StudyMed医師国家試験

「たった1例」はどこまで語れるか―研究デザインで読み解くエビデンスの階段

第104回医師国家試験 G問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第7問

因果関係を推論するときにエビデンスレベルが最も低いのはどれか。

  1. a.症例研究
  2. b.介入研究
  3. c.症例対照研究
  4. d.コホート研究
  5. e.メタアナリシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、研究デザインごとに「因果関係をどれだけ確からしく示せるか」を比べる問題だ。いわゆるエビデンスレベルの序列だね。丸暗記ではなく、なぜその順番になるのかという理屈を押さえると、どんな聞かれ方をしても迷わなくなるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義でピラミッドの図を見ました。上がメタアナリシスで、下のほうに症例報告があった気がします。
ドクタードクター
その図で合っている。では、その順番を決めている物差しは何だと思う?
医学生医学生
対象者の数、でしょうか。たくさん集めた研究ほど信頼できる気がします。
ドクタードクター
数も精度には関わるけれど、本質は少し違う。因果関係の推論を邪魔するのは、偶然、バイアス、そして交絡という3つだ。交絡とは、原因と結果の両方に関係する第三の因子のこと。たとえば飲酒と肺癌の関連を調べると、飲酒者に喫煙者が多いせいで見かけ上の関連が出てしまう。こうした邪魔者をどれだけ排除できるかで、研究デザインの強さが決まるんだ。
医学生医学生
なるほど、数が多くても交絡が残っていれば、因果関係は言えないわけですね。
ドクタードクター
その通り。では一番下から考えよう。症例研究、つまり症例報告やケースシリーズはどうかな。
医学生医学生
臨床実習の症例検討会で、珍しい副作用の症例報告を読みました。「この薬を使ったらこうなった」という記録でしたが、それだけでは薬のせいとは言い切れないのでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。症例研究には比較対照群がない。もしその薬を使わなかったらどうなっていたかがわからないから、自然経過や偶然と区別できないんだ。だから因果関係の根拠としては最も弱く、今回の選択肢の中ではこれが最もエビデンスレベルが低い。ただし、まれな疾患や新しい副作用の発見、仮説を立てるきっかけとしてはとても大切な研究だよ。
医学生医学生
価値がないわけではなく、「仮説を生む研究」ということですね。次に症例対照研究とコホート研究は、どちらが上でしたっけ。いつも混乱します。
ドクタードクター
時間の流れで考えるとわかりやすい。症例対照研究は、病気になった人とならなかった人を集めて、過去の曝露をさかのぼって比べる。結果から原因を探る後ろ向きの研究だ。まれな疾患でも短期間・少人数で実施できるのが利点だね。
医学生医学生
でも、昔のことを思い出してもらうなら記憶があいまいになりそうです。病気になった人ほど原因を一生懸命思い出そうとしそうですし。
ドクタードクター
まさにそれが想起バイアスだ。対照群の選び方による選択バイアスも入りやすい。一方、コホート研究は曝露のある集団とない集団を追跡して、その後の発生率を比べる。曝露が結果に先行するという時間の順序を確認でき、相対危険や寄与危険も直接求められる。だから観察研究の中ではコホート研究のほうが上位なんだ。
医学生医学生
症例対照研究で求めるのはオッズ比、コホート研究なら相対危険、とCBTの問題で何度も解きました。
ドクタードクター
セットで覚えておくといい。なお、コホート研究は多くが前向きだけれど、過去の記録を使って曝露時点から追い直す後ろ向き(歴史的)コホート研究もあるから、「コホート=必ず前向き」とは覚えないようにね。では介入研究はどうだろう。
医学生医学生
研究者が治療などを割り付けるから、観察研究より強いということですか。
ドクタードクター
そう。特にランダム化比較試験では、無作為割付けによって既知の交絡因子だけでなく、測定していない未知の交絡因子まで群間で均等になると期待できる。これが観察研究にはない強みで、単独の研究としては最も強い。無作為化しない比較試験はそれより一段下になる。
医学生医学生
そして一番上が、複数の研究をまとめたメタアナリシスですね。
ドクタードクター
その通り。同じテーマの研究を系統的に集めて統計学的に統合するから、精度が高まる。ランダム化比較試験のメタアナリシスが最上位だ。ただ、質の低い研究を集めれば結論も弱くなる、という点には注意が必要だよ。
医学生医学生
整理すると、メタアナリシス、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究、症例研究、専門家の意見の順ですね。対照群があるか、時間の順序を追えるか、ランダム化しているかで段が上がっていくイメージです。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に発展的な話をしておこう。最近の診療ガイドラインでは、研究デザインだけで一律に序列をつけるのではなく、GRADEシステムのように、バイアスのリスク、結果の一貫性、直接性、精確さ、出版バイアスなども考慮して「エビデンス総体の確実性」を評価するのが主流になっている。つまり、ランダム化比較試験でも質が低ければ評価は下がるし、観察研究でも効果が非常に大きければ評価が上がることがある。
医学生医学生
デザインの序列は出発点で、中身も吟味する必要があるということですね。抄読会で論文を読むときにも意識してみます。
ドクタードクター
それが一番大事な姿勢だ。臨床に出ると、製薬会社の資料や学会発表などで、さまざまな「根拠」を目にする。そのとき「この研究デザインで因果関係までは言えるのか」と一歩立ち止まれる医師になってほしいね。

まとめ

エビデンスレベルは、研究が因果関係をどれだけ確からしく示せるかを研究デザインに基づいて序列化したもので、その本質は偶然・バイアス・交絡をどれだけ排除できるかにあります。おおむね、メタアナリシス>ランダム化比較試験>非ランダム化比較試験>コホート研究>症例対照研究>症例研究(症例報告・ケースシリーズ)>専門家の意見の順となり、比較対照群をもたない症例研究は選択肢の中で最も低いレベルです。症例対照研究は後ろ向きで想起バイアスが入りやすくオッズ比を求め、コホート研究は時間の順序を追えて相対危険を算出できる点が対比のポイントです。近年はGRADEシステムのように研究の質や一貫性も含めてエビデンスの確実性を評価する方法が主流ですが、デザインによる基本的な序列の理解は、論文を批判的に読み、根拠に基づく医療を実践するための土台になります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

「エビデンスレベル」とは、ある研究結果が因果関係(ある要因や治療が結果をもたらすこと)をどの程度確からしく示しているかを、研究デザインに基づいて序列化したものである。根拠に基づく医療(EBM: evidence-based medicine)や診療ガイドラインの推奨を決める際の基本となる。

序列を決める考え方

因果関係の推論を妨げるのは、偶然、バイアス(選択バイアス・情報バイアスなど)、交絡(原因と結果の両方に関係する第三の因子)である。これらをどれだけ制御できるかで、研究デザインの強さが決まる。 ・比較対照がない研究(症例報告・症例集積)は、その要因がなかったらどうなったかがわからず、因果関係をほとんど示せない。 ・観察研究のうち、要因の曝露から結果の発生へと時間の順序を追えるコホート研究は、結果から過去の曝露をさかのぼる症例対照研究より、想起バイアスなどが入りにくく強い。 ・介入研究、特にランダム化比較試験(RCT)は、無作為割付けにより既知・未知の交絡因子を群間で均等にできるため、単独研究としては最も強い。 ・複数のRCTを系統的に集めて統合したシステマティックレビュー・メタアナリシスが最上位に位置する。 したがって、おおむね「メタアナリシス > 介入研究(RCT > 非ランダム化比較試験) > コホート研究 > 症例対照研究 > 症例研究(症例報告・症例集積) > 専門家の意見」の順となり、選択肢の中で最も低いのは症例研究である。

選択肢考察

  1. ○a.  症例研究

    症例研究は、1例ないし数例の経過を詳しく記載する症例報告や、同じ特徴をもつ症例を集めて記述する症例集積研究(ケースシリーズ)を含む記述研究である。比較対照群をもたないため、観察された転帰が要因や治療によるものか、自然経過や偶然によるものかを区別できない。まれな疾患や新しい副作用の発見、仮説の提示には重要だが、因果関係を推論する根拠としては最も弱く、Minds診療ガイドライン作成の手引き(2007)の分類ではレベルV(患者データに基づかない専門家の意見であるレベルVIの一つ上)にあたる。選択肢の中では最もエビデンスレベルが低い。

  2. ×b.  介入研究

    介入研究は、研究者が対象者に治療や予防策などの操作(介入)を加え、介入群と対照群の結果を比較する方法で、因果関係を直接検証できる。特に無作為に群を割り付けるランダム化比較試験(RCT)は交絡を最もよく制御でき、単独の研究としては最も高いエビデンスレベル(Minds 2007でレベルII)をもつ。無作為化しない比較試験はそれより一段低いレベルIIIとされる。

  3. ×c.  症例対照研究

    症例対照研究は、ある疾患に罹患した群(症例群)と罹患していない群(対照群)を設定し、過去にさかのぼって要因への曝露状況を比較する分析疫学の手法である。結果から原因を探る後ろ向きの研究であり、まれな疾患でも少ない対象・短期間で実施できる利点があるが、過去の曝露を思い出す際の想起バイアスや対照群の選び方による選択バイアスが入りやすく、罹患率を直接求められない(関連の強さはオッズ比で示す)。コホート研究より一段低いレベルIVbにあたるが、比較群をもつ分析研究であるため、症例研究よりは上位である。

  4. ×d.  コホート研究

    コホート研究は、要因に曝露された集団と曝露されていない集団を追跡し、その後の疾病発生率を比較する分析疫学の手法である。曝露が結果に先行するという時間的順序を確認でき、罹患率から相対危険(リスク比)や寄与危険を直接算出できる。多くは前向きに行われるが、過去の記録を用いて曝露時点から追跡し直す後ろ向き(歴史的)コホート研究もある。観察研究の中では症例対照研究より上位で、Minds 2007ではレベルIVaにあたる。

  5. ×e.  メタアナリシス

    メタアナリシスは、同じテーマについて行われた複数の研究の結果を統計学的に統合し、全体としての効果の大きさを推定する手法である。一般に文献を網羅的・系統的に収集するシステマティックレビューの一部として行われる。個々の研究より対象数が増えるため精度が高まり、ランダム化比較試験のメタアナリシスはエビデンスレベルの最上位(Minds 2007でレベルI)に位置づけられる。ただし、統合する研究の質が低ければ結論の信頼性も下がる点には注意が必要である。

Minds診療ガイドライン作成の手引き(2007)のエビデンスレベル分類

I: システマティックレビュー/ランダム化比較試験のメタアナリシス II: 1つ以上のランダム化比較試験 III: 非ランダム化比較試験 IVa: 分析疫学的研究(コホート研究) IVb: 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究) V: 記述研究(症例報告やケースシリーズ) VI: 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

疫学研究デザインの分類

・観察研究  記述疫学: 症例報告、症例集積、生態学的研究など。疾病の分布を記述し仮説を立てる。  分析疫学: 横断研究、症例対照研究、コホート研究。仮説を検証する。 ・介入研究: ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、地域介入試験など。

症例対照研究とコホート研究の比較

・症例対照研究: 後ろ向き。まれな疾患に向く。短期間・低コスト。オッズ比を求める。想起バイアスが入りやすい。 ・コホート研究: 多くは前向き。まれな曝露に向く。長期間・高コスト。罹患率、相対危険、寄与危険を求められる。脱落(追跡不能)が問題となる。

補足

近年のガイドライン作成では、研究デザインのみで一律に序列化するのではなく、GRADEシステムのように、バイアスのリスク、結果の非一貫性、非直接性、不精確さ、出版バイアスなどを考慮して「エビデンス総体の確実性」を評価する方法が主流になっている。ただし、研究デザインによる基本的な序列の理解は国家試験でも頻出である。

POINT

・エビデンスレベル: メタアナリシス > ランダム化比較試験 > 非ランダム化比較試験 > コホート研究 > 症例対照研究 > 症例報告・症例集積 > 専門家の意見。 ・比較対照群をもたない症例研究(記述研究)は因果関係の根拠として最も弱い。 ・序列の本質は、偶然・バイアス・交絡をどれだけ排除できるかである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。