骨盤にあるのに大動脈から―卵巣動脈が教える「発生の記憶」
第104回医師国家試験 G問題 第25問
国試問題にチャレンジ
腹部大動脈から分枝するのはどれか。
- a.上膀胱動脈
- b.内腸骨動脈
- c.子宮動脈
- d.閉鎖動脈
- e.卵巣動脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
骨盤内臓器に分布する動脈の多くは内腸骨動脈の枝であり、上膀胱動脈(臍動脈経由)、子宮動脈、閉鎖動脈はいずれも内腸骨動脈系です。内腸骨動脈そのものも総腸骨動脈の枝で、腹部大動脈の直接の枝ではありません。一方、卵巣動脈は性腺が後腹壁上部で発生して下降するため、腎動脈のやや下で腹部大動脈から直接起こり、男性の精巣動脈も同様です。性腺静脈は左が左腎静脈、右が下大静脈へ注ぐという左右差があり、精索静脈瘤が左に多い理由にもつながります。動脈の起始を発生学と結びつけて理解することは、子宮全摘時の尿管損傷やヘルニア手術時の出血といった臨床上の注意点を理解する土台になります。
解答・解説
正解はeです
骨盤内臓器に分布する動脈の起始(どの動脈から枝分かれするか)を問う解剖学の問題である。 腹部大動脈は横隔膜の大動脈裂孔(第12胸椎の高さ)を通って腹腔に入り、第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれて終わる。その間に出る枝は、次のように整理できる。 ・前方へ出る不対の臓側枝:腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈 ・側方へ出る対の臓側枝:中副腎動脈、腎動脈、性腺動脈(女性では卵巣動脈、男性では精巣動脈) ・壁側枝:下横隔動脈、腰動脈(4対)、正中仙骨動脈 総腸骨動脈は仙腸関節の前で外腸骨動脈と内腸骨動脈に分かれる。骨盤内の臓器(膀胱・子宮・直腸下部など)や骨盤壁・殿部に分布する動脈の多くは内腸骨動脈の枝である。 性腺は発生の初期に腎臓の近く(後腹壁の上部)で形成され、その後骨盤内(女性)や陰嚢内(男性)へ下降する。このため性腺の動脈は、下降後も発生時の位置に近い腹部大動脈(腎動脈の少し下)から起こる。骨盤内にある卵巣が内腸骨動脈ではなく腹部大動脈から直接血流を受けるのはこの発生過程による。したがって正解は卵巣動脈であり、他の選択肢はいずれも内腸骨動脈系である。
選択肢考察
- ×a. 上膀胱動脈
上膀胱動脈は内腸骨動脈の枝である臍動脈から分かれる。臍動脈は胎児期には胎盤へ血液を送る太い血管だが、出生後は遠位部が閉塞して索状の臍動脈索(内側臍ヒダをつくる)となり、開存したまま残る近位部から上膀胱動脈が出て膀胱の上部に分布する。腹部大動脈の直接の枝ではない。
- ×b. 内腸骨動脈
内腸骨動脈は、腹部大動脈から分かれた総腸骨動脈が仙腸関節の前面で二分して生じる枝である。つまり腹部大動脈の直接の枝ではなく、孫にあたる。骨盤腔の側壁に沿って下り、骨盤内臓器(膀胱・子宮・腟・直腸など)、骨盤壁、殿部、会陰などに分布する多くの枝を出す。
- ×c. 子宮動脈
子宮動脈は内腸骨動脈の前枝から分かれる。骨盤の側壁から子宮広間膜の基部(基靱帯)を内側へ進み、子宮頸部の外側で尿管の前上方を越えて交差したのち、子宮の側縁に沿って上行する枝と、腟へ向かう下行枝に分かれる。子宮全摘術ではこの交差部で子宮動脈を処理する際に尿管を損傷しないよう注意が必要である。子宮動脈の上行枝は卵巣動脈と吻合している。
- ×d. 閉鎖動脈
閉鎖動脈は通常、内腸骨動脈の前枝から起こり、閉鎖神経・閉鎖静脈とともに骨盤側壁を前方へ進み、閉鎖管を通って大腿の内側部(内転筋群)へ分布する。変異として外腸骨動脈の枝である下腹壁動脈から起こることがあり、この異常閉鎖動脈(またはその吻合枝)は恥骨上枝の後面を走るため、鼠径ヘルニアや大腿ヘルニアの手術で損傷すると大出血を来しうる(corona mortis、「死の冠」と呼ばれる)。いずれにしても腹部大動脈の直接の枝ではない。
- ○e. 卵巣動脈
卵巣動脈は、腎動脈の起始部よりやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈の前面から左右一対で起こる。後腹壁を下行して尿管の前を斜めに横切り、骨盤縁で卵巣提索(骨盤漏斗靱帯)の中を通って卵巣に分布するほか、卵管にも枝を送り、子宮動脈の卵巣枝と吻合する。性腺が発生時に後腹壁の上部で形成され、のちに骨盤内へ下降するため、起始が腹部大動脈に残っている。男性では相同の精巣動脈が同じ位置から起こる。
腹部大動脈の主な枝
・下横隔動脈(対) ・腹腔動脈(不対、第12胸椎の高さ):左胃動脈、総肝動脈、脾動脈 ・中副腎動脈(対) ・上腸間膜動脈(不対、第1腰椎の高さ) ・腎動脈(対、第1〜2腰椎の高さ) ・性腺動脈(対):卵巣動脈/精巣動脈 ・腰動脈(4対) ・下腸間膜動脈(不対、第3腰椎の高さ) ・正中仙骨動脈(不対) ・総腸骨動脈(第4腰椎の高さで左右に分岐して終わる)
内腸骨動脈の主な枝
・壁側枝:腸腰動脈、外側仙骨動脈、上殿動脈、下殿動脈、閉鎖動脈、内陰部動脈 ・臓側枝:臍動脈(→上膀胱動脈)、下膀胱動脈(男性)、子宮動脈(女性)、腟動脈、中直腸動脈
性腺静脈の還流の左右差
動脈は左右とも腹部大動脈から起こるが、静脈は右卵巣(精巣)静脈が下大静脈へ直接注ぐのに対し、左卵巣(精巣)静脈は左腎静脈へ注ぐ。左腎静脈は大動脈と上腸間膜動脈の間に挟まれうる(ナットクラッカー現象)ことや、左の精巣静脈が長く腎静脈に直角に流入することから、精索静脈瘤は左側に多い。
直腸の動脈
上直腸動脈は下腸間膜動脈の枝、中直腸動脈は内腸骨動脈の枝、下直腸動脈は内陰部動脈の枝であり、同じ臓器でも部位により起始が異なる点も問われやすい。
POINT
・卵巣動脈(精巣動脈)は腎動脈のやや下方で腹部大動脈から直接分岐する(性腺が後腹壁上部で発生し下降するため) ・子宮動脈、閉鎖動脈、上膀胱動脈(臍動脈経由)は内腸骨動脈の枝 ・内腸骨動脈は総腸骨動脈の枝であり、腹部大動脈の直接の枝ではない ・子宮動脈は子宮頸部の外側で尿管の前上方を越えて交差する(子宮全摘時の尿管損傷に注意) ・左性腺静脈は左腎静脈へ、右性腺静脈は下大静脈へ注ぐ
