多産多死から少産少死へ―人口転換の図で読み解く「社会の成熟」と人口ピラミッド
第104回医師国家試験 E問題 第39問
国試問題にチャレンジ
ある国の経済発展に伴う出生率と死亡率との理論的推移を図に示す。 ステージ別説明で誤っているのはどれか。 ただし,国外との間で移民の往来がないものとする。

- a.ステージ1の間は全死亡中50歳以上死亡者の割合が低い。
- b.ステージ2の前半に総人口が急増する。
- c.ステージ2の前半に減少度が大きいのは乳児死亡率である。
- d.ステージ2の後半に増加度が大きいのは生活習慣病の粗死亡率である。
- e.ステージ3の後半の人口ピラミッドはすそ野が広い三角形である。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
人口転換とは、経済発展に伴い多産多死から多産少死を経て少産少死へと移る出生率・死亡率の推移を指します。多産多死の段階では乳幼児の死亡が多く50歳以上死亡割合(PMI)が低く、多産少死の前半では衛生・栄養の改善で乳児死亡率を中心に死亡率が先に下がるため、出生率との差が開いて人口が急増します。その後は高齢化と生活様式の変化により、がんや循環器疾患などの生活習慣病が主な死因となり(疫学転換)、年齢構成を調整しない粗死亡率は上昇しやすくなります。人口ピラミッドは多産多死で富士山型、人口静止で釣り鐘型、少産少死ではすそ野のすぼまったつぼ型となり、すそ野の広い三角形にはなりません。人口構造と疾病構造の変化を一体として理解することは、保健医療の重点がどこに向かうべきかを考える基礎になります。
解答・解説
正解はeです
図は「人口転換(demographic transition)」と呼ばれる理論モデルを示している。社会が経済的に発展するにつれて、出生率と死亡率がともに高い状態(多産多死)から、ともに低い状態(少産少死)へと移り変わるという考え方である。図の読み取りは次のとおりである。
ステージ1: 多産多死
出生率・死亡率ともに高く、両者の差(自然増加率)は小さい。人口はほとんど増えない。衛生状態や栄養が悪く、感染症などで乳幼児や若い世代が多く死亡する。
ステージ2: 多産少死(人口転換の過渡期)
前半では、上下水道の整備・栄養改善・予防接種・医療の普及などによって死亡率が先に急低下する。一方、出生率はまだ高いままなので、出生率と死亡率の差が大きく開き、人口が急増する(いわゆる人口爆発)。後半になると、出生率も遅れて低下し始め、人口の伸びは鈍くなる。
ステージ3: 少産少死
出生率・死亡率ともに低い水準で安定し、自然増加率は再び小さくなる。子どもの数が少なく、高齢者の割合が大きい人口構造となる。 本問は、この各ステージの人口構造・死因構造を正しく思い描けるかを問うている。移民の往来がないという条件は、人口の増減が出生と死亡だけで決まることを意味する。「誤っているもの」を選ぶ問題であることに注意する。
選択肢考察
- ×a. ステージ1の間は全死亡中50歳以上死亡者の割合が低い。
記述は正しい(したがって本問の正解ではない)。ステージ1は多産多死の段階であり、感染症や栄養不良により乳児・幼児をはじめ若い年齢層の死亡が非常に多い。高齢まで生き延びる人が少ないため、全死亡に占める50歳以上の死亡者の割合は低くなる。この指標は「50歳以上死亡割合(PMI: proportional mortality indicator)」と呼ばれ、値が高いほど健康水準が高いと判断される。ステージ1ではPMIが低い。
- ×b. ステージ2の前半に総人口が急増する。
記述は正しい。図ではステージ2の前半に死亡率が急激に低下する一方、出生率は高いまま維持されている。移民がない条件下では人口の自然増加率は「出生率−死亡率」で決まるため、両者の差が最も大きく開くこの時期に総人口は急増する。
- ×c. ステージ2の前半に減少度が大きいのは乳児死亡率である。
記述は正しい。経済発展の初期に進む衛生環境の改善(安全な水、下水道)、栄養状態の改善、予防接種の普及、母子保健の充実は、感染症や栄養障害で亡くなりやすい乳児に最も大きな恩恵をもたらす。そのため、この時期の死亡率低下の主役は乳児死亡率の低下である。乳児死亡率は地域の衛生状態や生活水準を鋭敏に反映する指標として知られている。
- ×d. ステージ2の後半に増加度が大きいのは生活習慣病の粗死亡率である。
記述は正しい。ステージ2の後半には、感染症による死亡は十分に減り、長生きする人が増えて人口の高齢化が進み始める。さらに食生活の欧米化や運動不足など生活様式の変化も加わり、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病(慢性非感染性疾患)が主な死因となる(疫学転換)。粗死亡率は年齢構成を調整しない死亡率であり、高齢者が増えるとそれだけで上昇するため、生活習慣病の粗死亡率の増加は特に大きくなる。
- ○e. ステージ3の後半の人口ピラミッドはすそ野が広い三角形である。
記述は誤りであり、これが正解である。すそ野が広い三角形(富士山型、ピラミッド型)は、出生数が多く年齢とともに人口が急に減っていく多産多死、すなわちステージ1や人口急増期に特徴的な形である。ステージ3は少産少死の段階で、出生数が少なく年少人口が細る一方、高齢まで生存する人が多いため、底がすぼまった「つぼ型(紡錘型)」となる。出生数と死亡数がほぼ釣り合い人口が静止している場合は「釣り鐘型」となる。
人口ピラミッドの主な型
・富士山型(ピラミッド型): すそ野が広く上が細い。多産多死、または多産少死で人口が増加する社会。発展途上国に多い。日本では1950年頃がこの型であった。 ・釣り鐘型: 年少人口と生産年齢人口がほぼ同じ幅。出生と死亡が釣り合い人口が静止する社会。 ・つぼ型(紡錘型): すそ野がすぼまる。少子化が進み、将来人口が減少する社会。現在の日本を含む先進国の多く。 ・星型: 生産年齢人口が多い。都市部など人口の流入がある地域。 ・ひょうたん型: 生産年齢人口が少ない。若者が流出する農村部など。 星型・ひょうたん型は人口移動の影響を受けた地域の型であり、移民の往来がないとする本問の条件では考えなくてよい。
人口転換と疫学転換
・人口転換: 多産多死 → 多産少死 → 少産少死 という出生・死亡の推移。 ・疫学転換: 主な死因が感染症・栄養障害から、生活習慣病などの慢性疾患へと移る変化。人口転換と並行して進む。
粗死亡率と年齢調整死亡率
・粗死亡率: 一定期間の死亡数を人口で割ったもの。人口の年齢構成の影響を強く受け、高齢化が進むと上昇する。 ・年齢調整死亡率: 基準人口の年齢構成に合わせて補正した死亡率。年次比較や地域比較に用いる。 日本では高齢化により粗死亡率は1980年代以降上昇傾向にあるが、年齢調整死亡率は低下傾向が続いている。
健康水準を示す代表的な指標
・乳児死亡率(出生千対): 衛生状態・生活水準を鋭敏に反映する。 ・50歳以上死亡割合(PMI): 高いほど健康水準が高い。 ・平均寿命(0歳平均余命)
POINT
・人口転換は 多産多死 → 多産少死 → 少産少死 と進む。 ・死亡率が出生率より先に低下するため、その間(ステージ2前半)に人口が急増する。 ・経済発展初期に最も大きく下がるのは乳児死亡率。 ・高齢化とともに生活習慣病の粗死亡率が上昇する(疫学転換)。 ・人口ピラミッド: 多産多死は富士山型、少産少死はつぼ型(紡錘型)、人口静止は釣り鐘型。
