欠けた酵素は何をこわす?―溶血を起こすのはG-6-PD欠損症だけ
第104回医師国家試験 I問題 第16問
国試問題にチャレンジ
溶血性貧血をきたすのはどれか。
- a.グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症
- b.アデノシンデアミナーゼ欠損症
- c.C1インヒビター欠損症
- d.ビタミンK欠乏症
- e.第ⅩⅢ因子欠乏症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
溶血性貧血は、赤血球が寿命より早く破壊されて起こる貧血で、膜・酵素・ヘモグロビンの異常による内因性と、免疫や機械的破壊などによる外因性に分けられます。G-6-PD欠損症はペントースリン酸回路でのNADPH産生が低下し、酸化ストレスに弱くなってHeinz小体を形成するX連鎖劣性の酵素異常症で、薬剤やソラマメ、感染を契機に溶血発作を起こします。同じ欠損症でも、ADA欠損症は重症複合免疫不全症、C1インヒビター欠損症は遺伝性血管性浮腫、ビタミンK欠乏症と第ⅩⅢ因子欠乏症は出血傾向をきたし、第ⅩⅢ因子欠乏症はPT・APTTが正常な点が特徴です。慢性溶血を示すピルビン酸キナーゼ欠損症もあわせて押さえておくと、赤血球酵素異常の全体像がつかめます。欠けた分子がどの系統で働くかを考える習慣は、名前だけでは区別しにくい先天性疾患を整理するうえで役立ちます。
解答・解説
正解はaです
溶血性貧血とは、赤血球が本来の寿命(約120日)より早く破壊されることで生じる貧血である。原因は、赤血球そのものに異常がある赤血球内因性(膜の異常、酵素の異常、ヘモグロビンの異常)と、赤血球の外に原因がある赤血球外因性(自己抗体、機械的破壊、感染、薬剤など)に大別される。 本問の選択肢は、いずれも「ある酵素・因子が欠けている」疾患であり、それぞれの欠損が何を引き起こすかを整理できれば解ける。赤血球の酵素異常として溶血をきたすのはG-6-PD欠損症(ほかにピルビン酸キナーゼ欠損症)であり、アデノシンデアミナーゼ欠損症は免疫不全、C1インヒビター欠損症は血管性浮腫、ビタミンK欠乏症と第ⅩⅢ因子欠乏症は凝固障害による出血傾向をきたす。 つまり「赤血球の代謝に関わる酵素か、免疫・補体・凝固に関わる分子か」を見分けることが鍵となる。
選択肢考察
- ○a. グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症
グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G-6-PD)は、ペントースリン酸回路の最初の反応を担い、NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を産生する。赤血球はミトコンドリアをもたないため、NADPHの供給をこの経路に依存している。NADPHは還元型グルタチオンを再生し、活性酸素から赤血球を守る働きをもつ。G-6-PDが欠損すると酸化ストレスに弱くなり、ヘモグロビンが酸化・変性してHeinz小体(変性ヘモグロビンの凝集物)を形成し、膜が傷害されて溶血に至る。X連鎖劣性遺伝で主に男性に発症し、サルファ剤、抗マラリア薬(プリマキンなど)、ソラマメの摂取、感染などを契機に急性の溶血発作を起こすのが典型である。
- ×b. アデノシンデアミナーゼ欠損症
アデノシンデアミナーゼ(ADA)はプリン代謝の酵素で、アデノシンやデオキシアデノシンを分解する。欠損するとデオキシアデノシン由来の代謝産物(dATP)がリンパ球内に蓄積し、分裂の盛んなリンパ球が障害される。その結果、T細胞・B細胞・NK細胞がいずれも著減する重症複合免疫不全症(SCID)をきたす。常染色体劣性遺伝であり、造血幹細胞移植、酵素補充療法、遺伝子治療の対象として知られる。溶血性貧血とは関係しない。
- ×c. C1インヒビター欠損症
C1インヒビターは補体古典経路の最初の段階(C1)を抑える制御蛋白であり、カリクレイン-キニン系も抑制する。欠損するとブラジキニンが過剰に産生されて血管透過性が亢進し、顔面・四肢の皮下や消化管、喉頭などに発作的な浮腫が生じる。これが遺伝性血管性浮腫(HAE、常染色体優性遺伝)で、蕁麻疹を伴わず、抗ヒスタミン薬が効きにくく、喉頭浮腫による窒息が致死的となり得る。検査では補体C4が低下する。溶血性貧血はきたさない。
- ×d. ビタミンK欠乏症
ビタミンKは、肝臓で産生される凝固因子のうち第Ⅱ(プロトロンビン)・第Ⅶ・第Ⅸ・第Ⅹ因子のγ-カルボキシル化に必要な補酵素である。欠乏するとこれらの因子が機能せず、プロトロンビン時間(PT)の延長を中心とした凝固障害と出血傾向をきたす。PIVKA-Ⅱ(ビタミンK欠乏時に出現する異常プロトロンビン)が上昇する。新生児・乳児のビタミンK欠乏性出血症(頭蓋内出血など)、抗菌薬長期投与、閉塞性黄疸による吸収障害、ワルファリン投与などが原因となる。溶血は起こさない。
- ×e. 第ⅩⅢ因子欠乏症
第ⅩⅢ因子(フィブリン安定化因子)は、トロンビンによって活性化され、フィブリン同士を架橋結合させて血栓を安定化する。欠乏するとできた血栓がもろく、一度止まった出血が再び起こる(後出血)、臍帯脱落後の出血が止まりにくい、創傷治癒が遅れる、といった特徴をもつ出血傾向を呈する。PTや活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は正常であるため、通常の凝固検査では見逃されやすい。溶血性貧血とは無関係である。
溶血性貧血の分類
・赤血球膜異常:遺伝性球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH、後天性の膜異常) ・赤血球酵素異常:G-6-PD欠損症(ペントースリン酸回路の異常、酸化ストレスで溶血)、ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症(解糖系の異常、ATP不足で溶血) ・ヘモグロビン異常:鎌状赤血球症、サラセミア ・免疫性:自己免疫性溶血性貧血(温式・冷式)、不適合輸血、新生児溶血性疾患 ・機械的・その他:血栓性微小血管症(TTP、溶血性尿毒症症候群)、人工弁、行軍ヘモグロビン尿症、感染(マラリアなど)
溶血の検査所見
貧血、網赤血球増加、間接ビリルビン上昇、LDH上昇、ハプトグロビン低下。血管内溶血ではヘモグロビン尿、ヘモジデリン尿もみられる。
G-6-PD欠損症とPK欠損症の比較
・G-6-PD欠損症:X連鎖劣性。薬剤・感染・ソラマメなど酸化ストレスを契機とする急性溶血発作。Heinz小体、bite cell(噛み跡状赤血球)。 ・PK欠損症:常染色体劣性。解糖系が障害されATPが不足し、慢性の溶血を呈する。
本問で登場した他の疾患
・ADA欠損症:SCIDの代表的な原因の一つ。 ・C1インヒビター欠損症:遺伝性血管性浮腫。C4低下。治療・予防にC1インヒビター製剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬など。 ・ビタミンK欠乏症:PT延長、PIVKA-Ⅱ上昇。 ・第ⅩⅢ因子欠乏症:PT・APTTとも正常の出血傾向、後出血。
POINT
・溶血をきたす赤血球酵素異常症は、G-6-PD欠損症とピルビン酸キナーゼ欠損症が重要。 ・G-6-PD欠損症:X連鎖劣性、NADPH不足で酸化ストレスに弱い、薬剤・ソラマメ・感染で溶血発作、Heinz小体。 ・ADA欠損症→重症複合免疫不全症、C1インヒビター欠損症→遺伝性血管性浮腫。 ・ビタミンK欠乏症・第ⅩⅢ因子欠乏症→出血傾向(第ⅩⅢ因子欠乏はPT・APTT正常)。
