「認知症だから」は禁句―関わり方で変わる周辺症状
第104回医師国家試験 G問題 第26問
国試問題にチャレンジ
認知症で正しいのはどれか。
- a.患者のQOLは測定できない。
- b.環境が変わると認知機能が改善する。
- c.がん疼痛のコントロールが困難である。
- d.リハビリテーションの対象にならない。
- e.情動障害などの周辺症状はかかわり方によって改善する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
認知症の症状は、神経細胞の脱落による中核症状(記憶障害・見当識障害・実行機能障害など)と、不安・抑うつ・興奮・妄想・徘徊などの周辺症状(BPSD)に分けて理解します。BPSDは身体の不調、薬剤、環境、周囲の接し方の影響を強く受けるため、誘因の除去と非薬物的な関わり方の工夫で改善が期待でき、抗精神病薬は慎重に最小限で用います。一方、入院や転居などの環境変化は混乱やせん妄を招きやすく、認知機能の改善にはつながりません。認知症患者でもQOLは代理評価や観察で測定でき、がん疼痛はPAINADなどの観察スケールを用いれば通常どおり管理でき、リハビリテーションの対象にもなります。「認知症だから」と諦めず、本人の尊厳を尊重したケアを組み立てる姿勢は、超高齢社会の臨床に欠かせない基本です。
解答・解説
正解はeです
認知症の症状は、大きく「中核症状」と「周辺症状」の二つに分けて考える。中核症状は神経細胞の脱落そのものによって生じる症状で、記憶障害、見当識障害、実行機能障害、失語・失行・失認などが含まれ、原因疾患が進行性であれば基本的に徐々に悪化する。一方、周辺症状は現在ではBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia:認知症の行動・心理症状)と呼ばれ、不安、抑うつ、焦燥、興奮、易怒性、幻覚・妄想、徘徊、暴言・暴力、睡眠障害などを指す。BPSDは中核症状を土台に、本人の性格や身体の不調(便秘、疼痛、脱水、感染など)、薬剤、そして周囲の人の接し方や住環境といった要因が重なって出現する。 本問は、認知症患者に対する医療・ケアの基本姿勢を問う問題である。「認知症だから評価できない」「認知症だから治療やリハビリテーションの対象外」といった諦めの発想はすべて誤りであり、むしろ本人の尊厳を尊重した関わり方によって症状や生活の質を改善できる、という視点が求められる。選択肢を読む際は、このケアの原則に照らして判断するとよい。
選択肢考察
- ×a. 患者のQOLは測定できない。
誤り。QOL(quality of life:生活の質)は認知症患者でも評価できる。軽度から中等度の段階では本人への質問票で主観的QOLを聴取でき、本人の回答が難しくなった段階でも、家族や介護者による代理評価や、表情・行動の観察に基づく評価法を用いることができる。認知症に特化したQOL尺度も複数開発されている。また、日常生活動作(ADL)の自立度や生活状況を把握することもQOLを考えるうえでの重要な手がかりになる。認知症が進んで着替えや排泄、入浴に介助が必要になるとQOLは大きく損なわれやすく、それを把握してケアに生かすことが大切である。
- ×b. 環境が変わると認知機能が改善する。
誤り。認知症患者は新しい状況に適応する力が低下しているため、入院、施設入所、転居などで住み慣れた環境から離れると、混乱してせん妄を起こしたり、BPSDや認知機能障害が悪化したりしやすい(いわゆるリロケーションダメージ)。そのため、入院はできるだけ短期間にとどめ、なじみの物を持ち込む、同じスタッフが関わるなど、環境変化の影響を小さくする配慮が必要である。環境を整えることでBPSDが和らぐことはあるが、「環境が変われば認知機能そのものが良くなる」わけではなく、アルツハイマー型認知症などの変性疾患による中核症状は緩徐に進行していく。
- ×c. がん疼痛のコントロールが困難である。
誤り。認知症があっても痛みの伝達路や一次体性感覚野(中心後回)は比較的保たれ、痛みそのものは感じている。鎮痛薬の効き方も認知症のない人と本質的に変わらず、WHO方式がん疼痛治療法に沿った鎮痛薬の使用によって、通常と同様に痛みを管理することができる。ただし、痛みを言葉でうまく訴えられないため、痛みが見逃されたり、痛みが興奮・拒否・不穏などのBPSDとして表れたりすることがある。したがって、表情、声、体の動き、姿勢などを観察して痛みを推測する観察型の疼痛評価スケール(PAINADなど)を用いるなど、評価の工夫が重要である。評価の難しさはあっても、「コントロールが困難」と言い切ることはできない。
- ×d. リハビリテーションの対象にならない。
誤り。認知症患者もリハビリテーションの対象である。骨折や脳卒中後の身体機能のリハビリテーションは認知症があっても行う価値があり、残存機能を生かしてADLを維持することはQOLの向上や介護負担の軽減につながる。さらに、認知症そのものに対しても、回想法、音楽療法、運動療法、作業療法、認知刺激療法、リアリティ・オリエンテーションなど多様な非薬物療法が試みられている。「認知症だからリハビリテーションをしても無駄」と判断して治療の機会を奪う考え方は、医療者として厳に慎むべきであり、試験でも避けるべき選択肢である。
- ○e. 情動障害などの周辺症状はかかわり方によって改善する。
正しい。不安、焦燥、抑うつ、興奮、幻覚・妄想などの周辺症状(BPSD)は、中核症状を背景にしつつ、周囲の対応や環境、身体的な不調によって誘発・増悪する。そのため、本人の訴えを否定せず受け止める、叱責や説得を避ける、わかりやすくゆっくり話しかける、生活リズムを整える、不安の原因(痛み、便秘、不慣れな環境など)を探して取り除く、といった関わり方の工夫で改善が期待できる。BPSDは治療や対応によって軽減しうる症状であり、家族や介護者にその性質を説明して理解と協力を得ることが大切である。対応の第一選択は非薬物的アプローチであり、それで不十分な場合に抗精神病薬などの薬物療法を慎重に検討する。
中核症状と周辺症状(BPSD)
中核症状:記憶障害、見当識障害、実行機能障害、判断力低下、失語・失行・失認など。脳の器質的障害による直接的な症状で、ほぼすべての患者にみられる。 BPSD(行動・心理症状):心理症状として不安、抑うつ、幻覚、妄想、アパシー(意欲低下)など、行動症状として徘徊、興奮、暴言・暴力、介護への抵抗、不眠などがある。出現の有無や程度は個人差が大きく、介護負担の最大の要因となる。
BPSDへの対応
1. まず誘因を探す:身体疾患(感染、脱水、便秘、疼痛)、薬剤の副作用、せん妄、環境変化、介護者の対応などを確認する。 2. 非薬物的介入を優先する:本人の尊厳を尊重した接し方(パーソン・センタード・ケアの考え方)、環境調整、生活リズムの確立、なじみの関係づくりなど。 3. 薬物療法は慎重に:抗精神病薬は高齢の認知症患者で死亡率上昇や転倒、錐体外路症状などのリスクがあるため、必要最小限の量と期間にとどめる。
認知症患者の疼痛評価
言語的な訴えが難しい患者では、呼吸、ネガティブな発声、表情、ボディランゲージ、慰めへの反応などを観察して点数化する観察型スケール(PAINADなど)が用いられる。疼痛がBPSDの原因となっていることもあり、痛みへの対応がBPSDの改善につながることがある。
認知症の非薬物療法の例
回想法(昔の出来事を語り合う)、音楽療法、運動療法、作業療法、認知刺激療法、リアリティ・オリエンテーション(日時や場所などの現実見当識を繰り返し確認する)など。
POINT
・認知症の症状は、中核症状(記憶障害・見当識障害など)と周辺症状(BPSD)に分けて理解する。 ・BPSDは周囲の関わり方、環境、身体状態の影響を強く受け、適切な対応で改善しうる。対応は非薬物的介入が第一選択である。 ・環境の急な変化(入院・転居など)は認知症患者の混乱やBPSDを悪化させる。 ・認知症患者でもQOLは評価でき、リハビリテーションの対象となり、がん疼痛も通常どおり管理できる(ただし痛みの評価には観察の工夫が必要)。 ・「認知症だから対象外」という諦めの発想の選択肢は選ばない。
