「おとなしい赤ちゃん」に潜むサイン―新生児期のクレチン症を見抜く
第104回医師国家試験 I問題 第39問
国試問題にチャレンジ
新生児期のクレチン症にみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.便秘
- b.低身長
- c.低体温
- d.低血糖
- e.代謝性アシドーシス
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)は、甲状腺ホルモン不足によって熱産生や腸管運動が低下するため、新生児期には低体温や便秘がみられます。そのほか遷延性黄疸、哺乳力低下、不活発、巨舌、嗄声、臍ヘルニア、小泉門開大なども特徴的です。一方、低身長は成長の遅れが積み重なって乳児期以降に明らかになる所見であり、低血糖や代謝性アシドーシスは典型的ではありません。新生児期の症状は軽く見逃されやすいため、TSHを測る新生児マススクリーニングで早期発見し、レボチロキシンで速やかに治療することが知的予後を守るカギです。ホルモンの生理作用と「いつ症状が現れるか」をセットで考えることが、内分泌疾患を理解する基本になります。
解答・解説
正解はa, cです
クレチン症は、生まれつき甲状腺ホルモンが不足する疾患であり、現在は「先天性甲状腺機能低下症」と呼ばれることが多い。原因の多くは甲状腺そのものの異常(無形成・低形成・異所性甲状腺などの形成異常、ホルモン合成障害)による原発性であり、まれに視床下部・下垂体の異常による中枢性がある。 甲状腺ホルモンは全身の代謝(熱産生・エネルギー消費)を高め、消化管運動を促し、骨の成熟や脳の発達にも不可欠である。したがって、その不足による症状は次のように整理できる。 ・代謝の低下:低体温、不活発、哺乳力低下、皮膚の乾燥や冷感、末梢循環不全(皮膚の網状チアノーゼ) ・消化管運動の低下:便秘、腹部膨満 ・ムコ多糖の蓄積など:巨舌、嗄声(泣き声がかすれる)、浮腫、臍ヘルニア ・ビリルビン処理の遅れ:遷延性黄疸 ・骨成熟の遅れ:小泉門の開大(大泉門の開大も)、骨年齢の遅延 ここで問われているのは「新生児期」にみられる所見である点が重要である。低身長は骨成熟と成長の遅れが時間をかけて積み重なって明らかになる所見であり、生後まもない新生児期にはまだ目立たない(出生時の体格はほぼ正常)。また、甲状腺ホルモンの不足は通常、糖代謝や酸塩基平衡に大きな異常を起こさない。 新生児期の症状は軽く非特異的で見逃されやすいが、治療が遅れると不可逆的な知的障害を残す。そのため日本では新生児マススクリーニング(生後4~6日ごろの乾燥ろ紙血で血中TSHを測定)が行われ、早期発見・早期治療が可能になっている。
選択肢考察
- ○a. 便秘
正しい。甲状腺ホルモンの不足により腸管の蠕動運動が低下し、さらに哺乳力低下で摂取量も減るため、排便回数が少なくなり便秘となる。腹部膨満を伴うこともある。便秘は新生児期のクレチン症を疑うチェック項目の一つである。
- ×b. 低身長
誤り。甲状腺ホルモンは骨の成熟と成長に必要であり、未治療のクレチン症では骨年齢の遅延を伴う低身長(四肢が短い不均衡型)が生じる。しかしこれは乳児期以降、成長の遅れが蓄積して明らかになる所見であり、新生児期にはまだみられない。胎児期には母体由来の甲状腺ホルモンが胎盤を通じて一部供給されるため、出生時の身長・体重はほぼ正常であり、体重はむしろやや大きめのこともある。
- ○c. 低体温
正しい。甲状腺ホルモンは基礎代謝を高めて熱産生を促す。その不足により熱産生が低下し、低体温や四肢の冷感をきたす。皮膚の乾燥、不活発、よく眠る(おとなしい)、哺乳力低下なども同じく代謝低下を背景とした所見である。
- ×d. 低血糖
誤り。原発性の先天性甲状腺機能低下症では、糖代謝に大きな異常はきたさず、低血糖は典型的な所見ではない。新生児の低血糖はむしろ糖尿病母体児、早産児・低出生体重児、高インスリン血症などで問題となる。ただし、下垂体の形成異常などで甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけでなく成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)も欠乏する複合型下垂体ホルモン欠損症では、低血糖を伴うことがある点は知っておくとよい。
- ×e. 代謝性アシドーシス
誤り。甲状腺ホルモンの不足は酸塩基平衡に大きな影響を与えず、代謝性アシドーシスはクレチン症の特徴ではない。新生児・乳児期に代謝性アシドーシスをきたす病態としては、先天代謝異常症(有機酸代謝異常症など)、敗血症やショックによる乳酸アシドーシス、腎尿細管性アシドーシス、先天性副腎過形成(21-水酸化酵素欠損症)の塩喪失型などが挙げられる。
新生児期・乳児早期にみられる症状(チェック項目)
遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発・嗜眠、哺乳力低下、巨舌、嗄声、低体温・四肢冷感、浮腫、小泉門開大(径5 mm以上が目安)、甲状腺腫など。これらは生後数か月をかけて出そろっていくため、新生児期には症状が乏しく臨床症状だけでの早期診断は難しい。
新生児マススクリーニング
生後4~6日ごろにかかとから採血した乾燥ろ紙血で血中TSHを測定し、高値例を精密検査に回す。原発性の甲状腺機能低下症を効率よく拾い上げられる一方、TSHが上昇しない中枢性(視床下部・下垂体性)は見逃されうる点に注意が必要である(自治体によっては遊離サイロキシン〈FT4〉も併せて測定する)。
精密検査と治療
血中TSH高値とFT4低値で診断し、甲状腺超音波検査やシンチグラフィ、大腿骨遠位端骨端核の有無(骨成熟の指標)などで病型・重症度を評価する。治療はレボチロキシン(合成T4製剤)の内服であり、診断後ただちに開始する。生後早期(おおむね生後2週以内が目標)に十分量で治療を始めれば、知能・身長の予後はおおむね良好である。
甲状腺ホルモンと発達
甲状腺ホルモンは脳の神経細胞の成熟や髄鞘形成に不可欠であり、新生児期から乳児期に不足が続くと不可逆的な知的障害を残す。これが早期スクリーニングの最大の目的である。
POINT
・クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)は甲状腺ホルモン不足による代謝低下の症状を示す。 ・新生児期:便秘、低体温、遷延性黄疸、哺乳力低下、不活発、巨舌、嗄声、臍ヘルニア、小泉門開大、皮膚乾燥など。 ・低身長は乳児期以降に明らかになる所見で、新生児期にはみられない(出生時の体格はほぼ正常)。 ・低血糖や代謝性アシドーシスは典型的所見ではない。 ・新生児マススクリーニング(TSH測定)で早期発見し、レボチロキシンで早期治療すれば知的予後は良好。
