StudyMed医師国家試験

白でも黒でもない理由―脊柱MRIの信号は「プロトン」で読み解く

第104回医師国家試験 E問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第40問

正常脊柱のMRIのT1強調像とT2強調像とで,ともに低信号を呈するのはどれか。

  1. a.骨皮質
  2. b.赤色髄
  3. c.黄色髄
  4. d.脳脊髄液
  5. e.椎間板髄核

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、正常な脊柱のMRIで、T1強調像でもT2強調像でも黒く写る組織を選ぶ問題だ。暗記で片付けたくなるけれど、「その組織に動ける水素原子核がどれだけあるか」と「それが水なのか脂肪なのか」を考えれば、自然に答えが出せるよ。
医学生医学生
放射線医学の講義で「水はT1で黒、T2で白」とだけ覚えた気がします。
ドクタードクター
それが出発点として一番大事な知識だ。MRIは体内のプロトンの信号を画像化する検査だから、大きく3パターンに分けて考えるといい。水はT1低信号・T2高信号、脂肪はT1高信号でT2でも比較的高信号、そしてプロトンがほとんどない組織はT1・T2ともに低信号になる。
医学生医学生
ということは、両方で低信号になるのは3つ目のパターン、つまり水分も脂肪も少ない組織ですね。
ドクタードクター
そう。では選択肢を見ていこう。まず脳脊髄液はどれに当たる?
医学生医学生
ほぼ純粋な水なので、T1で黒、T2で白です。整形外科の実習で腰椎MRIを見たとき、T2で脊髄の周りが真っ白に光っていました。
ドクタードクター
いい観察だ。T2強調矢状断像では白い脳脊髄液を背景に脊髄や馬尾が黒く浮かび上がって、脊柱管狭窄やヘルニアによる硬膜管の圧排を評価するのに役立つ。T2で高信号だから正解ではないね。次に黄色髄は?
医学生医学生
黄色髄は脂肪なので、T1で高信号ですよね。
ドクタードクター
その通り。脂肪はT1緩和時間が短いのでT1強調像で明るく写る。加齢で赤色髄が黄色髄に置き換わるから、高齢者の椎体はT1強調像で全体に明るく見えることが多いんだ。では赤色髄はどうだろう。
医学生医学生
造血している骨髄なので水分が多そうです。水と同じくT1低信号でしょうか……T2では低信号にならない気がします。
ドクタードクター
惜しいね。赤色髄は造血細胞に富む一方で脂肪も一定量含むので、水と脂肪の信号が混ざってT1・T2ともに中間程度の信号になる。両方で低信号とはならないよ。ちなみに、転移や多発性骨髄腫などの骨髄浸潤では、T1強調像で正常の骨髄より暗くなるのが診断の手がかりになる。
医学生医学生
病変が正常骨髄の脂肪を押しのけるから暗くなる、ということですね。椎間板の髄核はどうですか。
ドクタードクター
髄核はプロテオグリカンに富むゲル状の組織で、若い人では水分が8〜9割近くもある。だから水に近く、T1で低〜中間、T2で高信号だ。変性で水分が減るとT2で黒く写る、いわゆるブラックディスクになるけれど、今回は正常脊柱だから髄核はT2で白いと考える。
医学生医学生
残る骨皮質が正解ですね。カルシウムが詰まっていて、水がほとんどないからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。骨皮質はハイドロキシアパタイトが沈着した緻密な組織で、自由に動けるプロトンがほとんどない。わずかな水も結晶や膠原線維に強く束縛されていてT2緩和時間が極端に短いので、通常の撮像では信号がほぼ得られない。だからT1でもT2でも黒く、椎体の輪郭が黒い線として見えるんだ。
医学生医学生
CTでは骨皮質が真っ白なのに、MRIでは真っ黒というのは逆で面白いですね。
ドクタードクター
CTはX線の吸収、MRIはプロトンの信号を見ているからね。この違いを意識すると、石灰化や骨の評価はCT、軟部組織や骨髄はMRIが得意という使い分けも理解しやすい。同じ理由で、石灰化、腱、靱帯、半月板、椎間板の線維輪、空気もT1・T2ともに低信号だ。
医学生医学生
膝のMRIで半月板が黒い三角形に見えて、その中に白い線があったら断裂を疑う、というのも同じ理屈ですか。
ドクタードクター
まさにそう。本来黒いはずの組織に信号が出たら異常のサインだ。逆に、ヘモジデリン沈着や速い血流のflow voidもT2で黒く写るので、「黒い=骨」と短絡しないことも臨床では大切だよ。
医学生医学生
組織の成分を考えれば、信号のパターンを一つずつ暗記しなくても推論できそうです。
ドクタードクター
その姿勢があれば、未知の画像に出会っても慌てずに済むはずだ。

まとめ

MRIは水素原子核(プロトン)の信号を画像化する検査で、水はT1強調像で低信号・T2強調像で高信号、脂肪はT1強調像で高信号、動けるプロトンに乏しい組織はT1・T2ともに低信号となります。正常脊柱では、ハイドロキシアパタイトが沈着した骨皮質がこの3つ目にあたり、両方の撮像で黒く写ります。脳脊髄液と正常の椎間板髄核は水に富みT2で高信号、黄色髄は脂肪としてT1で高信号、赤色髄は水と脂肪が混ざりT1・T2ともに中間信号を示します。腱・靱帯・半月板・線維輪・石灰化・空気も同様に両方で低信号となり、本来黒い組織に信号が出ることが断裂などの異常の手がかりになります。組織の成分から信号を推論する考え方は、脊椎疾患や骨髄病変の画像診断を理解するための土台です。

解答・解説

正解はaです

MRI(磁気共鳴画像)は、体内の水素原子核(プロトン)が発する信号を画像化する検査である。したがって、ある組織がどのような信号を示すかは、主に「動けるプロトンがどれだけあるか(プロトン密度)」と、そのプロトンが「水」と「脂肪」のどちらに属しているかで決まる。 基本の考え方は次のとおりである。 ・水(自由水): T1強調像で低信号、T2強調像で高信号。脳脊髄液、尿、嚢胞、水分に富む組織がこれにあたる。 ・脂肪: T1強調像で高信号、T2強調像でも比較的高信号(現在一般的な高速スピンエコー法では高信号に写る)。 ・動けるプロトンが乏しい組織: T1強調像・T2強調像ともに低信号。骨皮質、石灰化、腱、靱帯、半月板、線維性組織、空気などがこれにあたる。 本問では、脊柱を構成する組織(骨皮質、骨髄、脳脊髄液、椎間板)を、上の3パターンのどれに当てはまるかで分類すればよい。T1・T2のいずれでも低信号になるのは、プロトンがほとんど存在しない(または強く束縛されて信号を出さない)組織である。

選択肢考察

  1. ○a.  骨皮質

    正しい。骨皮質はリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)が沈着した緻密な組織で、自由に動ける水素原子核がほとんど存在しない。わずかにある水も結晶や膠原線維に強く束縛されており、T2緩和時間が極めて短いため、通常の撮像では信号がほぼ得られない。そのためT1強調像・T2強調像ともに無信号に近い低信号(黒)となる。MRIで椎体の輪郭が黒い線として見えるのはこのためである。同じ理由で、石灰化、腱、靱帯、椎間板の線維輪などもT1・T2ともに低信号を示す。

  2. ×b.  赤色髄

    誤り。赤色髄は造血が盛んな骨髄で、造血細胞に富み水分が多い一方、脂肪も一定量(成人でおおむね40%程度)含む。水と脂肪の信号が混ざるため、T1強調像・T2強調像ともに中間程度の信号(筋肉と同等かやや高い程度)を示し、両方で低信号とはならない。小児では骨髄のほとんどが赤色髄であり、成人でも椎体は赤色髄が比較的多く残る部位である。骨髄への腫瘍浸潤(転移、多発性骨髄腫など)ではT1強調像で正常の骨髄より低信号となることが診断に役立つ。

  3. ×c.  黄色髄

    誤り。黄色髄は造血をやめて脂肪に置き換わった骨髄であり、その大部分が脂肪である。脂肪は緩和時間T1が短いため、T1強調像で明瞭な高信号を示す。T2強調像でも、現在標準的な高速スピンエコー法では比較的高い信号を示す(古典的なスピンエコー法では中間程度)。脂肪抑制法を併用すると信号が低下することで脂肪であると確認できる。加齢とともに赤色髄は黄色髄に置き換わるため、高齢者の椎体はT1強調像で全体に明るく見えることが多い。

  4. ×d.  脳脊髄液

    誤り。脳脊髄液はほぼ純粋な水(自由水)であり、T1・T2の緩和時間がいずれも長い。そのためT1強調像では低信号(黒)、T2強調像では高信号(白)となる。脊柱のT2強調矢状断像では、脊髄の周囲を取り囲む脳脊髄液が白く写り、脊髄や馬尾が黒く浮かび上がる。この性質は脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアによる硬膜管の圧排を評価するのに利用される。

  5. ×e.  椎間板髄核

    誤り。椎間板の中心にある髄核は、プロテオグリカンを多く含むゲル状の組織で、水分含有量が非常に多い(若年者で約80〜90%)。そのため水に近い信号を示し、T1強調像で低〜中間信号、T2強調像で高信号となる。一方、髄核を取り囲む線維輪は膠原線維が主体で、T1・T2ともに低信号である。加齢や椎間板変性で髄核の水分が減るとT2強調像での信号が低下し、黒く写る(いわゆるブラックディスク)。本問は正常脊柱についてなので、髄核はT2強調像で高信号と考える。

MRIの信号強度の基本(スピンエコー系)

・T1強調像で高信号: 脂肪、亜急性期の出血(メトヘモグロビン)、高濃度の蛋白を含む液体、メラニン、ガドリニウム造影剤で増強された組織 ・T1強調像で低信号: 水(脳脊髄液、浮腫、嚢胞)、多くの腫瘍、骨皮質・石灰化 ・T2強調像で高信号: 水(脳脊髄液、浮腫、嚢胞)、多くの炎症・腫瘍性病変、脂肪(高速スピンエコー法) ・T2強調像で低信号: 骨皮質、石灰化、線維組織(腱、靱帯、半月板、線維輪)、空気、ヘモジデリン、デオキシヘモグロビン、流れの速い血液(flow void)

T1・T2ともに低信号となる代表的なもの

骨皮質、石灰化、腱、靱帯、半月板、椎間板線維輪、瘢痕などの線維組織、空気、ヘモジデリン沈着、速い血流(flow void)

脊柱MRIでの正常組織の見え方のまとめ

・骨皮質: T1低、T2低 ・赤色髄: T1中間、T2中間 ・黄色髄(脂肪髄): T1高、T2比較的高(高速スピンエコー) ・脳脊髄液: T1低、T2高 ・髄核: T1低〜中間、T2高(変性するとT2で低下) ・線維輪: T1低、T2低 ・脊髄: T1中間(脳脊髄液より高い)、T2中間(脳脊髄液より低い)

骨髄の年齢変化

出生時はほぼ全身の骨髄が赤色髄である。成長とともに四肢の末梢側から黄色髄への置き換わり(脂肪化)が進み、成人では椎体、骨盤、胸骨、肋骨、頭蓋骨、長管骨の近位部に主に赤色髄が残る。

POINT

・MRIはプロトンの信号を見る検査。プロトンが乏しい組織(骨皮質、石灰化、腱、靱帯、半月板、線維輪、空気)はT1・T2ともに低信号。 ・水(脳脊髄液など)はT1低信号、T2高信号。 ・脂肪(黄色髄など)はT1高信号。 ・赤色髄はT1・T2とも中間信号。 ・正常の髄核は水分に富みT2高信号。変性するとT2で低信号(ブラックディスク)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。