StudyMed医師国家試験

羊水過多と仮死の陰に母の手あり―先天性筋強直性ジストロフィーを見抜く

第104回医師国家試験 D問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第38問

 生後7日の新生児。妊娠中羊水過多がみられた。在胎38週,体重3,250 gで出生した。Apgarスコア1点(1分),3点(5分)。出生直後から人工換気を必要としている。筋緊張は著明に低下し,腱反射は軽度減弱している。  考えられるのはどれか。

  1. a.Leigh脳症
  2. b.Down症候群
  3. c.Werdnig-Hoffmann病
  4. d.先天性筋強直性ジストロフィー
  5. e.Duchenne型進行性筋ジストロフィー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、出生直後から呼吸ができず、ぐにゃりと力の入らない新生児、いわゆるfloppy infantの原因を考える問題だ。着眼点は3つ。妊娠中の羊水過多、出生後も人工換気が外せないほどの呼吸筋の弱さ、そして腱反射が「消えていない」ことだよ。まず羊水過多から何が読み取れるかな。
医学生医学生
羊水過多というと、産婦人科の講義では食道閉鎖や十二指腸閉鎖をまず習いました。
ドクタードクター
いい出発点だね。胎児は羊水を飲み込んで腸で吸収することで羊水量を調節している。だから消化管が閉鎖していても、飲み込む力そのものが弱くても、羊水は減らずに溜まってしまう。今回は消化管奇形の記載がなく、全身の筋緊張低下があるから、胎内から嚥下筋が弱かった、つまり神経筋疾患が胎児期から始まっていたと読むのが自然なんだ。
医学生医学生
Apgarスコアがすごく低いので、最初は低酸素性虚血性脳症かと思ってしまいました。
ドクタードクター
その誤解は実際の臨床でも起こりうるよ。ただ、単なる仮死なら蘇生後に自発呼吸が戻ってくることが多い。7日経っても人工換気が必要というのは、呼吸筋そのものの力が足りないことを示唆している。胎内から始まる重い筋力低下で、出生時から呼吸不全をきたす代表が、先天性筋強直性ジストロフィーとWerdnig-Hoffmann病、つまり脊髄性筋萎縮症1型だ。
医学生医学生
その2つはどう見分けるんですか。どちらもfloppy infantになりますよね。
ドクタードクター
試験でよく問われるのが腱反射だ。Werdnig-Hoffmann病は脊髄前角細胞、つまり下位運動ニューロンが変性するので、反射弓の出力側が途切れて腱反射は消失する。一方、筋強直性ジストロフィーは筋そのものの病気だから、反射弓は保たれていて、減弱しても残ることが多い。今回は「軽度減弱」だから、先天性筋強直性ジストロフィーが最も考えやすいんだ。
医学生医学生
神経解剖の講義で習った反射弓の考え方が、ここで役に立つんですね。Werdnig-Hoffmann病だと舌の線維束性収縮も特徴だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。加えてWerdnig-Hoffmann病は顔面筋が比較的保たれて表情が明るいのに対し、先天性筋強直性ジストロフィーは顔面筋も侵され、上口唇がテント状になった逆V字型の口が見られる。ただし正直なところ、重症の新生児では腱反射の評価自体が難しく、胎内発症の最重症型SMAもあるので、実際の鑑別は一筋縄ではいかないことも覚えておこう。
医学生医学生
Down症候群も筋緊張低下がありますし、十二指腸閉鎖を合併すれば羊水過多も説明できそうです。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。ただDown症候群の筋緊張低下は軽度から中等度で、自発呼吸ができないほどにはならないのが普通。特徴的な顔貌や心奇形などの記載もないから、今回は合わないね。
医学生医学生
Duchenne型は小児科の実習でGowers徴候を見せてもらいました。新生児期はどうなんでしょう。
ドクタードクター
新生児期はCKが高いだけで症状はほとんどない。3〜5歳ごろに転びやすさや登攀性起立で気づかれる病気だから、出生直後の呼吸不全には合わない。Leigh脳症はミトコンドリア病で、乳児期に発達の停止や退行で発症し、MRIで基底核や脳幹に左右対称の病変をみる。新生児期は正常に過ごすことが多いから、これも違う。
医学生医学生
胎内から症状があったかどうか、が大きな分かれ目なんですね。
ドクタードクター
その通り。では発展知識だ。筋強直性ジストロフィー1型はDMPK遺伝子のCTGリピートが異常伸長する常染色体優性遺伝病で、世代を追うごとにリピートが伸びて重症化する表現促進現象がある。先天型はほとんどが母親由来なんだ。
医学生医学生
ということは、お母さんにも症状があるかもしれないんですね。
ドクタードクター
そう、しかも本人が自覚していないことも多い。母親と握手して、握った手をすぐ開けない筋強直があるか、斧様顔貌や前頭部脱毛がないかを確かめるのが診断の糸口になる。成人型では白内障、心伝導障害、耐糖能異常など多臓器に症状が出るし、針筋電図では急降下爆撃音と呼ばれるミオトニー放電が特徴だ。新生児の先天型では筋強直ははっきりしないことが多い点にも注意してほしい。
医学生医学生
赤ちゃんを診るときに、お母さんの手まで見るという発想はありませんでした。
ドクタードクター
それが臨床の面白いところだね。救命できれば運動機能はある程度改善していくけれど、知的障害を伴うことが多く、長期的な支援が必要になる。そして母親自身の不整脈リスクなどの評価にもつながるから、家族単位で診る視点が大切なんだ。

まとめ

羊水過多の既往があり、出生直後から人工換気を要する著明な筋緊張低下を示す新生児では、胎内から始まる神経筋疾患として先天性筋強直性ジストロフィーとWerdnig-Hoffmann病(脊髄性筋萎縮症1型)を考えます。腱反射が保たれていれば筋疾患である先天性筋強直性ジストロフィーを、消失していれば下位運動ニューロン疾患であるWerdnig-Hoffmann病を考えやすいものの、重症新生児では反射の評価が難しい点にも注意が必要です。先天性筋強直性ジストロフィーはDMPK遺伝子のCTGリピート伸長による常染色体優性遺伝病で、表現促進現象によりほぼ母親由来で発症するため、母親の筋強直や顔貌の確認が診断の手がかりになります。Down症候群の筋緊張低下は呼吸不全に至るほどではなく、Duchenne型やLeigh脳症は新生児期にはほとんど症状がありません。重症仮死を低酸素性虚血性脳症と決めつけず、羊水過多や家族の所見から筋疾患を疑う視点は、新生児診療で見逃しを防ぐ大切な力になります。

解答・解説

正解はdです

※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。

所見の整理

・妊娠中の羊水過多:胎児は羊水を飲み込み消化管で吸収することで羊水量を調節している。嚥下が弱い胎児(筋疾患・神経筋疾患、消化管閉鎖など)では羊水が減らず、羊水過多となる。 ・在胎38週、3,250 gの正期産・適正体重児。 ・Apgarスコア1点(1分)、3点(5分):出生時に呼吸・筋緊張・反射がほとんどない重度の新生児仮死の状態。 ・出生直後から7日間、人工換気が必要:一過性の仮死ではなく、呼吸筋そのものの力が弱く自発呼吸が維持できないことを示す。 ・筋緊張の著明な低下(floppy infant)と、腱反射の軽度減弱(消失はしていない)。

鑑別の考え方

胎内から始まっている(羊水過多)重度の筋力低下・筋緊張低下で、出生時から呼吸不全をきたす代表的な疾患は、先天性筋強直性ジストロフィーと脊髄性筋萎縮症(SMA)1型(Werdnig-Hoffmann病)である。 両者の見分け方として試験でよく問われるのが腱反射である。SMAは脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)が変性する疾患で、反射弓の遠心路が障害されるため腱反射は消失する。一方、先天性筋強直性ジストロフィーは筋自体の疾患であり、反射弓は保たれるため腱反射は減弱しても残ることが多い。本例は「軽度減弱」であり、先天性筋強直性ジストロフィーが最も考えられる。 このほか、先天性筋強直性ジストロフィーを強く疑う手がかりとして、テント状の上口唇(逆V字型の口)を伴う顔面筋罹患、哺乳・嚥下障害、内反足などの関節拘縮、そして母親に筋強直性ジストロフィーの症状(握った手を開きにくい、斧様顔貌など)があることが挙げられる。母親の握手で筋強直(ミオトニア)を確かめるのが診断の糸口になる。

採点除外について

本問は採点対象から除外された。重症の新生児では腱反射の評価そのものが難しく、腱反射の「軽度減弱」だけでWerdnig-Hoffmann病を完全に否定するのは難しい。設問が「最も考えられるのはどれか」ではなく「考えられるのはどれか」であったこともあり、正解を一つに絞るには受験者に過大な判断を求める問題と判断されたと考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  Leigh脳症

    Leigh脳症(亜急性壊死性脳脊髄症)はミトコンドリア病の代表的な病型で、大脳基底核や脳幹に左右対称性の壊死性病変を生じる。かつては病理解剖で診断される疾患だったが、MRIでこれらの病変が確認できるようになり、臨床的に診断されるようになった。多くは乳児期に発症し、それまで正常だった発達が停止・退行し、筋緊張低下、眼球運動障害、呼吸リズムの異常などを示す。血液・髄液の乳酸・ピルビン酸が上昇する。新生児期は正常に経過することが多く、胎内からの症状(羊水過多)や出生直後からの重度の呼吸不全を示す本例には合わない。

  2. ×b.  Down症候群

    Down症候群(21トリソミー)は新生児期から筋緊張低下を示すが、その程度は軽度~中等度で、自発呼吸ができないほどの筋力低下は通常きたさない。新生児期には特徴的な顔貌(眼瞼裂斜上、内眼角贅皮、鼻根部平坦など)、手掌の単一屈曲線(猿線)、先天性心疾患(心内膜床欠損症など)、十二指腸閉鎖などの合併奇形で気づかれ、染色体検査で確定する。十二指腸閉鎖を合併すると羊水過多をきたしうるが、本例は顔貌や奇形の記載がなく、呼吸不全が主体であるため合わない。

  3. ×c.  Werdnig-Hoffmann病

    Werdnig-Hoffmann病は脊髄性筋萎縮症(SMA)1型で、SMN1遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝病である。脊髄前角細胞が変性し、生後6か月以内に体幹・四肢近位筋優位の筋力低下と筋緊張低下を示す(カエル肢位のfloppy infant)。顔面筋は比較的保たれ表情は明るく、舌の線維束性収縮がみられる。下位運動ニューロン障害のため腱反射は消失するのが特徴であり、腱反射が残っている本例では典型像と異なる。ただし、胎内から発症する最重症型(0型とよばれる)では出生時から呼吸不全をきたし得るため、臨床的には鑑別が難しく、本問が採点除外となった要因の一つと考えられる。なお、近年はアンチセンス核酸(ヌシネルセン)や遺伝子治療薬などの疾患修飾療法が登場し、早期診断の重要性が増している。

  4. ○d.  先天性筋強直性ジストロフィー

    筋強直性ジストロフィー1型は、DMPK遺伝子の3′非翻訳領域にあるCTGリピートの異常伸長による常染色体優性遺伝病である。リピートは世代を経るごとに伸長しやすく(表現促進現象)、特に母親から伝わった場合に大きく伸長して、胎内から発症する先天型となる。胎児期から嚥下が弱いため羊水過多となり、出生時には著明な筋緊張低下、呼吸不全、哺乳障害、顔面筋罹患(テント状上口唇)、内反足などを示す。筋疾患であるため腱反射は減弱しても保たれることが多い。母親は症状が軽く、自覚していないこともある。羊水過多、重症仮死、長期の人工換気、筋緊張の著明な低下、腱反射の軽度減弱という本例の所見に最もよく合致する。

  5. ×e.  Duchenne型進行性筋ジストロフィー

    Duchenne型筋ジストロフィーは、X染色体上のジストロフィン遺伝子の異常で筋細胞膜のジストロフィンが欠損するX連鎖劣性遺伝病で、主に男児に発症し、筋ジストロフィーの中で最も多い。新生児期は血清CK(クレアチンキナーゼ)が高値であるものの症状はほとんどなく、3~5歳頃に転びやすさ、登攀性起立(Gowers徴候)、腓腹筋の仮性肥大などで気づかれる。10歳前後で歩行不能となり、その後呼吸不全や心筋症が問題となる。副腎皮質ステロイドで進行をある程度遅らせることができ、呼吸管理の進歩で生命予後は延びている。一部の遺伝子変異にはエクソン・スキッピング薬も用いられる。新生児期から呼吸不全をきたす本例には合わない。

筋強直性ジストロフィー(DM1)の要点

・成人の筋ジストロフィーで最も多い。常染色体優性遺伝。DMPK遺伝子のCTGリピート伸長。 ・表現促進現象:世代を追うごとに発症が早く重症になる。先天型はほぼ母親由来。 ・成人型の症状:筋強直(ミオトニア;握った手をすぐ開けない、叩打で筋が収縮したまま戻らない)、遠位筋優位の筋力低下、斧様顔貌、前頭部脱毛、白内障、心伝導障害(不整脈による突然死)、耐糖能異常、性腺機能低下、知的機能低下など多臓器に及ぶ。 ・針筋電図で急降下爆撃音(ミオトニー放電)。 ・先天型では新生児期に筋強直ははっきりしないことが多く、筋緊張低下と呼吸・哺乳障害が前景に立つ。救命後は運動機能がある程度改善するが、知的障害を伴うことが多い。

floppy infant(筋緊張低下児)の鑑別

・中枢性:低酸素性虚血性脳症、染色体異常(Down症候群、Prader-Willi症候群)、代謝疾患など。筋力は比較的保たれ、腱反射は正常~亢進しうる。 ・末梢性(下位運動ニューロン・神経筋接合部・筋):SMA、先天性筋強直性ジストロフィー、先天性ミオパチー、福山型先天性筋ジストロフィー、新生児一過性重症筋無力症など。筋力低下が強い。 ・腱反射:SMAでは消失、筋疾患では減弱しても残ることが多い。

臨床上の注意

先天性筋強直性ジストロフィーは出生時の重症仮死として扱われ、低酸素性虚血性脳症と誤認されることがある。羊水過多の既往と母親の診察(握手でのミオトニア、顔貌)が重要な手がかりとなる。

POINT

・羊水過多+出生直後からの呼吸不全+著明な筋緊張低下=先天性筋強直性ジストロフィーまたはSMA1型を考える。 ・腱反射が残る→先天性筋強直性ジストロフィー(筋疾患)、腱反射消失→Werdnig-Hoffmann病(下位運動ニューロン疾患)。 ・先天性筋強直性ジストロフィーはCTGリピート伸長による表現促進現象で、ほぼ母親由来。母親の筋強直を確認する。 ・Duchenne型やLeigh脳症は新生児期にはほぼ無症状。 ・本問は採点対象から除外された。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。