StudyMed医師国家試験

まず押さえる、そして急ぐ―主幹動脈損傷を伴う四肢開放創の鉄則

第104回医師国家試験 E問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第36問

主幹動脈損傷を伴う四肢開放性外傷で正しいのはどれか。

  1. a.創部を圧迫して止血する。
  2. b.局所麻酔下に血管縫合する。
  3. c.鉗子で出血部を挟んで止血する。
  4. d.血行再建は8時間以上の経過観察後に行う。
  5. e.末梢の壊死は下肢よりも上肢で起こりやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、手足の開放創にその肢の血流を担う太い動脈、つまり主幹動脈の損傷を伴う外傷への対応を問う問題だ。考えるべきことは3つ。目の前の出血をどう止めるか、根本治療をどこでどう行うか、そしてどれくらい急ぐ必要があるか、だよ。
医学生医学生
動脈から出血していると聞くと、とにかく早く出血点を見つけて鉗子で挟みたくなります。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、そこが落とし穴なんだ。血だらけで創の中が見えない状態で鉗子を突っ込むと、動脈の損傷範囲を広げたり、並んで走る静脈や神経を挟んで傷つけたりしてしまう。意識のある患者さんには強い痛みも与える。だから盲目的な鉗子止血はしない。
医学生医学生
では最初にやるべきは、ガーゼを当てて創部を直接圧迫する止血ですね。BLSの講習でも、外出血はまず圧迫と習いました。
ドクタードクター
正解。直接圧迫止血は特別な器具がいらず、周囲組織を傷つけず、しかも確実な効果がある。病院前でも初療室でも手術室でも、まず行うのはこれだ。それでも制御できない四肢の大量出血なら、創より中枢側に止血帯、ターニケットを巻いて一時的に止め、装着時刻を記録して根本治療につなげる。
医学生医学生
止血帯は昔は神経障害が怖いから避けるように言われていたと聞きましたが、今は使うんですね。
ドクタードクター
外傷初期診療の考え方では、圧迫で止まらない四肢の大出血に対しては積極的に使う方向になっている。ただし時刻を記録して、長時間放置しないことが前提だよ。では次に根本治療。血管を縫う手術は局所麻酔でできると思う?
医学生医学生
傷が限られていれば局所麻酔でもいけそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこは誤りなんだ。開放創は細菌や異物で汚染されているから、まず大量の洗浄とデブリドマン、つまり壊死組織や汚染組織の切除が必要になる。さらに損傷血管の中枢側と末梢側の確保、必要なら大伏在静脈などを使った血管移植、骨折の固定、神経や腱の処置、筋膜切開まで行うことがある。範囲が広く時間もかかるから、全身麻酔下に手術室で行うんだ。
医学生医学生
手術室で血管を遮断するときも鉗子は使いますよね。そこは違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。手術では十分な視野を確保したうえで、直視下に血管鉗子で愛護的に遮断する。血管断端の損傷を最小限にとどめるから、その後の吻合ができる。見えないまま挟むのとはまったく別物なんだ。
医学生医学生
時間の制約についてはどうでしょう。8時間以上様子を見てから血行再建、というのはさすがに遅すぎる気がします。
ドクタードクター
その感覚が正しい。四肢の骨格筋は常温での血流途絶、温阻血に弱く、おおむね6時間を超えると不可逆的な筋壊死が進み始める。目安は6時間以内、遅くとも6〜8時間以内で、経過観察を置く理由はない。骨折の固定で時間がかかるなら、一時的血管シャントを入れて先に血流を再開させる方法もある。
医学生医学生
遅れると切断のリスクが上がるだけでなく、再灌流障害も怖いですよね。腎臓内科の講義で横紋筋融解症の話を聞きました。
ドクタードクター
そうだね。虚血が長いほど、血流が戻ったときに壊死筋からカリウムやミオグロビンが流れ出して、高カリウム血症や代謝性アシドーシス、ミオグロビンによる急性腎障害を起こす。コンパートメント症候群や感染の危険も増すから、虚血時間が長いときは予防的な筋膜切開を考える。
医学生医学生
最後に、上肢と下肢ではどちらが壊死しやすいかですが、腕のほうが細いから上肢かと思ってしまいました。
ドクタードクター
実は逆で、一般に下肢のほうが壊死しやすい。上肢は肩や肘の周りの側副血行路が比較的発達していて、主幹動脈が途絶えても末梢の血流がある程度保たれやすい。下肢、とくに膝窩動脈は側副血行路が乏しく、損傷すると高率に下腿の重い虚血を起こし、切断率が高いことが知られている。筋肉量が多く必要な血流が大きいことも不利な点だ。
医学生医学生
膝の脱臼や膝周りの骨折を見たら、膝窩動脈損傷を必ず疑わないといけないということですね。
ドクタードクター
その通り。診断ではハードサインとソフトサインを分けて考えよう。拍動性出血、増大する血腫、末梢の拍動消失、スリルや血管雑音、そして疼痛・蒼白・脈拍消失・知覚異常・運動麻痺・冷感の6Pといった明らかな虚血所見はハードサインで、手術を強く示唆する。小さな血腫や近傍の神経損傷などのソフトサインなら、ABIや造影CTで評価する。それから、修復を要する動脈損傷を伴う開放骨折はGustilo分類のタイプIIICにあたり、感染率も切断率も最も高い。
医学生医学生
整形外科の実習で聞いたGustilo分類が、ここでつながりました。圧迫で止めて、手術室で洗ってから、とにかく早く血流を戻す、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。「まず押さえる、そして急ぐ」。この2つを体で覚えておこう。

まとめ

主幹動脈損傷を伴う四肢開放性外傷では、まず創部の直接圧迫で止血し、制御できなければ創より中枢側に止血帯を装着して時刻を記録します。視野のないまま鉗子で挟む操作は血管や神経の損傷を広げるため行わず、根本治療は全身麻酔下で洗浄・デブリドマンを行ったうえで、直視下に血管吻合や自家静脈グラフトによる血行再建を行います。骨格筋は温阻血に弱く、おおむね6時間(遅くとも6〜8時間)を超えると不可逆的な壊死が進むため、経過観察を置かず早急に血流を再開させ、再灌流障害やコンパートメント症候群にも備えます。側副血行路の乏しい下肢、とくに膝窩動脈損傷は上肢より虚血に陥りやすく、Gustilo分類IIICの開放骨折は切断率が高いことも重要です。止血の基本と時間との闘いという外傷診療の原則は、救急・整形外科・血管外科のいずれの現場でも役立つ土台になります。

解答・解説

正解はaです

四肢の開放創に主幹動脈(上肢では腋窩動脈・上腕動脈、下肢では大腿動脈・膝窩動脈など、その肢の血流を主に担う太い動脈)の損傷を伴う外傷への対応を問う問題である。考えるべき点は次の3つである。 (1) 初期対応としての止血:まず生命を守るために出血を止める。最も基本的で確実な方法は、出血部位を直接圧迫する直接圧迫止血である。盲目的に鉗子で挟むような操作は、血管や周囲の神経をさらに傷つけるため行わない。 (2) 根本治療としての血行再建:開放創は汚染されているため、全身麻酔下で十分な洗浄とデブリドマン(壊死組織・汚染組織の切除)を行ったうえで、血管吻合や血管移植による血行再建を行う。 (3) 時間の制約:四肢の筋肉は温阻血(常温での血流途絶)に弱く、おおむね6時間(長くとも6〜8時間)を超えると不可逆的な筋壊死が進み、救肢が困難になるうえ、再灌流障害や感染の危険も増す。したがって血行再建は一刻も早く行う必要がある。 また、下肢は上肢に比べて側副血行路が乏しく、虚血の影響を受けやすいことも知っておくべき知識である。

選択肢考察

  1. ○a.  創部を圧迫して止血する。

    正しい。外出血に対する止血の基本は、ガーゼなどを創部に当てて出血点を直接押さえる直接圧迫止血である。病院前、救急初療室、手術室のいずれの段階でも第一に行う処置であり、特別な器具を必要とせず、周囲組織を傷つけずに確実な止血効果が得られる。直接圧迫で制御できない四肢の大量出血では、止血帯(ターニケット)を創より中枢側に装着して一時的に止血し、装着時刻を記録したうえで速やかに根本治療へつなげる。

  2. ×b.  局所麻酔下に血管縫合する。

    誤り。開放創は細菌や異物で汚染されているため、血行再建の前に大量の洗浄と十分なデブリドマンが必要である。さらに、損傷血管の中枢側・末梢側の確保、必要に応じた自家静脈(大伏在静脈など)による血管移植、合併する骨折の固定や神経・腱の処置、コンパートメント症候群を防ぐための筋膜切開なども要する。これらは広い範囲の操作と長い手術時間を伴い、局所麻酔では困難であるため、全身麻酔下に手術室で行う。

  3. ×c.  鉗子で出血部を挟んで止血する。

    誤り。出血している創の中を見通せないまま鉗子で挟む(盲目的な鉗子止血)と、動脈の損傷範囲をさらに広げたり、並走する静脈や神経を挟んで損傷したりするおそれがある。意識のある患者では強い疼痛も伴う。損傷した血管は、手術で十分な視野を確保したうえで、直視下に血管鉗子を用いて愛護的に遮断する。こうすることで血管断端の損傷を最小限にとどめ、その後の吻合が可能になる。

  4. ×d.  血行再建は8時間以上の経過観察後に行う。

    誤り。四肢の骨格筋は虚血に弱く、温阻血時間が6時間程度を超えると不可逆的な筋壊死が起こり始める。血行再建が遅れると、救肢できずに切断に至る可能性が高くなるほか、再灌流時に壊死筋からカリウムやミオグロビンが流出して高カリウム血症や急性腎障害(ミオグロビン尿による)を起こす再灌流障害、コンパートメント症候群、創感染の危険も増す。したがって経過観察を置くべきではなく、受傷後できるだけ早く(目安として6時間以内、遅くとも6〜8時間以内)に血行再建を行う。骨折の固定などで時間がかかる場合は、一時的血管シャントを挿入して先に血流を再開させる方法もある。

  5. ×e.  末梢の壊死は下肢よりも上肢で起こりやすい。

    誤り。一般に末梢の虚血・壊死は上肢よりも下肢で起こりやすい。上肢は肩関節周囲や肘関節周囲の側副血行路が比較的発達しており、主幹動脈が途絶しても末梢の血流がある程度保たれることが多い。これに対し下肢、とくに膝窩動脈は側副血行路が乏しく、損傷すると高率に下腿の重篤な虚血を来し、切断率が高いことが知られている。さらに下肢は筋肉量が多く必要な血流量も大きいこと、心臓から遠いことも虚血に陥りやすい要因である。

四肢主幹動脈損傷の診断

・ハードサイン(手術適応を強く示唆する所見):拍動性出血、増大する血腫、末梢動脈の拍動消失、スリルや血管雑音、明らかな末梢虚血所見(6P:疼痛 pain、蒼白 pallor、脈拍消失 pulselessness、知覚異常 paresthesia、運動麻痺 paralysis、冷感 poikilothermia)。 ・ソフトサイン:小〜中等度の血腫、主要神経の損傷、主幹動脈近傍の損傷、低血圧の既往など。ABI(足関節上腕血圧比)低下(0.9未満)、造影CTや血管造影で評価する。

治療の流れ

1. 直接圧迫止血(制御不能なら止血帯)とショックへの対応(輸液・輸血)。 2. 全身麻酔下での洗浄・デブリドマン。 3. 骨折の固定(創外固定など)と血行再建(端々吻合、自家静脈グラフトなど)。時間がかかる場合は一時的血管シャントで先に血流を再開する。 4. 虚血時間が長い場合は予防的筋膜切開でコンパートメント症候群を防ぐ。 5. 再灌流障害(高カリウム血症、代謝性アシドーシス、ミオグロビン尿による急性腎障害)に注意する。

開放骨折の分類

・Gustilo分類で、修復を要する動脈損傷を伴う開放骨折はタイプIIICに分類され、感染率・切断率が最も高い。 ・軟部組織・骨・血管・神経の損傷が高度な四肢(mangled extremity)では、救肢か一次切断かの判断に重症度スコア(MESSなど)が参考にされる。

POINT

・外出血の止血の基本は直接圧迫止血であり、制御できなければ止血帯を用いる。盲目的な鉗子止血は行わない。 ・開放創を伴う血管損傷は、全身麻酔下に洗浄・デブリドマンを行ってから血行再建する。 ・血行再建は受傷後できるだけ早く(目安6時間以内)行う。 ・側副血行路が乏しい下肢(特に膝窩動脈損傷)は、上肢よりも虚血・壊死に陥りやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。