抗てんかん薬と眠れるウイルスの目覚め―HHV-6が告げる薬剤性過敏症症候群
第104回医師国家試験 I問題 第73問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。発熱と発疹とを主訴に来院した。6日前に淡い紅斑が出現したが,2日で消退した。昨日から39℃台の発熱と全身に点状紅斑とが多数出現している。てんかんのためカルバマゼピンを内服している。白血球17,000(好酸球24%)。血液生化学所見:AST 80 IU/L,ALT 98 IU/L。CRP 3.5 mg/dL。粘膜疹を認めない。咽頭培養は陰性。血中抗HHV-6抗体の上昇がみられる。 考えられるのはどれか。
- a.血管浮腫
- b.伝染性単核球症
- c.薬剤性過敏症症候群
- d.Sézary症候群
- e.Stevens-Johnson症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
抗てんかん薬などの限られた薬剤の投与後、遅れて高熱と急速に拡大する紅斑が出現し、好酸球増多や異型リンパ球、肝機能障害を伴う場合は薬剤性過敏症症候群(DIHS)を考えます。最大の特徴は経過中のHHV-6再活性化で、原因薬を中止しても症状が遷延・再燃しやすい点も重要です。同じ重症薬疹でもStevens-Johnson症候群やTENは粘膜疹が必発であり、粘膜疹の有無が鑑別の大きな手がかりになります。治療は原因薬の中止と全身性ステロイドで、ゆっくり漸減しながらCMVなど他のウイルスの再活性化や回復後の自己免疫疾患にも注意します。発熱と発疹の患者では、薬歴の確認と粘膜の観察を欠かさないことが重症薬疹を見逃さない基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・68歳女性。てんかんに対してカルバマゼピンを内服中である。 ・6日前に淡い紅斑が出現していったん消え、昨日から39℃台の高熱とともに全身に点状紅斑が多発している。 ・白血球17,000/μLと増加し、好酸球は24%である。絶対数に直すと17,000×0.24=約4,080/μLで、明らかな好酸球増多である(正常はおおむね500/μL未満)。 ・AST 80 IU/L、ALT 98 IU/Lと肝機能障害を伴う。CRPは3.5 mg/dLと中等度の上昇にとどまる。 ・粘膜疹はない。咽頭培養は陰性である。 ・血中の抗HHV-6(ヒトヘルペスウイルス6型)抗体価が上昇している。
診断へのプロセス
高熱と全身性の発疹をみたら、まずウイルス感染症と薬疹を並べて考える。本例では、抗てんかん薬であるカルバマゼピンという「薬疹を起こしやすい薬剤」を服用していること、好酸球増多と肝障害というアレルギー性の全身反応を示す所見がそろっていることから、重症の薬疹が強く疑われる。 重症薬疹の中で、粘膜疹を伴わないことからStevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)は考えにくい。一方、高熱・好酸球増多・肝障害に加えてHHV-6の再活性化(抗体価の上昇)が確認されている点は、薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)に特徴的である。発疹がいったん軽快したのちに再燃するような二峰性・遷延性の経過も、DIHSでしばしばみられる。 したがって、最も考えられるのは薬剤性過敏症症候群である。
設問の考え方
「発熱+発疹+特定の薬剤(抗てんかん薬など)+好酸球増多+肝障害+HHV-6再活性化」という組み合わせがDIHSの典型像である。粘膜疹の有無はSJS/TENとの鑑別点として重要である。
選択肢考察
- ×a. 血管浮腫
血管浮腫(Quincke浮腫)は、真皮深層から皮下組織に生じる限局性の浮腫で、眼瞼や口唇に好発し、数時間から数日で消退する。蕁麻疹の特殊型と位置づけられ、ACE阻害薬や遺伝性(C1インヒビター欠損)によるものもある。高熱や全身に多発する点状紅斑、好酸球増多を伴う肝障害、HHV-6の再活性化といった全身性の所見は説明できない。
- ×b. 伝染性単核球症
伝染性単核球症は主にEBウイルス(Epstein-Barrウイルス)の初感染によって起こり、発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・肝脾腫を特徴とし、末梢血では異型リンパ球の増加がみられる。肝障害や発疹を伴うことはあり、アンピシリン投与で発疹が出やすいことも知られるが、好酸球増多は典型的ではない。本例では咽頭炎やリンパ節腫脹の記載がなく、上昇しているのはEBウイルスではなくHHV-6に対する抗体であることから、合致しない。なお、DIHSでも異型リンパ球やリンパ節腫脹がみられることがあり、伝染性単核球症様の病像を呈しうる点は鑑別上注意が必要である。
- ○c. 薬剤性過敏症症候群
カルバマゼピン内服中に、38℃以上の高熱、急速に拡大する全身の紅斑、白血球増多と好酸球増多(約4,080/μL)、肝機能障害が出現し、さらに抗HHV-6抗体価の上昇からHHV-6の再活性化が示されている。これらはいずれも薬剤性過敏症症候群(DIHS)の診断基準に含まれる項目であり、粘膜疹がない点もSJS/TENよりDIHSを支持する。DIHSはカルバマゼピンなど限られた薬剤で起こる遅発性の重症薬疹で、原因薬剤の中止後も症状が遷延・再燃しやすい。
- ×d. Sézary症候群
Sézary症候群は皮膚T細胞リンパ腫の一型で、菌状息肉症の白血化した病態とされる。紅皮症(全身の皮膚が潮紅し落屑を伴う状態)、全身のリンパ節腫脹、末梢血中の異型T細胞(脳回状の核をもつSézary細胞)の出現が三主徴で、強いかゆみを伴うことが多い。経過は慢性であり、薬剤内服を契機とした急性の高熱や、HHV-6再活性化とは関係がない。
- ×e. Stevens-Johnson症候群
Stevens-Johnson症候群(SJS)は、高熱とともに皮膚の紅斑・水疱・びらんが生じ、口唇・口腔、眼結膜、外陰部などの粘膜に重い粘膜疹を伴うことが必須の特徴である。病型は表皮剥離(水疱・びらん)の面積で分けられ、体表面積の10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%以上を中毒性表皮壊死症(TEN)とする(わが国の診断基準では10%以上をTENとする扱いもある)。カルバマゼピンは原因薬剤となりうるが、本例では粘膜疹がみられないことから否定的である。また、HHV-6の再活性化はSJSの特徴ではない。
薬剤性過敏症症候群(DIHS)の概要
・限られた薬剤の投与開始から比較的遅れて(多くは2〜6週後)発症する重症薬疹である。 ・高熱と全身の紅斑で始まり、紅斑は急速に拡大して紅皮症に移行することが多い。顔面の浮腫、リンパ節腫脹、肝障害などの臓器障害を伴う。 ・経過中にHHV-6の再活性化が起こるのが特徴で、発症から2〜3週ごろに抗HHV-6 IgG抗体価の上昇やHHV-6 DNAの検出として確認される。HHV-6以外に、サイトメガロウイルス(CMV)やEBウイルスなど他のヘルペスウイルスが順次再活性化することもある。 ・原因薬剤を中止しても症状が2週間以上遷延したり、軽快後に再燃したりする(二峰性・多峰性の経過)。
わが国の診断基準の主要項目
1.限られた医薬品投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑(しばしば紅皮症に移行) 2.原因医薬品中止後も2週間以上遷延する 3.38℃以上の発熱 4.肝機能障害 5.血液学的異常(白血球増多、異型リンパ球の出現、好酸球増多のいずれか) 6.リンパ節腫脹 7.HHV-6の再活性化 7項目すべてを満たすものを典型DIHS、1〜5を満たすがHHV-6再活性化などが確認されないものを非典型DIHSとする。
代表的な原因薬剤
カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、ラモトリギンなどの抗てんかん薬のほか、アロプリノール、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルホン(DDS)、メキシレチン、ミノサイクリンなどが知られる。
治療と注意点
原因薬剤を中止し、全身性ステロイドを投与するのが基本である。ステロイドを急に減量すると再燃しやすいため、ゆっくり漸減する。経過中のCMV再活性化(消化管出血、肺炎など)や、回復後の自己免疫疾患(1型糖尿病、甲状腺疾患など)の発症にも注意が必要である。
重症薬疹の鑑別の要点
・SJS/TEN:粘膜疹が必発。表皮の壊死・剥離が主体。 ・DIHS:粘膜疹は目立たないことが多い。好酸球増多、肝障害、HHV-6再活性化、遷延する経過。 ・急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP):薬剤投与後短期間で、紅斑上に無菌性の小膿疱が多発し、好中球増多を伴う。
POINT
・DIHSは「限られた薬剤(抗てんかん薬、アロプリノールなど)による遅発性の重症薬疹」で、HHV-6の再活性化を伴うのが最大の特徴である。 ・高熱、全身の紅斑、好酸球増多・異型リンパ球、肝障害、リンパ節腫脹を伴い、薬剤中止後も遷延・再燃しやすい。 ・粘膜疹を伴えばSJS/TENを考える。粘膜疹の有無は重症薬疹の鑑別で重要な手がかりである。
