頭痛と耳鳴りのあとに両眼がかすむ―メラノサイトを狙うVogt-小柳-原田病
第104回医師国家試験 I問題 第71問
国試問題にチャレンジ
46歳の女性。今朝からの耳鳴りと両眼の視力低下とを主訴に来院した。5日前から微熱と頭痛とが続いている。視力は右0.1(0.8×+3.0 D),左0.08(0.7×+3.5 D)。眼圧は両眼とも15 mmHg。結膜,角膜,水晶体および硝子体に異常を認めない。両眼とも前房に細胞を認める。右眼底写真(A)と右蛍光眼底造影写真(B)とを別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.Behçet病
- b.Vogt-小柳-原田病
- c.サルコイドーシス
- d.トキソプラズマ症
- e.中心性漿液性網脈絡膜症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
感冒様症状や頭痛(無菌性髄膜炎)、耳鳴り(内耳障害)に続いて両眼性の急性ぶどう膜炎が起こり、眼底に多房性の漿液性網膜剝離、蛍光眼底造影で多発する点状蛍光漏出を認めればVogt-小柳-原田病を考えます。本症はぶどう膜・髄膜・内耳・皮膚毛髪に存在するメラノサイトを標的とする自己免疫疾患で、網膜の前方移動による一過性の遠視化や、回復期の夕焼け状眼底・白斑・白髪も特徴です。中心性漿液性網脈絡膜症は片眼性・単房性で炎症所見を欠き、Behçet病は前房蓄膿や網膜血管炎、サルコイドーシスは肉芽腫性ぶどう膜炎が特徴である点で鑑別します。治療は副腎皮質ステロイドの大量全身投与が基本で、早期の十分な治療が遷延化や合併症の予防につながります。全身症状と眼所見をメラノサイトという共通の標的で結びつける理解は、ぶどう膜炎診療の重要な基礎となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・46歳女性。5日前から微熱と頭痛(感冒様の前駆症状)が続き、今朝から耳鳴りと両眼の視力低下が出現した。 ・視力は両眼とも裸眼で0.1前後に低下し、+3.0〜3.5 D(ジオプトリー)の凸レンズで0.7〜0.8まで矯正される。急に遠視側へ屈折がずれたことを示しており、網膜が前方に持ち上げられる(漿液性網膜剝離で網膜が前方へ移動し、眼軸が相対的に短くなったのと同じ状態になる)ことで説明できる。 ・眼圧正常。結膜・角膜・水晶体・硝子体に異常はないが、両眼の前房に炎症細胞がある → 前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)の存在。 ・眼底写真(A):後極部に多発する(多房性の)漿液性網膜剝離。 ・蛍光眼底造影写真(B):網膜色素上皮レベルから多数の点状の蛍光漏出があり、後期には網膜下に色素が貯留する。視神経乳頭の過蛍光を伴うことも多い。
診断へのプロセス
両眼性の急性ぶどう膜炎に、①感冒様症状・頭痛(無菌性髄膜炎による)、②耳鳴り(内耳障害)が先行・随伴し、③眼底に両眼の多房性漿液性網膜剝離と蛍光眼底造影での多発点状漏出がみられる。これらはメラノサイト(メラニン色素をもつ細胞)を標的とする自己免疫疾患であるVogt-小柳-原田病の典型像である。メラノサイトはぶどう膜(脈絡膜)、髄膜、内耳、皮膚・毛髪に存在するため、眼・神経・耳・皮膚にわたる症状が出る。 漿液性網膜剝離という点では中心性漿液性網脈絡膜症と共通するが、両眼性、前房の炎症細胞、頭痛・耳鳴りの随伴という点で区別できる。ほかの代表的ぶどう膜炎(Behçet病、サルコイドーシス)やトキソプラズマ症では、両眼の多房性漿液性網膜剝離と髄膜刺激・内耳症状の組み合わせは説明しにくい。
選択肢考察
- ×a. Behçet病
Behçet病は口腔粘膜の再発性アフタ、皮膚症状(結節性紅斑、毛嚢炎様皮疹、血栓性静脈炎)、外陰部潰瘍、眼症状を4主症状とする。眼では前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎や網膜血管炎(網膜出血・滲出斑)の発作を繰り返し、蛍光眼底造影では毛細血管からのびまん性のシダ状(羊歯状)蛍光漏出が特徴である。前房細胞は説明できるが、本例に口腔・皮膚・外陰部症状の記載はなく、多房性漿液性網膜剝離や耳鳴り・頭痛の組み合わせは典型的でない。
- ○b. Vogt-小柳-原田病
メラノサイトに対する自己免疫疾患で、感冒様症状・頭痛(髄膜炎)、耳鳴り・難聴(内耳障害)に続いて両眼性の汎ぶどう膜炎が急性に発症する。脈絡膜の炎症で網膜色素上皮のバリアが破綻し、後極部に両眼の多房性漿液性網膜剝離を生じ、蛍光眼底造影では多発する点状の蛍光漏出とその後の網膜下への色素貯留がみられる。網膜の前方移動により一過性に遠視化する点も本例と合う。本例の前駆症状、耳鳴り、前房細胞、眼底・造影所見をすべて説明できる。
- ×c. サルコイドーシス
サルコイドーシスは乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が全身にできる原因不明の疾患で、両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)高値、リゾチーム高値、ツベルクリン反応陰性化などを示す。眼病変は慢性に経過する肉芽腫性ぶどう膜炎で、豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節(Koeppe結節・Busacca結節)、隅角結節、雪玉状・真珠の首飾り状の硝子体混濁、網膜静脈周囲炎などが特徴である。本例は急性発症で硝子体に異常がなく、多房性漿液性網膜剝離と耳鳴りの組み合わせも合わない。
- ×d. トキソプラズマ症
トキソプラズマ症は原虫Toxoplasma gondiiの感染症で、先天感染(経胎盤)と後天感染(ネコの糞便中のオーシスト、加熱不十分な肉の摂取など)がある。眼では限局性の滲出性網脈絡膜炎を起こし、陳旧性の瘢痕病巣に隣接して新しい病巣が再燃することが多い。通常は片眼性で、両眼の多房性漿液性網膜剝離や耳鳴り・頭痛は説明できない。
- ×e. 中心性漿液性網脈絡膜症
中心性漿液性網脈絡膜症は、網膜色素上皮の局所的な障害で黄斑部に漿液性網膜剝離が生じる疾患である。30〜50歳代の男性に多く、片眼性が多い。ストレス、睡眠不足、副腎皮質ステロイド使用が誘因となり、変視症・小視症・中心暗点を訴える。蛍光眼底造影では1か所からの点状漏出(しばしば噴出型や拡大型)を示し、剝離は通常単房性である。ぶどう膜炎(前房細胞)や頭痛・耳鳴りは伴わず、本例とは合わない。
Vogt-小柳-原田病の概要
・病態:メラノサイトを標的とするT細胞性自己免疫疾患。HLA-DR4(DRB1*04:05)との関連が強く、日本人を含む有色人種に多い。日本では3大ぶどう膜炎(サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病)の一つ。 ・病期と症状: 1) 前駆期:感冒様症状、頭痛、発熱、項部硬直など。髄液検査でリンパ球優位の細胞数増多がみられる。 2) 眼病期:両眼性の急性汎ぶどう膜炎。後極部の多房性漿液性網膜剝離、視神経乳頭の発赤・腫脹、脈絡膜の肥厚(光干渉断層計〈OCT〉で確認できる)。耳鳴り・難聴(感音難聴)、めまいを伴う。 3) 回復期:網膜色素上皮・脈絡膜の色素脱失で夕焼け状眼底となる。皮膚の白斑、白髪、睫毛の白変、脱毛がみられる。 ・検査:蛍光眼底造影(多発点状漏出→網膜下への色素貯留)、OCT(多房性漿液性網膜剝離・脈絡膜肥厚)、髄液検査(細胞数増多)、聴力検査。 ・治療:副腎皮質ステロイドの大量全身投与(パルス療法など)を行い、漸減する。前眼部炎症には点眼ステロイドと散瞳薬を用いる。ステロイド抵抗・再発例では免疫抑制薬(シクロスポリン)や生物学的製剤(抗TNF-α抗体)を用いることがある。不十分な治療は遷延化・再発や、続発緑内障・併発白内障の原因となる。
3大ぶどう膜炎の比較
・Vogt-小柳-原田病:両眼の多房性漿液性網膜剝離、頭痛・耳鳴り、晩期に夕焼け状眼底・白斑。 ・Behçet病:前房蓄膿、網膜血管炎、発作の反復、蛍光眼底造影でシダ状蛍光漏出。口腔アフタ・外陰部潰瘍・皮膚症状。 ・サルコイドーシス:肉芽腫性ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩・隅角結節、雪玉状硝子体混濁、網膜静脈周囲炎)、BHL、ACE高値。
屈折の変化
漿液性網膜剝離で網膜が前方へ移動すると焦点が網膜の後ろに結ぶようになり、一時的に遠視化する。本例で凸レンズにより矯正視力が改善しているのはこのためである。
POINT
・頭痛・感冒様症状+耳鳴り+両眼の急性ぶどう膜炎 → Vogt-小柳-原田病。 ・眼底は両眼の多房性漿液性網膜剝離、蛍光眼底造影で多発点状漏出。 ・メラノサイトが標的:ぶどう膜・髄膜・内耳・皮膚毛髪 → 晩期に夕焼け状眼底、白斑、白髪。 ・治療は副腎皮質ステロイドの大量全身投与。 ・中心性漿液性網脈絡膜症は中年男性の片眼性・単房性で、炎症所見や全身症状がない。
