考えて10〜14日程度と比較的長めに続け、溶連菌感染後の急性糸球体腎炎にも注意する。患部は安静・挙上・冷却が基本だ。
医学生医学生
同じ場所に繰り返す丹毒もあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
習慣性丹毒だね。同じ部位に再発しやすく、リンパ浮腫の原因にも誘因にもなる。それから、急激に強まる痛み、紫斑や壊死、水疱、全身状態の悪化が見られたら壊死性筋膜炎を疑って、緊急の外科的デブリドマンを検討する。皮膚の赤みでも見逃してはいけない重症例があることを覚えておこう。

まとめ

急に発症した片側顔面の境界明瞭な浮腫性紅斑に悪寒戦慄と高熱を伴う場合は、A群β溶血性連鎖球菌による真皮浅層の感染症である丹毒を考えます。皮下組織の乏しい耳介に病変が及ぶことは、より深い層の感染である蜂窩織炎よりも丹毒を示唆する所見です。治療はペニシリン系を第一選択とする抗菌薬の全身投与で、再発予防も考えて比較的長めに投与し、安静・挙上・冷却を併用します。帯状疱疹(神経支配領域に沿った小水疱)、接触皮膚炎(強いかゆみ、発熱なし)、Sweet病などとの鑑別が重要で、細菌感染症にステロイドを単独で使うと悪化させうる点に注意が必要です。皮疹を見たらまず感染症か否かを見極めることが、適切な治療選択の第一歩になります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・62歳女性。2日前に突然、右耳介・右頬部・右側頸部に発赤が出現した。 ・悪寒・戦慄を伴い、体温38.2℃と発熱している → 急性の全身性炎症反応を伴う感染症が疑われる。 ・写真では片側の顔面(頬部から耳介・頸部)に広がる、鮮やかな紅色でやや盛り上がった、周囲との境界が比較的明瞭な浮腫性紅斑がみられる(水疱の集簇などはみられない)。

診断へのプロセス

急激に出現した片側顔面の境界明瞭な浮腫性紅斑に、悪寒・戦慄を伴う高熱が加わる経過は丹毒の典型像である。丹毒は主にA群β溶血性連鎖球菌(化膿レンサ球菌、Streptococcus pyogenes)による真皮浅層の急性細菌感染症で、顔面と下腿に好発する。病変部は熱感・圧痛を伴い、光沢のある浮腫性の紅斑となる。耳介は皮下組織が乏しいため、より深い層の感染である蜂窩織炎ではなく真皮浅層の感染である丹毒で侵されやすく、耳介への病変の広がりは丹毒を示唆する所見とされる。 鑑別としては、帯状疱疹(神経支配領域に沿った紅斑上の小水疱の集簇と神経痛様疼痛)、接触皮膚炎(瘙痒が強く、原則として発熱はない)、Sweet病(好中球浸潤による有痛性の浮腫性紅斑・隆起性局面が顔面や四肢に多発し、発熱を伴う)、蜂窩織炎(皮下組織まで及び、境界がより不明瞭)などを考えるが、本例の経過と皮疹は丹毒に最も合う。

設問の考え方

丹毒は細菌感染症であり、治療の中心は起炎菌である溶連菌に有効な抗菌薬(第一選択はペニシリン系)の全身投与である。重症例や経口摂取困難な例では入院のうえ点滴静注とし、再発予防も考えて比較的長め(10〜14日程度)に投与する。

選択肢考察

  1. ○a.  抗菌薬

    丹毒の主な起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌であり、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン内服、アンピシリンやペニシリンGの点滴静注など)が第一選択となる。ペニシリンアレルギーがあればセファロスポリン系やマクロライド系などを用いる。溶連菌感染後の合併症(急性糸球体腎炎など)にも注意し、症状が消えた後も所定の期間は投与を続ける。

  2. ×b.  抗真菌薬

    抗真菌薬は白癬、カンジダ症などの真菌感染症に用いる。丹毒は細菌感染症であり、抗真菌薬は無効である。ただし、下腿の丹毒・蜂窩織炎では足白癬による皮膚のバリア破綻が侵入門戸となることがあり、再発予防として足白癬を治療することはある。本例の急性期治療としては適切でない。

  3. ×c.  抗ウイルス薬

    抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビルなど)は単純ヘルペスや帯状疱疹などのウイルス感染症に用いる。顔面片側の紅斑という点では帯状疱疹との鑑別が問題となるが、帯状疱疹では神経の支配領域に沿って紅斑上に小水疱が集簇し、ピリピリした神経痛様の痛みが先行することが多い。細菌感染症である丹毒には無効である。

  4. ×d.  抗ヒスタミン薬

    抗ヒスタミン薬は蕁麻疹や湿疹・皮膚炎などの瘙痒を抑えるために用いる対症療法薬である。感染症である丹毒の原因を治療する効果はない。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド

    副腎皮質ステロイドは免疫を抑制し、細菌感染を増悪・拡大させるおそれがあるため、丹毒の治療薬として単独で用いるべきではない。ステロイドが有効なのは接触皮膚炎やSweet病などの非感染性炎症であり、これらと誤診してステロイドを投与すると病状を悪化させうる。

丹毒と蜂窩織炎

・丹毒:主にA群β溶血性連鎖球菌による真皮浅層の感染症。顔面・下腿に好発。境界明瞭で鮮紅色の浮腫性紅斑が急速に拡大し、熱感・圧痛・悪寒戦慄・高熱を伴う。耳介に及ぶことがある。血液検査で白血球増多、CRP上昇、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)上昇。同じ部位に再発しやすく(習慣性丹毒)、リンパ浮腫の原因・誘因ともなる。 ・蜂窩織炎:主に黄色ブドウ球菌や溶連菌による真皮深層〜皮下脂肪組織の感染症。境界不明瞭な紅斑・腫脹・熱感・疼痛を示す。下肢に多い。 ・両者とも治療は抗菌薬の全身投与、患部の安静・挙上・冷却。急速に進行する激痛、皮膚の紫斑・壊死、水疱、全身状態の悪化がみられれば壊死性筋膜炎を疑い、緊急の外科的デブリドマンを考慮する。

顔面に紅斑をきたす主な疾患の鑑別

・丹毒:急性発症、片側、境界明瞭な浮腫性紅斑、高熱・悪寒戦慄。 ・帯状疱疹:神経支配領域に一致した片側性の紅斑と小水疱の集簇、神経痛。耳介に生じ顔面神経麻痺・難聴を伴えばRamsay Hunt症候群。 ・単純ヘルペス:口唇周囲などに小水疱の集簇、再発性。 ・接触皮膚炎:原因物質の接触部位に一致した紅斑・丘疹・小水疱、瘙痒が強い。発熱は通常ない。 ・Sweet病:発熱、好中球増多を伴い、顔面・頸部・四肢に有痛性の隆起性紅斑が多発。骨髄異形成症候群などの血液疾患に合併することがある。副腎皮質ステロイドやヨウ化カリウムが有効。 ・全身性エリテマトーデス:両頬の蝶形紅斑(通常両側性)。

POINT

・急性発症の片側顔面の境界明瞭な浮腫性紅斑+悪寒戦慄・高熱 → 丹毒。 ・起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌、治療はペニシリン系抗菌薬の全身投与。 ・丹毒は真皮浅層(境界明瞭)、蜂窩織炎は真皮深層〜皮下組織(境界不明瞭)。 ・細菌感染症に副腎皮質ステロイドを単独で使用しない。 ・顔面の紅斑では帯状疱疹、接触皮膚炎、Sweet病、SLEとの鑑別が重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。