降りてこなかった精巣―「温度」から読み解く停留精巣の正誤
第104回医師国家試験 I問題 第19問
国試問題にチャレンジ
停留精巣で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.悪性化の傾向がある。
- b.低出生体重児に多い。
- c.緊急手術の適応がある。
- d.造精機能は温存される。
- e.片側例は経過観察する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
停留精巣は、胎生後期に起こる精巣の陰嚢内への下降が途中で止まった状態で、下降が間に合わない早産児・低出生体重児に多くみられます。陰嚢外の高い温度環境で胚細胞が減少するため造精機能は障害され、精巣腫瘍(特にセミノーマ)の重要な危険因子でもあり、さらに鼠径ヘルニアや精巣捻転も合併しやすくなります。生後3〜6か月頃までは自然下降が期待できるため経過観察し、下降しなければ片側・両側を問わず生後6か月〜1歳頃、遅くとも2歳頃までに精巣固定術を行う待機手術とします(捻転合併時は緊急手術)。治療不要な移動性精巣との鑑別や、両側非触知例での性分化疾患の検討も含め、「温度」と「時期」を軸に理解することが小児の診療で役立ちます。
解答・解説
正解はa, bです
停留精巣(cryptorchidism)とは、胎生期に腹腔内(腎臓の近く)で発生した精巣が、陰嚢まで下降する途中で止まってしまい、陰嚢内に位置していない状態である。精巣は胎生後期(おおむね妊娠7〜9か月)に鼠径管を通って陰嚢へ降りてくるため、この時期より前に生まれた児ほど下降が完了していない可能性が高い。 本問では、停留精巣について次の4つの観点を整理しておくと正誤を判断しやすい。 1. どのような児に多いか(疫学) 2. 放置するとどのような問題が起こるか(合併症:造精機能障害、悪性化、鼠径ヘルニア、精巣捻転など) 3. いつ治療するか(自然下降を待つ期間と手術時期) 4. 片側例と両側例で方針が変わるか 陰嚢は体温より2〜3℃低い環境を保つことで精子形成を支えている。精巣が鼠径部や腹腔内にとどまると高い温度にさらされ続け、生後早期から胚細胞(精子のもとになる細胞)が減少し始める。これが造精機能障害と悪性化の双方に関わる。一方で、生後数か月の間は自然に陰嚢へ下降する例があるため、すぐに手術はせず、一定期間の経過観察ののちに下降しなければ精巣固定術を行う、という流れが基本となる。
選択肢考察
- ○a. 悪性化の傾向がある。
停留精巣は精巣腫瘍(精巣悪性腫瘍)の最も重要な危険因子である。発生リスクは正常な男性に比べて数倍(報告によりおよそ2〜10倍)高いとされ、組織型ではセミノーマ(精上皮腫)が多い。精巣固定術を行って精巣を陰嚢内に移しても発がんリスクは完全には正常化しないが、思春期前に手術をしたほうがリスクは低くなると報告されている。また、手術によって精巣が陰嚢内で触れるようになるため、自己触診や診察で腫瘍を早期に発見しやすくなるという利点もある。
- ○b. 低出生体重児に多い。
精巣の陰嚢内への下降は胎生後期に完了するため、在胎週数が短い早産児や低出生体重児では下降が間に合わず、停留精巣の頻度が高い。正期産の男児では出生時に約3%程度にみられるのに対し、早産児・低出生体重児ではその数倍から十数倍と報告されている。なお、多くは生後数か月以内に自然下降し、1歳時点では約1%程度に減少する。
- ×c. 緊急手術の適応がある。
停留精巣そのものは緊急手術の対象ではない。生後早期、特に生後3〜6か月頃までは自然に陰嚢へ下降することがあるため、まずは経過観察を行う。それ以降は自然下降がほとんど期待できないため、生後6か月〜1歳頃を目安に、遅くとも2歳頃までに精巣固定術を行う待機手術とするのが一般的である。ただし、停留精巣は精巣捻転を起こしやすく、鼠径部や腹部の急な痛み・腫脹を伴う捻転を合併した場合には緊急手術となる。これは合併症に対する対応であり、停留精巣自体の適応とは区別する。
- ×d. 造精機能は温存される。
精巣が陰嚢外にあると、陰嚢内よりも高い温度環境に置かれるため、胚細胞の数が減少し、精子を作る機能(造精機能)が障害される。この変化は生後1年前後から組織学的に確認されるとされ、放置期間が長いほど障害は進む。これが早期(おおむね1〜2歳まで)に精巣固定術を行う主な理由である。両側例では将来の男性不妊の頻度が特に高く、片側例でも妊孕性がやや低下しうる。
- ×e. 片側例は経過観察する。
片側例であっても、患側精巣の造精機能障害や悪性化のリスク、鼠径ヘルニアや精巣捻転の合併のしやすさは両側例と同様に存在する。したがって、自然下降が期待できる期間を過ぎても陰嚢内に下降しなければ、片側・両側を問わず精巣固定術を行う。片側だから経過観察のみでよいという考え方は誤りである。なお、両側とも触知できない場合は、性分化疾患などの鑑別も必要になる。
停留精巣の概要
男児の先天異常の中で最も多いものの一つで、片側例が多く、右側にやや多い。精巣の位置により、腹腔内精巣、鼠径管内精巣、外鼠径輪付近の精巣などに分けられ、約8割は触知可能(多くは鼠径部)である。正常な下降経路から外れた位置にあるものは異所性精巣と呼ばれる。
移動性精巣との鑑別
移動性精巣(遊走精巣)は、精巣挙筋反射が強いために精巣が一時的に鼠径部へ引き上げられている状態で、診察時に陰嚢内へ無理なく引き下ろせ、手を離してもしばらくとどまる。これは原則として治療不要であり、停留精巣と区別することが大切である。ただし、成長につれて上昇して停留精巣となる例(上昇精巣)もあるため、経過観察は必要である。
合併症
・造精機能障害(男性不妊) ・精巣腫瘍(セミノーマが多い) ・鼠径ヘルニア(腹膜鞘状突起の開存を伴いやすい) ・精巣捻転 ・陰嚢が空であることによる心理的影響
診断
視診・触診が基本であり、非触知精巣では超音波検査やMRIが補助的に用いられるが、腹腔内精巣の検出には限界がある。確定には腹腔鏡検査が有用である。
治療
自然下降は生後3〜6か月頃までにほぼ起こり、それ以降はまれである。自然下降しない場合は、生後6か月〜1歳頃から、遅くとも2歳頃までに精巣固定術を行う。腹腔内精巣では腹腔鏡を用いた手術(必要に応じて段階的手術)が行われる。ホルモン療法(hCG、GnRH)は効果が限定的であり、現在は第一選択とされていない。
POINT
・停留精巣は早産児・低出生体重児に多い。 ・合併症は造精機能障害、精巣腫瘍(セミノーマ)、鼠径ヘルニア、精巣捻転。 ・高温環境により造精機能は障害される(温存されない)。 ・自然下降を期待して経過観察し、下降しなければ1〜2歳頃までに精巣固定術を行う(緊急手術ではない)。 ・片側例も両側例と同様に手術の適応となる。 ・移動性精巣は治療不要であり、停留精巣と区別する。
