「最期の医療」ではない―診断時から遺族まで支える緩和ケアチームの姿
第104回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
緩和ケアチームについて正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.遺族のケアも担当する。
- b.心のケアの担当者が含まれる。
- c.診断早期の患者は対象としない。
- d.最終的な方針は医師が決定する。
- e.病状を未告知の患者は対象としない。
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
緩和ケアは終末期に限ったものではなく、生命を脅かす疾患に直面する患者と家族の身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛)に、診断時から治療と並行して対応するアプローチです。緩和ケアチームは身体症状担当医師、精神症状担当医師、看護師、薬剤師を中心とした多職種で構成され、心のケアの担当者を含みます。対象は患者だけでなく家族にも及び、死別後の遺族へのグリーフケアも担います。病状が未告知の患者も、本人の受け止め方に配慮しながら対象とし、方針は医師が一方的に決めるのではなく、多職種の協議と患者・家族の意向に基づく共同意思決定で定めます。主治医と連携するコンサルテーション型の関わりや、「緩和ケア=見放される」という誤解を解く説明の工夫まで理解しておくことが、がん診療に携わるすべての医師にとって欠かせません。
解答・解説
正解はa, bです
テーマ
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族について、痛みなどの身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアル(霊的)な問題を早期に見出して的確に評価・対応し、苦痛を予防・軽減することで生活の質(QOL)を改善するアプローチである(WHOの定義に基づく)。がん患者の苦痛は、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面が絡み合った「全人的苦痛(トータルペイン)」としてとらえられ、一人の医師だけでは対応しきれない。そのため、多職種で構成される緩和ケアチームが、主治医や病棟スタッフと連携しながら介入する。
正解を導く考え方
選択肢は次の3つの観点で整理できる。 ・誰をケアするか: 患者だけでなく家族も対象であり、死別後の遺族へのケアも含まれる。 ・誰がケアするか: 身体症状担当の医師に加え、精神症状を担当する医師(精神科医・心療内科医)、看護師、薬剤師、さらに必要に応じて心理職、医療ソーシャルワーカー、栄養士、リハビリテーション職などが加わる多職種チームである。 ・いつ、どのように関わるか: 終末期に限らず診断時から治療と並行して関わる。方針は医師が一方的に決めるのではなく、患者・家族の意向を中心に多職種で話し合って決める。病状が十分に告知されていない患者も、配慮しながら対象とする。 以上から、a と b が正しい。
選択肢考察
- ○a. 遺族のケアも担当する。
緩和ケアの対象は患者本人だけでなくその家族を含み、WHOの考え方でも、患者の療養中から死別後まで家族の悲嘆に対処できるよう支援することが緩和ケアの役割に挙げられている。死別後の遺族が抱える悲嘆(グリーフ)に寄り添うグリーフケア(遺族ケア)も緩和ケアチームの担う領域である。死別前から家族の不安や予期悲嘆に目を向け、死別後には遺族外来や手紙・面談などを通じて、悲嘆が遷延・複雑化していないかを見守る。
- ○b. 心のケアの担当者が含まれる。
がん患者には不安、抑うつ、適応障害、せん妄などの精神症状が高頻度にみられ、全人的苦痛の精神的側面への対応が欠かせない。そのため緩和ケアチームには、身体症状の緩和を担当する医師とともに、精神症状の緩和を担当する医師(精神科医や心療内科医)が含まれる。診療報酬上の緩和ケア診療加算の施設基準でも、身体症状担当医師、精神症状担当医師、看護師、薬剤師から成るチームが求められている。公認心理師などの心理職が加わることも多い。
- ×c. 診断早期の患者は対象としない。
緩和ケアは終末期だけのものではなく、がんと診断された時点から、手術・化学療法・放射線療法などの治療と並行して提供されるべきものである。がん対策基本法に基づくがん対策推進基本計画でも「診断時からの緩和ケア」が掲げられている。診断直後は告知による精神的衝撃や治療選択の悩みが大きい時期であり、早期からの介入は患者のQOLを高め、抑うつの軽減にもつながることが示されている。したがって診断早期の患者も対象となる。
- ×d. 最終的な方針は医師が決定する。
緩和ケアチームでは、医師、看護師、薬剤師、心理職、医療ソーシャルワーカーなどがそれぞれの専門的立場から評価と意見を持ち寄り、カンファレンスを通じてチームとして方針を立てる。そのうえで、方針は患者・家族の意向と価値観を尊重し、話し合いながら共有して決めていく(共同意思決定)ものであり、医師が一方的に最終決定するものではない。なお、緩和ケアチームは主治医に代わって治療を行うのではなく、主治医や病棟スタッフを支援・助言する立場で関わることが基本である。
- ×e. 病状を未告知の患者は対象としない。
緩和ケアの対象は苦痛を抱えるすべての患者であり、病名や予後が十分に伝えられていない患者も含まれる。実際には、病状や予後の説明が十分になされていない患者に関わる場面は少なくない。そのような場合は、患者が知りたいことや受け止められる範囲に配慮しながら症状緩和を行い、痛みや精神状態が不安定なときに無理に現実に向き合わせることは避ける。必要に応じて、主治医とともに病状の理解を段階的に支えていく。
全人的苦痛(トータルペイン)
・身体的苦痛: 痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・嘔吐など ・精神的苦痛: 不安、抑うつ、いらだち、孤独感、恐怖など ・社会的苦痛: 経済的問題、仕事や家庭内の役割の喪失、人間関係など ・スピリチュアルな苦痛: 生きる意味や価値への問い、死への恐怖、罪責感など
緩和ケアチームの構成
緩和ケア診療加算の施設基準では、身体症状の緩和を担当する医師、精神症状の緩和を担当する医師、緩和ケアの経験を有する看護師、緩和ケアの経験を有する薬剤師の4者から成るチームが求められ、各職種に一定の経験年数や研修修了などの要件が定められている。実際の活動では、心理職、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、理学療法士・作業療法士、歯科医師などが加わることも多い。
緩和ケアチームと主治医の関係
・チームは主治医の依頼に基づいて介入し、主治医・病棟スタッフへの助言と支援を通じて患者・家族のケアに関わる(コンサルテーション型)。 ・依頼前に、主治医が患者・家族に緩和ケアの意味を説明しておくことが大切である。「緩和ケア=死を待つだけ」という誤解から不安を強める患者・家族も少なくないためである。 ・主治医は依頼後も患者の話を聴き続け、チームとは直接顔を合わせて情報を共有することが望ましい。
緩和ケアの提供の場
一般病棟での緩和ケアチームによる介入、緩和ケア病棟(ホスピス)、緩和ケア外来、在宅緩和ケアなどがある。
遺族ケア
死別後の正常な悲嘆反応は時間とともに和らいでいくが、一部では遷延性悲嘆症(悲嘆が長期に続き日常生活に支障を来す状態)やうつ病に移行することがある。遺族のケアは、こうした状態の早期発見と支援にもつながる。
POINT
・緩和ケアの対象は患者と家族であり、死別後の遺族ケア(グリーフケア)も含む。 ・緩和ケアチームは多職種で構成され、精神症状を担当する医師など心のケアの担当者を含む。 ・緩和ケアは診断時から、がん治療と並行して提供する。 ・方針は多職種の協議と患者・家族の意向に基づき決定する。 ・病状未告知の患者も対象であり、告知の程度に配慮して関わる。
