においがわからない、初経が来ない―嗅覚と性腺をつなぐKallmann症候群
第104回医師国家試験 D問題 第37問
国試問題にチャレンジ
18歳の女子。初経がみられないことを主訴に来院した。においを感じにくいとの訴えがある。既往歴に特記すべきことはない。身長165 cm,体重50 kg。二次性徴の発来を認めない。内診で異常を認めない。血液生化学所見:LH 0.2 mIU/mL(基準1.8~7.6),FSH 0.8 mIU/mL(基準5.2~14.4),エストラジオール20 pg/mL以下(基準25~75),テストステロン10 ng/dL(基準30~90)。 考えられるのはどれか。
- a.Asherman症候群
- b.Kallmann症候群
- c.Klinefelter症候群
- d.Rokitansky-Küster-Hauser症候群
- e.Turner症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
満18歳で初経がない原発無月経では、まずLH・FSHの値で高ゴナドトロピン性(性腺の障害)、低ゴナドトロピン性(視床下部・下垂体の障害)、ホルモン正常(子宮・腟の異常)に分けて考えます。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に嗅覚障害を伴えば、GnRHニューロンの移動障害と嗅球形成不全を本態とするKallmann症候群が考えられます。Turner症候群は低身長とゴナドトロピン高値、Rokitansky-Küster-Hauser症候群はホルモン・二次性徴が正常で腟が盲端、Asherman症候群は子宮内操作後の続発無月経、Klinefelter症候群は表現型男性という点で鑑別できます。Kallmann症候群は性ステロイド補充で二次性徴を誘導し、挙児希望時にはゴナドトロピン療法などで排卵誘導が可能です。フィードバックの理屈と発生学を結びつけて理解することは、内分泌疾患全般の鑑別に役立つ基本的な考え方です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・18歳女性で初経がない:日本産科婦人科学会の定義では、満18歳になっても初経が起こらないものを原発無月経という。本例はこれに該当する。 ・二次性徴(乳房発育・陰毛発生など)がみられない:卵巣からのエストロゲン分泌が思春期に一度も立ち上がっていないことを示す。 ・においを感じにくい:嗅覚低下(hyposmia)ないし嗅覚脱失(anosmia)。 ・身長165 cm:低身長はない。 ・内診で異常なし:腟・子宮など性器の形態異常は指摘されていない。 ・LH、FSHがともに低値、エストラジオールも低値:ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)が低いために卵巣が刺激されず、性ステロイドが低い状態、すなわち低ゴナドトロピン性性腺機能低下症である。
鑑別の考え方
原発無月経の鑑別では、まずゴナドトロピンの値で大きく二分するとわかりやすい。 1)ゴナドトロピン高値+エストロゲン低値(高ゴナドトロピン性):卵巣そのものが働かない。代表はTurner症候群などの性腺形成不全。 2)ゴナドトロピン低値+エストロゲン低値(低ゴナドトロピン性):視床下部または下垂体の障害。Kallmann症候群、体質性思春期遅発、下垂体腫瘍、神経性やせ症など。 3)ホルモン正常で二次性徴も正常:月経血の出口や子宮の異常。Rokitansky-Küster-Hauser症候群、処女膜閉鎖など。 本例は2)に該当し、さらに嗅覚障害を伴うことから、視床下部のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)産生障害と嗅覚障害を合併するKallmann症候群が最も考えられる。低身長がなくゴナドトロピンも高くないことはTurner症候群に合わず、二次性徴がなくホルモンが低値であることはRokitansky-Küster-Hauser症候群に合わない。
選択肢考察
- ×a. Asherman症候群
Asherman症候群は、人工妊娠中絶や流産後の子宮内容除去術(掻爬)、子宮内膜炎などによって子宮内膜の基底層が傷つき、子宮腔内に癒着が生じる病態である。内膜が機能しなくなるため、それまであった月経が止まる続発無月経や過少月経、不妊の原因となる。後天性の病態であり、子宮操作の既往のない18歳の原発無月経とは合わない。また卵巣・下垂体系は正常なのでLH・FSH・エストラジオールは正常で、二次性徴も正常に発来する。
- ○b. Kallmann症候群
Kallmann症候群は、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に嗅覚低下・脱失を合併する先天性疾患である。胎生期にGnRHニューロンは嗅板(嗅覚器の原基)から嗅神経に沿って視床下部へ移動するが、この移動が障害されるためにGnRHが視床下部から分泌されず、同時に嗅球の形成不全が起こって嗅覚障害を生じる。GnRHがないため下垂体からのLH・FSH分泌が低下し、卵巣が刺激されず、エストロゲン低値、二次性徴の欠如、原発無月経となる。本例の原発無月経、二次性徴欠如、嗅覚低下、LH・FSH・エストラジオール低値のすべてを説明できる。
- ×c. Klinefelter症候群
Klinefelter症候群は47,XXYを代表とする性染色体異常で、表現型は男性である。男性数百人に1人程度とされ、精巣が小さく硬い、無精子症による不妊、女性化乳房、高身長で四肢が長い体型などを示す。精巣機能の障害が原因であるためテストステロンは低く、ゴナドトロピンは高値(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)となる。女性の原発無月経の原因にはならず、ゴナドトロピン低値である本例とも合わない。
- ×d. Rokitansky-Küster-Hauser症候群
Rokitansky-Küster-Hauser症候群(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群)は、胎生期のMüller管(子宮・卵管・腟上部のもと)の発生異常により、子宮と腟の大部分が欠損する疾患である。女性約5,000人に1人とされ、原発無月経の原因としては性腺形成不全に次いで多い。染色体は46,XXで卵巣は正常に機能するため、ホルモン値は正常で排卵もあり、乳房発育などの二次性徴も正常に起こる。腟が短く盲端となり、内診で異常が見つかるのが特徴である。本例は二次性徴がなくホルモンが低値、内診も異常なしであり、合わない。
- ×e. Turner症候群
Turner症候群は45,Xなど、X染色体の全体または一部(特に短腕)の欠失による性染色体異常で、女児約2,000〜2,500人に1人とされる。卵巣が索状性腺となり機能しないため、エストロゲンは低いが、ネガティブフィードバックがかからずLH・FSHは高値となる(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。低身長がほぼ必発で、翼状頸、外反肘、大動脈縮窄症などを伴うこともある。本例は身長165 cmと低身長がなく、LH・FSHが低値であるため否定される。
原発無月経の主な原因
・性腺形成不全(Turner症候群、46,XX/46,XY性腺形成不全など):最も多い。ゴナドトロピン高値。 ・Müller管発生異常(Rokitansky-Küster-Hauser症候群):二番目に多い。ホルモン・二次性徴は正常。 ・視床下部・下垂体性(Kallmann症候群、特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、頭蓋咽頭腫など):ゴナドトロピン低値。 ・流出路の閉鎖(処女膜閉鎖、腟横中隔):周期的下腹部痛、月経血の貯留(腟留血腫)。 ・アンドロゲン不応症(完全型):46,XY、外見は女性、乳房発育はあるが陰毛・腋毛が乏しく、子宮がない。
Kallmann症候群の要点
・GnRHニューロンの移動障害と嗅球の低形成が本態。頭部MRIで嗅球・嗅溝の低形成・欠損がみられることがある。 ・男性に多い。原因遺伝子は複数知られ、X連鎖性のANOS1(旧KAL1)のほか、常染色体優性(FGFR1など)、常染色体劣性(PROKR2など)の遺伝形式がある。 ・男性では小陰茎、停留精巣、類宦官体型(手足が長い)、二次性徴の欠如を呈する。 ・GnRH負荷試験では、繰り返し投与するとLH・FSHの反応が回復してくることが多く、下垂体自体は正常であることが示される(視床下部性)。 ・治療:二次性徴の誘導には性ステロイド補充(女性ではエストロゲン・プロゲスチン療法)、挙児希望時にはゴナドトロピン療法やGnRH間欠的投与で排卵・精子形成を誘導する。
ゴナドトロピンによる性腺機能低下症の分類
・高ゴナドトロピン性(原発性):性腺自体の障害。Turner症候群、Klinefelter症候群、早発卵巣不全など。 ・低ゴナドトロピン性(続発性):視床下部・下垂体の障害。Kallmann症候群、下垂体腫瘍、Sheehan症候群、神経性やせ症など。
POINT
・原発無月経:満18歳になっても初経が起こらないもの。 ・嗅覚障害+低ゴナドトロピン性性腺機能低下症=Kallmann症候群(視床下部性)。 ・Turner症候群:低身長+ゴナドトロピン高値。 ・Rokitansky-Küster-Hauser症候群:子宮・腟欠損、ホルモン正常、二次性徴正常。 ・Asherman症候群:子宮内操作後の子宮腔癒着による続発無月経。 ・Klinefelter症候群:47,XXY、表現型は男性。
