StudyMed医師国家試験

昨日の写真は正常でも―鎖骨下穿刺の翌日に忍び寄る遅発性気胸

第104回医師国家試験 F問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第22問

54歳の男性。昨日,鎖骨下穿刺によって中心静脈路を確保した。直後の胸部エックス線写真で異常を認めなかった。今朝から咳と胸部の違和感とを訴えている。血圧120/64 mmHg。経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉98%。胸部の聴診で呼吸音の左右差を認める。  まず行う検査はどれか。

  1. a.心エコー検査
  2. b.胸腔試験穿刺
  3. c.血管内視鏡検査
  4. d.鎖骨下静脈造影
  5. e.胸部エックス線撮影

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、中心静脈カテーテルを入れた翌日に出てきた症状から、まず何を調べるかを考える問題だ。ポイントは、鎖骨下静脈穿刺に特有の合併症を思い浮かべられるかどうか、そして患者さんの状態が安定しているかどうかを見極めることだよ。
医学生医学生
呼吸音に左右差があるので、気胸でしょうか。でも直後の写真では異常がなかったんですよね。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。鎖骨下静脈のすぐ背側から尾側には肺尖部の胸膜があるから、この穿刺部位は中心静脈路の中でも気胸を最も起こしやすい。しかも、胸膜のわずかな傷から空気が少しずつ漏れて、数時間から翌日になって初めて明らかになる遅発性気胸がある。直後の写真が正常でも否定はできないんだ。
医学生医学生
なるほど。直後は大丈夫でも、時間がたってから出てくることがあるんですね。
ドクタードクター
それに、留置直後の写真はベッド上で臥位で撮ることが多い。臥位では胸腔内の空気が前胸部に集まるから、少量の気胸は見逃しやすいんだ。
医学生医学生
麻酔科の実習で中心静脈カテーテルの挿入を見学したとき、終わったらすぐポータブルで写真を撮っていました。あれは気胸と先端位置の確認のためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。では呼吸音の左右差は、気胸以外に何で起こりうるかな。
医学生医学生
片側の呼吸音が弱くなるなら、胸水や血液がたまっても同じでしょうか。
ドクタードクター
いいね。鎖骨下動脈を誤穿刺すれば血胸、カテーテルが血管外に出れば輸液が胸腔にたまる輸液胸も起こる。いずれにしても胸腔内に空気か液体がたまって片側の肺が虚脱している状態をまず考える。次に大事なのがバイタルサインの評価だ。血圧と酸素飽和度はどう読む?
医学生医学生
どちらも保たれています。緊張性気胸のような切迫した状況ではなさそうです。
ドクタードクター
そう判断できるのが大事なんだ。緊張性気胸なら低血圧、頻脈、頸静脈怒張、気管の偏位、著明な低酸素を伴い、画像を待たずに脱気する。でも今回は安定しているから、まず非侵襲的で迅速な検査で全体像をつかむ。それが胸部エックス線撮影だ。
医学生医学生
気胸も血胸もカテーテル先端の位置も、一枚で確認できますね。
ドクタードクター
しかも前日の写真と比べれば、新しく生じた変化かどうかもわかる。気胸なら虚脱した肺の辺縁の胸膜線と、その外側で肺血管影が消えている所見を探す。可能なら立位で撮ると少量の気胸も見つけやすい。では胸腔試験穿刺はどう考える?
医学生医学生
液体がたまっているなら、刺して性状を調べればいいと思ったのですが……。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、試験穿刺は画像で胸水を確認してから、その性状を調べるために行う侵襲的な検査だ。何がたまっているか分からないまま刺すと、気胸を悪化させたり出血を起こしたりするおそれがある。安定している患者さんで最初にやることではないね。
医学生医学生
心エコーは、カテーテルによる心タンポナーデを心配して行うものでしょうか。
ドクタードクター
そういう場面では役立つ。ただ心タンポナーデなら低血圧や頸静脈怒張を伴うことが多いし、今回の主体は呼吸音の左右差という片側の胸郭の異常だ。評価の対象がずれているよ。
医学生医学生
鎖骨下静脈造影や血管内視鏡は、静脈の中を見る検査なので、胸腔の問題には向かないですね。
ドクタードクター
その通り。静脈造影はカテーテル関連の静脈血栓で腕が腫れているような場合に考える検査だし、血管内視鏡は主に冠動脈で使う特殊な検査だ。どちらも侵襲的で、今回の原因検索には役立たない。
医学生医学生
穿刺部位から合併症を予測して、バイタルが安定していれば、まず胸部エックス線で確認する、という順番ですね。
ドクタードクター
そのとおり。最後に穿刺部位ごとの特徴も整理しておこう。内頸静脈は超音波ガイド下で穿刺しやすく気胸のリスクが低いので、現在は第一選択とされることが多い。鎖骨下静脈は感染リスクが比較的低く患者さんの不快感も少ないが、気胸が多く、動脈を誤穿刺しても鎖骨が邪魔で圧迫止血しにくい。大腿静脈は気胸は起こらないが、感染や深部静脈血栓症のリスクが高い。
医学生医学生
臥位の写真で気胸を見つけるコツはありますか。
ドクタードクター
肋骨横隔膜角が異常に深く透けて見えるdeep sulcus signが手がかりになる。少量なら呼気位撮影や胸部CT、ベッドサイドなら超音波で胸膜の動きが消えていないかを確認するのも参考になるよ。手技のあとに咳や違和感を訴えたら、まず合併症を疑う習慣をつけておこう。

まとめ

鎖骨下静脈穿刺は肺尖部の胸膜に近いため、中心静脈路確保の中で最も気胸を起こしやすく、留置直後の胸部エックス線写真が正常でも、翌日以降に遅発性気胸が明らかになることがあります。穿刺翌日の咳・胸部違和感と呼吸音の左右差は、気胸や血胸・輸液胸による片側肺の虚脱を示唆します。循環と酸素化が保たれていれば、まず非侵襲的で迅速な胸部エックス線撮影を行い、気胸・胸水・カテーテル先端位置を前日の写真と比較して評価します。一方、低血圧や頸静脈怒張、著明な低酸素を伴う緊張性気胸では画像を待たずに脱気が必要で、胸腔穿刺などの侵襲的検査を安易に先行させないことが原則です。穿刺部位ごとの合併症を理解し、患者の安定度に応じて検査の順序を判断する力は、病棟で中心静脈カテーテルを扱うすべての医師に求められる基本です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・前日に鎖骨下静脈穿刺で中心静脈カテーテル(CVカテーテル)を留置している。 ・留置直後の胸部エックス線写真では異常がなかった。 ・翌朝から咳と胸部の違和感が出現した。 ・血圧120/64 mmHg、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)98%で、循環・酸素化はいずれも保たれている。 ・聴診で呼吸音に左右差がある。

診断へのプロセス

鎖骨下静脈穿刺は、穿刺針のすぐ背側・尾側に肺尖部の胸膜があるため、中心静脈路確保の穿刺部位の中でも気胸を起こしやすい。ほかに鎖骨下動脈の誤穿刺による血腫・血胸、カテーテル先端の位置異常、カテーテルが血管外に出ることによる輸液胸(輸液が胸腔に貯留する)、空気塞栓、カテーテル関連血流感染症などが合併症として知られている。 本例は手技の翌日に咳・胸部違和感が出現し、呼吸音に左右差がある。片側の呼吸音減弱を示す所見であり、胸腔内に空気(気胸)や液体(血胸・輸液胸)が貯まって片側の肺が虚脱していることを最も疑う。発熱の記載はなく、感染症を第一に考える状況ではない。 穿刺直後の写真が正常でも気胸は否定できない。胸膜のわずかな損傷から空気が少しずつ漏れ、数時間〜翌日になってから気胸が明らかになる「遅発性気胸」があるためである。また、留置直後の写真は臥位で撮影されることが多く、臥位では胸腔内の空気が前胸部に集まるため少量の気胸を見逃しやすい。

設問の考え方

バイタルサインは安定しており、緊張性気胸(胸腔内圧の上昇で静脈還流が障害され、低血圧・頻脈・著明な低酸素を来す状態)のように直ちに脱気が必要な状況ではない。したがって、まず非侵襲的で迅速に行え、気胸・血胸・胸水・カテーテル先端位置を一度に評価できる胸部エックス線撮影を行い、前日の写真と比較するのが適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  心エコー検査

    心エコー検査は、心臓の壁運動・弁膜症・心囊液貯留などを評価する検査である。本例で疑うのは胸腔・肺の病変であり、心エコーでは評価の対象が異なる。カテーテルによる心タンポナーデ(心膜腔に血液などが貯まり心臓の拡張が妨げられる状態)であれば低血圧や頸静脈怒張を伴うことが多いが、本例では血圧は保たれ、呼吸音の左右差という片側胸郭の異常が主体である。最初に行う検査ではない。

  2. ×b.  胸腔試験穿刺

    胸腔試験穿刺は、胸水の存在を画像で確認したうえで、その性状(滲出性か漏出性か、血性か、感染の有無など)を調べるために行う侵襲的検査である。画像で病態を確認しないうちに穿刺すると、気胸を悪化させたり新たな気胸・出血を起こしたりするおそれがある。バイタルサインが安定している本例で、最初に行うものではない。なお、緊張性気胸でショックに陥っている場合には画像を待たずに緊急脱気を行うことがあるが、本例はそれに当たらない。

  3. ×c.  血管内視鏡検査

    血管内視鏡検査は、カテーテル先端の内視鏡で血管の内腔を直接観察し、血栓やプラーク、狭窄などを評価する特殊な侵襲的検査で、主に冠動脈疾患の研究・診療に用いられる。鎖骨下静脈穿刺後の咳・呼吸音の左右差の原因検索には役立たず、行う意義はない。

  4. ×d.  鎖骨下静脈造影

    鎖骨下静脈造影は、造影剤を用いて鎖骨下静脈の血栓性閉塞や狭窄を評価する検査である。カテーテル留置後の静脈血栓症を疑い、上肢の腫脹などがある場合には検討されるが、本例の咳・胸部違和感・呼吸音の左右差は胸腔内の異常を示しており、静脈造影ではその評価ができない。造影剤を使う侵襲的検査でもあり、最初に選ぶ検査ではない。

  5. ○e.  胸部エックス線撮影

    胸部エックス線撮影は、ベッドサイドでも迅速かつ非侵襲的に行え、気胸(虚脱した肺の辺縁を示す線状の胸膜影〔visceral pleural line〕と、その外側の肺血管影の消失)、血胸・輸液胸(肋骨横隔膜角の鈍化や片側の透過性低下)、カテーテル先端の位置異常をまとめて評価できる。前日の写真と比べれば、新たに生じた変化かどうかも判断できる。循環動態が安定している本例では、まず行うべき検査である。可能なら立位で撮影すると少量の気胸も検出しやすい。

中心静脈カテーテル留置の穿刺部位と特徴

・内頸静脈:超音波ガイド下で穿刺しやすく、気胸のリスクは鎖骨下静脈より低い。現在は第一選択とされることが多い。 ・鎖骨下静脈:感染リスクが比較的低く、患者の不快感も少ないが、気胸のリスクが最も高い。動脈を誤穿刺しても鎖骨が邪魔をして圧迫止血しにくい。 ・大腿静脈:気胸は起こらないが、感染や深部静脈血栓症のリスクが高い。

中心静脈カテーテル留置の主な合併症

・早期(手技に関連):気胸、血胸、動脈誤穿刺・血腫、空気塞栓、不整脈(ガイドワイヤーが心臓を刺激)、カテーテル先端位置異常、胸管損傷(左側穿刺時の乳び胸) ・遅発性:遅発性気胸、カテーテル関連血流感染症、静脈血栓症、カテーテル逸脱による輸液胸・心タンポナーデ

気胸の画像診断

・立位の胸部エックス線写真で、虚脱した肺の辺縁の胸膜線と、その外側の肺血管影の消失を確認する。 ・臥位の写真では空気が前方・下方に集まり、肋骨横隔膜角が異常に深く透亮して見える「deep sulcus sign」を呈することがある。 ・少量の気胸は呼気位撮影や胸部CTで検出しやすい。ベッドサイドでは超音波検査で胸膜の動き(lung sliding)が消えていることも参考になる。

緊張性気胸との区別

患側の呼吸音消失に加え、低血圧、頻脈、頸静脈怒張、気管の健側への偏位、著明な低酸素血症がある場合は緊張性気胸を疑い、画像検査を待たずに緊急脱気(胸腔穿刺・胸腔ドレナージ)を行う。

POINT

・鎖骨下静脈穿刺は中心静脈路確保の中で気胸を最も起こしやすい。 ・直後の胸部エックス線写真が正常でも、翌日以降に遅発性気胸が起こりうる。 ・呼吸音の左右差があり循環動態が安定していれば、まず胸部エックス線撮影を行い前回の写真と比較する。 ・ショックを伴う緊張性気胸では画像を待たずに脱気する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。