「1回だけ陽性」をどう読む?―便潜血検査と大腸内視鏡への最短ルート
第104回医師国家試験 H問題 第23問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。大腸がん検診で便潜血陽性を指摘されたため来院した。検診結果は2回の検査のうち1回は陽性で,1回は陰性であった。自覚症状はない。10年前の胃がん検診で胃潰瘍瘢痕の疑いを指摘されている。 対応として適切なのはどれか。
- a.経過観察
- b.便潜血の再検査
- c.腹部造影CT
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.下部消化管内視鏡検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本の対策型大腸がん検診は40歳以上を対象に免疫学的便潜血検査2日法で行われ、2回のうち1回でも陽性なら要精密検査となります。大腸癌やポリープからの出血は間欠的なため、1回陰性でも病変は否定できず、便潜血の再検査による「陰性確認」や経過観察は不適切です。精密検査の第一選択は全大腸内視鏡検査で、病変の直接観察・生検・内視鏡的切除まで同時に行えます。免疫法はヒトヘモグロビンを検出し、上部消化管からの出血は変性して検出されにくいため、胃の既往があっても上部内視鏡は便潜血陽性の精査になりません。また腹部造影CTは大腸癌診断後の病期診断に用いる検査であり、検査の特性と役割を理解することが、陽性者を確実に内視鏡へつなぐ臨床判断の基礎となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・60歳の男性で、大腸癌の好発年齢にあたる。 ・大腸がん検診の便潜血検査(2日法)で、2回のうち1回が陽性。 ・自覚症状はない。 ・10年前に胃潰瘍瘢痕の疑いを指摘されている。
考え方
日本の対策型大腸がん検診は、40歳以上を対象とした免疫学的便潜血検査の2日法(2日分の便を別々に採取して調べる方法)で行われる。判定は、2回のうち「1回でも陽性」なら要精密検査である。大腸癌やポリープからの出血は持続的ではなく間欠的なことが多いため、2回とも陽性になるとは限らない。1回陰性であることは病変がないことを意味しない。 要精密検査となった場合、精密検査として推奨されるのは全大腸内視鏡検査(下部消化管内視鏡検査)である。大腸全体を直接観察でき、病変があればその場で生検や、ポリープであれば内視鏡的切除まで行える。全大腸内視鏡検査が困難な場合には、S状結腸内視鏡と注腸X線検査の併用やCTコロノグラフィー(大腸CT)が代替となるが、第一選択は全大腸内視鏡検査である。 胃潰瘍瘢痕の既往は、本問では判断を迷わせるための情報である。現在の免疫学的便潜血検査はヒトヘモグロビンに対する抗体を用いる検査で、上部消化管からの出血は胃酸や消化酵素でヘモグロビンが変性するため検出されにくい。したがって、便潜血陽性の精密検査として上部消化管を調べることにはならない。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
便潜血陽性(要精密検査)と判定された人を精密検査なしで経過観察とするのは誤りである。症状がないことは大腸癌を否定する根拠にならない。検診の目的は、無症状の段階で癌や前癌病変(腺腫)を見つけることにある。精密検査を受けなければ検診の意味が失われる。
- ×b. 便潜血の再検査
出血は間欠的であるため、再検査で陰性となっても病変の存在は否定できない。再検査で陰性を確認して精密検査を省くことは、癌の見逃しにつながる。そのため、要精密検査となった人に便潜血検査をやり直すことは精密検査として認められていない。1回でも陽性であれば、直ちに全大腸内視鏡検査を行う。
- ×c. 腹部造影CT
通常の腹部造影CTは、進行した大腸癌であれば腫瘤として描出できることがあるものの、早期癌や小さなポリープの検出には適さない。組織を採取して確定診断することもできない。造影CTの主な役割は、大腸癌と診断された後の病期診断(リンパ節転移や肝・肺転移など遠隔転移の評価)であり、便潜血陽性時の最初の精密検査ではない。なお、大腸を空気や炭酸ガスで拡張させて撮影するCTコロノグラフィーは、内視鏡が困難な場合の代替法として位置づけられており、通常の腹部造影CTとは別の検査である。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査
胃潰瘍瘢痕の既往に引きずられた選択肢である。検診で用いる免疫学的便潜血検査はヒトヘモグロビンを抗体で検出するが、胃や十二指腸などから出た血液のヘモグロビンは腸管を通過する間に変性し、ほとんど検出されない。このため、便潜血陽性は主に下部消化管(大腸・直腸)からの出血を示す。上部消化管の評価は、便潜血陽性の精査として優先されるものではない。
- ○e. 下部消化管内視鏡検査
便潜血検査2回のうち1回でも陽性であれば要精密検査である。精密検査の第一選択は全大腸内視鏡検査である。盲腸から直腸までを直接観察でき、病変が見つかれば生検による組織診断や、腺腫・早期癌であれば内視鏡的切除(ポリペクトミー、EMR、ESD)まで同時に行える。前処置(腸管洗浄剤の服用)が必要で、穿孔・出血などの偶発症がまれにあるものの、得られる利益がそれを上回る。
大腸がん検診(対策型)
・対象: 40歳以上 ・間隔: 年1回 ・方法: 問診と免疫学的便潜血検査(2日法) ・判定: 2回のうち1回でも陽性なら要精密検査 ・精密検査: 全大腸内視鏡検査が第一選択。困難な場合はS状結腸内視鏡と注腸X線検査の併用などを行う。 便潜血検査による検診は、無作為化比較試験で大腸癌死亡率を減少させることが示されている。
便潜血検査の種類
・化学法(グアヤック法など): ヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性を利用する。ヒト以外の血液(肉類)や鉄剤、一部の野菜などでも陽性となるため、食事制限が必要である。上部消化管出血にも反応しうる。 ・免疫法: ヒトヘモグロビンに対する抗体を用いる。食事制限が不要で、微量の出血も検出できる。変性したヘモグロビンには反応しにくいため、主に下部消化管からの出血を反映する。現在の検診ではこちらが用いられる。
便潜血陽性の原因
大腸癌、大腸腺腫(ポリープ)のほか、痔核、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)、憩室出血、虚血性大腸炎、血管異形成などがある。痔核がある人でも、それを陽性の原因と決めつけずに全大腸内視鏡検査を行う。
要精密検査者の対応の注意点
便潜血陽性者の精密検査受診率が低いことが、日本の大腸がん検診の課題とされている。「もう一度便潜血検査をして陰性なら安心」という対応は誤りであり、1回陽性の時点で内視鏡検査につなげることが重要である。
POINT
・大腸がん検診は40歳以上、年1回、免疫学的便潜血検査2日法 ・2回中1回でも陽性なら要精密検査 ・精密検査は全大腸内視鏡検査(下部消化管内視鏡検査)が第一選択 ・便潜血の再検査による「陰性確認」は不可(出血は間欠的) ・免疫法はヒトヘモグロビンを検出し、上部消化管出血は検出されにくい→上部内視鏡は便潜血陽性の精査にならない ・腹部造影CTは大腸癌診断後の病期診断に用いる
