うっ滞が描く一本の道―下腿静脈瘤で「起こらない」皮膚所見を見抜く
第104回医師国家試験 F問題 第15問
国試問題にチャレンジ
下腿静脈瘤と関連がない所見はどれか。
- a.潰瘍
- b.多毛
- c.浮腫
- d.色素沈着
- e.点状出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
下腿静脈瘤では、表在静脈の弁不全による逆流で静脈血がうっ滞し、静脈高血圧が持続することでさまざまな皮膚変化が生じます。毛細血管からの血漿漏出による浮腫、赤血球の漏出による点状出血、そのヘモジデリン沈着による色素沈着、慢性炎症と栄養障害の末に生じる内果周囲のうっ滞性潰瘍は、いずれも共通の機序でつながった一連の所見です。一方、多毛はこの機序では説明できず、静脈瘤とは関連しません。なお下肢の脱毛は閉塞性動脈硬化症など動脈血流障害の徴候であり、潰瘍の部位や皮膚の色調・温度とあわせて静脈性と動脈性を区別することが重要です。病態から所見を順に説明できるようにしておくと、CEAP分類による重症度の把握や治療方針の理解にもつながります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
下肢静脈瘤(下腿静脈瘤)に伴う皮膚・軟部組織の所見を問う問題である。「関連がない所見」を選ぶ形式であることに注意する。
病態の要点
下肢の表在静脈(大伏在静脈・小伏在静脈など)の逆流防止弁が壊れると、立位で血液が重力に従って逆流し、下腿に静脈血がうっ滞する。その結果、静脈圧が持続的に高くなる状態を静脈高血圧といい、慢性静脈不全(chronic venous insufficiency)と呼ばれる一連の変化が起こる。 静脈高血圧 → 毛細血管から血漿成分が漏れ出す → 浮腫 → 赤血球が血管外に漏れ出す → 点状出血(うっ血性紫斑)→ 赤血球由来のヘモジデリン沈着による色素沈着 → 慢性炎症・皮膚の栄養障害 → うっ滞性皮膚炎(湿疹)、皮膚硬化 → 潰瘍 このように、浮腫・点状出血・色素沈着・潰瘍は、うっ滞と静脈高血圧という共通の機序から段階的に生じる一連の所見であり、いずれも静脈瘤と関連する。一方、多毛はこの機序から説明できない所見であり、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 潰瘍
静脈瘤に関連する所見である。うっ滞が長く続くと、浮腫や慢性炎症、皮膚の硬化によって組織への酸素・栄養の供給が障害され、わずかな外傷や掻破をきっかけに潰瘍ができる(うっ滞性潰瘍)。下腿の下1/3、特に内くるぶし(内果)付近に好発し、治りにくく再発しやすい。慢性静脈不全の最終段階の所見である。
- ○b. 多毛
静脈瘤と関連がない所見である。静脈のうっ滞は浮腫、出血、色素沈着、皮膚炎、潰瘍などを引き起こすが、毛が濃くなる・増えるといった変化を生じる機序はない。なお、下肢の毛が薄くなる(脱毛)所見は、閉塞性動脈硬化症などの慢性的な動脈血流不足でみられる皮膚の栄養障害の徴候として知られており、静脈疾患と動脈疾患の所見を区別しておくとよい。
- ×c. 浮腫
静脈瘤に関連する所見である。静脈圧の上昇により毛細血管から間質へ水分が漏れ出し、下腿の下半分から足背にかけて浮腫が生じる。立位や歩行で重力の影響を受け続けるため夕方に強くなり、夜間に下肢を挙上して休むと軽減するのが特徴である。だるさ・重さ・こむら返りなどの症状を伴うことも多い。
- ×d. 色素沈着
静脈瘤に関連する所見である。うっ滞によって血管外に漏れた赤血球が分解され、ヘモグロビン由来のヘモジデリン(鉄を含む色素)が真皮に沈着して、下腿下部に褐色〜黒褐色の色素沈着が生じる。炎症や出血を繰り返すことで範囲が広がり色調も濃くなる。うっ滞性皮膚炎や潰瘍の前段階としてみられることが多い。
- ×e. 点状出血
静脈瘤に関連する所見である。静脈高血圧によって細い静脈や毛細血管の壁から赤血球が漏れ出たり、小血管が破綻したりすることで、うっ血性の紫斑・点状出血が生じる。これが繰り返されることで前述の色素沈着につながる。
下肢静脈瘤の概要
・原因:表在静脈の弁不全による逆流(一次性が大部分)。深部静脈血栓症の後遺症など深部静脈の障害によるもの(二次性)もある。 ・危険因子:女性、妊娠・出産、長時間の立ち仕事、加齢、肥満、家族歴。 ・症状:下肢のだるさ・重さ、むくみ、夜間のこむら返り、かゆみ、皮膚の変化。
慢性静脈疾患の臨床分類(CEAP分類のC分類)
・C0:視診・触診で所見なし ・C1:毛細血管拡張・網目状静脈瘤 ・C2:静脈瘤 ・C3:浮腫 ・C4:皮膚・皮下組織の変化(色素沈着、湿疹、脂肪皮膚硬化症など) ・C5:治癒した潰瘍 ・C6:活動性の潰瘍 数字が大きいほど進行した段階であり、浮腫→色素沈着・皮膚炎→潰瘍という連続した経過がよくわかる。
診断・検査
下肢静脈エコー(デュプレックス法)で弁逆流の有無・部位を評価するのが基本である。深部静脈の開存性の確認も治療方針の決定に重要である。
治療
・保存療法:弾性ストッキングによる圧迫、下肢挙上 ・硬化療法:主に細い静脈瘤に対して硬化剤を注入 ・手術・血管内治療:伏在静脈の高位結紮・抜去術(ストリッピング)、血管内焼灼術(レーザー・高周波)など
静脈性と動脈性の下肢潰瘍の違い
・静脈性:内果周囲に好発、周囲に浮腫・色素沈着を伴い、痛みは比較的軽い。 ・動脈性(閉塞性動脈硬化症など):足趾・足背・踵など末梢に好発、足背動脈の拍動減弱、皮膚の蒼白・冷感、脱毛、疼痛が強い。
POINT
・下肢静脈瘤では静脈うっ滞(静脈高血圧)により、浮腫→点状出血・色素沈着(ヘモジデリン)→うっ滞性皮膚炎→潰瘍と進行する。 ・浮腫は夕方に増悪し、下肢挙上で軽減する。 ・うっ滞性潰瘍は内果付近に好発する。 ・多毛は静脈瘤と無関係。下肢の脱毛はむしろ動脈血流障害(閉塞性動脈硬化症)の所見。
