腹囲から始まる2段構え―メタボ診断に「総コレステロール」が入らない理由
第104回医師国家試験 E問題 第37問
国試問題にチャレンジ
特定健康診査によるメタボリックシンドローム診断の基準に含まれないのはどれか。
- a.腹囲
- b.血圧
- c.空腹時血糖
- d.トリグリセリド
- e.総コレステロール
対話形式の解説
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ドクターまとめ
わが国のメタボリックシンドローム診断基準は、内臓脂肪蓄積を示す腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)を必須項目とし、脂質(トリグリセリド150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満)、血圧(130/85mmHg以上)、空腹時血糖(110mg/dL以上)のうち2項目以上を満たすものと定義されます。総コレステロールやLDLコレステロールは、内臓脂肪とインスリン抵抗性に特徴的な異常を反映しないため基準に含まれません。特定健診は40〜74歳の医療保険加入者を対象に医療保険者が実施し、結果に応じて特定保健指導につなげます。「メタボの本態は内臓脂肪とインスリン抵抗性」という軸で理解すれば、項目の取捨選択の理由まで説明でき、健診結果を読む実地の力にもつながります。
解答・解説
正解はeです
わが国のメタボリックシンドローム診断基準(2005年に日本内科学会など8学会が合同で策定)と、それに基づく特定健康診査(特定健診)での判定項目を問う問題である。 メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を基盤として、高血圧・高血糖・脂質異常が一人に重なった状態であり、動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)の危険が高まる。診断は「必須項目+選択項目」の2段構えになっている。 (1) 必須項目:内臓脂肪蓄積の指標としてのウエスト周囲径(腹囲)。男性85cm以上、女性90cm以上(いずれも内臓脂肪面積100cm2以上に相当)。 (2) 選択項目:①脂質異常(トリグリセリド150mg/dL以上、かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満)、②血圧高値(収縮期130mmHg以上、かつ/または拡張期85mmHg以上)、③高血糖(空腹時血糖110mg/dL以上)。 腹囲の基準を満たし、さらに選択項目のうち2項目以上を満たすとメタボリックシンドロームと診断される。各項目は、該当する疾患の薬物治療を受けている場合も「該当」とみなす。 注目すべきは、脂質の項目が「トリグリセリド」と「HDLコレステロール」であり、総コレステロールやLDLコレステロールは含まれていない点である。メタボリックシンドロームの本態は内臓脂肪蓄積に伴うインスリン抵抗性であり、それによって特徴的に生じる脂質異常は高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症だからである。
選択肢考察
- ×a. 腹囲
基準に含まれる。腹囲(ウエスト周囲径、立位・軽い呼気時に臍の高さで測定)は、内臓脂肪蓄積を反映する必須項目である。男性85cm以上、女性90cm以上が基準であり、これはCTで測定した内臓脂肪面積100cm2以上に相当する値として設定された。この基準を満たさなければ、他の項目がいくつ当てはまってもメタボリックシンドロームとは診断されない。
- ×b. 血圧
基準に含まれる。選択項目の一つであり、収縮期血圧130mmHg以上、かつ/または拡張期血圧85mmHg以上で該当とする。これは高血圧の診断基準(140/90mmHg以上)よりも低く設定されており、正常高値の段階から動脈硬化の危険因子として捉える考え方に基づく。降圧薬を服用している場合も該当とみなす。
- ×c. 空腹時血糖
基準に含まれる。選択項目の一つであり、空腹時血糖110mg/dL以上で該当とする。糖尿病の診断基準(126mg/dL以上)よりも低い値であり、インスリン抵抗性による軽度の耐糖能異常の段階を拾い上げる意図がある。特定健診では、空腹時血糖が測定できない場合にHbA1c(ヘモグロビンA1c)で代用することがある。糖尿病の薬物治療中の者も該当とみなす。
- ×d. トリグリセリド
基準に含まれる。脂質異常の選択項目は、トリグリセリド(中性脂肪)150mg/dL以上、かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満である。内臓脂肪から肝臓に流入する遊離脂肪酸が増えると、肝臓でのトリグリセリド合成と超低比重リポ蛋白(VLDL)の分泌が増え、高トリグリセリド血症が生じる。これに伴いHDLコレステロールが低下する。この組み合わせがメタボリックシンドロームに特徴的な脂質異常である。脂質異常症の治療薬を服用している場合も該当とみなす。
- ○e. 総コレステロール
基準に含まれない。総コレステロールは、LDLコレステロール(悪玉)とHDLコレステロール(善玉)などの合計であり、動脈硬化の危険性を正しく反映しないことがあるうえ、内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性に特徴的な脂質異常を示す指標ではない。そのため、メタボリックシンドロームの診断基準には総コレステロールもLDLコレステロールも採用されていない。なお、LDLコレステロールは独立した重要な動脈硬化危険因子であり、特定健診の検査項目としては測定されるが、メタボリックシンドロームの判定には用いない。
わが国のメタボリックシンドローム診断基準(2005年)
必須項目:ウエスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm2以上に相当) 上記に加え、以下のうち2項目以上: ・脂質:トリグリセリド150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満 ・血圧:収縮期130mmHg以上 かつ/または 拡張期85mmHg以上 ・血糖:空腹時血糖110mg/dL以上 ※いずれも薬物治療中であれば該当とみなす。 ※腹囲基準+選択項目1項目の場合は「予備群」とされる(特定健診での判定)。
特定健康診査・特定保健指導
・根拠法:高齢者の医療の確保に関する法律。2008年(平成20年)4月開始。 ・実施主体:医療保険者(市町村国保、健康保険組合、協会けんぽなど)。 ・対象:40〜74歳の医療保険加入者。 ・目的:メタボリックシンドロームに着目し、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病の該当者・予備群を早期に見つけ、発症や重症化を予防する。 ・健診結果に基づいてリスクを階層化し、「動機付け支援」「積極的支援」の特定保健指導を行う。
動脈硬化危険因子としての位置づけ
・LDLコレステロールは動脈硬化の主要な危険因子であり、脂質異常症の診断基準(LDL-C 140mg/dL以上など)に用いられるが、メタボリックシンドロームの診断項目ではない。メタボリックシンドロームは、LDLコレステロールとは別の経路(内臓脂肪・インスリン抵抗性)で動脈硬化リスクを高める病態として位置づけられている。
POINT
・メタボリックシンドロームの必須項目は腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)。 ・選択項目は脂質(TG150mg/dL以上 かつ/または HDL-C 40mg/dL未満)、血圧(130/85mmHg以上)、血糖(空腹時110mg/dL以上)の3つで、2項目以上該当で診断。 ・総コレステロールとLDLコレステロールは診断基準に含まれない。 ・特定健診は40〜74歳の医療保険加入者を対象に、医療保険者が実施する。
