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らせん菌はどれだ?―ライム病から整理する病原微生物の「所属」

第104回医師国家試験 I問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第20問

スピロヘータが引き起こすのはどれか。

  1. a.野兎病
  2. b.ライム病
  3. c.Hansen病
  4. d.つつが虫病
  5. e.Celsus禿瘡

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、選択肢に並んだ感染症の病原体が、それぞれどの微生物グループに属するかを問う問題だ。疾患名と病原体名を結びつけるだけでなく、「スピロヘータとはどんな菌か」を押さえておくと迷わずに解ける。まず、スピロヘータと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
細長くて、くるくるとらせん状の細菌ですよね。微生物学の講義で梅毒トレポネーマの写真を見ました。
ドクタードクター
そう。スピロヘータは細長いらせん状の細菌で、外膜と細胞壁の間に軸糸(ペリプラズム鞭毛)という鞭毛に相当する構造をもち、体全体をねじるようにして活発に動く。グラム染色では染まりにくいので、暗視野顕微鏡や鍍銀染色で観察するのが特徴だ。
医学生医学生
ヒトに病気を起こすスピロヘータって、梅毒以外にもありましたっけ。
ドクタードクター
主に3つの属を覚えておこう。梅毒を起こすトレポネーマ属、ライム病や回帰熱を起こすボレリア属、そしてWeil病を含むレプトスピラ症を起こすレプトスピラ属だ。この3つが頭に入っていれば、選択肢の中ですぐにライム病が目に留まるはずだよ。
医学生医学生
ライム病はボレリアだから、スピロヘータですね。でも、つつが虫病もダニが媒介するので、同じ仲間かと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこがこの問題の引っかけどころだね。媒介するのが同じダニ類でも、病原体の種類はまったく違う。つつが虫病の病原体はOrientia tsutsugamushiで、リケッチアの一種だ。リケッチアは宿主細胞の中でしか増えられない偏性細胞内寄生性の小さな細菌で、スピロヘータとは別物なんだ。
医学生医学生
つつが虫病は発熱、刺し口の黒い痂皮、発疹が三主徴でしたね。治療はテトラサイクリン系でβ-ラクタム系が効かない、とCBT対策で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。ではライム病についてもう少し。マダニ、日本ではシュルツェマダニなどに刺されて感染し、刺された部位を中心に輪のように外へ広がる遊走性紅斑が初期の特徴的な所見だ。進行すると顔面神経麻痺や髄膜炎などの神経症状、房室ブロック、関節炎を起こすことがある。日本では北海道や本州中部以北の山岳地帯で報告が多い。
医学生医学生
野兎病もダニで感染することがあるんですよね。これは何の菌でしたっけ。
ドクタードクター
野兎病菌、Francisella tularensisというグラム陰性の小さな桿菌だ。野ウサギなどの感染動物を処理したときの接触や、マダニの刺咬で感染する人獣共通感染症で、侵入部位の潰瘍と所属リンパ節の腫脹が典型的。ごく少量の菌でも感染が成立するほど感染力が強いのも特徴だよ。
医学生医学生
Hansen病は皮膚科の実習で少しだけ話を聞きました。らい菌は抗酸菌ですよね。
ドクタードクター
その通り。らい菌、Mycobacterium lepraeは結核菌と同じマイコバクテリウム属の抗酸菌だ。皮膚と末梢神経を侵して、知覚低下を伴う皮疹や末梢神経の肥厚を起こす。人工培地で培養できず、増殖が極めて遅いのも特徴だね。治療はリファンピシン、DDS、クロファジミンの多剤併用療法だ。
医学生医学生
Celsus禿瘡は名前がスピロヘータっぽくないですけど、何が原因なんですか。
ドクタードクター
これは細菌ですらなく、真菌の白癬菌による頭部白癬のうち、強い炎症を伴う病型だ。頭部に発赤や腫脹、膿疱を伴う隆起性病変ができて毛が抜けやすく、瘢痕性の脱毛が残ることもある。頭部白癬をステロイド外用で悪化させて起こる例もあるから、湿疹と誤認しないことが大切だ。毛包内の菌には外用薬が届きにくいので、治療は抗真菌薬の内服になる。
医学生医学生
つまり、グラム陰性桿菌、スピロヘータ、抗酸菌、リケッチア、真菌と、選択肢が全部違うグループなんですね。
ドクタードクター
そういうこと。この問題は、病原微生物の分類表を頭の中に持っているかを試しているんだ。最後に発展知識として、スピロヘータ感染症の特徴的な所見を整理しておこう。梅毒は硬性下疳、バラ疹、扁平コンジローマ、ゴム腫と病期ごとに所見が変わる。Weil病はネズミの尿で汚染された水や土壌との接触で感染し、黄疸、出血傾向、急性腎障害が特徴。回帰熱は名前の通り有熱期と無熱期を繰り返す。
医学生医学生
ダニ媒介感染症は、ライム病、日本紅斑熱、つつが虫病、野兎病、それにSFTSのようなウイルスまで混ざっているので、病原体ごとに分けて覚えないと混乱しそうです。
ドクタードクター
まさにそこが臨床でも大事な点だ。野山に入った後の発熱患者を診るときは、刺し口や皮疹の形、居住地や季節を手がかりに鑑別を進める。病原体の種類によって効く抗菌薬が違うから、分類の知識はそのまま治療選択に直結するんだよ。

まとめ

スピロヘータは細長いらせん状の細菌で、軸糸による活発な運動が特徴であり、ヒトに病原性を示す主なものはトレポネーマ(梅毒)、ボレリア(ライム病、回帰熱)、レプトスピラ(Weil病などのレプトスピラ症)の3属です。ライム病はマダニが媒介するボレリア感染症で、遊走性紅斑に始まり、顔面神経麻痺や房室ブロック、関節炎へ進むことがあります。一方、野兎病はグラム陰性桿菌、Hansen病は抗酸菌、つつが虫病はリケッチア、Celsus禿瘡は真菌である白癬菌が原因で、同じダニ媒介でも病原体の種類は大きく異なります。疾患名と病原体の分類を正確に結びつけておくことは、鑑別診断だけでなく適切な抗菌薬選択にもつながる重要な基礎知識です。

解答・解説

正解はbです

スピロヘータ(spirochete)は、細長いらせん状の形をした細菌の一群である。菌体の外膜と細胞壁の間に鞭毛に相当する構造(軸糸、ペリプラズム鞭毛)をもち、菌体全体をねじるようにして活発に運動するのが特徴である。一般にグラム染色では染まりにくく、観察には暗視野顕微鏡や鍍銀染色などが用いられる。 ヒトに病気を起こすスピロヘータは、主に次の3属である。 ・トレポネーマ属(Treponema):梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による梅毒 ・ボレリア属(Borrelia):ライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi など)によるライム病、回帰熱ボレリアによる回帰熱 ・レプトスピラ属(Leptospira):レプトスピラ症(重症型がWeil病) 本問は、選択肢の各疾患の病原体がどの微生物群に属するかを整理できていれば解ける。野兎病はグラム陰性桿菌、Hansen病は抗酸菌、つつが虫病はリケッチア(オリエンチア)、Celsus禿瘡は真菌(白癬菌)によるものであり、スピロヘータによるのはライム病だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  野兎病

    野兎病(tularemia)の病原体は、グラム陰性の小さな桿菌である野兎病菌(Francisella tularensis)であり、スピロヘータではない。野ウサギなどの感染動物の処理(皮をはぐ、調理する)による接触や、マダニなどの節足動物の刺咬で感染する人獣共通感染症である。菌の侵入部位の潰瘍と所属リンパ節の腫脹(潰瘍リンパ節型)が典型的で、日本では東北地方などでの報告がある。感染力が強く、ごく少量の菌で感染が成立する。

  2. ○b.  ライム病

    ライム病(Lyme disease)は、スピロヘータの一種であるボレリア属のライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi sensu lato。日本では B. garinii や B. afzelii が主体)による感染症である。野山に生息するマダニ(日本ではシュルツェマダニなど)に刺されることで感染する。刺された部位を中心に遠心性に広がる紅斑(遊走性紅斑)が初期の特徴的所見で、進行すると神経症状(顔面神経麻痺、髄膜炎など)、心病変(房室ブロック)、関節炎などを起こしうる。治療にはドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系やβ-ラクタム系抗菌薬が用いられる。日本では北海道や本州中部以北の山岳地帯で報告が多い。

  3. ×c.  Hansen病

    Hansen病の病原体はらい菌(Mycobacterium leprae)であり、結核菌と同じマイコバクテリウム属の抗酸菌である。スピロヘータではない。皮膚と末梢神経を主に侵し、知覚低下を伴う皮疹や末梢神経の肥厚などを生じる。人工培地では培養できない点、増殖が極めて遅い点が特徴である。治療はリファンピシン、ジアフェニルスルホン(DDS)、クロファジミンによる多剤併用療法である。

  4. ×d.  つつが虫病

    つつが虫病の病原体は、リケッチアの一種である Orientia tsutsugamushi(オリエンチア・ツツガムシ)である。リケッチアは宿主細胞内でしか増殖できない偏性細胞内寄生性の小型細菌で、スピロヘータとは異なる。ツツガムシの幼虫に刺されて感染し、発熱、刺し口(黒色の痂皮)、発疹、リンパ節腫脹が三主徴として知られる。治療はテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択で、β-ラクタム系は無効である。

  5. ×e.  Celsus禿瘡

    Celsus禿瘡(ケルスス禿瘡)は、頭部白癬のうち強い炎症を伴う病型で、原因は真菌である白癬菌(皮膚糸状菌)である。細菌であるスピロヘータとは全く異なる。頭部に発赤・腫脹・膿疱を伴う隆起性の病変ができ、毛が容易に抜け、瘢痕を残して脱毛が残ることもある。頭部白癬にステロイド外用薬を誤って使用して悪化・発症する例もある。治療は抗真菌薬の内服である(外用のみでは毛包内の菌に届きにくい)。

病原微生物の分類と代表疾患の整理

・スピロヘータ:梅毒(Treponema pallidum)、ライム病・回帰熱(Borrelia)、レプトスピラ症・Weil病(Leptospira interrogans) ・リケッチア:つつが虫病(Orientia tsutsugamushi)、日本紅斑熱(Rickettsia japonica)、発疹チフス(Rickettsia prowazekii) ・抗酸菌:結核(Mycobacterium tuberculosis)、Hansen病(Mycobacterium leprae)、非結核性抗酸菌症 ・グラム陰性桿菌(人獣共通感染症の例):野兎病(Francisella tularensis)、ペスト(Yersinia pestis)、ブルセラ症(Brucella) ・真菌:白癬(Trichophyton、Microsporum など)、カンジダ症、アスペルギルス症

ダニが媒介する感染症

ライム病、日本紅斑熱、つつが虫病、野兎病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ダニ媒介脳炎などはいずれもダニ類が媒介するが、病原体は細菌(スピロヘータ、リケッチア、グラム陰性桿菌)からウイルスまでさまざまである。媒介生物と病原体の種類を混同しないことが大切である。

スピロヘータ感染症の特徴的所見

・梅毒:初期硬結・硬性下疳、バラ疹、扁平コンジローマ、ゴム腫など病期ごとの所見 ・ライム病:遊走性紅斑、顔面神経麻痺、房室ブロック、関節炎 ・Weil病:黄疸、出血傾向、腎障害(急性腎障害)。ネズミの尿で汚染された水や土壌との接触で感染する ・回帰熱:有熱期と無熱期を繰り返す

POINT

・ヒトに病原性を示すスピロヘータはトレポネーマ(梅毒)、ボレリア(ライム病、回帰熱)、レプトスピラ(Weil病)の3属。 ・ライム病はマダニ媒介で、遊走性紅斑が特徴。 ・つつが虫病はリケッチア(Orientia)、野兎病はグラム陰性桿菌(Francisella)、Hansen病は抗酸菌(M. leprae)、Celsus禿瘡は白癬菌(真菌)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。