買い物中に突然倒れた右片麻痺と失語―脈の不整が指し示す心原性脳塞栓症
第104回医師国家試験 I問題 第40問
国試問題にチャレンジ
61歳の男性。意識障害のため搬入された。買い物中に右手に力が入らなくなり,言葉も出なくなった。そのまま倒れて意識を失ったため,店員が救急車を要請した。意識はもうろうとし,時に開眼し左手足を自発的に動かす。右上下肢は全く動かさず,言葉は出ない。脈拍72/分,不整。血圧170/90 mmHg。血液検査で異常を認めない。発症から2時間後の頭部MRIの拡散強調像(A)とMRA(B)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.脳塞栓症
- b.ラクナ梗塞
- c.もやもや病
- d.脳動脈瘤破裂
- e.高血圧性脳出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
活動中の突然発症で症状が一気に完成し、失語などの皮質症状や意識障害を伴い、脈不整から心房細動が疑われる場合は、心原性脳塞栓症を考えます。右片麻痺と失語は左中大脳動脈領域の障害を示し、拡散強調像で左島皮質〜側頭葉の高信号、MRAで左中大脳動脈の途絶を認めることで裏付けられます。ラクナ梗塞は深部の小梗塞で皮質症状に乏しく、もやもや病は両側性の狭窄と異常血管網、脳動脈瘤破裂や脳出血はCTでの高吸収域が鑑別の手がかりです。急性期にはrt-PA静注(発症4.5時間以内)や主幹動脈閉塞への血栓回収療法を速やかに検討し、再発予防には抗凝固療法を用います。発症様式・症状・危険因子・画像を組み合わせて病型を見極める力は、脳卒中診療の第一歩となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・61歳男性。買い物という活動中に、右手の脱力と発語障害が突然出現し、そのまま意識を失った。 ・意識はもうろうとしているが、左上下肢は自発的に動かす。右上下肢は全く動かず、言葉が出ない。つまり右片麻痺と失語(運動性失語を含む高度の失語が疑われる)が存在する。 ・脈拍72/分で不整。高齢者の不整脈として最も多いのは心房細動(AF:atrial fibrillation)であり、心臓内の血栓の供給源となる。 ・血圧170/90 mmHgと上昇している(急性期脳卒中では反応性に血圧が上がることが多い)。 ・血液検査に異常なし(低血糖や電解質異常など、脳卒中に似た症状を起こす代謝性疾患が否定的)。
病巣の推定
右片麻痺と失語が同時にあることから、言語中枢(多くの人で左半球にある)を含む左大脳半球の広い範囲が障害されていると考えられる。左大脳半球の外側面(前頭葉・側頭葉・頭頂葉の外側、島など)を灌流するのは左中大脳動脈(MCA:middle cerebral artery)である。さらに意識障害を伴うことから、梗塞範囲が大きい皮質を含む病変であることが示唆される。
画像所見
・MRI拡散強調像(DWI:diffusion-weighted imaging)(A)では、左側頭葉から島皮質にかけて高信号域が認められる。DWIは発症後早期(数十分〜数時間)から細胞性浮腫を反映して高信号となり、急性期脳梗塞の検出に最も鋭敏な撮像法である。発症2時間でCTではまだ異常がはっきりしない時期でも、DWIでは病変が描出される。 ・MRA(MR angiography)(B)では、左中大脳動脈が途中で途絶しており、その末梢が描出されない。一方、動脈瘤や異常血管網は認めない。
診断へのプロセス
活動中に突然発症し、症状が発症直後から完成している(突発完成型)こと、皮質症状(失語)と意識障害を伴う広範な梗塞であること、太い主幹動脈(MCA)が突然閉塞していること、そして脈不整から心房細動が疑われることを合わせると、心臓内でできた血栓が流れて左中大脳動脈に詰まった心原性脳塞栓症と診断できる。
設問の考え方
脳卒中の病型診断では、①発症様式(突発完成か、段階的進行か)、②発症時の状況(活動中か、安静・睡眠中か)、③症状(皮質症状の有無、意識障害の有無)、④危険因子(心房細動、高血圧など)、⑤画像(出血か梗塞か、病変の大きさ・部位、血管の閉塞・狭窄)を組み合わせて判断する。本例は①突発完成、②活動中、③皮質症状と意識障害あり、④脈不整、⑤主幹動脈の途絶と広範なDWI高信号、とすべて塞栓症の特徴に合致している。
選択肢考察
- ○a. 脳塞栓症
活動中の突然発症で症状が一気に完成していること、右片麻痺と失語という左大脳半球皮質の症状に意識障害を伴うこと、脈不整から心房細動が疑われ塞栓源がありうることがそろっている。画像ではDWIで左側頭葉〜島皮質に急性期梗塞を示す高信号があり、MRAで左中大脳動脈が突然途絶している。これらは心臓由来の血栓が左中大脳動脈を閉塞した心原性脳塞栓症に典型的であり、本例の診断として最も適切である。
- ×b. ラクナ梗塞
ラクナ梗塞は、高血圧などを背景に脳の深部を栄養する細い穿通枝(レンズ核線条体動脈など)が閉塞して生じる、直径15 mm未満の小さな梗塞である。好発部位は基底核・内包・視床・橋などの深部で、純粋運動性片麻痺や純粋感覚性脳卒中などの限局した症状が中心となる。失語などの皮質症状や意識障害は通常みられず、安静時・睡眠中の発症が多い。本例は皮質を含む広範な梗塞と主幹動脈(中大脳動脈)の閉塞を示しており、ラクナ梗塞には当てはまらない。
- ×c. もやもや病
もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は、両側の内頸動脈終末部から前大脳動脈・中大脳動脈近位部にかけて進行性の狭窄・閉塞が生じ、その代償として脳底部に細い異常血管網(もやもや血管)が発達する疾患である。原則として両側性で、小児期(過呼吸で誘発される一過性脳虚血発作など)と成人期(脳出血や脳梗塞)に発症のピークがある。本例のMRAでは左中大脳動脈の一側性の途絶のみで、両側の狭窄やもやもや血管は認めないため否定的である。
- ×d. 脳動脈瘤破裂
脳動脈瘤が破裂すると主にくも膜下出血を起こし、突然の激しい頭痛(今までで最悪の頭痛)、嘔吐、項部硬直などが典型的で、片麻痺や失語のような局所症状は通常目立たない(脳内血腫を伴う場合などを除く)。診断の第一選択は頭部CTで、脳底槽などに高吸収域を認める。本例ではMRAに動脈瘤はみられず、DWIの所見は出血ではなく急性期梗塞を示しているので該当しない。
- ×e. 高血圧性脳出血
高血圧性脳出血は被殻・視床・皮質下・小脳・橋に好発し、活動中の突然発症や片麻痺・意識障害を示す点は本例と共通する。しかし出血の診断には頭部CTが第一選択であり、発症直後から血腫が高吸収域として描出される。本例では、DWIで細胞性浮腫を反映した梗塞域の高信号がみられ、MRAで中大脳動脈が途絶していることから、出血ではなく虚血(梗塞)と判断される。血圧上昇は急性期脳卒中で反応性にみられることが多く、それだけで脳出血とはいえない。
脳梗塞の臨床病型(NINDS分類を基にした代表的な3病型)
・心原性脳塞栓症:心房細動、心筋梗塞後の壁在血栓、弁膜症、人工弁などで心内にできた血栓が脳動脈に流れて詰まる。活動中の突然発症で、症状は発症時に最大(突発完成型)。側副血行が発達する時間がないため梗塞は大きく皮質を含みやすく、意識障害や失語・失認などの皮質症状を伴いやすい。閉塞した血栓が溶けて再開通した際に出血性梗塞を起こしやすい。 ・アテローム血栓性脳梗塞:頸部や頭蓋内の比較的太い動脈の粥状硬化(アテローム硬化)による狭窄・閉塞、あるいはそこからの動脈原性塞栓で起こる。安静時・起床時の発症が多く、先行する一過性脳虚血発作(TIA)がみられたり、症状が段階的に進行したりすることがある。 ・ラクナ梗塞:穿通枝の閉塞による15 mm未満の小梗塞。高血圧が最大の危険因子。意識障害や皮質症状は乏しい。
急性期脳梗塞の画像診断
・頭部CT:まず出血の除外に用いる。梗塞は発症早期には明瞭でないことが多い(早期虚血変化として皮髄境界の不明瞭化、レンズ核の不明瞭化、脳溝の消失などがみられることがある)。 ・MRI拡散強調像(DWI):発症後早期から梗塞巣が高信号となり、急性期梗塞の検出に最も鋭敏である。 ・MRA:主幹動脈の閉塞・狭窄の有無を評価し、血管内治療の適応判断に役立つ。
急性期治療
・rt-PA(アルテプラーゼ)静注による血栓溶解療法:現在の日本のガイドラインでは発症4.5時間以内が適応(かつては3時間以内とされていた)。 ・機械的血栓回収療法:内頸動脈や中大脳動脈近位部などの主幹動脈閉塞に対して行い、発症6時間以内が標準的な適応で、画像評価で救済可能な脳組織が残っていると判断されれば発症24時間以内まで適応が広がっている。 ・再発予防:心原性脳塞栓症では抗凝固療法(ワルファリンまたは直接経口抗凝固薬(DOAC))を用いる。非心原性脳梗塞では抗血小板療法が中心である。
POINT
・活動中の突然発症+症状の突発完成+皮質症状(失語など)・意識障害+脈不整(心房細動)→心原性脳塞栓症を考える。 ・右片麻痺+失語は左中大脳動脈領域の障害を示す。 ・MRI拡散強調像は急性期脳梗塞を早期から高信号として検出し、MRAで主幹動脈の途絶を確認する。 ・ラクナ梗塞は深部の小梗塞で皮質症状・意識障害に乏しい。脳出血・くも膜下出血の初期診断は頭部CTが基本。 ・急性期は、rt-PA静注(発症4.5時間以内)と主幹動脈閉塞に対する機械的血栓回収療法の適応を速やかに判断する。
