上部小腸が主役、回腸末端は特別席―栄養素の消化と吸収マップ
第104回医師国家試験 G問題 第27問
国試問題にチャレンジ
消化吸収について正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.糖質は上部小腸から吸収される。
- b.トリグリセリドはリパーゼで消化される。
- c.蛋白質はアミラーゼで消化される。
- d.ビタミンB12は内因子と結合して吸収される。
- e.鉄は回腸末端から吸収される。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
糖質・蛋白質・脂質、鉄やカルシウムの大部分は十二指腸から空腸にかけての上部小腸で吸収され、回腸末端で吸収されるのはビタミンB12と胆汁酸です。酵素と基質の対応は、アミラーゼが糖質、リパーゼがトリグリセリド、ペプシンやトリプシンなどが蛋白質で、アミラーゼが蛋白質を分解することはありません。ビタミンB12は胃壁細胞由来の内因子と結合して回腸末端で吸収され、鉄は2価鉄に還元されてDMT1を介し十二指腸で吸収されます。胃切除後には鉄欠乏とB12欠乏の両方、回腸末端の切除やクローン病ではB12欠乏や胆汁酸性下痢、脂溶性ビタミン欠乏が起こりうるため、吸収部位の地図は術後管理や貧血の鑑別に直結する基礎知識です。
解答・解説
正解はa, b, dです
本問は三大栄養素(糖質・蛋白質・脂質)と、ビタミンB12・鉄の消化と吸収について、「どの酵素で分解されるか」と「消化管のどこで吸収されるか」を問う問題である。 消化とは、食物中の大きな分子を吸収可能な小さな分子にまで分解する過程であり、各栄養素には対応する消化酵素が決まっている。糖質(でんぷんなど)はアミラーゼと小腸刷子縁の二糖類分解酵素、蛋白質はペプシン・トリプシンなどのプロテアーゼ(蛋白分解酵素)とペプチダーゼ、脂質(トリグリセリド)はリパーゼで分解される。酵素名と基質の組み合わせを正確に覚えておけば、誤りの選択肢はすぐに見分けられる。 吸収部位については、「大部分の栄養素は十二指腸から空腸にかけての上部小腸で吸収され、回腸末端は胆汁酸とビタミンB12という特別な物質を吸収する場所である」という原則を押さえるとよい。鉄やカルシウムは十二指腸から上部空腸で吸収される。この原則に照らせば、鉄の吸収部位を回腸末端とする記述が誤りであると判断できる。
選択肢考察
- ○a. 糖質は上部小腸から吸収される。
正しい。でんぷんは唾液アミラーゼと膵アミラーゼによってマルトース(麦芽糖)などのオリゴ糖に分解され、さらに小腸上皮の刷子縁膜にある二糖類分解酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼなど)で単糖にまで分解される(膜消化)。こうしてできたブドウ糖やガラクトースはナトリウムとの共輸送体SGLT1(ナトリウム依存性グルコース輸送体1)によって、果糖は促進拡散の輸送体GLUT5によって上皮細胞に取り込まれる。これらの吸収は主に十二指腸から空腸にかけての上部小腸で行われ、健常人では食事中の糖質の大部分が空腸までに吸収される。
- ○b. トリグリセリドはリパーゼで消化される。
正しい。食事中の脂質の大部分を占めるトリグリセリド(中性脂肪)は、主に膵液中の膵リパーゼによって、2-モノグリセリドと遊離脂肪酸に加水分解される。膵リパーゼが胆汁酸で乳化された脂肪滴の表面で働くためには補助因子のコリパーゼが必要である。舌リパーゼや胃リパーゼも一部の分解を担うが、寄与は小さい。分解産物は胆汁酸とミセルを形成して小腸上皮に運ばれて吸収され、細胞内でトリグリセリドに再合成されたのち、カイロミクロンとしてリンパ管(乳び管)へ送り出される。脂質の吸収は主に十二指腸から空腸で行われる。
- ×c. 蛋白質はアミラーゼで消化される。
誤り。アミラーゼはでんぷん(多糖類)のα-1,4グリコシド結合を切断する糖質分解酵素であり、蛋白質は分解しない。蛋白質はまず胃で胃酸により変性し、ペプシン(胃の主細胞から分泌されるペプシノゲンが酸で活性化されたもの)によって部分的に分解される。続いて十二指腸で膵液中のトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼによってオリゴペプチドへ分解され、さらに小腸刷子縁のペプチダーゼでアミノ酸やジペプチド・トリペプチドとなって吸収される。なお、膵液のトリプシノーゲンは小腸粘膜のエンテロキナーゼ(エンテロペプチダーゼ)によってトリプシンに活性化され、トリプシンが他の膵酵素前駆体を次々に活性化する。
- ○d. ビタミンB12は内因子と結合して吸収される。
正しい。食物中のビタミンB12は蛋白質と結合しているが、胃酸とペプシンの作用で遊離し、まず唾液などに含まれるハプトコリン(R蛋白)と結合する。十二指腸で膵プロテアーゼがハプトコリンを分解すると、ビタミンB12は胃の壁細胞から分泌された内因子と結合する。この内因子-B12複合体は分解されにくい形で小腸を下り、回腸末端の上皮にある特異的受容体を介して取り込まれる。そのため、萎縮性胃炎(悪性貧血を含む)や胃全摘後で内因子が不足した場合、あるいは回腸末端の切除やクローン病などで回腸が障害された場合には、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血や神経障害を生じる。
- ×e. 鉄は回腸末端から吸収される。
誤り。鉄は主に十二指腸から上部空腸で吸収される。食物中の非ヘム鉄の多くは3価鉄(Fe3+)であり、胃酸の働きで溶けやすい状態となったのち、十二指腸上皮の刷子縁にある還元酵素によって2価鉄(Fe2+)に還元され、二価金属輸送体(DMT1)を通って細胞内に取り込まれる。ヘム鉄は別の経路で吸収され、非ヘム鉄より吸収効率が高い。ビタミンCは鉄の還元を助けて吸収を促進する。吸収された鉄はフェロポルチンを通って血中に出てトランスフェリンと結合するが、この排出は肝臓で作られるヘプシジンによって調節されている。胃切除後や胃酸分泌が低下した状態、あるいは十二指腸をバイパスする手術後に鉄欠乏性貧血が起こりやすいのは、このためである。回腸末端で吸収されるのはビタミンB12と胆汁酸である。
主な栄養素の消化と吸収部位の整理
・糖質:唾液・膵アミラーゼ → 刷子縁の二糖類分解酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼなど)→ 単糖として十二指腸~空腸で吸収。 ・蛋白質:ペプシン → トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ → 刷子縁ペプチダーゼ → アミノ酸、ジ・トリペプチドとして主に十二指腸~空腸で吸収。 ・脂質:膵リパーゼ(コリパーゼ、胆汁酸が関与)→ 2-モノグリセリドと脂肪酸がミセルを形成して十二指腸~空腸で吸収 → カイロミクロンとしてリンパ管へ。中鎖脂肪酸は胆汁酸ミセルを必要とせず、門脈へ直接入る。 ・脂溶性ビタミン(A、D、E、K):脂質と一緒にミセルに取り込まれて吸収されるため、胆汁うっ滞や膵外分泌不全による脂肪吸収障害で欠乏しやすい。 ・水溶性ビタミン(B1、B2、B6、C、葉酸など):主に上部小腸で吸収。 ・鉄、カルシウム:十二指腸~上部空腸。カルシウムの吸収は活性型ビタミンDで促進される。 ・ビタミンB12、胆汁酸:回腸末端。胆汁酸は回腸末端で再吸収されて肝臓に戻る(腸肝循環)。 ・水と電解質:大部分は小腸で吸収され、残りを大腸が吸収する。
吸収部位と臨床のつながり
・胃切除後:内因子の欠如によるビタミンB12欠乏(数年後に顕在化しやすい)、胃酸低下や十二指腸バイパスによる鉄欠乏、カルシウム吸収低下による骨代謝障害。 ・回腸末端切除やクローン病:ビタミンB12欠乏、胆汁酸の吸収障害による胆汁酸性下痢、胆汁酸プールの減少による脂肪吸収障害。 ・乳糖不耐症:ラクターゼ活性の低下により乳糖が分解されず、浸透圧性下痢や腹部膨満を生じる。
POINT
・糖質、蛋白質、脂質、鉄、カルシウムの大部分は上部小腸(十二指腸~空腸)で吸収される。 ・回腸末端で吸収されるのはビタミンB12と胆汁酸の二つとして覚える。 ・酵素と基質の対応:アミラーゼ→糖質、リパーゼ→脂質(トリグリセリド)、ペプシン・トリプシンなど→蛋白質。 ・ビタミンB12は胃壁細胞由来の内因子と結合し、回腸末端で吸収される。 ・鉄はFe2+に還元されてDMT1から吸収される。胃切除後には鉄欠乏とビタミンB12欠乏の両方に注意する。
