「知らないでいる権利」も患者のもの―病状説明の基本姿勢
第104回医師国家試験 H問題 第4問
国試問題にチャレンジ
患者への病状の説明で適切なのはどれか。
- a.看護師は同席させない。
- b.診療録には説明内容を記載しない。
- c.説明時の同席は家族に限定する。
- d.話しことばを避けて正確な医学用語を用いる。
- e.患者が詳しい病状説明を希望しなければその意向に沿う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
病状説明はインフォームド・コンセントの土台であり、その根底には患者の自己決定権の尊重があります。患者には知る権利と同時に「知らないでいる権利」があり(リスボン宣言)、詳しい説明を望まない場合はその意向に沿い、キーパーソンの指定や後日の説明の申し出などで配慮します。同席者は家族に限らず患者の希望で決め、看護師などの医療スタッフも了承を得て同席するのが望ましく、説明は平易な日常語で理解度を確かめながら行い、内容・同席者・患者の反応は診療録に記載します。悪い知らせを伝える際のSPIKESなどの枠組みも含め、「患者中心・わかりやすさ・チームと記録」という軸を身につけることは、国試だけでなく臨床で信頼関係を築くための基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、医師が患者に病状を説明する際の基本的な姿勢を問う問題である。病状説明はインフォームド・コンセント(十分な説明を受け、理解したうえでの同意)の土台であり、その根底にあるのは患者の自己決定権の尊重である。 考え方の軸は次の3点に整理できる。 1)患者中心であること:誰に同席してもらうか、どこまで詳しく知りたいかは、原則として患者本人の意向を確認し、それに沿って決める。医療者側が画一的に制限するものではない。 2)理解しやすいこと:説明は患者が理解できてはじめて意味をもつ。専門用語をそのまま並べるのではなく、平易な日常語で、患者の理解度を確かめながら行う。 3)チームで行い、記録に残すこと:看護師など多職種が同席して情報を共有し、説明後の心理的支援につなげる。説明した内容・同席者・患者の反応や質問は診療録に記載する。 この軸に照らすと、患者が詳しい説明を望まないという意思表示を尊重する選択肢が適切であり、他の選択肢はいずれも患者中心・わかりやすさ・チーム医療と記録のいずれかに反している。
選択肢考察
- ×a. 看護師は同席させない。
不適切。病状説明には、患者の同意を得たうえで担当看護師などが同席することが望ましい。看護師が説明の内容や患者の反応を把握していれば、説明後に患者が抱く疑問や不安を拾い上げ、心理的な支えとなることができる。また、医療チーム内で同じ情報を共有することは、方針の一貫性を保つうえでも重要である。同席を一律に禁じる理由はない。
- ×b. 診療録には説明内容を記載しない。
不適切。説明した日時、同席者、説明の内容、患者・家族の理解度や反応、質問とその回答、患者が示した意思などは診療録に記載すべきである。記録があれば、他の医療者が説明の経過を把握でき、診療の継続性が保たれる。さらに、適切な説明を行ったことの証拠となり、医療紛争の予防・対応にも役立つ。手術や重大な治療方針の説明など内容が複雑な場合は、説明文書を用いて渡し、その写しも保存しておくとよい。
- ×c. 説明時の同席は家族に限定する。
不適切。病状は患者本人の個人情報であり、誰に同席してもらうかは本人の希望に基づいて決める。家族以外であっても、パートナーや親しい友人、支援者など、本人が同席を望む人であれば同席してよい。反対に、家族であっても本人が同席を望まない場合には、その意向に配慮する必要がある。同席者を一律に家族に限定する根拠はない。
- ×d. 話しことばを避けて正確な医学用語を用いる。
不適切。医学用語は医療者どうしでは正確だが、一般の人には意味が伝わりにくく、誤解や不安を招くことがある。説明は患者が理解できる平易な日常語(話しことば)で行い、必要に応じて図や模型、文書を用い、途中で理解度を確認しながら進める。正確さを保ちつつ、専門用語を使う場合にはその意味を言い換えて補うことが求められる。
- ○e. 患者が詳しい病状説明を希望しなければその意向に沿う。
適切。患者には自らの病状について知る権利があると同時に、知りたくないことを知らされない権利(知らないでいる権利)もある。世界医師会のリスボン宣言でも、患者が明確に希望する場合には情報を知らされない権利が認められている。したがって、患者が詳細な説明を望まない場合は、その意向を尊重し、患者が知りたい範囲に合わせて説明する。その際、本人に代わって説明を受ける人(キーパーソン)を指定してもらうか確認する、後日あらためて説明を希望すれば応じると伝えておく、といった配慮が望ましい。ただし、治療の選択に最低限必要な情報や、感染症のように第三者の健康に関わる情報など、例外的に伝える必要がある場合もある。
インフォームド・コンセントの要素
・医師による十分な説明:病名・病状、検査や治療の目的と内容、期待される効果、危険性・副作用、他の選択肢(治療しない場合を含む)とその予後など。 ・患者の理解:患者が理解できる言葉と方法で説明し、理解を確認する。 ・自発的な同意:強制や誘導のない状態で患者自身が判断する。同意はいつでも撤回できる。
患者の権利に関するリスボン宣言(世界医師会)の主な内容
良質な医療を受ける権利、選択の自由の権利、自己決定の権利、意識のない患者・法的無能力の患者への対応、情報を得る権利、守秘義務に対する権利、健康教育を受ける権利、尊厳に対する権利、宗教的支援を受ける権利などが挙げられている。情報を得る権利の項では、患者は自分の医療上の情報を知る権利をもつ一方、明確な要求があれば知らされない権利をもつこと、また誰が代わりに情報を受けるかを選択できることが示されている。
病状説明の実際で配慮すること
・がんなど生命予後に関わる疾患、HIV感染症などの感染症、遺伝性疾患では、何をどこまでどのように伝えるかを事前に十分検討し、説明後の心理的サポート体制を整えておく。 ・悪い知らせを伝える際の手順として、SPIKES(場の設定、患者の認識の確認、知りたい範囲の確認、情報の提供、感情への対応、今後の方針のまとめ)などの枠組みが知られている。 ・静かでプライバシーが守られる場所を用意し、十分な時間をとる。 ・同席者は患者の希望を聞いて決める。人数が多い場合は説明を複数回に分けることも考える。医療者側の同席者についても患者の了承を得る。 ・説明内容は診療録に記載し、複雑な説明は文書を用いてその写しを保存する。
POINT
・病状説明は患者の自己決定権を尊重し、患者の意向に沿って行う。 ・患者には「知る権利」とともに「知らないでいる権利」がある(リスボン宣言)。 ・同席者は家族に限らず、患者の希望で決める。看護師などの医療スタッフも患者の同意を得て同席するのが望ましい。 ・説明は平易な日常語で、理解度を確認しながら行う。 ・説明内容・同席者・患者の反応は必ず診療録に記載する。
